『前略 ルーイ・キリロフ様
以前、ご依頼された件に関して、お答えいたします。プラントのアカデミーで講師をしている友人に問い合わせたところ、あの歌の歌詞はアフリカの一部で使われている現地語では無いかとの事でした。
そこで、農業技術者としてアフリカに降りている友人に尋ねてみたところ、意訳ではありますが、歌詞を翻訳してもらえました。同封した紙に、それを記していますので、ご確認下さい。
彼女の行方については我々も追っていますが、めぼしい情報は今のところありません。我々のトウキョウでの活動もあと少しで終わってしまいますが、ギリギリまで情報収集は続けるつもりです。
ナタリア・ファリロス』
簡潔な内容の手紙は、一瞥しただけで机に置く。ルーイは、同封されていた紙を広げて書かれているものを読んだ。アメリがいつも子供達に聞かせていた歌、彼はそれをレコーダーに保存しており、その歌が何を歌っているものなのか調べてもらっていたのだ。
彼はレコーダーのスイッチを入れる。聞こえてくるのは、ピアノの伴奏と彼女の歌声。その旋律に物悲しさを感じたのは道理である。それは嘆きと悲しみの歌だった。親を失った子供が、大地をさ迷い歩く歌。大地に伏して涙を流しても、子供は生きている限り親には会えない。歌詞は、そう結ばれていた。
リピートされ続けるその歌を聴きながら、ルーイは思う。彼女は、ずっとこんな歌を歌っていたのだ。それはどうしてなのだろう。
あそこが孤児院だからだろうかとも思うが、それではあまりにも悲しすぎる。歌詞の意味も知らず、ただ一緒に声を出していた子供達があまりにも不憫だ。彼女が、そんな残酷な事をするとは思えない。だとすれば、この歌は彼女自身の事を歌っているのだろうか。
荷物を詰めた鞄を担いで、ルーイは部屋の鍵を閉める。一人暮らしには十分すぎる狭いワンルームを後にして、彼は空港に向った。会社には休暇の届けを出してある。これからトウキョウに行くのだ。今の気持ちとは正反対の快晴であった。
耳に詰め込まれたイヤホンから聞こえてくるのは、彼女の歌だけである。トウキョウから戻ってからずっと、彼女の声を聞き続けていた。
それは半ば意識的にしている事である。あの日々を苦い思い出にしてしまおうとする無意識の自分に抗うように、彼女の存在を自分自分に刻みつけようとしていた。それは一種の苦行である。自分自身の情けなさに、自ら向き合う事を強いていた。その辛さを抱えてでも、彼女の事を過去にしたくはないと感じているのだ。
だから彼は、その自分の想いを恋や愛だとは思っていない。もっと重く、ずっと切実なものなのだから。
空港に向かうタクシーの中で、ルーイは新聞の切り抜きを取り出す。半年前、トウキョウ特別行政区で発生した大規模な騒乱において、その混乱に乗じて破壊活動を行った者達がいた。日本自治政府はその容疑者達を裁判にかけて、法に則った処罰を行うと発表している。
しかし、その手続きや裁判の方法に重大な疑義が生じていると、新聞記事は伝えていたのだ。国際面のベタ記事に過ぎないが、すでに刑の執行も始まっていると書かれていた。
定年間近ともなれば、出張で取引先に出向いた後で観光地を巡って帰ってくるなどという事をする者もいるらしい。仕事の引継ぎが終われば、関係の深い取引先に定年の報告をするくらいしかする事がないので、出張にも若い頃のような慌しさがなくなってくるのだ。出張に出る前、社内でそんな話を聞きながら、この会社も大企業になったものだと思った。
カヲ・ツォピンは、今日の夕方の便でシャンハイに戻る。用件が終われば長居は無用であり、観光地を巡る趣味も持ち合わせていなかった。確かに、世界中を飛びまわっていた頃に比べればのんびりとした出張かもしれない。それでも、会社の金で余計な事をするほど、会社に浸かってはいない。
彼は上海第七銀行の行員である以上に、金融屋であった。ビジネスに対するプライドとモラルこそが、成功のための唯一の手段である。それ故、彼は東京における日本独立の動きに投資はせず、また日本自治政府が進める政策への融資を控えるようにとのレポートを社に送付したのだ。
「それでは、よろしくご検討下さい」
機嫌よくそう言った相手は、日本自治政府の行政院長。普通の国なら首相にあたる人物だ。秘書の持って来たコーヒーを口にしながら、今後の展望を得意気に語っていた。相槌を打ちながら、カヲは窓の外に視線を送る。世界有数の高さを誇るそのビルの最上階からは、オオサカが一望できる。
話は聞き流しているため、何を言っているのかよく分からない。だが、男が得意の絶頂にある事は分かった。
トウキョウ特別行政区の廃止と東アジア駐留軍の撤退、タマユラ地区の返還、そしてユーラシアが返還を申し出ていた北海道を日本自治区に帰属させるという決定。全て、オオサカの思い描いたとおりに事は進んでいる。
トウキョウにおける騒乱の結果、東アジア中央政府内における軍とペキン閥の影響力は消えうせ、東アジア共和国の主導権はシャンハイ閥を飛び越えて日本自治政府へと移った。今後は大西洋やユーラシアとの連携を模索しながら、連合加盟国における再・再構築の動きに合わせていくだろう。
再構築戦争によるブロック経済圏と、対プラント戦争を遂行するための地球連合という仕組みは、今や無駄の多すぎる仕組みなのだ。戦後復興に一応の目途が立った今、次の経済成長に向けた適切な資源配分を可能とする政治経済体制の確立が求められている。
しかし、それが十分に定まるまでは、しばらく不安定な状態が続くだろう。政治の動きに焦って合わせようとするより、今はじっと世界の流れを見極めるべき時だ。それがカヲの判断であり、楽天的で稀有壮大なビジョンをとうとうと語る行政院長の姿に、やはりその判断が間違いでない事を確信する。
「トウキョウは落ち着きましたか?」
「ええ、犯人の処罰も順調です。ビジョンなき独立など、テロ屋の題目に過ぎませんからな」
その点に関しては、カヲも同じ意見である。再・再構築は旧来の国家を再興する事ではない。リ・ウェンの失敗は、十九世紀の国民国家をCEに打ち立てようとした事である。
しかし、とカヲは思う。日本自治政府が犯人としている者には、一貫した基準が設けられているのだ。大陸系のマフィアか、不法滞在の外国人である。彼らは、十九世紀の国民国家を否定しながら、二十世紀のナショナリズムを振りかざしている。そのツケは、近いうちに払わなければならないだろう。
それは口にせず、代わりにカヲは自分が乗る飛行機の時間を告げる。彼の会社は日本自治政府のプロジェクトへの投融資を控えるのだ。何が起こったところで、資金が焦げ付く事は無い。
成人の息子を宇宙港へ見送りに行くなどという事は、親バカではなく何らかの欠陥を抱えた親子がやる事だと思っていた。その考え方を改めた方がいいのか、それとも自分達親子が抱える欠陥を見極めた方がいいのか。それは、これからゆっくりと考えるべき事であろう。
宇宙港の展望スペースからは、今しがた出港したカーペンタリア直行便の姿が見えた。噴流炎の輝きを残して、あっという間に小さくなっていく。サーシャ・ローレンスは、それをずっと目で追いかけていた。
良い母親だったとは思っていない。子供も作ったのではなく、出来たに過ぎない。第二世代コーディネーターである彼女にとって、同じコーディネーターとの間で自然生殖を成し遂げたという事は、そのまま彼女の身体的遺伝子的優位性を示す事であった。自然に出来た子供は、彼女自身のステータスであって、それ以上のものではなかった。
プラントの育児政策は充実しており、フルタイムで仕事をしながら子育てをする事は楽だった。裏を返せば、自分自身の手ではたいした事をしていなかったようにも思う。
息子の自分に対する反発は、そんな環境から生じる必然的なものだったのだろう。彼がザフトやコーディネーターの理想を掲げて、自分の功利主義的な政治姿勢を非難するのは、端的に自分を嫌っているからなのだ。それでも、その事を取り立てて問題だとは思っていなかった。
しかし、息子が危篤にあると聞いた時の衝撃は今でも生々しく覚えている。容態が悪すぎてカーペンタリアからプラントへと運ぶ事ができないので、せめて生きているうちに地球に降りてきてもらえないかと言われてからの記憶は、ところどころが酷く曖昧になるほどにショックだった。
そして、その息子が一命を取り留めた時の安堵感も、生々しく覚えている。十数年ぶりに涙を流した。一目もはばからず、ベッドの上の息子の温かな手を握り泣いた。
それを愛だというほど身勝手では無いが、自分自身が母であるという事は痛烈に自覚した。だから、息子が再び地球に向うという話を聞いて、宇宙港まで来てしまったのだ。シャトルの姿はもう見えなくなってしまっている。
「父の事は、愛していたのですか?」
カーペンタリアの病院で、息子はこんな事を聞いた。彼の名前は、彼の父親と同じものである。それは顔の記憶すら曖昧になった男への、愛の証左なのだろうか。彼女に答える術はなく、息子は深い悲しみの色を湛えて微笑むだけだった。
自分が母親にならないうちに、息子は大人になっていた。親の持つ弱さや卑小さをも、子供として愛する事のできる大人に。
きっと、息子には愛する女性がいるのだろう。彼女には出来なかった事を、彼は出来るようになったのだ。
やっと自分が親である事を自覚した時には、子供はずっと遠くに行ってしまっていた。その事が、ひどく悲しく、そして切なかった。サーシャは涙を拭う。ただ親として、そっと子供の幸福を願う事しか出来なかった。
大規模な火災の跡が生々しく残っている。半年では、復旧どころか焼け落ちた建物の解体作業すら着手できないのだろう。情勢は落ち着きを見せてきたとはいえ、本格的な復興はまだまだ先のようだ。
以前の活気を知る者にとっては人の数も少なくなったと感じるが、それでも街自体は死んではいない。被害の少なかった建物などでは、既に店舗が再開されていたりした。呼び込みの男達を避けるように歩きながら、目的の店を目指す。
『キャバレー・ユンミン』は同じ場所に店を構えていた。ただ、開いているのかどうかはよく分からない。キリルはドアを開ける。
「・・・ローレンスさん?」
カウンターの隅でパソコンを弄っていたのはチーママである。客は誰もいなかった。キリルはカウンターの椅子に座ってボトルが残っているか尋ねる。こちらから聞かずとも、チーママは今の状況を説明してくれた。
あの騒乱の後、ママは自治政府に拘束され、そのまま音信不通になったという。この店で働いていた女性の大半が、アルバイトの禁止されている研修制度利用者や不法滞在者であったため、彼女らもほとんどが捕まったのだそうだ。運が良ければ強制送還、悪ければそのまま行方不明だという。
善隣幇や菱丘組などのマフィアとも深くつながっていた地域であり、自治政府はここで幾度も捜索を行った。チーママが捕まっていないのは、ひとえに彼女が『日本人』だからだ。全ては三国人の陰謀である、それがこの国の伝統的な思考パターンなのだと、チーママは毒づいた。
「このお店、ママもオーナーもいなくなって・・・正直どうしようかって思ってるの。権利関係で揉める前に引き払った方がいいかなって」
キリルのボトルからウィスキーを注ぎ、チーママはロックを煽った。近辺の店はどこも同じような状況で、地権者だの抵当権者だのを名乗る人間が現れては元から店を構えていた人達を追い出しているらしい。自治政府はここで大規模な再開発を計画しており、利権が生じているのだ。
「ママも元は不法滞在者で、幇から資金を借りてお店を始めたらしいわ・・・給料は安かったけどそういう子を雇ってたのは、ママなりに思う事があったんでしょうね」
悪い人ではなかったし、多少の恩もある、せめて店の名前くらいは引き継ぎたい、チーママは酔った目でそんな事を言う。そしてようやく、キリルが聞きたかった話を始めた。マリアはあの騒乱以降、店には現れていないと。
そして、もし現れていてもその後で捕まっただろうと付け加えた。期待はしていなかったが、キリルは落胆を息と共に吐き出した。ダメもとで彼女の住んでいた家に行ってみようと思ったが、それを読まれたようにチーママが口を挟む。彼女の部屋は、今はもうないと。
彼女は店の奥に入って小さな段ボール箱を持って来た。一月ほど前に、彼女のアパートの大家から送られてきたものだそうだ。中身は、彼女の私物であった。
「家具とかは売って滞納家賃に当てたんでしょうね。売り物にならない奴をコッチに送ってきたのよ」
せっかくだからもらってと、キリルは箱を手渡された。本やノート、小物類の中に、筒が一つ目立つ形で入っていた。開けて見ると紙が入っている。
それは似顔絵だった。色鉛筆で描かれたその似顔絵のタッチは、プラントの画家ロディ・ギャリのタッチに良く似ていた。似顔絵の紙はだいぶ古くなっているが、それが大事にされていた物なのはよく分かった。
似顔絵に描かれた壮年の男性は、彼女の父親なのだろうか。だが、絵の隅にしたためられた短いメッセージには、別の名前が書いてある。チーママは本名だろうと言う。マリアというのは源氏名だった。
懐かしくはあるが、嫌な臭いである事に変わりはない。タバコの煙が歩いてきたかのように、男がオフィスに入ってきた。コーヒーカップを傾けていた女が、ミルクと砂糖を探した。自分が普段使わないものは、戸棚の奥に押し込められてある。
「もう、退院したのね」
流石、私の旦那が治療に当たっただけの事はあると、女はコーヒーにたっぷりのミルクと砂糖を入れた。シュウ・サクラは不機嫌そうにそのコーヒーを受け取る。彼としては半年も入院するつもりはなかった。現に怪我は三ヶ月ほどで治癒し、リハビリなどの必要も無かったのだ。
それにもかかわらず入院を続けたのは、禁煙に強制力を持たせようとしたわけでもなく、たまった有給休暇を消費したかったわけでもない。トウキョウに入ってきた自治政府の目を逃れるためだったのだ。入院中のシュウに課せられた事は、保安局上層部が用意した想定問答集を丸暗記する事である。
女が差し出したメモリーチップを受け取り、付属の書類を手に取る。騒乱前に頼んでいた仕事なので、もはや必要の無いものなのかもしれない。だが、自分の置かれた状況を納得するための手がかりにはなる。
半年前の騒乱、その被害に対して誰がどのような責任を取るのか。最終的には政治とやらが決着を付けるのであろうが、それまでに原因の分析や事件の経過が調査されなければならない。その部分で、特別行政区と自治政府が綱引きをしているのだ。
東アジア中央政府や東アジア軍は、トウキョウの権益を最悪の形で失った。その上、責任まで背負えとなれば、死に物狂いで反撃してくるだろう。解放軍を気取る日本自治政府が、騒乱への関与や自らの責任に言及する事は無い。そうなれば、泥を被るのは特別行政区である。
保安局は、自分達がいかにトウキョウ市民を守るために日夜活動を行っていたのかを猛然とアピールしている。その事自体に嘘は無いのだが、真実だけでは不足なのだ。だから口裏合わせが必要になる。シュウが菱丘組の幹部と私的に接触を行っていたなどという事実は、決して表に出てはならない。
あれだけの殉職者を出しながら、その後に訪れたのが組織の保身活動であるという事に、シュウは心底呆れていた。進級も昇進も断って、警備部の現場に戻ってきたのは、そんな上層部には何の用事もないからだった。
あんな騒乱を強引に収め、アリバイ作りのような裁判で目先を誤魔化しているのだ。機動隊が必要とされる場面は遠からずやってくるだろう。その時に同じ轍を踏まないためにも、現場にいる必要があるのだ。
「先生に、礼を言っておいてくれ」
シュウは女にそう言って、鑑識課のオフィスを出て行こうとする。女は彼を呼び止めた。
「奥さんと子供、疎開先から呼び寄せなさい。とりあえず、安全になったんだから」
心配してたわよと言って、預かっていたという手紙を渡す。元同僚だけあって、彼の知らないところで連絡を取り合っていたのだろう。渡された手紙に、シュウは思わず頬を緩ませた。それを見られないように、慌ててドアを閉める。
横浜の病院で定期のリハビリをしていたヨシト・モリを尋ねた後、ルーイは特別行政区へと入った。カズヤ・イシと品川の駅で落ち合う。道路も鉄道も多摩川を越えられるようになっており、駅にも街にもあの身分証確認ゲートは存在していなかった。
だが、それ以外に変わった様子が見られない。確かに、一本奥の通りを覗けば、ガラスが割れたままのビルが残っていたり、いまだブルーシートが掛けられたままになっている建物があったりもするが、それ以外は半年前のままのような気がする。道行く人々も、半年前と同じ雰囲気のままだ。
今こうしてすれ違っている人々が、半年前トウキョウで騒乱の最中にいた人々なのだろうか。コンビニエンスストアで雑誌を立ち読みしているサラリーマンは、あの日石や鉄パイプを持って軍の駐屯地に押し寄せたのだろうか。
「・・・なるほどな」
ルーイの話を聞いていたカズヤ・イシが一言つぶやいた。その疑問は、あの日を境に何らかの変化を来たした者であれば当然の事だろうと言う。そして、この街は頭がすげ代わったくらいで変わる街ではないのだと付け加える。
あの日、トウキョウに吹き荒れたのは変革を求めた風などではない。ただ無定形にうねる空気だった。人々は、その空気を読んで行動したに過ぎない。カズヤの視線は窓の外に向った。文化遺産指定を受けたばかりの東京電波塔の展望台には、多くの観光客がいる。騒がしいカフェスペースは、二人で話すにはもってこいの場所だった。
カズヤはレポート用紙の束を差し出す。裁判の傍聴記録だ。あの騒乱のルポルタージュを書くために集めている資料の一環だと言う。いつの間にか『トウキョウ・スタンピード』と呼ばれるようになったあの事件の全容は、いまだ不明のままであった。
自治政府は定期的に調査結果を開示するとしているが、あくまでもそれは騒乱が起こってからの経過に過ぎない。それまでに何が起こっていたのか、その一端を知るために、裁判の記録も必要となる。
「もっとも、公判前手続きは結審するまで公開されんし、開示請求がすんなり通るとも思えんがな」
何より、裁判にかけられているのはマフィアの下部構成員や日本軍残党の末端活動家ばかりであり、騒乱の裏事情にまでは届かないはずだ。自治政府も、自分に火の粉がかかる可能性のある事を、わざわざ掘り返したりはしないだろう。
もちろん、あの日実際に何が起きていたかは、彼らの方がよく知っている。ルポにはそれも必要だと言って、カズヤはコーヒーをすすった。
ルーイは資料をめくっていた手を止める。事件の中心にいたとされる華僑系マフィア、善隣幇。その構成員として捕まった人達のリストであった。
容疑は色々とかけられているが、その中に一つだけ共通点があった。身分証の不携帯である。ルーイの手が震え始めた。
このリストに書かれた人の全てが、マフィアの構成員なのだろうか。ルーイの問いに、カズヤは首を横に振った。騒乱後しばらくの間、自然発生的に生まれていた自警団が騒乱の実行犯として捕らえた人々の多くは、マフィアとは無関係であろうと。
自警団によるそのような行為が頻発したのは、治安維持活動に当たっていた自治政府軍が率先して「非日本人」を犯人として検挙していたからだと。それが、あの時の空気だったのだ。カズヤはそう語る。
その概念についてルーイは深く追求しないし、しても無駄だろう。それ以上に、興味すら無かった。
彼は、資料の一点に視線を注ぎ続け、それ以外の事ができなくなっていたのだから。
トウキョウとは異なる活気は、経済状況や統治体制の差異ではなく、多分に文化的なものであろう。トウキョウを整った顔の無表情な美人だとすれば、オオサカは化粧は下手だが笑顔の素敵な女性といったところだろうか。
リップサービスも含めてそう言ってみたが、目の前の人物は別にオオサカに愛着を持っているわけでも何でもないだろう。日本自治政府の政庁がある梅田から南に下り、オオサカのもう一つの中心を成す難波から東へ少し行ったところに、ジャンク屋組合の新しい事務所が構えられていた。
いわゆる下町の雰囲気を留める場所があったり、巨大な電器店が派手な広告と共に立っていたり、伝統芸能の劇場があったり、大衆喜劇の舞台があったりと、一言で言い表すのが難しい雑多な場所である。こういう場所を選ぶのは、彼女の趣味ではなく、ただ実利を求めてのものであろう。ジュンコ・ヤオイが、自分の分だけお茶を淹れる。
エリック・リブーが問いかけた。
「仕事は、やりやすくなりましたか?」
湯飲みを傾けていたジュンコが手を止めた。鋭くは無いが、じっと向けられるその視線は、分かりきった事を聞くなと言っている。
「向こうでの最後の仕事にミソを付けられてから、悪い事ばかりですよ」
ジャンク屋組合がツクバから脱出させた科学者の一人、SEEDコンバーターの研究者が暗殺された事を言っているのだろう。彼女の言葉に、エリックは肩をすくめた。ザフトの関与も疑っているのだろうが、彼の知る限りにおいてはタマユラ地区にいたオーブの工作員の犯行である。
SEEDコンバーターに関する研究成果がその後どうなったのかはザフトも興味を持っているらしいが、行方は分かっていない。装置の現物は失われ開発者も殺害された以上、大掛かりな追跡体勢を組むような案件でもないのだろう。
それに、その一件があろうとなかろうと、ジュンコの仕事がやり易くなる事はないはずだ。トウキョウ・スタンピード以降、彼女達のような組織は、当局から危険とのレッテルを貼られているのだ。
東アジア軍との繋がりは持っていたし、善隣幇や菱丘組とも関係していた。日本軍を顧客とする事もあれば、オーブの組織を名乗る連中との取引もあった。彼女としてはジャンク屋として、真摯に業務に励んでいただけであるが、世間ではそれを死の商人と呼ぶ。湯飲みをテーブルに置いて、ジュンコは窓際に立った。
無言で外を指し示す彼女に従って、エリックはブラインドの隙間から下を覗く。メイド姿の女性がチラシを配っていた。あれは公安部の人間だと言って、ジュンコは小さく舌打ちをする。
発想は同じだなと、エリックは部屋を見回した。オタクカルチャーの王道を行くようなポスターに囲まれているのは、以前と同じだ。彼が再び地球に降りてきたのも、以前と同様に情報収集活動である。
連合加盟国内部における再・再構築と、連合加盟国間における連合機能の再編は、車の両輪となって地球圏を動かすだろう。CEの次の一世紀のグランドデザインが、描かれようとしている。
そこにプラントはどのように組み込まれるのか。そして単に受動的にその動きに飲み込まれるのではなく、主体的にその動きをリードしていくにはどうすればいいのか。それらを判断するためにも、まず必要になるのは情報である。
ジャンク屋を訪ねたのは、彼女らが古い枠組みの中を生き延びてきた組織であり、その組織の変容はそのまま新しい枠組みを示唆するものとなりうるからだ。少なくとも、エリックはそう考えていた。
少し期待はずれだったなと、彼は口に出す代わりに席を立った。大男から、カモフラージュ用のアニメグッズを受け取って事務所を出る。彼女らは、兵器ではなく人を商品として扱い始めている。
再・再構築が生み出す軋轢の中、最も危険なものが傭兵やテロリストといった破壊工作のノウハウを持った集団である。連合加盟国はそれらの取締まりを強化しているが、ジャンク屋はそこに商機を見出していた。取締りによって行き場をなくした傭兵やテロリストに、次のクライアントや活動場所を斡旋するのである。商品が僅かに変わっただけで、やっている事は何一つ変わっていない。
その先に、何か別のビジョンでもあるのかとも思ったが、そういった事でもないらしい。エリックは手帳に書いてあったいくつかの予定を変更する。余った時間は観光に回す事にした。
まずはパンフレットに書いてあった、動くカニの看板を見に行く事にする。
川を一本隔てると、復興の槌音は遠くになる。この区域には、大きな被害がなかったのだ。だが、街の様子はどこか閑散としており、空店舗や貸ビルの看板が目立っているような気がする。そして、壁を取り壊すための重機の音だけがやかましい。
タマユラ地区と日本人特別居留区との間にそびえていた分離壁の取り壊し作業が始まったのだ。タマユラ地区の租借期限満了と同時に工事が終わるようにとのスケジュールで、工期が決定されたという。
オーブ系の企業は一斉に撤退を始め、関係者の多くはオーブへの移住を開始していた。租借期限が切れるまでは、日本自治区の企業が進出する事も出来ず、街は寂れていく一方である。
「・・・あの人」
ユンディ・ミナカミが指差す男性も、こちらに気がついたようだ。めっきり人通りの少なくなった街では、偶然の出会いもどこか間が抜けたものだ。大声を出したり手を振り合ったりするような仲でなければなおさらである。タルハ・アンワール・ガニーが、丁寧に会釈をする。
「奇遇ですね、ローレンスさん」
キリルはそのまま二人を喫茶店に誘う。正直、トウキョウに来てからの事はたいして考えていなかったのだ。とにかく、少しでも情報が欲しい。話を聞くと、彼らは騒乱の後もタマユラ地区に残って活動を続けていたのだそうだ。
日本人特別居留区では実際に兵器としての運用が成された自社製品の問題点や、その流通経路など、会社として調べなくてはならない事は多かった。さらには自治政府への説明や、タマユラ地区の警備保障会社などへの対応、警察への事情聴取なども頻繁に行われていた。騒乱の影響でしばらくはトウキョウに応援の社員を入れる事もできず、この半年はとんでもない忙しさだったとユンディは言う。
「最近ですよ、余裕が出てきたのは・・・ローレンスさんは、やはりお仕事で?」
キリルは曖昧に答えるが、今回のトウキョウ入りは完全な私用である。カーペンタリアで意識を取り戻し、プラントに戻って療養を続けていた彼が退院したのは、つい先日であった。本格的な職場復帰をする前に、何としてでもマリアの消息を掴んでおきたいと、トウキョウに戻ってきた。
とりあえずトウキョウの大まかな状況を聞くのだが、これといった情報は無いようだ。各地で復興作業が始まり、世間の注目はそちらに向っているらしい。
いや、あの騒乱から無意識に目を逸らしているのかもしれない。そちらに目を向けてしまえば、再びあのような混乱が生じてしまうのでは無いだろうか。死者、行方不明者の全容すら未だに明らかになっていないのだ。
縮めたストローの包み紙に水滴をたらし、ユンディが回りを見渡してから言う。騒乱の実行犯として捕まった人達に対する、刑の執行は既に始まっていると。
裁判も通常の犯罪の場合とは異なる手続きで進められており、強引な取調べや自白の強要など、悪い噂は耐えなかった。大抵の判決は自治政府領内からの追放なのだが、一部では死刑判決も存在するという。
「旧世紀から、死刑の好きな国だったらしいけどな」
タルハが苦い声で言う。しかも、冤罪の可能性は一切考慮されていないらしい。それどころか、迅速な裁判と刑の執行はトウキョウ市民の支持を得ていると言う。裁判の形を借りた政治的パフォーマンスでしかなかった。
市民の抗議活動に対する東アジア軍の無差別攻撃というそもそもの問題を提起する者はなく、外国人犯罪者による破壊活動が騒乱の原因とされているようだった。
トウキョウ特別行政区が管理していたメディアの全ては、そのまま自治政府が管理する事になった。そして、復興救援活動のための広報を円滑にするための措置が、半年経っても解除されないままなのだ。特別行政区と同じ種類の情報操作を、自治政府も行っているようだ。
「生情報も今じゃアクセスできなくなってる」
タマユラ地区からのオーブ系企業の撤退や、ハーモナイズコミュニティーの事務所閉鎖などによって、特別行政区時代には辛うじてアクセスできた「当局に統制されていない情報」も全く入手できなくなっていた。
特別行政区時代には人々が競うように集めていた生情報は、今や要求すらされなくなっているのだ。唯々諾々と、自治政府の流す情報を飲み込んでいるだけだった。
愚痴になってるわねとユンディが言って、話を区切った。つまらない沈黙が訪れる前に、キリルは必要な事だけを質問する。
裁判記録や刑の執行状況を調べるにはどうしたらいいかと。
江戸川を渡ると、街の雰囲気もずいぶんと落ち着いたものになる。都心部に比べて、騒乱の影響が少なかったからだ。もっともそれは建物の話であり、あの時このあたりに住んでいた人の多くは、都心部に向って抗議デモを進撃させていたのだ。
「帰ってこない人も多いんです」
一通り書類を交換して、雑談となる。既に引き払う準備が出来ている建物はとても静かで、小さな園庭は寂しげだった。窓から差し込む光の柔らかさが、その寂しさを一層引き立てているようだった。
そんな雰囲気に苦笑をもらした男性の口から、真っ白い歯がこぼれる。黒い肌に映える歯の色は、目の前の男性の油断ならない雰囲気を和らげていた。ナタリア・ファリロスが紅茶のおかわりを勧める。
男性は、大西洋連邦に拠点を置く企業の関係者で、彼女の運営する慈善団体への寄付を申し出てくれたのだ。ジョン・マグナルドと名乗った男性に、ナタリアは見覚えがあるような気がしていた。そのため何度も顔を見返してしまう。男性がその事に疑問を呈し、ナタリアは慌ててポットを手に取った。
「トウキョウからは完全に引き上げるという事ですか?」
「ええ、こちらの団体への引継ぎも終えましたし」
彼女の運営する慈善団体、ファリロス・ファミリアが設立した日本人特別居留区への人道支援団体は、その目的を一定度達したという事で、現在も続いている一部の医療活動をトウキョウの市民団体などに引継ぎ、撤収する事になっていた。そのため、同時に運営していた孤児院も閉鎖となる。
孤児たちが暮らしていたこの建物は、行政が買い取って同様の事業を続ける事になっていた。改装や増築を行うため、子供たちは現在別の場所で暮らしている。
男性は、日本自治政府からの圧力や何らかの働きかけがあったのでは無いかと探りを入れているが、ナタリアはそれを言外に否定する。確かに、相当危険な橋を渡って活動を続けてはいたし、当局の監視も受けていたが、撤退を考えたのはあの騒乱の最中であった。圧力が理由では無い。
活動にのめりこむ余り、自分の周囲で自分の事を気遣ってくれる人がいる事を忘れていた。それに気が付いたので、一度足を止める事にしたのだと、彼女は言った。
「どうも走りすぎてしまうようでして・・・以前もそれで失敗したのに」
「ですが、こういった事業はこれからがより一層求められるものなのでは?」
日本人特別居留区に対する東アジア軍の攻撃、トウキョウ全域で発生した騒乱、身寄りを無くした子供達は確実に増えている。行政はようやく腰を上げたところであり、態勢はまったく整っていない。
さらに菱丘組傘下のマフィアが、比較的年齢の高い孤児を積極的に組織構成員にしているという情報もある。確かにそういった組織の構成員になれば、孤児が犯罪に走ったり巻き込まれたりする事を一時的には防ぐかもしれない。だが、組織自体がそもそも犯罪を前提とする組織なのだ。治安の維持に役立つとは言い難い。
「特別行政区の頃から、菱丘組さんは市民の支持が高かったんです」
孤児の受け入れも、組織の拡大活動ではなく慈善活動の一環として受け止められているのだ。理屈の上では納得しているといった感じがするナタリアの苦笑を見ながら、ヒューは首を傾げた。
邦人救出を終えヨコスカに戻ったヒューは、再びジョン・マグナルドの名前でトウキョウに戻ってきた。騒乱後のトウキョウの情勢を調査するためである。大洋州が本拠地であるこの慈善団体を尋ねたのもその一環だ。この後も市民団体や労働組合など、トウキョウの復興活動に携わっている非行政の活動を中心に接触していく予定だ。
応接室のドアがそっと開き、子供が中を覗いている。ナタリアの視線がそちらに移ったタイミングで、ヒューは立ち上がった。丁寧に頭を下げ、部屋を出る。
ここに残っているという事は、あの子供は孤児では無いのだろう。ヒューはそう思って首を後ろに向けた。だが、ナタリアがその子供に接する様子を見て、別段聞く必要のない事だと思う。ヒューは視線を戻した。
がらんとした遊戯室にピアノが一台、置き去りにされたように残されている。
レンタカーに載せてあった音楽ディスクはプラントのものだった。最近売り出したアイドル歌手のものらしく、聞き覚えのある雰囲気の曲だった。それがハーモナイズコミュニティーの歌手が歌っていたものに似ていると気付いた時、目的地に着いた。
すれ違った老人に会釈をする。空気を淡く彩っている匂いは、墓の前に立てられた細い香から立ち上るものだ。この国の言葉が刻まれた墓碑の間を縫うように歩く。墓地の一番奥に、目指すものはあった。
そのそばに植えられた桜は満開であり、快晴の青空をバックに、美しいコントラストを描いている。キリルは足を止めた。寺の人が教えてくれたように、一人の男性がその墓碑の前にたたずんでいる。身寄りの無い人の遺骨を受け入れてくれるというその墓を、訪ねる人など限られているだろう。
彼の気配に気付いたのか、男性が振り向く。ややあって、二人は顔見知りである事に気付いた。東アジア軍による日本人特別居留区侵攻時、地下の通路を一緒に歩いた相手だ。曖昧に頭を下げ、キリルは男性の隣に足を進めた。
「ローレンスさん、でしたね?」
自分の隣に立って墓を見つめる男性に、ルーイはそう問いかける。小さく頷いただけで、何も言わない彼の表情は震えるようだった。彼の知り合いも、あの騒乱に巻き込まれたのだろか。それも、最悪の形で。再び、視線を墓碑へと戻す。
アメリは、ここに眠っている。
母親のコネを使って、連合からユーラシア外務省を経由して日本自治政府の裁判記録を取り寄せたのだ。そしてその中に、彼女の名前を見つけた。トウキョウ・スタンピードの引き金となったとされる、代々木の爆発事件の実行犯として。
この裁判に関する噂は色々と流れている。裁判記録を見ても、虚偽の証拠や当局による供述の捏造を疑わせる部分は多々ある。しかし、彼女の調書だけは違った。そこには他の調書にはない、生い立ちからトウキョウへと来た経緯、そして犯行に至るまでの心理の変遷などが、事細かに書かれてあったのだ。
そしてそのほとんどは、ルーイの知らない事であった。彼女の死より、その事に衝撃を受けた。そしてそんな自分を、身勝手だとも思った。彼女の事をどこまで知ろうとしたのだろうか。彼女の事は何一つ、水商売をしていた事さえ知らないままだったというのに。
あの時、自分はただ浮かれていただけであった。自分勝手な思いをアメリに投げかけ、現実の彼女を見てはいなかった。あの柔らかな微笑みが、どんな思いの上に成り立っているのかを知ろうとしなかった。
ルーイは視線を隣に移す。キリルが目を袖口で拭っていた。
涙など、流す資格は無いのかもしれない。キリルは袖の染みを見ながらそう思う。自分は、最後まで客に過ぎなかったのだ。マリアを守る事も、救う事も出来なかった。出来ると、考えた事自体が愚かだったのかもしれない。彼女の事は何一つ、その本名すら知らないままだったというのに。
あの時、自分が見ていたのは何だったのだろう。マリアに向けていた想いの全ては、稚拙で無意味なものだった。怒りすら覚えるほどに、あの時の自分は何も見ていなかった。だが、いくら悔やもうとも、もはや取り返しはつかない。
地球に降りていたエリックのツテで、マリアが罪に問われた事を知った。同時に、判決は死刑でありそれは既に執行されていたとも知らされたのだ。そして、引き取り手の無い死刑囚の遺骨を受け入れているというこの寺を訪ねたのだ。
寺の人に彼女の遺品を預けて墓の場所を聞いた時、キリルは先に人が来ている事を知らされていた。同じ日に同じ人を訪ねてくるとは仏様のお導きかもしれない、そんな事を言っていた。
キリルは涙を拭って尋ねる。
「キリロフさん、あなたは・・・アメリ・カグタさんを訪ねて来られたのですね」
「!? どうして、それを?」
「彼女が、ホステスをしていた事は知っていますか?」
「・・・ええ」
「私は、その客でした」
花びらの散る音が聞こえそうなほどに、辺りは静かだった。ルーイはその言葉を嘘だと感じる。客、などでは無いはずだ。目の前の彼は、自分と同じ理由でここに来ているはずだ。彼も、自分がここに来た理由に気が付いているだろう。
自分達は、互いに知らぬまま同じ女性を愛していた。
二人の視線は、複雑にぶつかる。だが、どちらからともなく視線を外した。そして互いに、相手の愛が自分のような身勝手なものでは無い事を願うのだ。自分には、それが出来なかったから。
二人は墓碑を見つめる。彼女の名前すら残っていない無縁墓、その哀しさは彼女がトウキョウで感じていた哀しさにも似ているのかもしれない。そして彼らはあの時も、彼女を今のようにただ見つめるだけだったのだ。
舞い散る桜の花弁が、冷たい墓石にささやかな彩りを添えている。
自分達の存在は、この花弁のように、ほんの一瞬でも彼女の人生に色を添える事が出来たのだろうか。それとも、すぐに吹き散らされてしまう花弁のように、彼女の人生の傍をただ通り過ぎただけなのだろうか。
いつしか二人は、ともに歌を口ずさんでいた。それは同じ歌、彼女が歌っていた歌だ。キリルは涙を流し、ルーイは空を見上げた。消え入りそうな二人の声は誰にも届かず、ただ悔恨の彼方へと消えていく。
悲しい歌そのままに。
(最後までありがとうございました。後書きを週明けに書くかもしれません。)