騒ぎを聞きつけて、ブレイカーとセレアルトは、騒ぎの中心である教会方面に向かって走った。
教会と言えばラニたちが居る確率の高い場所であり、彼らが巻き込まれているのなら手助けせねばならない。
「えー、そんなに怒んなくてもいいじゃん」
全体的に紫を基調に、ヒョウ柄の靴を履いたハンサムな青年は、足元に転がる無残に切り裂かれた女生徒の遺体の手を掴みながら、目の前にいるピエロのような姿をした長身の人物と対峙していた。
「あんた、人間が食べたい食べたいって言ったから、こうして用意してご馳走してあげたのに」
「チガウチガウチガウゥウ!!! ソンナノ、オイシクナイィ! ランルー君、ソンナノ、タベラレナイ」
「まぁ人間の肉なんてあんま美味しくないよね。俺も食ったことあるけど、普通にハンバーグとかの方が上手いし。ていうか、面白そうだから近づいたけど、あんたつまらないな」
「ランルー君モ、オマエ、嫌イ。イラナイ、イラナイ。ステル。モウステルゥ」
「同じ人殺し同士、仲良くしようと思ったんだけどな。もういいよ旦那。こいつは、オレらと違って、口だけみたいだし」
ピエロの格好をしたランルー君は、目の前の男に明らかに敵意を持っている。そして彼女の背後にいるのは血塗れの黒い鎧を着た騎士。彼は血まみれの槍を持っており、それを掲げながら、非常に不機嫌そうに目の前の軽薄な男を睨み付けている。
「我妻に対して戯言を述べるな下郎。妻を侮辱したその締りの悪い口を、我が槍で引き裂いてやろう」
「お、やる気じゃん。青髭の旦那、俺らもCOOLな所見せちゃおうか」
「ふふふふ。神の御前での狼藉。それを恐れないあなたの信仰。素晴らしい。最高のCOOLを見せつけてやりましょう龍之介」
そう宣言した彼の背後に現れたのは、長身で猫背に、飛び出しそうなほど大きな目を持った男性のサーヴァント。ブレイカーは予想通りの展開に笑いそうになった。間違いなく第四次聖杯戦争にいたキャスターだ。
キャスターは、手に持った人の皮で作られた本を開くと、教会の周辺に無数の海魔が召喚される。そして、青年の足元に転がっていた女生徒の遺体を食い荒らし、更に数を増やした。
「どうせ最後は全部ぐちゃぐちゃの内臓と肉の塊になるんだ。遅いか速いかだよね」
「下がっていなさい龍之介」
「ランサー。コンナオ肉イラナイ」
「妻よ。其方の食事にはならん腐った肉だが、どれ、地に這う虫共の餌には相応しかろう」
両者とも殺意しか抱いていない。どちらも狂人同士のペアだろう。どちらも等しく狂っている。その方向性が違い、相容れぬとして地上から淘汰しようとしている。これは運がいい。どちらも話の通じなそうな連中なので殺し合ってもらえるなら、放置するのも手だろう。
ブレイカーがずるがしこい事を考えていると、なんとセレアルトが飛び出した。
真っすぐにピエロの女性の方向に。
「何奴」
血染めのランサーが反応し、セレアルトを突き刺そうとするが、セレアルトは、ピエロの女性に手を伸ばした。
「お姉さん! 手を掴んで!」
「エ」
まさに無理やりの特攻。ランサーは必至な姿のセレアルトの様子を観察してしまう。だが、ランルー君だけは、セレアルトの言葉に従って彼女の手を取る。手を繋いだ瞬間、セレアルトとランルー君の足元から地面を突き破って海魔が現れる。
その牙と触手が二人を襲うが、セレアルトの自動防御の術式が二人を守る。互いに抱き合う形となったことで、自動防御にすっぽりと収まったのだ。
「妻から、離れろ!」
「なんでそのピエロ助けたんだよ! よりによってそっちを」
すぐさまランサーとブレイカーが、二人に分霊にも襲い掛かった海魔を蹴散らし、周囲の安全を確保する。だがブレイカーだけは、セレアルトの奇行に突っ込みを入れてしまう。
キャスター陣営は確かに狂人だろう。だが話は通じそうである。だが、ピエロの陣営はどう考えても意思の疎通は無理だろう。なのに、命懸けでそれを救った担い手の考えが読めない。
「お姉さん、無事でよかった。お姉さんが怪我するんじゃないかと思ってうわぷ」
「イイコ。可愛イ。オイシソウ。タベタイタベタイ、今スグニ、ハンバーグ? ステーキ? ナンデモ、ランルー君ヨダレガ止マラナイ。齧ッチャイソウ」
愛おしそうにセレアルトを抱きしめるランルー君。だが目は狂気に染まっているし言動は狂ってる。
「離れろベアラー! 食われるぞ。そいつ食う気だぞたぶんマジで」
「何言ってるのブレイカー。ありがとうって言ってるんだよ」
セレアルトと会話が成立しなくなってきてブレイカーが空を見上げた。ちょうど教会の十字架が目に入り、髪にこの魂に救いをと祈りそうになる。どう解釈したら、今のが礼になるのかと問い詰めたかった。
「貴様! その顔!!! 見覚えがある。何者だお前は!?」
「だ、旦那?」
突然キャスターがブレイカーを指さして怒鳴り始める。相方の変貌にマスターである龍之介も困惑気味である。
一方で知っている顔の質問に淡々と答えるブレイカー。
「昔、お前の顔面を殴った男だ。身に覚えがないか?」
「知らない。だが、知っている。忌々しいこの匹夫めが!?」
おかしな感覚を覚えるキャスターが海魔にブレイカーたちに襲い掛かるよう命ずる。今までは本能で暴れていた海魔達が一斉に襲い掛かってくる。ブレイカーとランサーは、言葉はなくともやるべきことは同じと主を守るために海魔の波に対する防波堤となるよう立ち塞がる。
そんなタイミングで、空から無数の矢が飛来。海魔達の肉を切り裂き、矢に籠った魔力が爆発となって彼らを塵芥に変える。海魔だけを狙い、一掃してしまった矢の雨。
(お、まさかこいつも来たのか)
「アーチャー。教会を汚す物の怪を排除しろ」
「了解。ダンの旦那」
よく教会を利用する人物としてラニともう一人、ブレイカーたちの対戦相手であるダンが居たのだ。彼の命令に従い、赤い大弓のアーチャーが現れ、弓を構える。その狙いは、海魔を操るキャスターの眉間。
「おのれ、おのれおのれ」
放たれた矢は、まっすぐにキャスターを貫こうとしたが、キャスターも愚かではない。すぐに海魔を盾にして矢を防ぐ。だが形勢は不利だと察したようだ。
血濡れのランサー、ブレイカー、赤い大弓のアーチャーに狙われて、海魔の守りがあるとはいえキャスターが生きていられるはずがない。
「青髭の旦那。こりゃちょっと形勢が不利っぽい。アリーナにでも籠ってようよ。放っておいたら、全部この校舎事、飲み込めるんだしさ。それに玩具なら、こいつらに誘拐させたらいいわけだし」
「ぐぬぬ。そうですね龍之介。この者たちの相手をする必要はない。既に我々は、この聖杯戦争に勝っているのだから」
「待て」
キャスターが消えようとしたのを察して、アーチャーが矢を放ち、ランサーが槍を投擲したが地面から血の滝が溢れあがり、キャスターとマスターの姿が消える。キャスターが消えたことで、周囲にうごめく海魔は統制を失ったが、消える事はない。校舎を少しづつ齧り、数を増やそうとしている。
残ったのは、3人のマスターと3人のサーヴァントのみ。
「お姉さんくすぐったいから、もう止めてください」
「クスクス」
セレアルトとランルー君はじゃれ合っている。なら話を切り出すのは、ブレイカーの役目。
「一先ず、停戦の申し出と、協力の要請がしたい。保健室までご同行願いたい」
彼の対案に、血濡れのランサーと大弓のアーチャー、そしてダンは静かに頷いた。
龍之介vsランルー君でした。