「子どもの日って何の日なの?」

 そんな素朴な疑問から始まる、少年のとある一日のお話。


 第三回となりました、ハピナ様主催の『ハーメルンSSコンテスト』への参加作品です。

 今回もまた、よろしくお願いします!

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子どもの日だから『ありがとう』を

「こどもの日ってなんの日なの?」

 

 空高くに舞い上がっている鯉達を眺めながら、僕は一緒に眺めていた父さんにそう問いた。

 端午の節句だとか、学校が休みだとか、子どものための日だとか言われても全然実感が湧かない。それもそのはず、行事名自体があまりにも抽象的すぎるのだ。

 子どもには確実に伝わらない、子どものための日がなんとなく気になった。

 

「う~ん……。そうだなぁ」

 

 父さんも父さんで、顎のあたりで握りこぶしを作り思案顔で唸っていた。それから数秒後、未だ悩んでいるような表情で呟いた。

 

「子どもの成長を願う日……だったかな」

 

「子どもの成長を願う? 何で今日なの?」

 

「そう言われてもな。そういうものだから、としか言いようが無いな」

 

 そんな言葉の応酬は数分ほどで終わり、父さんは笑いながら僕の頭を軽くポンと叩くとどこかへ行ってしまった。僕はまた空を見上げる。まだこどもの日への探究心を残したまま。

 別にこの日が嫌いなわけではないけど。当然学校が休みになるのはうれしいことだ。やけに子ども扱いされるから好きというほどでもないが。

 

 

 

 

 

 今日は祖父母の家に来ていた。なんでも僕の家には鯉のぼりのセットがなく、姉が生まれた時から僕の家では祖父母の家に空を泳ぐ鯉を見に行くのが習慣となっているようだ。

 取り敢えず、僕はぼけーっと鯉を眺める。その時は家族もあまり話しかけては来ず、主に一人だ。母は久しぶりに会うお祖母ちゃんとの会話に花を咲かせ、姉はいつも通りスマホをいじったりテレビを見たり。姉はそこら辺何も変わらない。平常運転だ。

 そして父は今どこかへ行ったから、きっとタバコでも吸いに行ったのだろう。優しい父さんだからあまり僕達に向かって煙を吐かないのだ。

 そんな中僕はとにかく、気持ちよさそうに泳ぐ鯉をゆっくり傍観していた。

 

「そんなに鯉のぼりが珍しいかい?」

 

 鯉のぼりから一切目を離さなかった僕に、おじいちゃんは笑いながら近づいてくる。てっきり父さんと一緒にタバコを吹かしていると思っていたから、少し驚きだ。

 

「いや、そういうわけじゃないけど……」

 

「うんうん、そうかい」

 

 僕がそっけない言葉をぶつけてもおじいちゃんは変わらない笑顔だった。まあ、そっけない態度で言ったわけではなかったけど、絶好の天候の中、空を舞う鯉はやっぱり絶景だしこの時期しか見られないのだ。たっぷり見とかなければ損である。

 おじいちゃんと少し会話をして、それでも鯉のぼりから目を離さない。おじいちゃんからはどんだけこの子は鯉のぼりが好きなんだ、と思われていても仕方がないだろう。

 ここまで飽きない子どもも、案外珍しいのかもしれない。

 

「ねぇ、おじいちゃん」

 

「うん? なんだい?」

 

「こどもの日って、何のためにあるの?」

 

 唐突に思い出したのだ。父さんは知らなかったが、長く生きているおじいちゃんなら知っているかもしれない。微かに残っていた探究心をフル活用して、おじいちゃんにそう問いた。

 おじいちゃんは考えることもせず、すぐに答えてくれた。

 

「こどもの日っていうのはね、子どもの成長を祝うためにあるんだよ」

 

 うん、それは父さんからも聞いた。自慢気に話すおじいちゃんに、僕は更に疑問を話す。

 

「じゃあなんで今日がその日なの?」

 

「今日は子どもの日って言われているけどね、元々は端午の節句って呼ばれていて子どもの日って言われるようになったのは結構最近の話なんだ」

 

「ふ~ん」

 

「昔からその日は男子の健やかな成長を願う日だったんだよ。だからではないかな」

 

「へぇ。そうなんだ~」

 

 僕のちょっとした疑問が、おじいちゃんに話すたびにどんどんと紐解かれていく。おじいちゃんには尊敬以外の言葉が思い浮かばない。

 

「おじいちゃんって、何でも知ってるんだね」

 

「それは、何年も長く生きていますから」

 

 そう言ってのんびりと笑うおじいちゃん。僕は少し引っかかっていた小さな疑問を最後にぶつけた。

 

「僕はみんなから成長を願われて、どうやって成長していけば良いのかな」

 

 色々なことをおじいちゃんと話して、気になったことをどんどん聞いてみたなかで、それだけが少しだけ疑問――というよりは心配だった。

 

 もしもその期待に答えられなかったら?

 

 そう考えると僕は少し怖かった。今は家族全員がものすごく優しいと思っている分、その優しさが消えてしまうのではないか。そうなったらと考えると、僕はこれからどうしていけばいいのだろう。

 

 僕がそう言うと、おじいちゃんは驚いたように固まり、そしてすぐにくすりと笑った。

 

「別に難しく考えなくていいんだよ? そんな先のことを深く考える必要はないさ」

 

「そう言ったって……」

 

「実は子どもの日って言うのはね、子どもの成長を願う他にも、母に感謝をする日でもあるんだ」

 

「……え?」

 

「その心を忘れなければ、きっと大丈夫だよ」

 

 おじいちゃんはそう言って暖かな笑みを浮かべると、どこかへと歩いて行った。今度こそ、父さんとタバコでも吸いに行っているのかもしれない。

 

「子どもの日……」

 

 それは、親が子どもの成長を願い、子どもが親に感謝する日。

 僕は茶の間の方に向かった。なんとなく今すぐに言いたかったのだ。静かにふすまを開け母さんがいることを確認して、ちゃんと聞こえるようにハキハキと言った。

 

「母さん! ありがとう!」

 

 そう言って次は父さんの番だと、僕は返事も聞かずに飛び出した。


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