トリガーキーを目当てにアリーナに足を踏み入れた二人。一回戦のアリーナと違い、アトランティスを思わせる海底に沈んだ都市のような風景が広がる。
「また最奥にあるのかな。トリガーキー」
「手前には置かないだろう。地道に進むしかないな。あの爺さんがアリーナに入ってるのかもわからんし、今回は警戒しながら進もうか」
敵はおそらくアーチャー。かなり広大なステージに加え、遺跡のような構造物が多く、何処にでも身を潜められる。接近戦が大好きなアーチャーもいるが、あんなものは例外である。基本狙撃に徹してくるだろう。
少し歩いていると、ハチ型のエネミー三体が現れ、こちらに針を発射してくる。ブレイカーはセレアルトの前に出ると、それらを片手でキャッチ。それを3対に投げ返すことで瞬時の破壊した。
「相変わらず、エネミー相手には無双だね」
「魔術師でも頑張れば倒せるいい塩梅の敵だからな。過去に契約したことのある元マスターなら、エネミーが10匹いようが苦労しなかったと思うぞ」
セレアルトは、ブレイカーの元マスターについて気になってしまった。
「ブレイカーって昔にも契約したことあったんだね? それは聖杯戦争で?」
「そうだ。今とは、また違った聖杯戦争に参加したことがある」
「その時のマスターってどんな人だったの?」
セレアルトからまさかの質問を受けて、ブレイカーは少しだけ思案する。
「そうだな。うーん。お前に似てたかな」
「似てる?」
「顔はな。だがマスターとしての性能は、最強だったな。年齢と経験値の問題で、未熟さはあったが、戦闘力に関しては文句なしだった」
ブレイカーほどのサーヴァントは言うからには、どれほどのマスターなのだろうと考えてしまう。そして、見た目が似ていると言っていたが、そのマスターと自分の差が、顕著過ぎて深く”嫉妬”してしまう。
どうやっても自分は彼を万全に戦わせてあげられるマスターにはなれないのだから。しかし、聞いている限りでは盛り過ぎではないかという話も出てきた。女神を打倒したとか。
会ったこともないブレイカーの元マスターの話を聞きながら、次々と現れるエネミーを打破していく。
「待ち伏せされてたのか」
「ダンさん」
セレアルトとブレイカーが順調にアリーナを進んでいくと、ひときわ大きな神殿らしき場所で、対戦相手であるダン・ブッラックモアが待ち構えていた。そして、彼の背後には赤い大弓を持った褐色肌のサーヴァントが待機している。
静かにたたずむ彼らを前にして、セレアルトが警戒する。
「そう警戒することはない。罠の類も用意はしてない」
「はい。なら安心だなって言える状況ではないだろうアーチャーのマスター」
「確かに、君たちからすればそう考えるのが当然だな。だが、事実だ。君たちを待っていたのはそう、互いに相手の情報が欲しいという状況だろう。そこで、どうかね。此処で一戦交えてみるのは」
ダンが申し込んできたのは正々堂々とした決闘。たがいに腕試しをしようと提案してきた。問答無用で攻めてくればいいのだが、彼は相手が承諾しなければ、それはそれでいいと考えているらしい。
「無論、腕に自信がないというなら、大人しく引き下がるとしよう。トリガーキーも好きに持っていくがいい」
明らかに敵として見られてはいない。だが、それでも敬意を払い、こんな提案をしているのだろう。強敵でなくとも、自分の対戦相手として、最低限の敬意を払う。それがダンの矜持なのだろう。
「騎士道精神って奴か。どうするベアラー」
「戦う」
即断即決だった。怖気づいていないセレアルトの指示を聞いて、ブレイカーが前に出る。それを見てダンのサーヴァントも前に出てくる。アーチャークラスなのに目と鼻の先に出てくるのは、何か策があるのか、それともよほど腕に自信があるのかの二択。
鬼が出るか蛇が出るか。
「あんた、武器は出さないのか?」
「出してほしかったら、出させてみたらどうだアーチャー」
その言葉を皮切りに二人が激突する。アーチャーは一歩後ろに飛びながら、弓に矢をつがえ、一射にて100本近い矢が発射された。物理的におかしい速射。それを向けられたブレイカーは、地面に手を突っ込み、床を隆起させることで矢に対する壁を作る。
だが放たれた矢は、床に命中すると爆発を起こし、瞬時に粉々に粉砕していく。残った80本近い矢がブレイカーに迫る。
ブレイカーは、強化スキルによる俊敏性の向上によって横に跳び、更に走り出す。恐ろしいまでの急加速からの接近。それを確実に目で追っていたアーチャーは、さらに二射の矢を放つ。それらは、最初の100本のよりも早く、ブレイカーの心臓と脳を狙う。
ブレイカーは両手で矢をつかみ取る。だが、どれだけの勢いで放たれたのか、矢を掴んだ瞬間腕が持って行かれそうになる。それを膂力で無理やり抑え込み、腕力で粉砕し、矢じりだけを掴んでアーチャーに投擲。
「お」
矢じりを投げ返されると思っていなかったのか、アーチャーは、それらを回避する。だが、その動きが隙となり、ブレイカーの接近を許してしまう。既に破壊の刻印を発動し、この一撃で仕留めるつもりで回し蹴りを放つ。
超高速で移動するブレイカーの速度の乗った一撃だったが、アーチャーは同じく蹴りで相殺。まさか体術で防がれると思わなかったブレイカー。追撃で大弓を持った左腕の肘討ちを腹部に食らい、後ろに弾かれるブレイカー。僅かにでも距離が出来れば、矢が発射される。
それらを地面に伏せ回避、さらに低い姿勢のまま、4足歩行で移動するブレイカーは、遺跡の柱の陰に隠れる。
「隠れても無駄だ」
次から次に矢を生み出し、それらが放たれる。それらは岩の柱に命中するだけでそれを打ち砕く。一発一発の威力が桁違いで、それらを平然と連射してくる。ミサイルをミニガンで発射されているような気分である。
だがブレイカーも負けじと折れた石柱を3本も力任せに投擲。それらをアーチャーは何事もないように矢で打ち砕く。
だが、土煙が発生し、視界が悪くなる。それを狙ってブレイカーが接近する。背後から飛び蹴りを放ったブレイカー。
「悪いな視えてるんだ」
「千里眼か」
完全な不意打ち。それすらもアーチャーは察知していたのか、予め天に向かって発射されていた100本近い矢が、飛び蹴りを放っていたブレイカーの頭上から落下。
土煙の中からたまらずに退避したブレイカー。さすがの彼も不意打ちに被せるように放たれた矢は避けきれず、5本もの矢が手足と背中に刺さっていた。
「ブレイカー!!」
「軽傷だ。全く問題ない」
いったん攻防が止み、互いにマスターの傍に移動する。
体に刺さった矢を引き抜き、まだ戦えるとセレアルトに宣言するブレイカー。
「アーチャー。問題はないか?」
「あぁ平気だ。と言いたいところだけど、まずいな。左足が動かない」
明らかに優位だったアーチャーだが、ブレイカーの蹴りを相殺したときに、左足の骨が複雑骨折していた。それでも戦闘に問題はないが、機動力が奪われているのはアーチャーとして厳しいポイントである。
「君のサーヴァントはどうやら一流のようだな」
「貴方のアーチャーこそ」
セレアルトとダンは互いに睨み合い、いつでも戦える準備はしているが、アーチャーとブレイカーの戦闘が激しく、まだ交戦はしていない。
元々油断した覚えはない。だが、改めて認識させられた。彼女のサーヴァントは強い。それも彼のアーチャーに手傷を負わせ、殺せる実力者だと。
「セレアルトだったな。君は私にとって倒さねばならない障害のようだ」
「……」
「決して、油断はするな」
ダンはどこからか狙撃銃のような武器を取り出す。それが彼の武器なのだろう。彼はそれを構え、セレアルトの方向に発砲した。