旋律の彼方に   作:玉莊亭翠嶽

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第二話 高速船

 午前6時2分に横須賀港を出港して1時間。窓の外を、波しぶきが飛ぶように後ろに過ぎていくのを、群像は船室の丸い窓からじっと眺めている。

 群像たちが乗っているのは、2055年に開発されたばかりの小型超高速船、「UHSS-2」である。船は10人乗りと小型だが、巡航速度108kt、最高速度119ktという驚異的な速さを誇る最新鋭の高速船である。

 船は、快いエンジン音を立てながら、春の太平洋を白波を立てて、切り裂くように進む。群像は甲板に上がってみることにした。

 

 甲板といっても、わずかな50cmほどの通路が船を一周しているだけで、しかも108ktの速力によって発生する強風を防ぐため、通路の外には全部アクリル製の風防が設置してある。外の景色も、下からものすごい勢いで巻き上がってくる泡沫がアクリル板に付着してよく見えなかった。もともと速度を重視して作られた船なのだから、それは仕方ないことだった。

 白い泡沫が、風にあおられてちぎれ、散り散りになって後ろへ飛んでいく。その後ろにぼうっと、黒っぽい陸、伊豆半島だろうか、陸が見えた。

 

 日本が遠くなる。

 

 船室に戻った群像は、すこしまどろむことにした。この一週間、荷造りやら、色々な役所関係の煩雑な手続きに追われて睡眠不足だった。船室に備え付けの固いまくらに頭を乗せ、薄い毛布をかぶって横になった。初めは固いまくらが気になったが、やはり疲れていたのだろう。すぐに群像は眠りに落ちて行った。

 

 

 何時間経ったのだろうか。船が少し速力を落としたのを感じて、群像は目を覚ました。目をこすりながら船室のカーテンを開けると、まぶしい太陽光が目に飛び込んできた。

 手元のGPSで現在位置を確認する。北緯26度23分、東経129度41分。沖縄本島の東およそ200kmの位置だ。

「随分、南下したな。」

と群像はつぶやいた。横須賀港は北緯35度17分だから、緯度にしておよそ9度弱南下したことになる。

 群像は時計を見た。13時ちょうどだった。台湾着は18時の予定だったので、あと到着まで5時間あることになる。距離と速度から逆算すると、あと1000kmほどといったところだろうか。

 部屋に差し込んでいる太陽のせいで、部屋がじりじり暑くなってきたので、群像は温度調節器のスイッチをいれた。コンプレッサーの低音が聞こえ、すぐに心地よい涼風が、送風口から流れ出てきた。

「まるで夏みたいだ。」

その群像のつぶやきを無視するかのように、窓から熱帯の太陽が照りつける。

 

 船は再び速度を上げて、北緯26度線に向かってひた走った。

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