2057年5月11日。その日も、群像たちはサルベージ作業を終え、疲れ果てて寮の部屋に帰ってきた。
「疲れたなあ。」
と、柳が言った。
「とりあえず、ビールでも飲もうじゃないか。」
と宮木が言い、全員賛成した。
群像たちはキンキンに冷えたビールを飲んだ。疲れた体に、ビールが染みわたっていくようだ。
「昨日からずっと冷蔵庫で冷やしておいたのさ。」
「流石だな、上泉!」
「やっぱりビールは冷えてなきゃなぁ。」
夜が、徐々に更けていく。群像はほどよい酔いを感じながら、そろそろ寝ようかと思った。
突然、上泉が立ち上がって、部屋を出ていこうとした。
「おい、どこへ行くんだ?」
と群像は尋ねた。
「何、ちょっと海を見に行くのさ…すこし風に当たろうかと思ってね。お前も来るか?」
「大丈夫か?岸壁は22時以降、立ち入り禁止だぜ。」
「何大丈夫さ。フェンスに一つ、穴が開いているところがある。一昨日見つけたんだ。」
海風に当たっていると、群像には昔のことが思い出されてきた。伊401の甲板で、同じように海風に当たっていた日々が、昨日のように思い出されてくる。
「懐かしいなあ。」
「…ん?何がだ?」
「いや、少し昔のことを思い出してね。」
「まだ、『霧』と戦っていた頃のことかい?」
「ああ。こうして海風に当たっていると、何か、こう思い出されてね…」
「なるほどなぁ。」
群像はしばらく、ボーと海を眺めていた…
「しっ!静かに!誰かいる!」
上泉の鋭い囁き声で、群像は我に返った。確かに、何やら近くでボソボソと喋る声がする。
「誰だ?」
群像は囁いた。
「分からん…おい。あれ。あそこに人影が見えるぞ。」
上泉は、岸壁の一点を指した。
「ほら。二号倉庫の柱の所だ。立ち入り禁止の筈なのに…」
「…見つかったらまずいな。」
「見つからないように、そっと近づこう。」
「よし。」
二人は、二号倉庫に隣接する十二号倉庫までやってきた。声は、かなり明瞭に聞き取れるようになっている。
「…作業は順調だ。」
「…ということは、予定通り、あと一か月後ですね?」
「そうだ。あとは例のエンジンが完成すれば…」
「あの若造はどうしますか?」
「殺す。この基地に来たのが、奴の運の尽きよ。父親と同じように殺すしかあるまい。」
「…はっ。」
「奴がいなければ…我々は勝ったも同然よ。」
「左様でございますな…次こそ…」
「そう。その通り。『霧』は蘇るのだよ…」
群像の表情が変わった。上泉も驚愕した顔をしている。
「千早…聞いたか」
「…寮へ戻るぞ!」