また気を失ってしまったらしい。ブレイカーに保健室に運ばれて、眠っていたらしい。
ブレイカーがいつものように私を背に守りながら、敵のサーヴァントと戦っていた。私はいつも見ている事しかできない。
ブレイカーは本当に強い英霊だ。未熟な私を見捨てず、常に自分に出来る事をしてくれる。
けれど、私はわかってしまった。
ブレイカーとシンジのサーヴァントの戦い。本来なら私には知覚すらできないそれを、私は見ていた。見えてしまっていた。明らかに英霊たちの中でも最高峰のスピード。その一挙一動を目で追えてしまった。
私は『普遍』だ。そんな私の妄想なのだろうか?
英霊達の闘いが、事細かく目で追える。そして、気が付いてしまう。彼の苦痛に歪む表情が。私だけの英霊、私の唯一の味方を苦しめているのは、敵ではない。
『普遍』な私だ。彼を支えるには、私はもろ過ぎる。だから彼は自分を傷付けながら戦う。身を削らねば戦えぬのだから。
変わりたいと思う。どうにか彼の力になりたいと願う。けれど、私はどこまで行っても『普遍』だ。私は『普遍』だ。変われない。ずっと同じ。何度も同じ繰り返し。
―――私は、【不変】だ。
力になりたいのに、彼が一人で戦う様は、私の中で大きなしこりとなる。そして、私の目の前で彼はまた傷ついてしまった。本来の彼なら、そんな傷を負うこともなかった。
あまりの無力感と彼の負った痛ましい傷に、胸が潰れそうになる。そんな状況下で、私の中で何かが沸き上がってくる。
――――うふふ。いいわ。少しだけ、力を貸してあげる。
私の頭の中で私の声が聞こえた。その声を聴いた時、私の意識は無くなる。だが、無くなる寸前、私の中で普遍で不変だった何かが、大きくゆがんだ気がした。強引に何かにこじ開けられたような感覚が、目覚めた後も残っており、それがひどく、ひどく、心地良かった。
―――――――
マイルームにて、ブレイカーとセレアルトは、今日の反省と敵の正体について話し合うことになった。
「今日は色々分かった事があるな」
「はい。敵のサーヴァントの情報が色々と手に入りました」
気分を出すためにホワイトボードを用意して、授業のように語りだすブレイカーと、意外にノリのいいセレアルト。だが、今日一日で敵の正体にたどり着けるだけの情報は集まった。
「よろしい。では、今日は何がわかった」
「えーと、相手が欧州の英霊であること、オリンポスの神を崇拝している事?」
「そうだ。これで十中八九、相手はギリシャの英霊だ」
ギリシャの英霊。英霊の中でも最高峰の逸話を持ったものが多い。
「ギリシャの英霊って、……ヘラクレスとかペルセウスとか。もしかして、あの英霊ヘラクレス? だからあれだけ強かったんじゃ」
「不正解」
「なんでぇ? どういう根拠で不正解なの?」
あれだけ強い英霊だ。かの有名なヘラクレスなら間違いないと自信満々だったセレアルトだが、見事に否定される。否定するなら否定する理由はなんだと尋ねる。
「ヘラクレスはあの男よりももっと大柄だ。それに肌の色が銀色っぽい。だから別人だ」
「いや、おかしいよ。その考察はおかしいわよ。それじゃまるでブレイカーが直接会ったことがあるみたいじゃない」
「正解。タイマンしたことある。決着はつかなかったがな」
「え?」
この英霊は何をカミングアウトしてくれているのだろう。セレアルトは、困惑した。
「ブレイカーってギリシャの英霊なの?」
「そんなわけ無いだろ。何言ってるんだ」
「私のがおかしいのかな? 絶対違うと思うんだけど」
話を戻すと言われ、納得がいかないとぶつぶつ言い殻もセレアルトはブレイカーの話を聞く。
「もう一つわかったこと。これは、推測だが、あの英霊は、何らかの宝具かスキルで、無敵または不死性を得ているんじゃないか? 俺の攻撃を食らったことに驚いている感じだったしな」
ブレイカーが違和感を抱いたのは、攻撃を食らった後の反応。自分の腕に自信があったとも考えられるが、技量自体は、トップサーヴァントの中では平均だろう。最上級ではあるが、頂点ではない。ギリシャには彼に劣らない英霊もいる筈だ。なら、何故自分がダメージを負ったことに驚いていたのか。
その答えにブレイカーはかつて戦ったヘラクレスから答えを導き出した。十二の試練(ゴッドハンド)のような敵の攻撃をある条件で無力化する能力持ちだったのだろうと。
その無敵性をブレイカーは破壊スキルで突き破った。だから相手は驚いていたのだ。
「ギリシャで不死の英霊? うーん、あ! ヘラク」
「却下だ馬鹿。他にもいっぱいいるだろうに。ギリシャ、おそらく不死性、そしてあの俊足だ」
しつこくヘラクレスに一票入れるセレアルトにチョップした後、話を続ける。
いろいろとヒントが出てきたことでようやく相手の正体に迫る。
「暴力反対」
「却下だ。さて、いよいよ真相にたどり着いたな。次ヘラクレスって言ったら、十二の試練だからな」
「なにかしらないけど、怖い。うーん、アキレウス?」
「正解。おそらくだけどな。後で、何か購買で買ってきてやろう」
「プリンがいいです。冷蔵庫いっぱいのプリンがいいわ」
「食べ過ぎじゃないか」
「それくらいは、おやつよ」
敵の正体はおそらくアキレウス。アキレス腱の語源ともなった英霊で、不死性を持った俊足の英霊。ギリシャでもその逸話は有数で、最強クラスである。それがシンジの英霊なのだろう。確かにアキレウスを召喚できたとあれば勝利を確信してしかるべきだろう。
むしろ、強者のみが勝ち残ったトーナメントの後編ならともかく、一回戦目でブレイカーという異端と戦っている事こそが不幸ともいえる。
だが付け入るスキはある。それがブレイカーの考えであった。しかし、難易度が高すぎるのも現実。
後、やっぱり食べ過ぎだと指摘するブレイカーに、何処がと反論するセレアルト。
「アキレウスなら、アキレス腱を攻撃すれば勝てるんじゃ?」
「二階から目薬、アキレウスにアキレス腱狙いだな」
「どういう意味?」
「アキレウスにアキレス腱を狙う戦法っていうのは、実質無理に等しい。相手は誰よりも自分の踵が弱点だと知っている。相手がそこを狙うと思っているはずだ」
伝承で散々痛い目を見ているはずだ。警戒してない筈がない。仮にブレイカーが本気で踵狙いに走れば、相手は距離を取って戦うだろう。そうなれば追いつけない。相手が近寄ってくることが勝利の前提だが、一度でも踵を狙えば、あの大英雄は、意図を読み取ってしまう。
悔しいが、今のブレイカーにそれを打破する方法はない。もし、ブレイカー以外が踵を破壊すれば別だが。
「そういえば、ベアラー。お前、さっきの戦いでやけに詳しく指示を出していたが、どうやったんだ」
「覚えてない。気を失っちゃったから」
「無意識だったのか」
「でも、ブレイカーとアキレウスの戦いなら目で追えてたよ? この前もそうだったし。マスターになると、動体視力とかもよくなるんじゃなかったの?」
そんな筈はない。ブレイカーはセレアルトが嘘をついていないことを察知し、一つ頭に案が浮かぶ。
「それは普通ではありえない。けれど、本当に追えているのなら、お前、隙があれば、アキレウスの踵を狙えるか?」
「直接は無理。けど、コードキャストなら当てられると思う。一瞬だけでも止まってくれれば」
射撃の経験は、ゲーム位でしかないが、狙えるかと聞かれれば狙える。もし銃なりでもあれば、可能だとづける。ブレイカーはそれを信じる事にした。そして、セレアルトにゆっくり休んでいろと言って、購買に向かうと言った。
セレアルトは好物のプリンの大量買いを指示したが、却下された。