移動している最中、アリスが事情を話してくれた。2回戦の対戦相手が決まり、二人はアリーナにいつものように宝さがしに遊びに行ったという。そこで現れた敵のマスターとサーヴァントが彼女たちを襲い、さらに大量の怪物を無限に生み出し続けて、アリーナの外にまで追ってきたと言うのだ。
「とても恐ろしかったわ。あたし達を切り刻んで、家具を作るとか言っていたの。あたし(ありす)も怖くなって泣きながら逃げちゃったわ。けど、あの人たちがずっと追ってきたの」
「怖かったね。けど、もう大丈夫だから」
セレアルトは、不運な目にあった二人を慰める。どうやらアリス達の対戦対手は、悪質な殺人鬼だったようだ。そして、そのサーヴァントも同じく。
「敵の正体は?」
「青髭の旦那って呼ばれてたわ」
「目玉が飛び出しそうになってたか?」
「うん。とってもおおきい目だった」
「なら、相手はジル・ド・レェだな。あいつの宝具なら、海魔を呼び出すことは容易だ」
ブレイカーの予想通りだったようだ。敵は、第四次のキャスターだろう。あの時は正体がわからなかったが、第四次聖杯戦争でもセイバー(アルトリア)をジャンヌなどと呼んでいた男。あの男が月の聖杯戦争に参加している。
悪い事に、海魔の不意打ちを受けてありすが怪我をしてしまい、その傷口から毒のようなものが入ってしまったという。その毒は即死するほど強力でないが、どう見ても子供の体で耐えるのは不可能だ。だが誰も頼る事も出来ず、保健室に行く事も出来なくなったため、マイルームで看病するしかなかったという。
けれど、容体の悪化するありすを見て、いてもたってもいられなくなり、セレアルトやラニに助けを求めようとしていたらしい。
ちょうど、ブレイカーたちが帰ってきたタイミングで幸運だったという。
ありす達を連れて保健室に駆け込む一同だったが、アリスが恐れていたように、学校の校舎内に海魔が現れていた。それらは、保健室の前の廊下でうごめいており、さらに悪質な事に保健室の周辺には結界のようなものが張られている。
「これがあって、入れないの」
悔しそうに結界と海魔を睨み付けるアリス。本当に悔しいのだろう。ありすが不調な今、彼女単体で出来る事は少ない。
「失せろ」
ブレイカーは、要救護者を救うために、破壊の刻印を起動。破壊の魔力を纏いながら、結界を粉砕。結界が破られたことに反応した海魔達が向かってくるが、鋭いヤクザキックが一体に命中。勢いよく吹っ飛び、3体纏めて壁に激突。肉の塊となり、すぐに消滅する。
そのまま勢いよく保健室の扉を開けるブレイカー。扉の方にも結界があったが、強引に引きちぎる。扉を開けると扉の前で驚いたような表情のサクラが居た。
「ブ、ブレイカーさん。扉の結界を破壊してくれたんですね」
「あぁ。それよりこの子を頼む」
自分が抱いている具合の悪そうなありすをベッドに寝かせるブレイカー。サクラが彼女の体の外傷と毒について調べ始める。かなり危険な状態らしく、集中しながら作業に当たる彼女に誰も声をかけられない。
セレアルトたちは、保健室のソファーに座る。どうなるであれ、ありすの状態を知らない事には行動も出来ない。非常に暗い表情で落ち着かない様子のアリスを相手に励ましているセレアルト。
「絶対治るからね。今はアリスちゃんも休んでおかないとダメだよ」
「けど、あたしが、守れなかったから、あたし(ありす)が」
涙が止まらない様子のアリス。ハンカチを差し出しながら背中を撫でているセレアルト。一方で向き合うように座っているブレイカーはアリスを見ながら、苦言を零した。
「マスターを守れず悔しいのはわかるが、しっかりしろ。あのマスターを守れるのは結局のところお前だけだ」
「マスターって」
「気が付いてなかったのか。寝込んでる方がマスターで、こっちがサーヴァントだ」
ブレイカーがそういうと、セレアルトは目を大きく開いて驚いている。
「え!? ありすちゃんたちって双子のマスターとかじゃないの?」
「違うだろうな。マスターが二人ならサーヴァントも二人が月の聖杯戦争だろ? なのに、こいつは、サーヴァントを出さない。さっきみたいな状況でもサーヴァントを出せば、どうにでもなった。ということは、答えは一つだ」
マスターであるありすとサーヴァントであるアリス。この二人は、同じ姿をしている主従なのだ。どういう種か不明だが、ブレイカーはそう確信している。そして、彼の言葉を聞いたアリスの反応からして、間違いではないらしい。
どう見ても子供な上、戦闘力もあまり高くはなさそうな所から芸術家系統のキャスターのサーヴァントではないかと睨んでいる。
「マスターが毒に侵されてるせいで、碌に魔力供給されてないんだ。だから戦えなかったんだろ?」
「そうよ」
「俺の担い手の命令がある。今は俺はお前達の味方だ。荒事が必要なら、俺が代わりに承ろう」
彼女たちは運がいい。この月の聖杯戦争に参加し、偶然できた縁であるが、それが彼女たちの命を救う手立てとなる。後に命を取り合う事になろうとも、今は協力は惜しまない。ランサーに襲われた際に、微力ながらも手助けしてもらった恩を忘れはしない。
ブレイカーの言葉を聞いて、アリスは静かに頷いたのだった。