アインツベルンの城がこの世界から消滅した頃。ブレイカーが逃がした士郎達は、背後で巨大な魔力同士が衝突するのを感じながら森を抜けようと走る。走るのが得意でないイリヤをルーラーが抱きあげ、高校生の凛や士郎に追従する。
既に城の結界は崩れている上に、結界の主であるイリヤが居る事で比較的スムーズに森を脱出できそうである。
「衛宮君、遠坂さん」
突然自分達を呼びとめる声が聞こえ、足を止める一行。だが彼等の前に姿を現したのは、セイバー(アルトリウス)を連れた沙条綾香だった。
凛は一瞬発射しそうになったガンドを止め、綾香を攻撃しないでよかったと安心する。
「沙条さん、そっか。愛歌が居るんだもの、貴方が居るのも当然ね」
「ベルベットの女の仲間ね」
「セイバー(アルトリウス)のマスターですか。私達は、戦うつもりはありませんが、もし聖杯の器の破壊を望むのなら……」
凛は、納得しイリヤとルーラーは、狙ったように現れた綾香とセイバーに警戒する。
「おい、今は争ってる場合じゃないんだ。沙条……ややこしいな。綾香さん、この奥でお前の姉が戦ってる。それはしってるのか?」
「うん。お姉ちゃんが衛宮君や遠坂さん達と合流するように言って来たから」
「合流、つまりは戦う気はないってことだな?」
どこか深く考え込むような綾香に変わって、セイバーが士郎の問いに答える。
「その通りだ。僕や綾香は君達と協力する意思がある。目的は、聖杯戦争の被害を減らすことだ。その点でいえばルーラー、君とも敵対しない事は可能ではないかい?」
「状況によっては可能でしょう」
「協力はこっちも願ったりだ。だけど、協力するならなおのこと、沙条愛歌を助けに行った方が」
士郎の提案は、一人残った愛歌(アルカ)の救援に戻る事だった。しかし、セイバーが苦い顔をしながら黙る横で綾香が首を振る。
「な、どうして」
「私達が居れば……お姉ちゃんとアルゴさんは、全力で戦えない」
綾香は、アルカにつげられたことばを思い出し、握りこぶしを作る。
{私とブレイカーがギルガメッシュの相手をする。けれど、貴方は傍に来ないで}
{手加減なしの戦いに、綾香が巻き込まれるなら、全力で戦えないから}
{今の綾香に、出来る事は無いの。これは、まぎれもない事実だから、傷付けると分かっても、言わせてもらうわ}
多少申し訳なさそうな表情をする姉だが、いつもの優しさは感じられず。何故か彼女の目を見れば自分の脆弱さが浮き彫りになるようだった。見下されているのではない、慈悲を目で掛けられている。
綾香自身、ブレイカーと愛歌を心配しない訳ではない。だが、愛歌は綾香に3つのお願いをした。一つは自分の身を何よりも護る事。これだけは何に変えても遂行しなさいと誓わされた。2つ目は、衛宮士郎、遠坂凛、イリヤスフィールとそれに従属する人間達と行動を共にし、護る事。
3つ目は、もし姉がセレアルトに敗れた場合、決して復讐を行わない事。そして愛歌がセレアルトを倒した場合。
{私を……殺して}
そう言い残して、アルカはギルガメッシュとの戦いに向かった。姉の言葉が嘘だったと思いたいが、姉は本気だった。
頼むというよりは、自分を殺せと言う脅しだった。
そしてアルカの言葉を思い出すたび、先日の夢で見た姉の死が脳裏に浮かび上がる。少しづつ鮮明になっていくアルカの敗北と死。
これは何か意味しているのだろうかと不安がよぎる。
「全力って」
「衞宮君……さっきのあれを見たでしょ? 愛歌は、本気よ」
「お兄ちゃん……あの女の魔力は、聖杯戦争用に調整された私よりも強かった。それにブレイカーのサーヴァントは10年前の勝利者、あのサーヴァントを倒せる可能性が一番高い……」
イリヤと凜が士郎をたしなめる。ルーラーは何も言わないが、同意見だった。力量として、ブレイカーならギルガメッシュと戦える。本来であればルーラーの特権である令呪によって彼を敗退させる事も可能だったが、ブレイカーによって破壊された令呪は、ギルガメッシュのものも含まれていた。
故にコントロールを失ったサーヴァント達が互いに戦うと言うのは、聖杯戦争を正常に行うために都合がいい。それが、本当に正しい事ではないと理解している。
「お願い、衛宮君。此処から離れて」
それが綾香に出来る唯一のことだった。腕を掴まれ逃げる事を願われた士郎は頷くしかなかった。悪いのは力の無い自分だと理解しながらも、バーサーカーを倒した怪物の相手をクラスメイトの少女一人に任せる事に罪悪感を感じながら。
「わかった。沙条の言う通り、一度戻って対策を考えよう」
士郎の言葉に反対する意見は無く、6人は撤退を開始する。
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6人がアインツベルンの森を抜けて、綾香達が乗ってきた車に6人で無理矢理乗車する。運転手にセイバーで、士郎が助手席。そしてその膝にはイリヤが乗り、女性陣3名は後部座席に乗車した。多少窮屈だが、無理はないので、すぐさま車は出発した。
色々と話す事は全員にあるが、安全な場所についてからだと空気が物語る。
道路を走りすぎる車を追う様に、百近い影が移動を始めた事をこの時はだれしもが知る由が無かった。