「おや、もう終わりか」
ブレイカーもセレアルトもシンジ達による一方的な蹂躙に疲弊し、ボロボロになる。
セレアルトは、壁に寄りかかり、疲労困憊と言った様子。ブレイカーもアキレウスの槍によってズタボロにされ、膝をついてしまう。
「どうやら、この前のはまぐれだったか」
「だから、そう言ったろ。こいつらが僕らを倒せるはずがないんだって。こんな無能に!」
シンジが再びセレアルトを攻撃する。自動防御はまだ発動しているが、衝撃全てを殺せる訳ではない。セレアルトは、自分の唯一の味方であるブレイカーに助けを求めるように手を伸ばした。
「仕方ない。見せてやろう。俊足の英霊よ。我が宝具を」
「来るか。お前の伝承が何か知らないが、それを凌駕し、お前を殺すぞ灰色の英霊!」
「やっちまえライダー!」
シンジが自分のサーヴァントをそう呼んだ。それによりブレイカーたちの陣営は彼のクラスも知る事が出来た。勝利を確信し、気が緩んだのだろう。
だが実際勝利目前なのは間違いない。
ブレイカーたちは宝具に頼るしかない。だがそれが何であれしのぐ自信が彼らにはあったのだ。
「火神現象(フレアエフェクト)。マルスとの接続開始。軍神よ我を呪え。宙穿つは涙の息吹」
ブレイカーが右手に近未来的な赤いガントレットのような物を装備する。そこから魔力を迸らせる。アキレウスは、槍を構え、その攻撃に備える。その宝具から発せられる重圧から対軍クラスであると見抜いた。だが、自分ならその発射と同時に彼を貫ける。
だがマルスと聞き、自分の知っている軍神マルスが浮かび、緊張から顔がこわばる。
「なんてな」
突然ブレイカーの宝具から魔力が霧散する。発射されると思った魔力は、空気中に漂い、アキレウスとシンジの両名は、思考が真っ白になる。宝具を討たなければいけない場面で、あえて見せ付けるだけ見せ付けて宝具を解除する意味が解らなかった。だが、侮られたと感じ攻撃に移るまで一秒と掛からない。
apocalypse_(13)
くだらない小細工と共に死ね。そう口にしようとしたタイミング。その強張った彼のアキレス腱に白と黒の針が刺さった。全くと言っていいほど痛みを感じない針。だが、それは間違うことなく、英霊アキレウスのアキレス腱を撃ち抜いた。
その攻撃の主は、戦場で最も頼りないと思い戦力からもアキレウスが除外していた、ブレイカーのマスター。セレアルトだった。
シンジに一方的に負けていたのも演技だった。ブレイカーがアキレウスに宝具を使うふりをしたのも演技だった。宝具の魔力を霧散させたことで、アキレウスに同じ魔力を放つセレアルトの攻撃の感知すら不可能にさせた。
雲の中に紛れた一粒の雨を見つけることなどできない。全てが入念に用意され、計画されたアキレウス打倒の計画。踵を破壊されたアキレウス。だが痛みのない事で、止まることなくブレイカーに接近してしまう。
勢いを殺すことなく、だがはるかに遅い速度で迫ったアキレウスは、にやりと笑うブレイカーの射程圏内に入った。
槍を手刀で叩き落とされ、痺れる両腕をガードに回すが、ブレイカーの左アッパーで防御を崩され、強烈な右ストレートが彼の頬を捉える。クリーンヒットとしか言えない一撃によりきりもみ回転しながら、アキレウスが吹き飛ばされ、壁に激突する。吐血しながらも直ぐに立ち上がった彼は、拳を構えながら、ブレイカーに殴り掛かる。
「舐めるなぁ!!」
「別に舐めてねぇよ。ただあの速さがなければ、お前は俺より弱い!」
アキレス腱を僅かに破壊されただけだ。だが英雄アキレウスにとっては、それは致命的な一撃となる。ダメージは関係ない。踵を破壊されたという事実が、彼から不死性の正体、宝具『勇者の不凋花(アンドレアス・アマラントス)』を奪い、誰よりも早いという逸話の宝具『彗星走法(ドロメウス・コメーテース)』を奪った。
これで彼は誰でも殺せるし、最速から、かなり足の速い英霊へと格下げされた。
ブレイカーは拳を振るうアキレウスの3連撃を見切り、彼よりも速い速度で10連撃を叩き込んだ。拳を体中に叩きこまれたアキレウスは、シンジの傍まで吹っ飛び、膝をついてしまう。
「ブレイカー。やったわね」
「ナイスだベアラー。お前を頼りにしてよかったよ」
形勢は逆転した。想定外のセレアルトからの一撃がアキレウスの優位を奪ったのだ。今のアキレウスは、ブレイカーより遅い英霊でしかない。パワーも耐久力もスピードもブレイカーが上回った。その証拠が今の現状だろう。
ぼろぼろにしたブレイカーよりもズタボロになっている。このまま止めを刺せばいい。SE.RA.PHの干渉は、まだ来ない。
「ライダー! 宝具を使え!」
危機的状況化だが、シンジは意外と冷静だった。令呪を使い、動けなくなったアキレウスを強制的に動かした。アキレウスは笑いながら「応」と答え、近未来的なデザインの馬車と3匹の馬を召喚した。
ライダー(アキレウス)は、そのクラス通り馬車を駆って彗星のごとき速度でブレイカーたちに迫る。
「疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)!」
自分たちに迫る死の凶星。だがブレイカーはセレアルトを抱え、宙に飛び上がることで回避する。それを見たアキレウスはそれを追うように馬車を方向転換させる。速度自体は互角だが、ブレイカーはセレアルトを抱えている。あまり無茶な動きは出来ない。
万事休すかと思った矢先、SE.RA.PHの干渉が始まり、両者の間に壁が生成される。
「おっと」
馬車でその壁に激突しそうになったアキレウスが緊急で回避する。そして、馬車でシンジを拾いに行き、そのまま逃走を始める。その目には明確な怒り、そして自分の踵を撃ち抜くという偉業を成し遂げた最底辺のマスターに対する尊敬があった。
アキレウスたちが居なくなったタイミングで、セレアルトを地面に下ろしたブレイカーは彼女の頭を撫でた。
「ちょっと」
「本当によくやった。いやーやっとすっきりした」
いつも追いつけない速度に苛立っていたブレイカーはようやく、勝負になる状況に喜んでいた。どうやら彼なりにストレスをため込んでいたらしい。
「私、役に立った?」
「あぁ。お前は頑張った」
ブレイカーに褒められ、セレアルトは感極まったように泣き出してしまう。まだ勝利したわけではない。だが勝利に必要な一手は打った。
絶望的な戦いが、未来ある一戦へと変貌する。それを成したのは、最強の英霊であるブレイカーではなく、ただの普遍的なマスター。その功績を誇らずにどうするとブレイカーは彼女を褒めた。
二人は、アリーナで僅かばかりの勝利を喜んだ。