Fate/make.of.install   作:ドラギオン

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蒼天囲みし小世界

 

 

 空中で上を取られたブレイカーが見上げる中、アキレウスは己の盾を掲げる。

 

「食らうがいい『蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)』!!!」 

 

 その盾は、鍛冶神が作り上げたという銀色の盾。それは、まさに一つの世界を内包した結界宝具。どんな攻撃をも一つの世界を展開することで受け止め無効化する防御の極致。

 

 さらにそれだけではない。攻勢に回れば、文字通り相手を一つの世界という大質量で押しつぶす事が出来る。これこそが本当の切り札だった。頭上から、世界そのものが落ちてくる。

 

 ブレイカーの体を容赦なく潰してしまう大質量の攻撃。これを防げる英霊などいない。アキレウスは絶対の信頼をもってそれを発動した。

 

(この英霊、本当に、勘弁しろよ)

  

 戦車の攻略で勝ったと確信したのに、まだ切り札があった。だが、アキレウスを知る者なら、その盾が宝具となっているという想像はついた。だが、その能力が解らず、下手に発動させるのも悪手だったので、ないものとして扱っていた。

 しかし、ギリシャの大英雄は、ブレイカーの想定を超えてきた。

 

「終わりだぁ!!」

 

 相手がブレイカーでなければ。

 床に着地したブレイカー。彼は、避けるでもなく自らに降り注ぐもう一つの星を迎え撃つ。世界を展開する盾。それは素晴らしい。どんな英霊であっても手も足も出ないだろう。しいて言えば、対界宝具でもなければ対処は出来ない。

 そんなものを都合よく持っている英霊はいない。

 

 だが、目の前のサーヴァントブレイカーはどうだ。彼は、過去に『世界』を滅ぼした英雄。彼に壊せぬものはなく、彼に滅ぼせない世界はない。故に、アキレウスは、ブレイカーの想像は越えた。だがブレイカーの力量を見誤ったのだ。

 全身に破壊の刻印が浮き上がり、破壊スキルが最大稼働する。目の前の小さな世界を打ち砕くために。

 

「打ち砕くぞ!! 世界!!(ベアラー、悪いな)」

 

 自分の担い手の魔力を、召喚以来初めて戦闘使用する。既にセレアルトとシンジの決着はついていた。故に、魔力を全て彼に使っても問題はない。何やら不穏な空気こそ漂っていたが、今は目の前のアキレウスに集中するしかない。

 

 頭上から落ちてくる世界。それに対してブレイカーは両足を床に叩きつけ、両腕を振るって拳を叩き込み続ける。

 

「うぉおおおおお!!!!!!!!」

 

 油断すればプチンと潰されてしまう攻撃。それに対して世界を破壊する拳を連続で叩き込むブレイカー。何発もの拳が世界に衝突する度に、『世界』にひびが入り、何層にも分けられた世界がガラスのように砕けていく。

 

「馬鹿な!?」

「うぉおおおおおおおーーーーーー!!!」

 

 無我夢中で拳を叩き込み続けたブレイカー。蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)を打ち砕き、最後の一枚を強烈なアッパーで完全に粉砕した。

 

 相性。その一言でしか言い表せない。結末。必殺であり鉄壁の宝具だった盾は、ブレイカーのアッパーを受け止めるも、粉々になり、勢いを殺せなかったアッパーは、落下するアキレウスの胸部を突き破った。

 

「が、はぁ」

 

 胸部を拳に突き破られたアキレウス。すぐに腕を抜かれたが、多量の出血と痛みにより膝をついてしまう。どう見ても致命傷であった。

 

「おまえの、しょうたい、わかった、きが、するぜ」

「その傷でまだ、さすがは大英雄だな」

 

 膝をついてはいたが、すぐに立ち上がったアキレウス。手ごたえはあった。しかし、アキレス腱を破壊され心臓を打ち砕かれてもなお、この男は倒れない。

 

 そんな彼の姿を見て、彼のマスターであるシンジが涙を流す。

 

「勝てよライダー。お前が、さいきょうの、さーヴぁんとだって、僕に証明してくれ!!」

「シンジ」

「お前が最高の英霊だって、信じてるんだぁ」

 

 シンジも満身創痍だ。だが、彼はまだ諦めていない。ここで令呪を切った。マスター同士の戦いでも敗北し、サーヴァントの戦いも明らかに不利だ。だが、彼らは彼らなりに絆を育んでいたのだろう。アキレウスの背中に預けられたのは、マスターの命だけではない。少年の夢と希望と未来だ。自分の背中を見て、カッコいいと自慢げに語っていた少年の想いを無下にして何が英雄か。何がアキレウスか。心臓を穿たれたアキレス腱が破壊された。

 だからどうしたのだ。

 大英雄アキレウス。そんな困難で、むざむざ死ねるほどあきらめのいい男ではない。

 

「あぁ。あぁ! そうだとも! 俺はアキレウス! 間桐シンジというマスターを勝利に導くと誓った大英雄アキレウスだ!!」

 

 令呪のサポートもあってか調子を取り戻したアキレウス。武器はなく、己が体のみ。だがそれで十分だ。それだけで英雄アキレウスは、大英雄なのだ。

  

「ふぅ。待たせたなブレイカー。ここからが、本番だ」

「あぁ。いいものを見せてもらった。決着をつけよう」

 

 二人は、歩きながら距離を詰める。そして、互いの拳が届く距離になると、アキレウスは拳を前に突き出した。攻撃ではない。それは決闘の礼儀。ブレイカーも空気を読んだのか、アキレウスの拳に自分の拳を合わせる。

 

「我が名はアキレウス、英雄ペレウスの一子なり」

「ギリシャ式だな。心得ている。我がクラスはブレイカー。出生は不明」

 

 心得てはいるが、真名を明かす訳にはいかない。それに誰の子かは自分でもわからない。だが、アキレウスの覚悟に自分も乗った。

 

「「いざ尋常に……勝負!!」」

 

 両者が格闘の構えを取る。アキレウスは、師であるケイローンから教わったパンクらチオン構え。一方でブレイカーは、我流の構え。両者が地面を蹴って激突する。

 

 たがいの拳を突き出し相手を襲う。両者ともに、条件は互角だった。ブレイカーも戦闘で魔力の消費が激しく強化の重ね掛けをすることが不可能。一方でアキレウスも令呪によるブーストで如何にか戦っているという有様。

 

 互いに相手の頬を捉え、のけ反るも直ぐに復帰。さらに拳を交互にぶつけ続ける。両者ともに回避をする気がないのか、一切離れずに接近戦を繰り広げる。両者ともに顔面が血まみれにりながらも、相手を打倒する隙を狙う。

 

 両者ともに限界は越えている。なのに、拳が徐々に早くなる。もはや防御などしては、相手に後れを取るだけになる。

 

 宝具の使用もなくスキルの使用もなく、己の鍛え上げた肉体と技のみで語り合う。その光景は、勝負を見守る二人のマスターに言葉を発する事すらさせない威風をもたらす。

 

 3分ほど防御なしで殴り合う二人の男達。血みどろになりながらも闘志は尽きず、みしろその目に燃え上がるようだった。

 

「そこだ」

「ぐ」

 

 ここでアキレウスの拳がブレイカーの左目を捉える。衝撃で眼球が砕け、大きく後ろに飛ばされる。此処で勝負が動いた。追撃せんとアキレウスが死力を尽くして前に進む。

 

「はぁあ!!」

 

 ブレイカーが迎撃戦と拳を振り上げるが、片目が潰されているせいで、距離を見誤った。攻撃は空振りし、隙を晒してしまう。それを見逃すアキレウスではない。

 

「がんばれライダー!!」

 

 渾身の最期の一撃をブレイカーの胸に突き出そうとしたから拳を振り上げる。

 

「受けとれぇえ!!」

「断る!?」

「ぐあぁあ」

 

 ブレイカーは振り上げた拳をすぐに下ろし、肘で振り上げようとしたアキレウスの拳を打ち砕いた。渾身の一撃がまさかの打ち砕かれたことで、アキレウスの動きが止まる。

 ブレイカーが攻撃を外したのは、フェイントだった。アキレウスを誘い込みその拳を破壊するために。

 

「勝ってブレイカー!!!」

「これで、本当に、しまいだぁ!!」

 

 拳を破壊されたアキレウスに、渾身の左ストレートが炸裂する。腰の入った一撃は、アキレウスをきりもみ回転させながら、彼の体を吹き飛ばし、地面に伏せさせる。

 

 攻撃を食らったアキレウスは、なおも立ち上がろうとするが、彼の霊核が砕けた瞬間、地面に倒れ伏す。そして、シンジの令呪が消える。

 その瞬間、ブレイカーとセレアルトという勝者とシンジとアキレウスという敗者を隔てる壁が発生する。無情にもその壁こそが、敗者の死刑台となるのだ。

 

―――――

 

「僕らが負けた。うそだ、そんなの、うそだ」

 

 現実が受け入れられず、困惑するシンジだったが、体の消去が始まり、体の至か所が消滅していく。

 

「やだ、いやだ、うそだ。なんだよこれ。こんなアウトの仕方知らないよ。僕の体が消えていく」

 

 自分の現状が受け入れられず、狼狽えるシンジ。

 

「言ったはずだ。シンジ。令呪が消えたマスターは死ぬ。これは、そういう、たたかいだって」 

 

 地面に倒れたまま、アキレウスがシンジに説明する。実際彼は何度もマスターにそう説明した。けれども、どこかでシンジはそれが冗談だと思っていた。

 

「そんなのよくある脅し文句じゃなかったのか? いや、待て。さっきの質問の意味って」

 

 シンジはエレベーターでの会話を思い出した。そう、ブレイカーの問いの意味はそういう意味だったのだ。自分が死ぬ直前になってようやく理解した。

 そこまで行ってようやく事態を理解したシンジ。ポロポロと涙を流し始める。

 

「嘘だ。僕は、まだ死にたくないよ。助けてよライダー。消えたくない。僕はまだ八歳なんだぞ。いやだよぉ」

「悪いなシンジ。お前を生かしてやりたかった。英雄として、お前にカッコいい所を見せて、地上に返してやりたかったんだがな、すまない」

 

 アキレウスは謝罪を口にした。命のやり取りだと知らずに、ただ興味本位で参加してしまったマスター。悪辣で生意気な悪ガキだったが、自分を見る目は、輝いており、本当に信頼してくれた主。その信頼を裏切りたくなくて、未来を与えてあげたくて。

 羨望を受けた身だからこそ、その眼差しに応えたかった。だが結果は惨敗。マスターは死を前にして怯え泣いてしまった。

 

「カッコ悪い所ばかり、見せちまったな。俺をいくらでも、責めていい」

 

 いくらでも彼の怒りを受け入れよう。それはマスターを守れなかったサーヴァントの背負うべき役割だから。それで少しでも恐怖が薄れるなら、本望だと。彼も消滅していく体で、そう願った。

 

「何言ってんだよ。お前、カッコよかったよ!! お前の考えも、戦いも、生き方も、僕みたいになんもなかった人間に、はもったいないくらい、最高にカッコよかったよ!」

 

 消える寸前なのに、シンジはそう言った。確かに結果は負けた。けれど、彼の示した生き様は、シンジの胸に英雄の姿として残ったのだ。

 消えそうな手で、アキレウスの手を取ったシンジはそう泣きながら告げた。

 その様に、感極まったのか、アキレウスは目頭を押さえて男泣きしてしまう。

 

「カッコよかったか。そりゃ、英雄にとっては最高の賛辞だな」

 

 アキレウスはそう言い残して消滅した。そして、残されたシンジは、壁の向こう側で静かに彼らの最期を看取るセレアルトたちに目を向ける。

 

「勝てよ、セレアルト。僕らを倒したんだ。絶対勝てよ!!」

 

 そう言い残してシンジは消滅した。間桐シンジという存在は、完全に消え去り、残されたのは勝者のみ。

 

 

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