陽菜乃達を救出した健に、新たな危機が迫っていた。
「あ、ヤバイ…保険証持ってきてない」
「はい、これでしょ」
翼はリュックの底のタオルに挟んでいた保険証を取り出した。
「なんでケン君の保険証を翼ちゃんが持ってるわけ…?」
「保険証だけじゃなくて健名義の通帳とか諸々重要なのは全部うちで管理してるから」
ここは萌(高荷)の縁戚の小国診療所。
健とタスクはここで怪我の治療を受けていた。
「相楽君…、肩の方は大丈夫?」
心配そうな神崎をよそに、タスクはぶんぶん腕を振り回していた。
「おぅ、紫村の応急処置が良かったのか、全然問題ないぜ」
処置をしてくれた老医師も呆れていた。
「萌ちゃんや…、あの子は本当に車に撥ねられて両肩を脱臼して十何人もの不良と喧嘩したのかい?身体へのダメージが打ち身ぐらいしかないんだが………」
「小国のオジサン、あれはああいう生き物なの。それより、ケン君の傷は…?」
「ああ、それなんだが…」
● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎
左頬に大きな絆創膏を貼った健、顔や身体中に絆創膏や湿布や包帯を巻いたタスク、それに陽菜乃、岬、翼、萌、雪、渚達が葵屋に入ると・・・・・、
「おぅ、みさきちよ。お前んとこの旅館、いつから入口に阿吽の像を置いたんだ?」
「相楽、それ仁王像じゃなくて殺せんせーと烏間先生だから」
旅館の入口には顔を真っ黒にして口を開けて白い息を吐いている殺せんせーと、唇をきっ、と真一文字に閉じている烏間先生が仁王立ちで待ち構えていた。
「………修学旅行のしおりの1243ページに班員が拉致された時の対処法は書いてありましたよ」
「………大まかな事情は奥田さんから電話で聞いたが、どうやらじっくり話を聞く必要がありそうだな」
二人はおそらくE組の暗殺教室が始まって以来、一番怒っていた。
(うわぁ…、渚君、オレ今すぐどこかに逃げたい)
(それは同感だけど、この二人から逃げるとか絶対無理だよカルマ君…)
ひそひそと話しながら怯える渚達の前に、タスクが一歩出た。
「待ってくれ、拉致られた神崎達を助けに行くって言い出したのはオレだ。他の連中は最後まで止めたけど、オレが一人で突っ走ったからそれを追いかけて来ただけだ。健を巻き込んじまったのも全部俺の責任だ」
「………そうか、では相楽君には事情を説明してもらおうか」
「おぅ、俺が一から全部話すぜ」
そう言うと、烏間先生とタスクは連れ立って教員用の部屋へと入っていった。
「…今回は相楽君の男気に免じてこれ以上君達にお説教はしませんが、残りの旅行中に軽はずみな行動はしないように。あ、もちろん暗殺は別ですよ」
「「「は~い…」」」
健達は素直に返事をした。
「では先生は少々野暮用があるのでこれで」
そう言うと殺せんせーは産寧坂で買った七味唐辛子持ってマッハでどこかに行ってしまった。
「はぁ~~…」
二人がいなくなると、全員その場にへたり込んでしまった。
「相楽君、僕たちのこと庇ってくれたのかな?」
「たぶんね~、オレ教師からの説教ならなれてるけど、あの二人がかりで説教されるんのは、流石に勘弁だったから助かったわ」
「大丈夫かな…、相楽君」
心配そうな神崎の肩を萌が叩いた。
「大丈夫よ、それより制服とか汚れてるし部屋で着替えましょ」
「あ、それと殺せんせーが戻ってきたら、5班(うちら)の暗殺修学旅行を実行するからね!」
岬の号令に健達は頷いた。
● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎
E組の面々は夕食を済ませ、最後の夜を各々楽しんでいた。
「………殺せんせーは?」
「けほ…、戻って来たみたい。まずはひとっ風呂浴びるって浴場に………」
「OっK~、なら、最初は萌っち、ゴー」
「まかせて、姉さま仕込みの水遁暗殺術を魅せてあ・げ・る」
渚、杉野、岡島が男湯の前を通ると、中村莉桜と不破優月がこっそりと忍び込もうとしていた。
「中村さん達、何してるの?」
「しっ!決まってんでしょ、覗きよ」
渚に聞かれた中村はシリアス顔で答えた。
「覗きぃ?!それ俺らのジョブだろ」
「ジョブではないよね…」
「アレを見てもそれが言える?」
不破さんが暖簾の向こうの脱衣所にかけられた殺せんせーの服を指差した。
「あの服がかけてあって、持ち主は風呂場にいる、言いたいことは分かるわよね?殺せんせーの中身、首から下に胴体があるのか、触手だけか、暗殺的にも身体を拝んでおいて損はないわ」
中村さんの言葉に全員息を飲んだ。
「あら、みんな揃って担任教師のお風呂を覗き見?」
そこに、白い湯浴み着姿を着た萌が現われた。
「ちょ…、高荷さんその格好………」
「うふ、渚君にはちょっと刺激が強すぎた?あと岡島、勝手に写真撮ってんじゃないわよ、そのカメラ殺す(壊す)わよ」
自慢の黒いロングヘアーをまとめるため腕を上げると自然と湯浴み着の胸元が開き、腕の動きに合わせて胸が揺れ、髪を纏め上げると色っぽいうなじが露わになった。
「覗くんならご自由に、アタシが殺せんせーをお風呂で暗殺する様子を」
萌はそういうと対先生物質で作られた簪をまとめた髪に差した。
「殺せんせ~、良かったらお背中流しますよ~」
時代劇でくの一がやるように、萌は色っぽい声をかけながら浴室の戸を開けた。
そこには・・・・
泡立つ湯船でブラシを使って触手を丁寧に洗う殺せんせーがいた。
「「「女子か!」」」
しかも髪の毛もないのにシャンプーハットまでしていた。
「ちょ…、なんですかこの泡風呂。入浴剤禁止って岬言ってましたよね?」
「あ、これ先生の粘液です。泡立ちも良くてミクロの汚れも浮かせて取れるんです」
「本当に何でもありなんですね、その身体…」
汗ばんできた萌の肌に湯浴み着がぴったりと貼り付き汗が谷間に溜まっていた。
「ところで、殺せんせーお湯加減はどうですか?」
「お湯加減…?そうですね…、温かい…、いや、これは熱く?!」
湯船からは粘液の泡とは別の泡がぶくぶくと浮かんで浴室全体の温度も急激に上がっていた。
「気付きましたね、教員用に用意したここは生徒達が使う大浴場と違ってお湯は釜炊き!」
「けっほっけっほ…、あ~、これ本当ならタスクの仕事だったのに………、けほけほけほけほ」
外では煤で顔が黒くなった雪が、普段は病弱で咳き込んでいるが今は煙で咳き込みながら火を炊いていた。
「さぁ、このまま土左衛門ならぬ五右衛門になるかそれともお湯から上がって私に暗殺されるか、二つに一つ!」
萌は対先生物質の簪を抜くと時代劇の仕事人よろしく、手の中でくるくると回し逆手に構えた。
「ぬるふふ、そうはいきません」
ヌぽん ちゅルン
そう言うと、殺せんせーはまるで煮こごりのように固まらせたお湯ごと立ち上がると開けられていた窓から外へ脱出してしまった。泡立つお湯のせいで体の部分も見えなかった。
「あ…、」
後には空っぽの湯船と熱された浴室で汗をかいて湯浴み着が透けてエロくなった萌だけが残された。
「…結局、殺せんせーの身体は見れなかったね」
「でも高荷のエロい格好が撮れたし、俺としてはラッキーだったぜ。これは本校舎の連中にも高値で売れるぜ」
この後、岡島のカメラが壊されデータも消去されたが、それはどうでもいいこと。
「雪くんから連絡。失敗したって」
「ふっ…、あの二人は言わば前菜。メインはこっちよ。陽菜乃っち、準備は?」
「OK~だよ~」
「緋村は?」
「万全」
教員用の部屋で烏間先生は政府への報告書を制作していた。今日一日、E組の生徒達の自由行動に付き添った殺せんせー暗殺。外部からのスナイパーは狙撃を試みるも八つ橋や油取り紙で弾丸を受け止められたり映画のキャストに紛れ込まれたりと失敗を繰り返し、先ほど仕事を辞退してきた。
「ふう、いいお湯でした」
そこに頭にタオルを巻いた浴衣姿の殺せんせーが入って来た。
「烏間先生、お風呂先に頂きました。けどお湯が全部無くなったのに入るなら生徒達用の大浴場の方に」
「あぁ、後で入ろう」
「烏間先生~、殺せんせ~、失礼しま~す」
そこに、陽菜乃と翼が入って来た。
「おや、倉橋さんに明神さん。どうしましたか?」
「今日の体験工房で作った和菓子の差し入れに来ました」
翼が持っていた箱を開けると中には黄色く着色された生八つ橋が入っていた。普通は三角だが、丸く成形されてチョコペンで目と口が描かれていた。
「えっと…、『殺八つ橋』です。中身はカスタードクリームです」
「おお、これは美味しそうですね。では一つ…、もぐもぐ、むむこれは美味しいですね」
陽菜乃は舌鼓を打つ殺せんせーの横を通って烏間先生の方ににじり寄った。
「烏間先生もお一つどうぞ~」
「いや、すまない今仕事中なので…」
烏間先生が陽菜乃の方に視線を向けると、殺せんせーに見えないように背中で隠しながら開けた箱の裏のメッセージを見せていた。そこには・・・・
【八つ橋取ると同時に後ろに下がって下さい。それが暗殺の合図になります】
と書いてあった。
「美味しいですよ」
陽菜乃はにっこり笑った。
「では、一つ貰おうか…」
烏間先生はぱくぱくと八つ橋を頬張る殺せんせーに一度視線を向けると、陽菜乃が持つ箱から八つ橋を手に取った。
その途端・・・・、殺せんせーの背後、掛け軸の裏から何本もの対先生クナイが飛来した。
「にゅやっ?!」
殺せんせーは手近にあったお盆で対先生クナイを防いだ。しかし、暗殺はまだ続く・・・
「上!?」
今度は天井裏から健が殺せんせー目掛け降ってきた。その手に持った逆刃の小太刀の切っ先は真下に向けられ、殺せんせーを突き殺そうとしていた。
「なんの!」
しかし、これも殺せんせーは手拭で刀身をぐるぐる巻きにして防いでしまった。
「ふぅ…、」
「隙あり!」
これこそが最後の一手、掛け軸の裏から対先生クナイを飛ばしておいてそこにいると思わせて、実際は床下に潜んでいた岬が対先生クナイを殺せんせー目掛け突き上げた。
その対先生クナイは、殺せんせーに突き刺さった・・・・はずだった。
「あれ?手応え無し?!」
対先生クナイは確かに刺さっていた。殺せんせーの抜け殻に。
「はぁ…はぁ…、まさか修学旅行で脱皮まですることになるとは………」
冷汗を流しながら、殺せんせーは部屋の天井の隅に避難していた。
「で、巻町さん。まだ仕掛けがありますか?」
「………ううん、あたし達5班の暗殺はここで打ち止め」
岬は殺せんせーの抜け殻から対先生クナイを抜くと浴衣の袖に仕舞った。
健も逆刃の小太刀を納刀した。
陽菜乃と翼も残念そうな顔をしていた。
「ちょうどいい、君達に相楽君のことを伝えておこう」
その4人に、烏間先生からタスクの処遇が伝えられた。
● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎
「神崎、ちょっといい?」
旅館のゲームコーナーから茅野と出てきた神崎は健に呼び止められた。
「タスクの当面の処分が決まった」
「え…、処分って…」
「安心して、今日一晩使ってない部屋に一人で反省しろって禁固刑?みたいなものだから」
「そっか…、よかった」
神崎は安堵した。
「で、ここからが本題なんだけど。タスクってば昼から何も食べてないんだよ」
「あ…、」
タスク達が神埼を助けた時、丁度5班の面々は昼食を食べに行く途中だった。そしてその後は激動の喧嘩⇒拉致⇒大乱闘と、休む間もなかった。
「で、さっき岬経由で調理場の使用許可下りたから、おにぎりくらいしか作れないけど、神崎作って持ってってくれない?抜け道の手筈とルートは教えるから」
「待って待って、それって相楽君と…」
「うん、二人っきりになれるチャンス」
健はあっさりと言い切った。
「~っ!?」
神崎は顔を真っ赤にした。
「なんで…、ここまでしてくれるの?」
「…同病相憐れむ………、的な?」
● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎
「あ~~~~~~~~………、腹減った~………」
使用されていない客室。
タスクの目の前には明日の朝までにやるように言われた反省文の原稿用紙があった。が、余白はまだまだ8割近く残っていた。しかも手付かずの用紙があと2枚もあった。
「ふぅ…」
溜息を吐いたタスクは仰向けに寝転んだ。その時・・・・
「きゃっ!?」
「あん?神崎?」
タスクの背後の壁が回転して神崎がそこから部屋に入って来た。
「あ~、これがみさきちの言ってた忍者屋敷時代の名残の仕掛けってやつか」
「う、うん…、あの緋村君から聞いたの、明日の朝までここにいることになったって」
「まぁ、あんだけ派手にやらして禁固刑で済むってんなら安いもんだろ。これ本当なら修学旅行自体中止になるレベルの騒動だし」
タスクはカラカラと笑った。
「あの…、これ差し入れ。お昼から何も食べてなかったでしょ?」
神崎が差し出したお盆には大振りのおにぎりが3つ乗っていた。
「お、サンキュー!あんぐ…、んぐんぐんぐ」
タスクは余程腹を空かせていたのか、凄まじい勢いでおにぎりを食べ進めた。しかしそんなペースで食べていれば・・・・
「んぐっ…!」
最後の一口を喉に詰まらせた。
「ああ、お茶お茶…!」
神崎は慌てておにぎりと一緒に持ってきたほうじ茶が入った湯飲みをタスクに渡した。その時、タスクの手に触れた神崎は気付いた。
「げっふぅ~、あ~死ぬかと思った。殺センコー殺る前に死ぬかと思った」
湯のみを持ったタスクの手は傷だらけだった。今日のだけではない。それは以前・・・、
「また…、助けてもらったね」
「あん?」
二個目のおにぎりにかぶりつきながらタスクは首を傾げた。
「覚えてる?春先にゲームセンターで私が不良グループに絡まれていたのを相楽君が助けてくれたこと。あの時筐体ゲームの画面が割れてその破片から私を庇って手を怪我しちゃったでしょ?」
「あ~、んなこともあったかもな…」
タスクはおにぎりの中身の梅干の種を口の中でもごもごさせながら曖昧に応えた。
「あの時、見せられた写真………、やっぱり、幻滅した…?あんな格好していたの」
「まぁ驚きはした、な」
「うちはね…、父が厳しくて、良い学歴、良い成績、良い“肩書き”を求めてくるの」
「………」
「そんな肩書き生活から逃げたくて…、名門の制服脱ぎたくて…、知っている人がいない場所で格好を変えて遊んでいたの。………馬鹿だよね、その結果【エンドのE組】なんて肩書きがついて…、もう自分の居場所がわかんないよ」
「んなの、簡単じゃねぇか。E組(ここ)がお前の今の居場所だろ」
「え?」
「お前はこのE組、嫌いか?」
「ううん…、最初は途惑ったけど、今はみんなとこうして暗殺教室やってる毎日が楽しいよ」
「ならよ、それでいいじゃねぇか。ついちまった肩書きなんて気にすんな。お前はお前だ。前に向かって進んでりゃ、変な肩書きなんざその内取れるし、途中で付いて取れなくなっても、それはそれでお前が進んだってことだろ?少なくとも、オレは今のそういう神崎のこと、結構好きだぜ」
その言葉を聞くと神崎は顔を真っ赤にして、それを見られないように俯いてしまった。そしてそんなことに気付いていないタスクはその頭をポンポン叩いた。
「さて、さっさと反省文終らせねぇと」
「手伝うよ」
「おぅ、サンキューな」
● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎
一方その頃、暗殺が失敗した健と雪は自販機で飲み物を買って大部屋に戻ると、男子達が輪になって盛んに話していた。
「あ、緋村に雪じゃん。暗殺どーだった?」
「ダメだったよ」
「けほ…、カルマ達は何やってんの?」
「女子の人気投票。ちなみにオレは奥田さん」
「全員やってんだ、逃げらんねーぞ」
チャラ男の前原の言葉に健は焦った。
「ん~…、翼ちゃんかな、うちの班の中じゃ。健は?」
「………、ひな…、じゃなくて、くらは…、」
健は一瞬言いよどんだ。
「俺も翼かな」
健は照れを誤魔化すように缶ジュースを一気に飲み干した。
クラス委員の磯貝は投票結果を紙に書いた。
「明神に二票…っと、みんなこの結果は男子だけのナイショな。知られたくない奴が大半だろーし。女子や先生に絶対…」
その時、健が左腰に差していた逆刃の小太刀の鯉口を切った。
「誰だ!」
健の声に驚いた男子達が窓のほうを見ると・・・・
殺せんせーがにやにやしながら投票結果をメモって、一瞬健の方に意味深な視線を向けると何かを言った。剣術稽古で鍛えられた健の目はその動きから言葉を読み取った。
『明神さんの一票を倉橋さんに入れておきますね』
と、殺せんせー。
次の瞬間にはマッハでいなくなった。
「メモって逃げやがった!殺せ!!!」
前原の号令に、男子は全員ナイフとエアガンを構えて大部屋を飛び出した。
● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎
同じ頃、女子部屋では驚愕の真実が明らかになっていた。
「イリーナお姉様、二十歳ィ!?」
「マジ…?」
「うそ…」
茫然とする萌、岬、翼の三人に他の女子たち。
「経験豊富だからもっと上かと」
「それはね、色濃い人生が作る色気が…、「毒蛾みたいなキャラのくせして」…、誰だ今毒蛾っつたの!?」
イリーナは缶ビール片手に千枚漬けを摘まんだ。
「女の賞味期限は短いの。アンタ達はワタシと違って危険とは縁遠い国に産まれたんだから、感謝して全力で女を磨きなさい」
「「「………」」」
その教師らしい言葉にE組女子は・・・、
「ビッチ先生がなんかまともなこと言ってるー」
「なんか生意気ー」
「舐めくさりおってガキども!」
そんな流れでどの男子が好みかという話が持ち上がった。
「つばさちゃんはやっぱりひーちゃん?」
陽菜乃が聞くと翼は首を傾げた。
「ん~、健とはもうお互い赤ん坊の頃から一緒だから、むしろ恋愛感情よりは家族愛に近いかな。あっちが弟でって意味で」
「緋村か相楽…あ~でもどっちも足りてないからなぁ~、身長と知性。ってことで紫村に一票」
と、岬。
「私はそこいらの男なんて真っ平よ。………私には姉さまがいればいいもの」
そう言ってイリーナに寄り添う萌。
「わたしはねぇ~、烏間先生」
普段からの接し方で周囲にバレバレな陽菜乃に対し、翼はさり気なく訊いた。
「ねぇひなちゃん…、例えばだけど………健は?」
「んっとねぇ~、ひーちゃんも強いけど、やっぱり烏間先生のがいいかな」
「あははは…、だよね~…」
一切、全く、これっぽちも悪意の無い陽菜乃の笑顔に翼は乾いた笑いしかできなかった。
(………健、ライバルが強敵過ぎるよ………)
「あ~、それにしてもせっかくここの仕掛け使って室内で油断してる時に暗殺するって計画立ててたのに」
岬は悔しそうにポッキーをまとめて口に入れてパリポリ食べた。
「ふっ…、この私ですらできなかったのよ。そう簡単にはいかないわよ」
酒を日本酒に切り替え萌がお酌したのをくいっと飲み干すと、イリーナはお猪口を置いた。
「気分もいいし、今日は少し私の昔話でもしようかしら」
その言葉にE組女子はざわついた。
「私がこの仕事を初めて失敗したのは、二度」
「ってことは、殺せんせー以外にもう一人お姉さまが暗殺し損ねたターゲットがいるの?」
萌の言葉にイリーナは頷いた。
「あれはここに来る2つ前の仕事、イギリスにいるとある日本人がターゲットだったわ。近付くのは意外なほど簡単だったけど、いざ実行しようとすると全然隙がないの。けど、ベッドに連れ込めばいくらでもチャンスはあると思ってバーで酔った振りをして………」
その先のR18な展開に頬を赤らめながらも興味津々な様子でごくりと息を呑む岬、殺せんせー「←おいそこぉっ!」、翼・・・・
いつの間にか、殺せんせーがそこにいた。
「さりげなく紛れ込むな、女の園に!」
「いいじゃないですか、私もその話聞きたいんですよ」
「そーゆー殺せんせーはどーなのさ、自分のプライベートはちっとも見せないくせに」
岬の指摘にぎくりとする殺せんせー。他の女子もそれに便乗した。
「そーだよ、人のばっかズルイ!」
「先生は恋バナとかないわけ?」
「巨乳好きだし片想いくらい絶対あるでしょ!」
「え?え?」
質問攻めに遭った殺せんせーは・・・・
シュバッ
マッハでいなくなった。
「逃げやがった!捕らえて吐かせて殺すのよ!」
イリーナの号令で女子一同武器を構え大部屋を飛び出した。
「いたぞ!こっちだ!」
女子部屋から逃げた殺せんせーだったが、反対側から男子が迫ってきた。
「にゅやっ!!しまった男女の挟み撃ちに!」
そうして、E組の暗殺修学旅行最終日の夜は深けていった。
● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎
生徒達が寝静まった深夜・・・・
「ふぅ…」
政府への報告書をまとめた烏間先生はノートPCを閉じると立ち上がった。隣の布団では浴衣のあちこちが切り裂かれた(主に健の逆刃の小太刀と岬の対先生クナイによる)殺せんせーが寝息を立てていた。
「………」
一瞬、銃を構えた烏間先生だったが、すぐに諦めた。
「少し、外で夜風に当たってくる。“生徒達のことは任せるぞ”」
そう言うと烏間先生は部屋を出た。
「ええ、任せて下さい………にゅやにゅや」
殺せんせーは寝言混じりに返事をした。
烏間先生が葵屋の裏口から外に出ると、そこにはガラの悪い、では到底表現できない人相風体の若者が50人近くいた。その中心には・・・・・・
「なんやお前、カタギ…、ではないなその身のこなし」
健にやられて体のあちこちに包帯を巻いた沢下張太がいた。
「お前達、何の用だ?」
「用?んなもん決まっとる。俺を虚仮にしたあの赤毛のチビ侍とその仲間をぶった切って内臓取り出して売っ払って、女どもも全員犯してそのまま海外に売り飛ばしたる!」
怒髪天を衝く勢いの沢下に、しかし烏間先生は冷静に対応した。
「この場で騒ぎを起こせばそちらもただでは済まないぞ。こちらも騒ぎを起こしたと言う張本人を一晩禁固刑にしている。このまま引き下がれば昼間の事も一切警察には話さない」
「アホか!んなんじゃこっちの面子が丸潰れなんや!」
「はぁ…、しかたないな」
烏間先生は売店から拝借した、柄に【琵琶湖】と書かれた木刀を構えた。
「数が数だ。手加減は、あまりできんぞ」
「お前等、いてまえや!」
沢下の命令で、関西英集組の若手の構成員達が一斉に烏間先生に襲い掛かった。
そして、一瞬の内に全滅した。
「嘘やろ…、あの赤毛チビ侍より強いやと………」
一振りで三人ずつ倒して行った烏間先生は息一つ切らしていなかった。
「さぁ、どうする?」
「く…、黒土の叔父貴!出番です」
沢下の後ろから黒い着物に白い羽織の潔癖症そうな男が現われた。その腰には日本刀が差されていた。その男の重心と佇まいから、刀が本物でしかも男が本職の殺し屋であることを烏間先生は見抜いた。
「まったく、こんなのがオヤジに知られたら大目玉ぐらいじゃすまんぞ」
「だからこそ、あの男を始末すればどうにでもなるから、ここは一つ…」
「ふん、まあいい」
黒土と呼ばれた男は日本刀を構えた。
「お前がどこの誰かは知らんが、組の沽券や面子にも関わるんでな、死んでもらうぞ」
黒土が一気に迫り、日本刀を抜くと同時に烏間先生も木刀を一閃させた。
交差し、互いの位置が入れ替わった。
烏間先生は木刀を振り下ろし、黒土は刀を抜き放った姿勢のまま、一瞬止まった。そして・・・
「てめぇ…怖いくらい綺麗な太刀筋じゃねぇか………、カハッ!」
黒土はその場に倒れた。
「お…、叔父貴」
最後に残された沢下に烏間先生は木刀を突きつけた。
「椚ヶ丘中学3年E組担任の烏間惟臣だ。この俺の監督下にある限り、ヤクザだろうと、殺し屋だろうと、例え超生物であっても、容赦はしない。覚えておけ」
● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎
翌朝、健は洗面所で絆創膏を剥がした。
「………」
春休みに比留間弟につけられた縦一文字の傷に、昨日新たに沢下に斬られた横一文字の傷が重なり、十字傷になっていた。
健は顔をざぶざぶ乱暴に洗った。
「はいタオル」
いつの間にか、萌が隣にいてタオルを差し出していた。
「ありがと」
「ケン君、その傷…、残っちゃったね」
「あぁ…」
健は鏡に映る自分の顔をまじまじと見た。
「うん、百億の使い道が決まったよ」
健はタオルを首にかけた。
「この傷を消す。萌、金に糸目つけないからそん時は良い医者の紹介よろしくね」
暗殺~SWORD X SAMURAI~
京都の時間 5時間目
十文字の時間
●―○―◎―●―○―◎―●―○―◎―●―○―◎―●―○―◎―●―○―◎―●―○
今回の技
龍槌閃・惨
男子部屋の女子人気投票
1位 萌 4票
2位 神崎 3票
3位 矢田・翼・陽菜乃 2票
5位 岬・奥田 1票
健の容姿
左頬の傷 縦一文字⇒十字傷
賞金の使い道
【左頬の十字傷を形成手術で消す】