聖杯戦争を終え3年の月日がたった時。アルカ達は、ロンドンにいるウェイバーに合うために旅行の用意をしていた。
一年に何度か戻ってくるウェイバーだったが、今年は忙しいらしく綾香達が会いに行く事になっていた。
「おねえちゃん、用意終わった?」
「行きたくない」
『愛歌……昨日は行くって言ってたよ』
「時計塔嫌い」
トランクに荷物を積めている綾香とアンだったが、肝心のアルカ(愛歌)が当日になって行きたくないと言い始めた。
ウェイバーに会いに行くとご機嫌だったが、イギリスはアルカを幽閉した場所があるのだ。憂鬱になりながら、アルカは首を振る。
「やめておく?」
「……行く」
【大丈夫。私が絶対守るから】
この当時のアルカは、まだ戦闘に慣れていなかった。聖杯戦争を生き残った彼女は、沙条愛歌を内包したことで、一般家庭の子供として育てられた。魔術から切り離された生活は、悪くはなかった。
ただ、元々のアルカの性格や容姿から、転入した小学校では馴染めず不登校になりかけた。ただ、同じ学校の遠阪凛がアルカを魔術師のライバルとして放っておかなかった事が、救いでもあった。何かと凛が構ってくれた事がアルカを支え、凛の思惑と外れて彼女になつく切っ掛けとなった。
「おねえちゃん達。車が来ちゃった」
「行く」
『それに時計塔には行かないよ。アーチボルトのお屋敷に招待だからね』
新たに出来た妹と友人であり姉のようなアンに導かれ、マッケンジー宅に迎えに来たブレイカーの乗るタクシーに荷物を載せて貰う。ブレイカーは、現世で独り暮らしを初め、近所には住んでいるが同居はしていなかった。
「マスター。俺がついていかないで平気か?」
「ん。ブレイカーも魔力は大丈夫?」
アルカが冬木から離れると言うことは、ブレイカーへの魔力供給が滞ると言うこと。パスを繋いでいても大陸を跨ぐ距離は無理なのだ。
「俺は受肉している。本来魔力供給すら不要だ。安心して楽しんでこい」
「ん」
「アルゴさん、これもお願いします」
綾香が自分達の荷物を手渡すと、ブレイカーが軽々と車に積んでいく。
「アルゴでいいよ。綾香ちゃんも旅行楽しみか?」
「うん。外国って行ったこと無かったから、楽しみです」
マスターの新たな家族にブレイカーも、嫌悪はなく比較的好意的に接していた。
「アン、マスターを頼んだぞ。お前が頼りだ」
『はい』
一年の間にアルカとウェイバーとケイネスによって言語機能を回復してもらったアンは、自分の口から言葉をはっせる。
子供達が車に乗り込むとマッケンジー夫妻がブレイカーに空港と搭乗までを頼み、子供達に手を振って見送る。
そして、子供達が手を振り替えした姿を見たブレイカーは、車を空港まで走らせて、パスポートや手続きを済ませる。そして飛行機に乗り込んだ3人の姿を確認後、無事飛び立った飛行機を車に凭れながら眺めていた。
ーーーーーーー
そして、飛行機に乗った三人は、長旅をはしゃぎもしたが比較的おとなしく過ごし、イギリスの空港にたどり着いた。そして、迎えに来ていたウェイバーが手を振る。
「おーい、お前ら」
「ウェイバーさんだ。て、おねえちゃん早い」
「ウェイバー!!」
綾香がウェイバーに気がついた瞬間、アルカがトランクを置いたまま、ウェイバーに全力疾走。綾香が知っている中で一番行動的な彼女に驚く。それは突然勢いのあるタックルを食らったウェイバーも同じだった。腹部に頭突きを食らったウェイバーの体がくの字に曲がり、ひざから崩れ落ちそうになる。
「お、まえ」
「ウェイバー、ウェイバー、ウェイバー!」
小さな体でウェイバーベルベットを抱き締めながら、彼との再会を喜ぶアルカ。半年振りに合った彼に興奮気味の少女をウェイバーは仕方ない奴だなと受け入れた。そして、アルカの荷物も持ったアンと綾香が送れて追いつき、ウェイバーは彼女たちも歓迎する。
だが、終始あるかはウェイバーから離れたがらず、結局車までぴったりだった。そして迎に遣わされたのは、アーチボルト家のリムジンだった。
「これにのっていいの?」
「あぁ。ケイネス先生が要請してくれたんだ。というか、来てる」
綾香が高級車に驚いていたが、リムジンの窓が開き、ケイネスが顔を出す。かれの表情は穏やかだが、ウェイバーにきつい目線を向ける。
「ウェイバー君。君は私のあとを継ぐのだよ? その人間が徒歩で客人を迎えに行くなど、いささか軽率じゃないのかね?」
「ほら、これだ」
「やぁ、アルカ君にアン君、そして其方のお嬢さんは……」
「あ、は、はじめまして。さ、沙条綾香です。お、おまねきい、いただい、て、ありがとう、ございます」
ケイネスに対して、綾香は拙い英語で挨拶をする。英語の教師をしているマッケンジーさんから教わっているものの、拙い発音しかできない。
「これはこれは、話は聞いているよ。歓迎するよミス綾香。イギリスは良い場所だからね、満喫してくれたまえ」
『歓迎してくれてるよ。イギリス旅行を楽しんでっていってるよ』
綾香はケイネスの言葉が聞き取れないため、アンに翻訳してもらってから頭を下げた。そして、ケイネスに促されるように車に乗車した子供たち。アルカは相変わらずウェイバーから離れようとしない。だが、ケイネスと向き合う彼女は、ソラウがいないことに気がつく。
「……先生、ソラウさんは?」
「妻は、今は療養中でね」
「…病気?」
「いいや」
何かわからないアルカだったが、ウェイバーが耳打ちしたことでアルカはようやく意味を察する。そして「おめでとうございます」と告げる。
「ありがとう。君たちのおかげと言うのが大きいね。書類上とはいえ、君の弟になるね」
「あれ、もうわかっていたんですか?」
「あぁ。妻であるソラウには感謝し続けているよ。産まれてから、よければ遊びに来て上げてほしい」
純粋に養子であるアルカに、自分の息子を可愛がってあげてほしいというケイネス。過去の確執でケイネスが苦手なアルカだが、その提案は素直に承諾していた。
「ん。赤ちゃん、見にくる」
「そうしてくれると妻も喜ぶ」
「すごいね。日本とぜんぜん違う」
『ほんとう。きれいな町』
ケイネスとアルカが話している間、綾香とアンは倫敦の町並みを車窓から眺めていた。そして、丁寧な運転でアーチボルト家に向かうリムジンを眺めている二人の小さな人影があった。その人影は、写真を眺めながら互いに会話していた。
「姉様、さっきの車に乗っていたのは、エルメロイの姫かな?」
「どうでしょうね。ちょっと距離が離れていたから、わからないわ」
「でも、アーチボルト家の人間だから、殺していいんだよね?」
「いいわ。今やエルメロイ派は邪魔だもの。封印指定が居なくなったら、私たちの価値がなくなっちゃうもの」
「そうだよね」
そう言いながら、建物の屋上からリムジンを眺めるのは、二人組みの10歳前後の少女達だった。彼女達は、左右対称の赤毛を見つ編みにし、灰色のローブに身を包みながら、体のサイズに合わないサイズのハンマーと矛を持っていた。そして、囚人のような衣服を纏い首には、頑丈そうな鉄の首輪。そんな姿で目立たないのは、彼女達が纏うローブに秘密があった。
「じゃ、やっちゃおう」
「そうね。やっちゃおう」
二人の少女は、走り去る車の行き先をあらかじめ知っているため、後を追うように移動を始めた。