キャスター討伐が明日に決まり、お腹が鳴ったためセレアルトが食堂にブレイカーを引き連れて向かっていると、岸波白野も同じくお腹が空いたので食堂に一緒に行こうと言い、二人で仲良く食堂へ足を運んだ。
「岸波さん、よくそんなの食べられるね」
セレアルトは岸波が慣れた様子で注文した、近くによるだけで目が居たくなるような赤々とした激辛麻婆豆腐を見て、おそれ慄いている。その見るからに体に悪そうな食べ物を涼しい顔をして口に運び続ける岸波。それが理解できないと言わんばかりの表情のセレアルト。
「いや、そっちもそっちでそれはどうなの?」
一方激辛麻婆豆腐を口に運ぶ岸波の前に並んだバケツプリンを美味しそうに平らげるセレアルト。その見ているだけで胸焼けしそうな砂糖の暴力を平らげるセレアルト。
そんな二人は相手の食べ物を互いに怪訝な表情で見ている。それを隣の席で見ているブレイカーは、ブラックコーヒーを飲みながら、静かに思った。
(どっちもどっちだろ)っと。
「プリンは体に悪くないから大丈夫なのよ」
「量によると思うけど? それは絶対ダメだよ」
「その麻婆豆腐は、少量でも絶対ダメだって。舌が死んじゃうよ」
「そのプリンだって味覚が砂糖に埋め尽くされるってば」
二人の小さないざこいは食べ終わるまで続いてしまった。
互いに食堂で食事を終えたことで、マイルーム戻った岸波。一方でブレイカーはセレアルトをマイルームまで送ると、図書室に足を運んでいた。今の所、対戦相手のアーチャーについて調べる気はない。今回協力を申し出てくれたわけであるし、それを背中から撃つ真似はしたくない。けれど、気になることがあったのだ。
図書室に足を運び入れると、静寂なはずの図書室は、荒れ果てていた。その原因は何と言うか、当然のように校舎で自然発生するようになった海魔が触手で暴れまわっていたからだ。
そして、そんな海魔に今にも襲われそうになっているのは青髪の少年。彼は、心底忌々しそうに海魔を睨むが、それを排除する力を持っていないらしい。
「助けいるか?」
「見てわからないか、たわけめ」
どうやら本当にピンチらしいので、手刀で海魔を立てに真っ二つに切り裂く。体液が手についてしまったためそれを振り払いながら青髪の少年を助ける。
「お前、その実力でよく一回戦生き残ったな」
「俺が戦ったわけではないからな。相手のマスター共が篭絡された末に勝手に死んだだけだ」
戦闘能力皆無の英霊。それを連れて一回戦勝ち抜くとは、とんでもないと評価するブレイカー。
「二回戦もその調子で上がれそうか?」
ブレイカーは、図書室に散らばった本を拾い上げながら、青髭の本を見つけ出す。
「無理だな。今回の相手は、あの牛女の手練手管でもどうにもならん。……何故その本を読んでいる?」
「今校舎中に発生してる蛸を召喚してるのは、こいつなんだよ。キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェ」
「なるほど。だから青髭か」
「俺は過去にこいつと戦った経験がある。けれど、昔と違って何か宝具が増えたりしてても厄介だと思ってな。こうして情報収集してるんだ」
青髭の資料を見つつ、元帥ジル・ド・レェについても本を読みこむ。
「へぇ。ジャンヌダルクが死んでから、少年たちを拉致し、淫らな行いや殺戮や拷問を楽しんでいた狂った英雄か。お前、狙われてるんじゃね?」
「背筋がぞっとするからやめろ」
資料の剪定は何故か青髪の少年が行って、ブレイカーに渡していた。二人で図書室を整理しながら、キャスターの情報を集めていく。
有益な情報はなかったが、青髪の少年は、自分が青髭の性的趣向の対象となった事で身の危機を感じているらしい。くだらない会話を終え、ある程度資料も読み終えた後、ブレイカーは図書室を後にする。
「じゃあな。残りの期間、悔いのないように生きてくれ」
「……そうだな。……よく考えたら、お前の名前を聞いていなかったな。冥途の土産に教えろ」
「ブレイカーだ」
「? クラス名か。つくづく主に忠実なサーヴァントだな。俺は、アンデルセンだ。真名を隠せとは言われていない」
「そうか、元気でな。アンデルセン」
図書室の少年と会話したのはそれで最期だった。
マイルームに戻ったブレイカーは、簡易ベッドの上で静かに寝息を立てて寝ているセレアルトを確認して、自分も教室に配置されたタクシーの座席を倒して眠りにつく。
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夜は明け、気持ちのいい朝を迎える。
「ふぁあああ。おはようブレイカー」
「おはようベアラー。今日はどうする? 約束の時間まで時間はたっぷりある。何かしたい事でもあるか?」
今日の夜に作戦を実行するため、隙間時間が大きく出来ている。
「ありすちゃんが心配なのと、ラニも休んでもらわないといけないから、交代しに行こうかな」
「そうだな。ホムンクルスといえ、休息は必要だろう。早いところ代わってやろう」
階段を下りながら、保健室に向かう二人。セレアルトは、緊張は全くしておらず、何処か楽しげではある。しかし、ブレイカーの事を見上げながら歩いていたために、曲がり角から歩いてきた人物に気が付かなかった。
「おっと」
「え、あ、すいません!」
誰かにぶつかったので、咄嗟に謝罪をするセレアルト。相手の顔を見る事もなく反射的に頭を下げてしまう。その際、眼鏡が廊下に落ちてしまう。その様子を見ていた人物は「顔を上げてください。こちらも不注意でした」と大人な対応をしてくれた。
セレアルトは、本当に申し訳ないと顔を上げ、改めて謝罪を口にしようとした。
「っ!? なんて美しい」
「いえ、私が前見て歩いてえええええ」
顔を上げ、相手の顔を見た瞬間。セレアルトは頬に手を当てられ、片腕を取られて校舎の壁に優しく押し付けられた。まさかのホールドに理解が及ばないセレアルト。だが彼女の目に映るのは、赤い高級そうな制服を纏う、金髪に緑の瞳をした美女と見間違うほどの美貌を持った少年の顔。何処か優雅でありながら、少し頬を赤らめているのが蠱惑的だ。
そして、彼は彼女の頬に当てた手を、滑らかに移動し顎を軽く持ち上げる。
そのまま口付けされ組み伏せられるのかと思った瞬間、咄嗟にセレアルトが自由な左手で彼の顔を押しのける。
「//////なにするんですか!?」
口付けを拒まれた少年は、少しポカンとした表情をしていたが、すぐに太陽のような笑みを浮かべる。
「これは失礼。僕としたことが名乗りを忘れていました。この初めての感情にどうやら逆上せてしまったようです。改めまして僕は、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。レオと呼んでください。麗しのレディ」
「あ、はい。ご丁寧にどうも。……セレアルトです」
今も壁ドン状態だが、挨拶されたら返す良い子セレアルト。彼女の名前を聞いたレオは、ぶつぶつと何かをつぶやいている。
「セレアルト・ハーウェイ。いい響きです。あ、失礼。物思いに耽っていました。お互いに自己紹介も済んだ事ですので、では」
「ちょちょちょちょちょ!! ブレイカーヘルプ!!?」
名乗りを終え、もう阻むものはないと言わんばかりにセレアルトとキスをしようとするレオ。その優し気な風貌からは考えられない肉食性。名に恥じぬ百獣の王がそこにいた。相手が初対面だろうが、惚れた女はその場で手籠めにする。
そんな勢いがあった。必死に抵抗するセレアルトだが、意外とがっしりした体格をしている彼を押しのけられない。
流石に泣きそうになっている為、ブレイカーがレオの襟首をつかんで放り投げた。サーヴァントの膂力に勝てるはずもなく、引きはがされたレオは空中を舞うが、彼の傍に控えていた金髪碧眼で白銀の騎士鎧を纏ったサーヴァントが受け止める。
「ブレイカーぁああ、こわかったーー! うわぁああん」
「よしよし。あの若獅子は、もう近寄れないからな。後でプリン勝ってやるから、落ち着けよ。おいクソガキ! 人様の担い手になんて狼藉働いてくれるんだ。怯えて泣いちまったぞ」
ブレイカーは保護者モードでセレアルトを宥めながら、レオを睨む。騎士に受け止められたレオはケロッとしており、自分の服についたほこりを払っている。
「ボク好みの女性だったので、つい組み伏せてしまいました」
「いけしゃあしゃあと言いやがる」
自分のマスターの行動に、さすがにサーヴァントはドン引きしているのか、彼を止めながら「レオ、さすがに今のはあんまりかと」と忠告している。
これが月の聖杯戦争最有力優勝候補、レオとそのサーヴァントとの初邂逅だった。
レオ忘れていたわけじゃないです。ただ書いてると暴走するんですよね。