暗闇の中ふと、一つの光景が浮ぶ。私の前に居るのは、2人のお姉ちゃん。片方は子供の愛歌のお姉ちゃんの顔をしている。もう一人はアルカ(愛歌)お姉ちゃんだ。
2人は、互いを憎み合う様に、激しい魔術の応酬を繰り広げていた。だが、明らかにアルカお姉ちゃんの方が劣勢であり、次の瞬間、彼女は腹部を黒い刃で貫かれる。
そして吐血しながら、地面を這う姉は、その姿が少しづつ粒子へと変わっていく。そして、私の方向に手を伸ばすお姉ちゃん。
――――――綾香、あなたは、生きて。
そう言ってこの世から消滅する姉。私は駆け寄ろうとしたが体がそもそも存在しない。そして何よりこれは、現実ではないのだ。何処か頭の隅で、これは起こりうる可能性だと理解できている。だが、もしこれが未来なら、私は如何すればいいのだろう。
――――――
「よぉ目が覚めたかい?」
「ん、間桐君?」
明るい光で目を覚まし、声のする方向を見れば間桐慎二が、こっちを眺めていた。だが妙に視界がぼやけるため、眼鏡を掛けていない事が分かる。さらに両手両足が拘束されているため、自由が聞かない。
「お前って地味だけど、眼鏡なかったら結構見れるじゃん」
「私を攫って、どういうつもりなの?」
「おっとそうだったね。本来はお前を殺す予定だったんだけど、アルト様が姉の方の心を折れって言っててさ。それに僕がいくら優秀でも、お前達全員の相手は難しい。なので、手を考えたのさ」
慎二は、本を読みながら綾香に説明する。彼の背後にはライダーも控えており、綾香が抵抗しても逃げる事は出来ない。それに先程から魔力が全く感じられない。
「お前には抵抗されても面倒だし、令呪を使われるのも癪だから、魔力を強制的に吸収させてもらってるよ」
「そんな」
「人質だからね、命を奪う程吸い取らないが、それでもライダーの強化には一役買って貰うよ。それに後少しで来る筈だからね」
「貴方の、貴方の言うアルトって人は、どうして私を殺したいの? 私はあった事も無い筈なのに」
前回に続いて慎二が自分を狙う理由にするアルトについて、質問する。慎二としては質問が鬱陶しいので口を塞ぐか考えるが、どうせ死ぬんだし良いかと考えを変える。
「沙条愛歌の心を折るために、お前を殺すのが一番理想的だって言ってたよ。あいつがお前を心底大事にしてるのは知ってるからね、すかした顔が、後でどんな顔するのか僕も楽しみさ」
「そんな、どうして」
「はは、お前には同情するよ。お前の死は、お前を殺すことが目的じゃないんだからな」
「そうじゃない! どうしてお姉ちゃんを……」
綾香の質問に慎二も少しだけ考える。そういえば、あの二人は何処か似た雰囲気だと思った。
「理由は詳しく知らないさ。ただ、僕はあの人の願いを叶えるだけさ」
「……」
「後一時間程でお前の命も終わりだからね。遺言で持考えて居たらどうかな」
慎二はそう言い残して、綾香を暗い部屋に一人放置した。ライダーも彼に続いて外出したため、綾香は何処かもわからない小部屋で身動きも取れないまま、時間が過ぎるのを待つしかなかった。ただ、この部屋にいる間は、徐々に魔力が奪われて意識が薄れて行く。
そもそもこの場所が何処か全くわからない。地面に転がされているが、地面の感触が土でもコンクリートでもなく、ゴムっぽいのだ。
[なんだろう此処。お姉ちゃん達、大丈夫かな]
暗い光のない部屋で、時間の経過もよくわからない。徐々に心細くなっていく。暗い部屋なので綾香は理解していないが、彼女の魔力が吸い取られる度に身体が妖精化を始めていると言うことに。
ーーーーーーーー
一方、綾香を監禁したライダー達は、愛歌(アルカ)達を呼び出した場所に待機していた。其処は慎二が沙条陣営の相手をするために事前用意した森林の工房だ。罠をふんだんに仕込み、アルトからの助言を受けて作成した結界。サーヴァント3機相手と不利だが、こちらは人質がいる。奴らも愛歌の居場所が分からない限り、迂闊に宝具は使えず、嬲られるだけだ。
「慎二、来たようだ」
「そうか。いよいよ決着を着けようじゃないか」
「そうだな」
結界に侵入者の反応があり、慎二とライダーは二人とも今から始まる戦いに意識を向けた。
――――――
一方、呼び出しに応じ戦闘態勢を整えてきたアルカ達。魔術師の工房に足を踏み入れる危険性は熟知しているが綾香を救うために飛び込まねばならない。
そして、結界に侵入した一考だが、一人だけが不調を訴える。
「この結界、使用されてる魔術が多すぎる上に、光が乱反射して、魔眼だと何も見えない」
「相手も結構考えてるな。読みとれるお前の弱点を突いて来たのか」
「――と言う事は、正面突破意外にない訳だ」
透明の剣を構え森に入るセイバー。彼が足を踏み入れた瞬間、強力な結界が発動する。しかし、対魔力Bの彼には無力で障害にはなりえない。ブレイカーも内部にある魔力弾が発射される罠を素手で弾いて無力化する。問題はアルカだった。結界のせいで霊体化出来ず、魔眼を封じられた事で持ち味を殺される。
とはいえ、彼女が傷を追う事はない。次から次に発動するブービートラップに対して、身体を水銀の膜に変えたアンが完全防御しているからだ。その防御力は通常の月霊髄液を凌駕する。次々に発射される魔力弾に対して、前衛の二人が数を減らし、アンが完全防御によって完封する。
『結構奥まで進んでるけど、気は抜かないで』
「ん。ライダーのマントは厄介……。アン、自動索敵」
アルカの指示で人型に戻ったアンは、掌を地面において水銀の触手を蜘蛛の巣城に展開していく。目を瞑りながら、周囲の音や温度を感知して脳内地図を構築していく。それを念話でアルカに直接伝えれば、魔眼がなくても工房の攻略は進むのだ。広さとしては体育館10個にも及ぶ結界だが、ほとんどが相手の意思気をそぐ事に特化しているらしい。
「性格の悪い結界だな」
「ん。けど、サーヴァント相手には理想的。それに足止めと攪乱、綾香の場所の探知まで妨害してくる。間桐慎二は、やはり強敵」
実は間桐慎二を過小評価する凛と違い、アルカは彼を評価していた人間の一人である。魔術は使えなくとも、才能と言う面では学校内でも有数なのだ。彼の告白を断った事はあるが、それは彼を嫌ってではなかった。彼女にはウェイバーが居り、彼を選ぶ事は出来なかった。好みが年上だっただけなのだ。どちらかと言えばアルカは、彼の性格も人間らしいと感じ、嫌悪を感じはしない。ただ許せなかったのは、彼が綾香を馬鹿にしたと言うことだけである。
むしろ、そこだけが慎二の欠点だと思い込んでいる。故に、彼が本気を出した結果が非常に有用でも驚きはしない。逆に彼が魔術師であれば、実に恐ろしいとすら感じていた。周囲に警戒しながら進んでいるとセイバーが突然大声をあげた。
「来る!」
彼の直感が危険を察知した、そして、次の瞬間ブレイカーとセイバーに光の流星となったライダーが宝具で突撃してきた。ブレイカー達は、自分達に向かってくる天馬に乗ったライダーを回避する。だが、執拗に何度も往復しては彼等を狙う。
「どうやら僕等を愛歌から離したいらしい」
「みたいだな。今度はマスターを狙うつもりか?」
2人は固まらないように別れながら、問答無用で突っ込んでくる天馬を交わしつつ、マスター達の位置にも目を配る。だが、天馬に乗馬しているライダーは自分達を仕留める気はなさそうだ。ならば、マスター同士が争う事が望みかと勘繰る。
ブレイカーが手元にあった大木を持ち上げ、放り投げようかと考える。だが、下手に投げて綾香の監禁場所に命中すれば、大問題だ。
「セイバー、綾香の位置は探れないのか?」
「さっきから、やっているんだが……遠ざかったり近寄ったり、何処に居るのかわからない」
「……」
セイバーがすまないと謝るが、ブレイカーは何処となく綾香の位置がつかめた気がする。考えたくはないが、何度も近寄っては離れて行く物体と対峙しているのだ。ブレイカーはマスターに念話で、綾香の位置を伝えた。その連絡を受けた彼女はその可能性があると肯定する。
そして、彼女達も今、佳境を迎えていると告げる。
―――
ブレイカー達がライダー相手に苦戦している時、アルカとアンは、結界内を探索している最中に落とし穴のような場所を発見する。其処に慎二がいる事を索敵で知っていた彼女達は、あえて飛び込んだ。そして、3m程の深さの空間に辿り着いた時、こちらを待ちうける間桐慎二が居た。その空間は広めのトンネルのような場所で、電気がとおっており街灯で彼等の姿を映す。
アルカは念話に返答しながら、魔眼ではなく通常の視界で慎二を睨む。
「どうしたんだ沙条?」
「間桐慎二、綾香はライダーの傍にいるのね。それで、私を此処に呼んだと言う事は、魔術師として決闘を所望?」
「ハハハ、そうだよ。両方とも正解さ。お前達はライダーを殺せない、そして僕を殺す事も出来ない。それに加えてこの結界内は、僕が圧倒的に優位。魔術師たるもの最善には最善を尽くして戦わなきゃね」
そう言って慎二は、魔術回路を起動し予め用意されていた術式を起動する。それは、慎二の足元の影を操るものであり、無数の鞭になった影がアルカを襲う。ためしに魔眼を使うが情報過多で碌に機能しない。使用された魔術自体は適当に数だけ整えた状態だが、どれが慎二の使っている魔術かわからない。
内包魔術(install)で全て解析する手段もあるが、魔力の無駄遣いになる。
「へぇ、そうやってガードするんだ」
「アンは、最高の防御を持つ私の相棒。貴方の魔術じゃ私に傷付けられない」
「それはどうかな」
影の鞭を水銀の膜でガードしたアン。何度も攻撃を続けるが決定打にならないと気がついた慎二は、今度はトンネルに徘徊していた大量の虫を操る。狭いトンネルの中で蟲の大軍が襲いかかる中、アルカとアンは後ろに引きながらナイフの投擲とキャリコの連射で虫を迎撃する。だが、銃機の連射でも無数に湧いてくる虫の大群を処理しきれない。
炎を使う手もあるが、生憎宝石は持っておらず、内包魔術には高火力のものしかない。それを閉鎖的な空間で使えば、古いトンネルが崩落する。霊体化出来る状況なら迷わずしたが、結界のせいでできない。アンの防御に頼る手段もある。しかし、慎二が死亡すればライダーが自棄になって綾香を殺す可能性がある。
『私がガードすれば大丈夫じゃない?』
「あの虫は、魔力を喰う。あの数じゃ魔力が先に底を尽く。とりあえず距離を取る」
狭いトンネル内を索敵した所、幾重にも枝分かれしており、逃げることが出来た。アルカはアンの腕を掴んで慎二とは逆方向へと駆け出す。その姿を逃げたように感じた慎二は、額を手で抑えながらトンネルに響く声で大笑いする。
「尻尾巻いて逃げてるじゃないか! 何が魔術師狩りだ。僕のような天才が相手すれば、何もできない雑魚じゃないか。だが、これで僕の有能性が証明された訳だ」
自分は魔術師として天才だと自覚した彼は、徐々に虫達を移動させながら愛歌達を追いこんでいく。既に彼の中では、彼女は敵ではなく獲物と化していた。どのように追い詰めてやろうかと思案する事が楽しくなっていた。