一夜明けてある程度の知識を得たブレイカー。はっきりわかった事がある。彼は通常サーヴァントが行える霊体化などが出来ないという事。
スキルの道具作成によってある程度のアイテムは作れるが、SE.RA.PHのルールに乗っ取ったものは、中々厳しいという事だ。だが不可能ではない。理論さえ理解してしまえば、礼装だって作成が可能だ。
知識はあるがSE.RA.PHのサポートなしでは、できる事が限られる。
「何ため息ついてるのブレイカー」
「今後の課題が多すぎてな。後、手紙の書き方はわかったが、書きたいことがわからない」
「手紙? 随分古風ね」
今はメールではないのだろうか? そんな疑問をかみ殺してブレイカーとセレアルトは、アリーナへと向かう。
トリガーキーは入手しているので、すぐに潜る必要はないが、ブレイカーが素材やリソースを集める事を勧めてきた。
後は、シンジ達が再び勝負を仕掛けてくることを狙っての事だ。敵は強いが、ブレイカーなら時間切れまで粘ることは可能。そこで情報を集めるのが目的だった。
「ベアラー。あれって、シンジじゃないか?」
「何か揉めてるのかしら?」
ブレイカーとセレアルトが階段を降りてすぐ、廊下で話声が聞こえる。
声の主は、シンジと別の赤い服を着たツーサイドアップの女生徒だった。二人して廊下の影に隠れてのぞき見をする。
「トオサカ。君はもうアリーナに入ったのかい? 中々面白い所だったよ」
「へぇ。その調子だと、随分と良いサーヴァントを引いたみたいね。アジア圏固有のクラッカー、マトウシンジ君?」
「あぁ。君には煮え湯を何度か飲まされたけど、今回ばかりはそうはいかないさ。僕のサーヴァントは、欧州でも最強だよ。君がいくら頑張っても勝てるはずがない」
「ふーん、欧州圏の英霊なのね。けど、そんなにべらべらサーヴァントの情報を話してもいいのかしら?」
「まぁ、ハンデって奴さ。一方的に勝負がついちゃったら、興ざめにも程があるだろ? どうしてもって頭を下げるなら、さらに慈悲をかけてやってもいいんだぜ?」
シンジが得意げに話していると、赤い服の女生徒の背後にサーヴァントが現れる。殺意に満ちた瞳、赤黒い刺青、腕と下半身を覆う魔獣じみた赤黒い刺々しい甲冑のサーヴァントは、ゴミでも見るかのようにシンジを見おろす。
「ランサー。勝手に出てこないで」
「どうでもいいがよ。この小僧、殺しちまうか? さっきからべらべらと不快だ」
「ひぃい」
目にも止まらない速さで赤い槍を取り出した英霊は、それをシンジに向かって突き刺そうとした。その殺気にシンジが悲鳴を上げ、両手で顔を覆う。だが彼の背後に現れた俊足のサーヴァントが、己の持つ槍で軽く赤い槍を打ち払う。金属同士ぶつかり火花を散らし、校舎の窓が割れる。
急な騒ぎにNPCや他のマスター達も集まり始める。
「下種が。決戦場ならいざ知れず、このような不可侵の場で、我が主の命を奪おうとは、恥を知れ」
「ふん。ムーンセルが敷いたルールなんぞ、知った事かよ。俺はサーヴァントだ。主を侮る愚か者が居るなら、容赦なく抉り殺す。シンプルな話だ」
シンジのサーヴァントは、赤槍の英霊を睨む。対する赤黒い鎧のサーヴァントは、生気のない目で睨み返す。二人の間に火花が散り、どちらも魔力を迸らせ、私闘御法度の校舎内で決闘が始められる寸前まで陥る。
「止めなさいランサー。こいつにそんな価値はないわ。それに、そのサーヴァントは一級品よ。戦うなら宝具の使用は必須。貴方の真名をこんな大勢の前で晒すデメリットに、校舎内での戦闘を行ったデメリット。その2つに対して、得られるのがシンジの首一つ? そんなのごめんだわ」
「めんどくせ。だが、お前がそいつを敵じゃないって言うんなら、俺は戦う理由はねぇな」
「おい、貴様! ちっ……シンジ、俺も引くぞ」
そう言い残して、少女のランサーは姿を消す。それに対して、槍を掲げたシンジのサーヴァントも槍を下し消える。
「という訳よシンジ。文句があるのなら勝ち残ってきなさい」
「ち、畜生!」
少女はそう言い残し、こちらに歩いてきた。当然、セレアルトとブレイカーの主従が目に入る。
「あら、あなたシンジの対戦相手ね。よかったわね、サーヴァントの情報が只で手に入ったわよ?」
運が良かったわねと言い残してその場を去ろうとした彼女を見て、ブレイカーはデジャブを感じた。
(あの嬢ちゃん。アルカの同級生だよな? 冬木のアーチャーのマスター。遠坂凛だったっけ? たまにアルカが家で一緒に遊ぶって言って連れてきてたから、顔は忘れてねぇけど)
さらにそのサーヴァント。風貌は変わったが顔は忘れない。間違いなく奴だ。思い出すと心臓のあたりが痛くなる。だが、彼が知る姿と違い、冬木の時よりも霊基が強化されている。元々上級の英霊だったのに、最上級と言っても差し支えないプレッシャーを放っていた。
(冬木の遠坂凛のそっくりさんに、冬木のランサーのそっくりさんか。今のマスターじゃ絶対に勝てねぇ)
そう。シンジを倒せば終わりではない。まだまだ強い対戦相手がいるのだ。
ブレイカーは、それを思い出し、気を引き締めざるを得なかった。
注:この作品の聖杯戦争では全体的にサーヴァントは強化されてます。