いつの頃か定かではないが、本来ありえるはずのない記憶があった。
記憶というより知識かもしれない、『前世』とでも言えばいいのだろうか?
その記憶は時に助けになり、時に悩みの種となり、またある時は趣味嗜好に多大な影響を与えた。その趣味のおかげで高校生と小学生が対等に遊ぶという、なかなか珍しい体験をした時のこと。
アレは小学生時代のこと何かにつけて面倒を見てくれた、近所の兄ちゃんとその友人たちとの様々なゲームをして遊んだ記憶……。
小学生と高校生は年齢で言えば10程度だが精神年齢は大きな開きがある。
当然といえば当然の話だ。小学生にしてみれば自分の倍近く生きているのだから、だが俺の精神年齢は小学生には納まらず同年代とは表面上の付き合い程度しかできなかったが、あの人たちのおかげで楽しい子供時代をすごしたといえる。
きっかけは大したことはない。子供の頃は両親が共働きでなかなか帰ってこないため、近所のゲーム屋で時間をつぶしているときに声をかけてくれたヒトデのような髪形をした兄ちゃんが遊び相手に付き合ってくれたことだった。
「ねぇ、君はいつも一人だよね。僕と一緒にゲームしないかい?」
確かそんな声のかけられ方だった気がする。店主のじいちゃんは俺の事情を知ってはいるから追い出したりはしなかった。だけど兄ちゃんはそれでは不足と感じて毎日ゲームに誘ってくれたんだ。
だけど遊戯兄……小学生相手にガチでやるのは大人気ないんじゃあないかな……。
「今日は何のゲームする?」
「んー僕は何でもいいよ。厚志君に任せる」
「二人だとバリエーションがねぇ……」
「三人以上のゲームも多いからね」
俺たちが好んで主にやるのは『ボードゲーム』
テレビをハードにつなぐコンピューターゲームとは違い。テーブルと面子が必要になる。
ランダム要素はダイス(サイコロ)やシャッフルするカードやタイルなどが請け負う。
共闘したり対決したりするゲームもあり幅広い種類やハウスルールで簡単にアレンジできるのが魅力ではあるが、いかんせんこの手のゲームを行うのに最大の関門がある。
それは『友達』の存在だ。
ちょっと毛色の違うTRPGなどもそうだが、レトロゲーム最大の難関ともいえる。
ルールを共有する友人がいて、ある程度まとまった時間が取れて、予定が噛み合う。という三つのハードルをこなさなければゲームをプレイすることすらできない場合も多い。
多くのボードゲームが三人以上となっており二人だといまいち遊べるゲームの種類が少ないのが難点だ。
その代わり上限が多いゲームもあり、一部のゲームは7人くらい同時に遊べるものもある。
人狼ゲームなどは10人いても大丈夫という大盤振る舞いだったりする。その代わり、早々に退場した面子は寂しく見てるだけという場合もあるが……。
「んー、じゃあ遊戯兄これなんてどう?」
「カードゲーム?」
「これは『ノーカラテノーニンジャ』って言うゲームなんだ」
「三種類の絵の書いてあるカードだけだね」
「ちょっと変則なじゃんけんゲームみたいなものだよ」
ノーカラテノーニンジャとは
カラテ4枚、スリケン2枚、ブリッジ2枚を駆使して戦うジャンケン系カードゲームである。
カラテはウカツなブリッジを粉砕し、ブリッジはスリケンを華麗に回避して、スリケンはカラテを迎撃できる。
お互い三枚ずつ裏向きで場に並べて一枚ずつめくって判定を行う。
カラテで勝利すると相手の手札一枚を裏向きのままランダムに一枚廃棄。スリケンで勝利すると相手のカラテをそのまま廃棄。ブリッジで勝利するとスリケンは脇において二ターン後に相手の手札に戻る。
最終的にカラテかブリッジが完全になくなったほうが敗北するが、カラテがなくなった場合は自己申告で「サヨナラーー!」と言わねばならないが、ブリッジがなくなった場合は自己申告しなくてもよい。
その代わり「ハイクを読めカイシャクしてやる」と言われたときにブリッジが手元になければセプクとなってしまうのだ。
お値段500円の実にリーズナブルな価格でニンジャのスピーディかつスリリングなイクサを楽しめる。お手軽ゲームである。(ジッサイ安い)
「ドーモ、遊戯=サン」
「ドーモ、厚志=サン」
ニンジャにとってアイサツは重要な儀式である。アイサツを怠るのはスゴイ=シツレイにあたるのだ。
さて、4枚あるカラテを前面に押し出したいところであるが、カラテが敗れてしまったとき自分のカラテ枚数が相手に丸見えになってしまう。負けたときのリスクがバラバラなため高度な心理戦も楽しめるゲームとなっているのだ。
ここはまずスリケンで様子見か?
スリケン、スリケン、ブリッジの順に出す。
遊戯兄はあまり深く考えずに3枚ともカラテできたようだ。
相手のカラテを二枚落としたまではいいがランダムで落ちたのはこちらのブリッジだ。
これは非常に痛い。ブリッジ不在を何とかごまかさねば。
「あっちゃあー、やられちゃったなぁ」
いえ、貴重なブリッジを落とされて非常に痛いです。
初戦は痛み分けといったところだろう。顔には出さないが。
さて、カラテ枚数が2枚になった遊戯兄はカラテを使いにくいはず。と言うことはブリッジかスリケンで攻めてくるのがセオリー。ブリッジならば負けはないが裏をかいてカラテという手もある。
どちらにしろスリケンは負けても復活するのでバンバン巻こうか。
ブリッジ、スリケン、カラテの順にカードをセットする。
カラテを一枚混ぜたのは遊戯兄がスリケンのリスクの少なさに目をつけたときの保険だ。
遊戯兄のカードは
カラテ、カラテ、スリケンだった。
マジかよ……。
ここに来てなおカラテ押しで来るのか。
そしてランダムでピンポイントで抜かれるスリケン……。
これはひどい……。
スリケンは場に出してやられても復活するがカラテですっぱ抜かれると戻ってこない。
相手のカラテが残り一枚の段階でスリケンが足りないのは非常に困る。
「あぁ……カラテが残り一枚になっちゃったか」
残りカードはカラテ3枚スリケン1枚ブリッジ1枚。
遊戯兄はカラテ1枚スリケン2枚ブリッジ2枚。
カラテ枚数的には有利だがそれに対抗するためのスリケンが一枚しかないため、そのカラテを落とすのが非常に面倒になってきた。
さて、どうすべきか。
俺のほうが取れる選択肢は大きく分けて二つ。
豊富なカラテで攻めるか薄いがスリケン&ブリッジで押していくか。
遊戯兄がカラテを温存するならカラテで強引に攻めれば残り一枚のカラテを抜く可能性もある。
逆にカラテを前面に出してくるならスリケンを巻いておかないとこちらの勝利は遠くなる。
スリケンが欠けてるのは遊戯兄には見えていないはずだが……。
たっぷり悩んだ末に選んだ選択肢は
スリケン、カラテ、カラテ
にした。
カラテで遊戯兄の手札のカードを伺いつつ、相手がカラテを出すのをためらうようにスリケンを混ぜておく。
今回で決まらなくても布石としては重要なはずだ。
遊戯兄のカードは
一枚目ブリッジ。
まぁ妥当なところだと思う。
ピンポイントで当ててくる理不尽さにイラっとしながらも。遊戯兄ならしょうがないというあきらめもたぶんに含まれている。
二枚目カラテ。
やはりカラテは撒いてくるか。こちらのスリケン1枚しかないのを見透かすような絶妙な配置をされて、さすがに困ってくる。
三枚目ブリッジ。
相手の手札はスリケン2枚だから確実に相手のスリケンを落としたことになるな。
そして運命のランダム……。
1/2できれいに抜かれていくブリッジ。
おいコラ! どうなってんだよ!! カラテ一回も抜かれてねえぞ!!
ま、まあ隠し通せば問題ない……いやな予感しかしねぇ。
「ねえ、厚志くん。これは賭けだ。ここを外せば2枚のスリケンを同時に失った僕は君のカラテにやられてしまう。だから『ハイクを読め。カイシャクしてやる』」
「アイエエエエ!……オタッシャデー!!」
ですよねー
見事、セプクとなった俺はまたも遊戯兄に敗北してしまうのであった。
アイエエエエ!
実際やってみましたが、結構面白いです。
超お手軽でお値段安く、プレイ時間も短いと三拍子そろってます。
意外と奥深い心理戦とかいいですね。