Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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流れ星

ーーー静けさだけが広がる宇宙のような場所で意識を取り戻したアルカ。

 

「……此処は……そう、全て終わったのね」

 

状況は理解した。セレアルトと共にブレイカーによって消滅させられ、自分は抑止力となる。意思なき世界の概念になる覚悟はしていた。抑止力の狂った世界が、長持ちする事はなく避けられない運命だった。

 今こうして自我が確立しているのも死んだ直後だからだろうか。時期にこの思考すらなくなる。

 

 

 

 最期は、ブレイカーに嫌な役を押し付けた。綾香を泣かせてしまった。アンと仲直りできなかった。ウェイバーにもお別れ出来なかった。凛にごめんも言えなかった。

 

 それから、それからとアルカの胸に心残りが溢れ出し、少しづつ胸が苦しくなる。後悔が止まらなくなりそうで、早く意識が消えてほしいと切に願う。全てを受け入れたはずなのに、アルカは決意が鈍ってしまう俺の中にある弱さを見つけてしまう。

 既に消滅したはずなのに、偽りの自分の体を抱きしめしゃがみこむ。

 

 早く消えてしまいたい。走馬灯のように家族との思い出がリフレインするたびに偽りの瞳から涙がこぼれる。そして決壊したダムのごとく、感情が暴走する。

 ポロポロと涙が頬を伝って落ちていく。顔を膝に埋めながら泣き続ける。

 

 

「……――――――!!」

 

 柄にもなく声をあげるアルカ。幼子のように心から来る泣き声が空間に響き渡った時、静かに彼女の背後に人影が現れる。その人影は泣き叫ぶアルカの肩に優しく手をのせる。突然肩に触れられビクリとして振り返る。

 そして振り返った先にいた人物の顔を見て、驚きのあまり後ずさる。

 

 

「そんなに驚かなくてもいいでしょロナ……いいえ、アルカ?」

「……驚くにきまってる。セレアルト」

 

 アルカは背後に現れた人物が魂をあの世に送った筈のセレアルト本人だったのだ。アルカだってびっくりするに決まっていた。もしや自分はセレアルトの魂の解放に失敗したのかとショックを受けるが、表情から妹の考えを察した彼女が首を横に振る。

 両手を後ろに組んで、びっくりした表情で固まるアルカに笑う。

 

 

「私の魂は完全に消えたわ。今ここにいるのは、セレアルトの人生最後のサプライズ」

「……悪趣味」 

 

 本当ね。とセレアルトは明るく返す。その表情や声にはこれまでと違った悪意や憎しみが含まれていなかった。

 

「私がここに来たのは、ある人たちからお願いされたから」

「……あの世?」

「えぇ。貴方のよーく知ってる人達」

 

 セレアルトはそういうと掌から光り輝く球体を2つ出現させる。その球体はアルカの胸の前まで飛んでいき、彼女の差し出した手のひらに収まる。

 その物体の光や温かさから、アルカは正体を突き止めていた。

 

 

「……これは、祈り?」

「うふふ、正解」 

 

 セレアルトが手渡した物は、アルカが第六魔法に使用した人々の祈りの星だった。誰の物かは分からず、どんな祈りかもわからないが、とても新しい祈りと古いがとても優しい祈りを感じた。

 

「……」

「なに? うふふ、罠とかじゃないわ。強いて言うなら、おせっかい」

 

 警戒心むき出しのアルカだったが、セレアルトは気にせず語り続ける。

 

「この祈りの正体は、可愛い可愛い貴方の妹から出現した【お姉ちゃんを助けてください】って祈り。健気ね」

「……」

「そしてこちらは、【ロナアルカが幸せでありますように】……お父様とお母様らしいわ」

 

 セレアルトが持って来たのは、綾香からの祈り。アルカが死んだ直後に綾香が祈ったのだ。純粋で混じりけのない間違いない思いだった。そしてもう一つは、今は亡き両親の祈り。アルカは両親の記憶を取り戻したが、正直の話、二人の愛は姉に偏っているよう感じていた。

 だが、二人は姉だけでなく自分の事も考えてくれたのだと感じた。

 

「……そっか」

「嬉しくないのかしら?」

「……嬉しい。けれど、もうどうする事も出来ない。私は抑止力となって、世界の均衡を保つ。それが使命」 

「本心なのかしら?」

 

 どの口で言うのだとアルカの眉間に皺が寄る。目の前にいるのアセレアルト本人ではないが、彼女からからかわれて納得できる筈ない。望んでいる筈がなかった。未練しか残っていない。この結末は、考えうる中で最善の手段だった。

 世界がく狂っていく中で人柱となる事で、家族を救えるのだ。元々死んでいる彼女にはその選択肢しかなかった。本当に望む物が別だとしても、生きている家族達を救えるのならと。再び涙が溢れ出す。

 

 そんな不安定な妹を不憫に思ったのか、セレアルトが背後から抱きついてくる。

 

「無理しなくていい。地獄に落ちるのは、私だけでいい。もうお父様にもお母様にもお別れは済んでる」

 

 セレアルトは、アルカより先にあの世に行きあの世の入り口で両親に出会ったという。そして、決して同じ所に行けない彼女は、最後に両親に抱きしめられたらしい。そして、最期の心残りであるアルカの元に来たのだ。

 

 自分の行いを後悔はしていない。あの時は本当にやりたかった事なのだ。人理焼却と抑止力の破壊、根源に繋がって見えるありとあらゆる世界が許せなかった。それは本心だ。誤解があった、理由はあった。けれどセレアルトは己のしたい事をしたのだ。

 その後始末をアルカが背負い込むことは、気に入らなかった。地獄の業火に焼かれるのは自分だけでいい。むしろ自分の行いを勝手に償うなど矜持が許さなかった。だからこそ、アルカに関わる祈りを集めたのだ。

 

 あの世で出会った両親と、アルカの大切にしていた家族の祈り。それらを届ける事がセレアルトの最期の使命だった。両親から託され、抑止力になろうとしたアルカを追いかけていた際に、沙条綾香からあふれ出した祈りを

拾った。第六魔法を扱えないセレアルトだったが、アルカと融合したことで真似だけは出来た。

 

「……既に世界と、運命との契約は終ってる。私の意志で逃れる事は出来ない、それに逃れたとして世界が滅んでしまうだけ」は

「そうね、定まってしまった運命は簡単には崩せない。そして、抑止力を失った世界は崩壊へ向かうでしょうね。私の計画なら一日で終るはずだったのだけど、まぁ今でも10年持てばいい方。けれど、抜け道がないわけじゃない。

 

 だから、貴方は帰りなさい」

「え?」 

 

 セレアルトは、説明を交えながら強くアルカの背中を押した。勢いよく押されたため、アルカの体がふらつく。そして、静けさだけの世界から何かに引き寄せられるように落下が始まる。

 ふわふわとゆったりした速度だが、落ちるアルカは上から見下ろすセレアルトを驚いた表情で見上げる。

 

「……セレアルト、何を」

「人柱になる結末は変わらないかもしれない。うふふふ、でもね……猶予を作ってあげる事は出来るわ」

 

 困惑するアルカに彼女は「貴方が死ぬまでなら時間を稼いであげるわ」と告げる。セレアルトは、アルカの死を引きのばし、抑止力となるのは寿命を終えてからにするという。

 だが、既に抑止力になる運命が決まったアルカに猶予を与えることなど不可能に近い。

 

「えぇ運命は覆せない……でも、運命を壊せる奴がいるじゃない」

「!?」

 

 セレアルトがアルカの側で輝いていた2つの祈りを取り上げる。そして、2つの光を手のひらの上で混ぜ合わせ、再びアルカへと射出。混ざったことでより強い光となった祈りがアルカの体に命中すると、彼女の意思に関係なく第六魔法が発動。

 

 

 背後の空間がひび割れていき、裂け目から人の腕がアルカの手をつかむ。その腕を掴んだ存在は、徐々に広がる空間の裂け目から、褐色の肌と黒い髪、灰色の外套を纏った男が姿を見せる。

 

 

 

「……どうして? ぷえっ!?」

 

 アルカは首をかしげながら、この場所に乱入した赤い目を持つ男、ブレイカーに質問した。世界の理をぶち壊してまで現れた彼は、アルカの後頭部を軽く殴り付けた。

 殴られた痛みで涙目になりながらブレイカーの様子を伺うアルカと肩をすくめるセレアルト。

 

「どうしてもこうもあるか。俺はお前の願いを成就するために召喚された。願いはまだ叶ってないだろ?」

「は?」

  

 アルカは願いは叶ったはずだと考える。彼はアルカの命令に従って、破滅に向かう運命を破壊したのだ。人智を超え、神の力すら凌駕し願いを成就したはず。アルカ自身、セレアルトの魂の解放とこの世全ての悪の消滅を確認した。

 なのに、ブレイカーはまだ終ってないと告げる。

 

 本気で何を言っているのかわからないと言った表情のアルカにブレイカーはめんどくさそうに後頭部を掻く。

 

「俺は、お前にこの運命を破壊しろと命じられた。お前に課せられた運命(バッドエンド)は、俺が壊すまでだ」

「……出来る筈がない」

「お前や性悪姉には不可能でも、俺ならできる。それに」

 

 根源接続者と第六魔法の使い手を相手にしながらも、絶対の自信を持ってブレイカーは告げる。一切偽りのない正直な思いを伝え、右肩を回し始めるブレイカー。

 そして、自分の胸を右手の親指で刺す。

 

 

「既に俺は抑止力の封印から解放された身だ。俺みたいな存在が残り続けたら、お前が守った世界は結局壊れちまう。だから、俺が抑止の人柱になってやる」

 

 ブレイカーは、堂々と自分がアルカの代わりに人柱になると告げた。ブレイカーは目的を果たし終え、新たな目的を持っていなかった。

 自分は、召喚主である何も知らぬ少女を守り、その成長を見届けた。そして彼女の願いを叶え、破壊するだけの存在だった己にも救える物があると心から思えた。  

 だから、最期までやり遂げようと思った。これは明らかに使用者の意志に反した越権行為。

 

 しかし、ブレイカーは満足だった。この召喚に応じた事、そして己に意味を与えてくれたアルカの未来を作ることに迷いはない。

 

「だから、お前は生きろ。お前だけの人生を精一杯歩め。お前の人生の成就を持って、俺との契約の対価とする」

 

 拒否は許さないと言った強い口調でブレイカーは掴んだアルカの手を引っ張り、自分が出てきた次元の裂け目に彼女を放り込む。裂け目に放り込まれたアルカは、慌てて元の場所に戻ろうとするも、まるで一方通行のように次元の裂け目に発生した壁に阻まれる。

 

「……ブレイカー! なんで、私の代わりに。ブレイカーにだって……」 

「俺は現世に興味はない、既に十分楽しんだ。なら未練があるお前を返してやりたくなっただけだ」 

「……」

 

 言葉を無くし、力無く次元の裂け目に発生した壁にもたれるアルカ。彼女の様子を見かねたブレイカーが掌だけ裂け目を破壊しながら通らせ、彼女の頬を優しく撫でる。今まで守る事は有れど、こうして宥めたのはいつ以来か。

 非常に優しげな表情でアルカの流した涙を指でぬぐい取ったブレイカー。

 

「俺のために泣く必要はない。人生を楽しんで笑っていればいい」

「もう会えないの?」

 

 頬に触れるブレイカーの手を掴んでアルカが問う。何故ならブレイカーは既に英霊の座から解放され、英霊として召喚する事も不可能。ここで別れれば二度と会えないとアルカは察していた。 

 

「会えるさ。お前達が本当に俺を望んだなら、俺はいつでも傍にいよう。……もう時間だな」

 

 ブレイカーがアルカから手を放し、後ろに一歩下がる。そうすれば、アルカとブレイカーを隔てていた次元の壁が発生し、触れ合う事が出来なくなる。

 本当の別れとなり、哀しげな表情のアルカだが、ブレイカーの優しい表情を見て少しだけ微笑む。そして覚悟を決めた彼女は、ブレイカーから

 

 

「またな。アルカ」

「……ん。またね、ブレイカー」

 

 自分を見送るブレイカーから目を逸らし、現世に戻るため振り返るアルカ。もう振り返らないと決めたアルカの足取りは軽く阻む物は何もない。

 

 

――――――

 

 聖杯戦争が終結し、綾香達は崩れゆく魔法陣の塔を眺めていた。全員重傷でありながら、動けるサーヴァントの手を借りて安全地帯へ非難する事が出来た。

 

 

 

「これで、遠坂の悲願も終っちゃったわけか」

「あら、今さら後悔しても遅いわよ」

「うるさい。そういうアインツベルンはどうなのよ?」

「さぁ。大爺様がこの結末をどうとらえるかわからないもの。ただ、何をするかわからないわ」

 

 聖杯戦争の永久停止を前に、意識を取り戻した凛とバーサーカーを傍らに控えさせたイリヤが倒れた木に腰掛けている。二人は数世紀に及ぶ一族の悲願が自分達の代で終った事について話し合っていた。

 二人とも思う所があるが、彼女達の傍で疲労と怪我から眠っている衛宮士郎と間桐桜を見れば、後悔はなかった。両者ともに聖杯戦争で家族を取り戻したのだから。

 聖杯への願いを持たない二人には、本当に願っていた物を得ているのだから。

 

「どちらにせよ、私たち大変よ? 覚悟はできている?」

「バーサーカーが護ってくれるから平気よ。凛、貴方こそ覚悟しなければいけないわ」

「…そうね」

 

 イリヤは、自分の身は守れると凛に告げる。実際に聖杯戦争と関係のない召喚によって、イリヤの守護者として現れたバーサーカーは、彼女を如何なる試練からも守り通すつもりだった。

 二人が話していると、凛の傍にセイバー(アルトリア)が現れる。彼女は少し距離を取った場所で安全の確認を行っており、無事に聖杯戦争が終結した事で戻ってきたのだ。

 

「凛、もう何事も起きないようです。たったいま、残留していた魔力も消えました」

「ありがとうセイバー。綾香達はどうしてる?」

「彼女達は、もう少し大聖杯の跡地にいると言っていました」

「了解したわセイバー(アルトリア)。……そういえば大聖杯が消えた後、貴方達は現界を保てるの?」

 

 冬木の英霊達は、聖杯戦争の際に大聖杯のサポートを受けて現界をマスターの魔力だけで保っている。だが大本である聖杯を消滅させた以上、サーヴァントの現界すら難しい。

 

「確かに、我々サーヴァントの魔力自体は低下しています。ですが、消滅するほどではなく一時的な魔力不足程度です」 

 

 セイバー(アルトリア)は自分の体の調子を確かめた上で凛に答えた。宝具の使用が嵩み、鎧を編む事も出来ないほど疲弊している。だが消滅するほど消耗はしておらず、その症状は綾香と契約していたサーヴァント達にも見られた。

 戦闘での傷を癒すために魔力を回復にまわしている事で、魔力不足になっているが消滅の危険性はない。綾香に刻まれていた命を奪う令呪が消え、通常の令呪になった事で魔力供給のパイプは細くなっていた。けれども綾香の魔術回路が第五次聖杯戦争で体験した魔力の増大と妖精化の影響で活性化。

 その影響下から、聖杯戦争用に改造されたホムンクルスであるイリヤよりも魔力生成が潤滑になっていた。綾香の魔力が潤滑なため3騎のサーヴァントと契約を継続することも可能だった。 

 唯一の例外は、ウェイバーの召喚したイスカンダルだけだった。

 しかし、それは彼らの問題だと凛とセイバーも割り切っていた。

 

「そっか。こういっちゃなんだけど、聖杯戦争が終わった今、セイバー(アルトリア)はどうするか決めた?」

「いいえ。正直自分がどうすればいいのかわかりません。円卓王やアルトリウスなどの自分の可能性を見て、どう進むべきなのか迷っています」

「なら、相談なんだけど」

 

 

 凛は自分の膝の上で眠る桜の頭を撫でながら、目標を定められないセイバー(アルトリア)にある提案を持ちかけた。それを聞いていたイリヤは少しだけ微笑んでいた。

 

――――――――

 

 一方で綾香に追従する3騎のサーヴァント達。そして、征服王とウェイバー達は事態の終息を見届けていた。アルカがブレイカーに命じた自身の殺害。その影響によって全人類を殺戮する英霊召喚術式は崩壊。衛宮士郎の活躍による抑止力の汚染原因である大聖杯も消滅。

 全てが終わったのだ。

 

 

「どうやら、本当に仕舞みたいだな」 

「そのようだ」

「短い時間だったが、召喚に応じて余は満足だウェイバー」

 

 狂った第五次聖杯戦争に召喚された英霊達と違い、征服王イスカンダルは第四次の召喚を元にされた召喚式を使用。セレアルトの関与しないイレギュラーだった。だからこそ、大聖杯の消滅が彼の存在を英霊の座へと召還する運命を定めてしまった。

 受肉していない彼が、大聖杯のバックアップも奇跡もなしで残り続けるのは無理だったのだ。

 

 戦いが終わった後、宝具を使用する事も出来なくなったイスカンダルは、神威の車輪を消し消滅までの時間を稼いでいた。全ては戦友であり、マスターであった青年と別れをするため。

 

「私もまだ未熟だな。私に才があれば、お前の野望を手助けで来たのだがな」

 

 少しだけ視線を落とすウェイバー。10年前と違い年を重ね貫禄を帯びた顔が悔しさに歪む。もう少し自分に力があればイスカンダルを現界させ続ける事も可能だった。だが既に彼の弟子達には、助力してもらい世界を救う戦いを勝ち抜いた。

 これ以上は分不相応のない物ねだりだと理性で理解している。

 

「また次に期待するとしよう。……嬢ちゃんの事だけは、心残りだがな」

「……あぁ。あの子を救ってやれなかった。私の落ち度だ」

 

責任を感じるウェイバーだったがイスカンダルが背中を叩いて渇を入れる。突然背中を強打され驚くウェイバー。

 

「必死に戦った結果だ。お前さんに落ち度はない。寧ろお前達は嬢ちゃんの分まで強く生きねばならん。それが生き残ったものの勤めだ。

あの嬢ちゃんも、ただ死ぬたまじゃない。すぐに戻ってくるかもしれん」

「その通りだ。待つさ、アルカが帰ってくるまで」

 

どれだけ待つことになろうとも、ウェイバーは待ち続ける。家族なのだから、帰ってくる場所を守る義務がある。

聖杯戦争を終えても、平穏は来ないだろう。魔術協会や聖堂教会も異変には気が付いている筈。これからどういった取り調べや干渉があるかわからない。最悪の場合、聖杯戦争の参加者として封印指定すらされかねない。

 もしそうなった場合もウェイバーは一切手出しさせるつもりはない。

 守り通すだろう、アルカの守った物を理解しているのだから。 

 

「さて、余もそろそろ行くかな」

「感謝する。またお前に会い共に戦えて光栄だった」

「余も、友の雄姿を見られた。それだけでも良い土産話となろう。そして世界を救う戦いに参戦し、勝ったのだからな」

 

 そういうとイスカンダルは、遠い目をしながら10年前と同じ冬木の空を眺める。

 

「また会おう」

「応! 余も楽しみにしておるぞガハハハ」

 

 第五次聖杯戦争の終局にて、人類を救うために戦ったイスカンダルは英霊の座へと帰って行った。最後に男くさい笑顔を残して。イスカンダルの姿が完全に消滅すると、ウェイバーは空を見上げたままの綾香の元へ向かう。

 彼女の周囲には、3人の英霊が控えているが味方であるウェイバーに敵意を向ける事はない。そして彼らの背後の木に凭れかかって眠るアンがいた。戦闘での消耗とマスター(アルカ)不在のため、深い眠りに入っていた。

 アンが裏切った事を知っているウェイバーだが、最期は改心したと聞いたため罪を問うつもりはなかった。

 アンの様子を眺めた後、ウェイバーは綾香に話しかける前に地べたに腰掛けている小次郎とランサーに話しかける。 

 

「……綾香はまだ、待っているのかね?」

「みてぇだな。すぐに割り切れないんだろうよ」

「無理もなかろうな。綾香嬢の性格からすれば、当然のことよ」

「そうか」

 

二人から離れ諦めきれない綾香を見守るセイバーに視線だけで「少し綾香と話す」と告げる。ウェイバーの視線で察したセイバー(アルトリウス)はおとなしく下がる。

 

「少し良いか綾香」

「あ、ウェイバーさん。……大丈夫。もうわかってます」

「何を分かっているんだ?」

「もう、お姉ちゃんは帰ってこれない。お姉ちゃんから直接聞いて、理解してる……ふぇえええええん」

 

 悔しさと悲しみから涙を流した綾香がウェイバーの肩で泣き始める。ウェイバーは衣服が涙で濡れようとも文句は言わず、泣きじゃくる彼女の気が済むまで待つ事にした。

 

「こんな、弱くちゃいけない、そうわかってるのに」

「泣く事が弱いというのは違う。お前は強くなった、だからこそアルカも安心して戦えた。お前がいたおかげで世界は救われ、多くの人々の未来が守られた。

 そんなお前が弱い筈がない。今は心が痛んでいるだけだ、楽になるまで泣けばいい。私や私以外にもお前を認め守る者がいる。抱え込む必要はない」

 

 ウェイバーが綾香を宥めていると、突然空に浮かぶ星のひとつが輝き始める。その輝きが徐々に地上へと向かっており始める。その星は魔力を纏っており、その場にいた3人の英霊は既に臨戦態勢となってウェイバーと綾香の前に駆けつける。

 

 

「綾香、僕等の後ろに。何か分からないが、降りてくる」

「まだ終わってなかったのかよ」 

 

 聖槍を構えるセイバー(アルトリウス)と槍を構えるランサー。その横に刀を背負う小次郎が配置している。だが円卓王との戦いで傷付いた彼らが戦闘を行う無謀さは、その場の全員が理解していた。

 

 だが、星を見上げた綾香の魔眼が光を捉えた時、彼女は固まった。星の光を見て悲しみに暮れた表情に希望の火が灯る。

 そして同時に気を失っていたアサシンのアンが目を覚ます。

 

 突然空から舞い降りた流れ星が、綾香達の元へと落下。周囲を優しい光が覆い尽くした。 

 

 

 

 

「なんだ!? やっぱ敵か」

「わからない。警戒を」

 

 光に目をやられたセイバー(アルトリウス)とランサーが互いに注意を向けた中。唯一羽織の袖で光から目を守っていた小次郎が二人の肩を掴んで止める。

 

「どうやら、奇跡とやらは身近にあるらしい」

「何を言ってやがんだお前」

「いったい……まさか」

 

 

 小次郎が顎であちらを見ろと誘導し、二人がその方向に振り返ってみた光景は3人の戦闘態勢の解除を決定づけた。先ほどまで後ろにいた綾香とウェイバー、そして目覚めたアンが一か所に集まっていた。

 その集まった場所の中心には、彼や彼女達が最も会いたい人物がいた。

 

 その人物は、自分に向かって飛び込んできた綾香を受け止め、心底驚いた表情のウェイバーと駆け寄ってきたアンに向かってほほ笑んだ。

 そして己の胸に顔を埋め、強く離さない意思を示す綾香の後頭部を撫でながら口を開いた。

 

 

「……ただいま皆」

 

 

 長い戦いが終わった瞬間だった。戦いで失ったものの代わりに彼女達が得たのは、より強い絆だった。  

 

 

 

――――

 

 一歩一歩足元に現れた下界に通じる階段を下りていくアルカの後姿を見届けるブレイカーは、彼女の姿が見えなくなったタイミングで振り返る。

 

 

「何を笑っているんだ」

 

 ブレイカーは自分の背後で興味深そうな目で見てくるセレアルトの残痕を睨む。既に死人とはいえ、ブレイカーは敵対していた彼女の事を良く思っていない。

 

「うふふ。随分献身的なサーヴァントだと思ってね。もし貴方を召喚したのが私だったら、結末は変わってたのかしらね」

「かもしれないな。お前の願いと俺の存在は噛み合う。……だがお前と俺は相容れはしない。俺のマスターはあいつだけだからな」

 

 腕を組みながらアルカこそが自分のマスターであると宣言するブレイカー。その言葉に肩をすくめながら「残念」とおどけるセレアルト。円卓王に不満はなかったが、本当の意味でのパートナーとは言えなかった。

 だからかもしれない、セレアルトがこんな質問をしたのも。

 彼女の周りは彼女を崇拝する者、敵対する者、恐れる者、従うものなどさまざまだったが、共に並び立つ存在はいなかった。だからこそ、アルカが羨ましく感じていた。

 

 「やはり、あの子には敵わないのね」っと自分とアルカの違いを感じ取ったタイミングで、セレアルトの体が透け始める。元々セレアルトがアルカにメッセージを伝えるために作った分身だったため、本体の死に同調して消滅の時が来たのだ。 

  

「じゃ、そろそろ行くわ。少しだけど話せてよかったわアンゴルモア」

「そうか。お前が行く先は地獄だろう……だが」

 

 消滅しようとしたセレアルトにブレイカーが何か含みのある言葉を残そうとする。突然のブレイカーからの言葉にセレアルトが首をかしげる。

 目を瞑りながら背中を向けるブレイカーの口から出た言葉はひどく優しいものだった。

 

「地獄の炎に焼かれ贖罪を終えた後にも世界がお前を罰するなら、俺がお前の絶望を壊そう。だから悲観するな。安心して償ってこい」

「うふふ、なにそれ。でもこれで安心して地獄に行けるわね。さようなら」

「あぁ」

 

 最期に笑顔を残して消えたセレアルト。ブレイカーが彼女に残した言葉は、彼の本心だった。敵であり一度自分を殺した相手だが、ブレイカー自身はセレアルトの狂気を理解している。だからかもしれない。

 

 アルカと同じ顔をした彼女も姉の泣き顔は似合わないと感じたのは。

 

 

「さてと、俺も行くとしよう。随分とやりがいのある時間稼ぎにな」

 

 別の未来で世界を滅ぼした英雄は、世界の平穏を望みガイアとアラヤとは別の管轄を担当する抑止力【アルカ】の代理として過去未来、並行世界でセレアルトの行った世界の破壊の影響を収め、第二のセレアルトを産み出さない勤めを承った。

 悠久の戦いに足を踏み入れたブレイカーだったが、彼にもはや悩みはない。

   





 次回がいよいよ最終話となります。
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