その後、ブレイカーたちは、アリーナに潜ることはなかった。
既に必要なものを手に入れ、シンジ達に遭遇するリスクを取るリスクを負う必要はない。相手がアキレウスだと判明した以上、その踵を撃ち抜いたことで、相手は戦車戦に切り替えた。
その事から、相手は、ライダークラス特有の宝具によるごり押しに拘ってくるはずだ。
「ギリシャでも最強の英霊の一人、それがアキレウスだ。最強であったが故に多くの伝承を残す。それが宝具となり、スキルとなり英霊としての格を高める訳だが、言いたいこと解るな?」
「同時に弱点も広まっちゃうってことだね。でもさ、それならブレイカーもかなり強い英霊なのに、弱点警戒しないでいいの? シンジもブレイカーの正体探ってくるんじゃ」
彼の理論がそのままなら、ブレイカーの真名はどうなのだとセレアルトが訪ねる。
だが、ブレイカーは不敵に笑うだけだった。それは目の前で苦虫を食い潰したようなシンジ達に聞いて見ればどうだという。
今日は一回戦最終日。いよいよ決戦の日は来たのだ。ブレイカーとセレアルトは休息を十分取って、決戦へと赴いた。先に足を踏み入れていたシンジ達は、入り口で待っていた言峰にトリガーキーを提示し、先に入っていく。
「ようこそ決戦の地へ。君の活躍は聞いている。見違えたな若きマスターよ」
「ど、どうも」
「さぁ扉は一つ。この校舎に戻ってこれるのも一組。覚悟を決めたのなら、闘技場の扉を開こう」
セレアルトはアイテムボックスからトリガーキーを二つ取り出し、それを言峰に直接手渡した。
「すまない説明が足りなかったな。それは扉にかざすだけでいい。このようにな」
言峰がトリガーキーの使い方を説明してくれた。セレアルトは少し恥ずかしそうにしてたが、言峰も話の腰を折られたような顔をして、何ともいえない表情で二人を見送る。
「ささやかながら君たちの幸福を祈ろう。再び帰ってこれるようにな」
「はい。帰ってきます!」
「そうか。ははははは。ははははは。では、行きたまえ」
セレアルトは勝つと宣言した。それを見て言峰は笑った。嫌みな笑いではなく、予想を裏切られたが故の笑いだった。
扉を潜った先は小さな空間があるのみ。そして、其処はまるでエレベーターのようで通常と違うのは、先に乗り込んだシンジとそのサーヴァントライダーのアキレウスが立っており、4人は真ん中を壁に隔てられる形で向き合うしかない。
何とも悪趣味なエレベーターで、言峰の趣味かと疑うが元々そういう趣向なのだろう。
「へぇ。来たんだなセレアルト。あれっきり姿を見せないから、もう諦めたんだと思ってたよ」
「そんな訳ないじゃない」
「ふん。この前少し活躍しただけで、随分と調子に乗ってるみたいだね。けど、あのまぐれが最後の奇跡さ。どうやったってお前は僕らには勝てないよ。そうだ良い提案があるんだ」
「提案?」
「そうだ。お前わざと僕に負けないか? どうせやっても勝てない戦い。お前が痛い思いするだけじゃないか。なら自分で負けを認めなよ。メリットは双方にあるぜ、お前は痛い思いはしない。僕は力を温存して次の戦いに赴ける。それに、僕が欲しいのは聖杯戦争の賞金じゃなくてタイトル。だから、僕が優勝したらお前に賞金を分けてやってもいいぜ?」
冗談で言っているのではない。アキレウスのアキレス腱を破壊されてもなお、最強の英霊だという事実に変わりない。ライダーとして呼ばれた英霊は、複数の宝具を持つのがデフォルト。それに彼が召喚した戦車は、まごうことなき切り札と言える。
通常のサーヴァントであれば、彼の勝利は揺るがない。それは間違いないだろう。
だが、セレアルトは不思議と相手を怖いと思わなかった。何故なら自分を救ってくれた存在は、大英雄よりも強い。少なくとも誰も自分を救ってくれなかった中で、誰も救えないという現状を吹き飛ばしてくれた存在。
誰よりも彼女にとっての英雄。彼を愚弄されて、セレアルトは、内に怒りが渦巻いていくのを感じた。これまでシンジと対するたびに、劇場のような熱が沸き上がってきた理由が今日分かった。
―――こいつは、私のサーヴァントを侮辱している。
その事実だけで。
――――こいつは殺してもいい。
「最強は私のブレイカーだわ。貴方はここで消えなさいシンジ」
「お前!?」
自分の中の怒気に身を任せてしまった。何処か自分らしくないという思いがあり、それでいながらこれが正しいと思った。
「随分と威勢のいいマスターを持ったなブレイカー?」
「お前は随分と器の小さいマスターを持ったなライダー?」
マスター達の会話を聞いていた二人のサーヴァント。いよいよ話始める。これまであらゆる面で出し抜かれたアキレウスは、ブレイカーを敵として警戒を怠ることはない。
(俺の性格を把握したうえでうまく誘導してくる。戦上手だ)
挑発にブラフ、明らかに戦いなれたそれだ。だが、向こうのマスターの性能が低いのは間違いない。稀に驚かされるが、それはすべてブレイカーという英霊の手腕込みだ。シンジと目の前の少女の戦力差は9対1と言ったくらいだ。
マスターの性能差で勝敗が付くのはいささか不本意ではあるが、この聖杯戦争のルールゆえに仕方ない。
「所でアキレウス。俺の正体はわかったのか?」
「全くだ。思い当たる節もなければ、検索にも引っ掛からん。お前は一体どこの英霊なんだ」
ブレイカーが自分の正体を知っているのかと尋ねるが返答はわかり切っていた。まぁ仮にわかっていたとしても、問題はない。
「強いて言えば、別世界の英霊だよ」
「別世界。あれか、平行世界とかいう」
「そうだ。残念だったなアキレウス」
別に情報を与える必要はない。だが、ブレイカーは彼に情報を与える。
「何故それを話す」
「気持ちよく戦いたいからな。これまでは、策を弄してお前を嵌めたが、ここからは互いに実力を相手に刻み付ける戦いだ。意外かもしれないが俺は決闘とか、果たし合いなんかは、結構好きな英霊なんだ」
事実だ。多対一も好きだが、強者との決闘は、彼として娯楽と感じている。相手の持てる全てを正面から打ち砕く。これに勝る娯楽はないだろう。
悪趣味ではあるが、生前のブレイカーにとって唯一といってもいい娯楽だったのだから。
アキレウスをコケにしたことに対して思うところがあった。
セレアルトを生かすという最終目標は、既に達している。この戦いの結果次第だができる事はやり切った。それを彼女に話したところ、後は好きにやってくれていいと許可を貰った。
「意外だな。貴様がそういう戦士の気質を持つ英雄だったとは思わなかった。それもまた嘘ではないのか?」
「いいや。我が担い手に誓おう。俺は正々堂々貴様を凌駕すると」
「気に入った! いいな、ブレイカーの英霊よ。今日この決戦をより良いものにしようではないか!?」
「あぁ。いい勝負をしよう。英雄アキレウス」
尋常な勝負で決着を二人のサーヴァントが誓う。そこで、ブレイカーはちらりと腹立たしそうにセレアルトを睨むシンジを見た。
「なんだよ」
「わかめ坊主。お前の一つだけ答えてもらいたい」
「なに、何なんだよお前」
「お前はこの戦いに命をかけられるか?」
「はぁ? 何のぼせ上ってんだよ。当然だろ。まぁ僕が死ぬことなんて万に一つもないけどね」
「いや、失礼した。間桐シンジ。ライダーのマスターよ。今日がお前の命日だ。最後の瞬間を噛みしめて生きろ」
ブレイカーは、そう言ってセレアルトの肩に手を置く。以前言っていた、シンジが子供の可能性があり、それをセレアルトが殺められるかという質問。セレアルトは仕方ないと割り切っていたつもりだが、本心は違った。だが、シンジに対する怒りと、命を懸ける覚悟あるという発言で、完全に迷いは消えた。
覚悟が決まったセレアルトは、眼鏡の奥で青い瞳を七色に変化させていた。それに気が付いたのは、シンジだけだった。
話が終わり、決戦場にたどり着いた面々。たがいに向かい合い、いよいよ決戦が始まる。
「コロシアムか。決闘にはうってつけだな」
「いくよ。ブレイカー」
「あぁ。勝つとしよう」
Sword,orDeath