灰色の外套を纏った男性が、自分の顔を覗き込んで、ものすごく狼狽えている。けれど、そんな彼の背後でいつの間にか遠くにいた赤い外套のサーヴァントが襲い掛かる。白と黒の夫婦剣が彼の背中に迫る。
振り返った彼は、頭を掻きながらも赤い外套の英霊の振り下ろさんとした両の刃を、彼の手首を掴むことで制止。突然両腕を掴まれ動けなくなった赤い外套の英霊に、灰色の男は強烈な蹴りを腹部に叩きこんだ。蹴られた英霊は口から血を吐き出し、吹き飛びそうになるが両腕を掴まれたままで、すぐに引き寄せられ頭突きを食らう。
その一撃の脳震盪をおこしたのか、動きが鈍る。それを見逃さずに両手を離した灰色の男が回し蹴りを食らわせた。強烈な蹴りに吹き飛ばされた赤い外套の英霊は、壁に激突し動かなくなる。
「なんだこいつは、いや、こいつも見覚えがあるな。何処でだ?」
「何を言ってるの? あなたは、何?」
どうにか上半身だけ起き上がった彼女は、ポリポリと頭を掻いている男性に問いかける。自分の手に発生した令呪と英霊を圧倒するだけの力を持つ存在は、サーヴァントに違いない。これだけの条件がそろっているのに、彼女は今起きていることが理解できない。
怒るがままを受け入れるには彼女の過ごした時間が長く、絶望が深すぎた。
「俺が誰かわらないのか。よくよく考えれば、別の世界だしな。お前、名前はなんて言うんだ?」
「私?」
他に誰が居ると彼が訝しげな眼をする。けれど敵意はなくて、純粋な疑問を抱えているようだ。
「私の名前は、セレアルト。セレアルト・グッドフェローよ」
「ハハ、ハハハ。そうか。俺はブレイカーだ。悪いが俺はお前をマスターとは呼ばない。だが、サーヴァントの役割は果たしてやる。此処に契約は成立した。で、どうする担い手(ベアラー)」
突然マスターと認めないという発言をしたサーヴァント。名をブレイカーと言うらしい。セレアルトと名乗った少女は、彼を深く観察する。すると、彼のクラスそのものがブレイカーとなっていた。
「破壊者(ブレイカー)の英霊?」
「元な。今は生霊だ。けど、今はお前のサーヴァントになってやる。……約束だからな」
「約束? 私はあなたと初めて会ったんだけど?」
「気にするな。それで、あの英霊は何なんだ?」
ブレイカーが指をさす方向で、赤い外套の英霊が黒い弓を召喚して、ドリルのような剣を投影して構えている。迸る魔力から英霊の持ちうる最大の武器、宝具であることは一目瞭然だった。
「ベアラー、覚悟あるなら指示をしろ。あれに打ち勝てと」
「できるの?」
「お前次第だ」
自分の事を知っているように振舞うサーヴァントに疑問は尽きない。だが、これが夢でないのなら、いやこの悪夢を終わらせる切り札だ。マスターではないと言いながらも彼は、自分の指示に従うと言ってくれている。
「このくそったれな運命(ループ)をぶっ壊して、ブレイカー!!」
「了解した」
彼が承諾すると同時に、赤い英霊から矢が放たれる。その矢は、ブレイカーごとセレアルト・グッドフェローを撃ち抜かんと突き進んでくる。あれは避けられない。
「張りぼてだな」
宝具の一撃を前にして、ブレイカーは体に現れた刻印から魔力を放出しながら腕を振るった。ガキンと言う音と共に放たれた矢はブレイカーに素手で打ち砕かれた。破片が散らばり余波が周囲に広がるもブレイカーは涼しい顔をして立っている。
そして、彼の背後にいるセレアルトを守るように彼の魔力が薄い膜のようになっている。
格が違う。疑似英霊とはいえ、ブレイカーと赤い外套のサーヴァントの実力差は明白だった。
相手もそれを理解したのだろう、後ろに飛び腕を前に出す。これ以上何をする気なのか、そもそも疑似英霊が全力で自分を殺しに来ると言うのは正常なのだろうか。自分たちには聞き取れないノイズが走った声で彼は何かを詠唱する。
疑似英霊が宝具を連発するなどありえない。だが、目の前のそれは、明確な殺意の元、それを発動した。
「---◆■■■■◇◇■(アンリミテッド・ブレードワークス)!!」
世界が炎に包まれ、空には錆びた歯車と無数の剣が刺さった世界が広がった。
それを見てブレイカーが指を弾いた。
「思い出した、冬木のアーチャーか」
まるで懐かしいものを見たようにブレイカーが笑う。奥歯に詰まったものが取れたようにすっきりとした表情で、この世界を展開した存在を見つめる。
ブレイカーの問いに応えるように、赤いアーチャーが手を上げ、それに従い地面に刺さった無数の剣が浮かび上がり、それらが全てセレアルトとブレイカーへと押し寄せる。