暗殺~SWORD X SAMURAI~   作:蒼乃翼

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才能の時間

「上等だコラッ!!」

 

 

タスクは鷹岡の腕を払うと顔面目がけ拳を繰り出した。当たれば大の大人でも失神するタスクの拳は、しかし鷹岡にあっさり払い落とされた。

「コナクソッ!」

タスクは何発も拳の乱打を見舞ったが、鷹岡には一発も当たるどころか掠りもしなかった。かつては精鋭部隊にいた鷹岡は軍隊格闘技を充分以上に修めているので、素手相手の防御法を心得ている。しかもそれが怒り任せに直線的に向かってくる拳なら・・・、

「まだ分かっていないようだな。“はい”以外は無いんだよ」

タスクの拳を全て防いだ鷹岡はやけくそになって大振りになったタスクの腕を捕らえるとそのまま腰を乗せて投げ地面に背中から叩きつけた。

「ガハッ…」

タフネスさが売りのタスクも一瞬息が止まり、動けなくなった。そのタスクに馬乗りのなると、鷹岡は無防備なタスクを殴った。一発、二発、三発、四発と回数を重ねる毎にタスクの顔面から血が飛び散った。

「やめろ鷹岡!!」

その時、烏間先生が割って入った。

「大丈夫か相楽君?」

「げっほ…、よ゛ゆーっす゛よ………」

血混じりの唾を吐いているタスクの姿は誰の目にも強がっているのが明白だった。

「ちゃんと手加減してるさ、俺の大事な家族なんだから」

「いいえ、あなたの家族じゃない。私の生徒です」

鷹岡の背後には怒りを浮かべた殺せんせーが立っていた。

「ふん、文句があるのかモンスター?体育は俺に一任されているはずだ。そして今の“罰”も立派な教育の範囲内だ。短期間でお前を殺す生徒を鍛えるんだ。多少厳しくなるのは当然だろ?」

悪びれもせず、確信犯である鷹岡はさらに続ける。

「それとも何か?多少教育論が違うだけで、お前に危害を加えていない俺を殺すのか?」

強引だが筋が通っている鷹岡の言い分に、殺せんせーは反論できなかった。

 

 

 

 

 ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎

 

 

 

 

負傷したタスクの看病を保健委員の萌に任せ、鷹岡の体育が始まってしまった。

「………なぁ、全員で一斉にかかれば………」

「………正面からは無理でも横や背後から不意をつけば………」

「………あのクソデブ………ぶっ殺してやる………」

スクワットをしながら小声で相談する村松、吉田、寺坂だったが、それは後ろから反対された。

「止めときな。タスクでも敵わないんだ。不意をついても、例え男子全員でかかっても相手は烏間先生の同僚だよ。怪我人が増えるだけ………」

「けど緋村よぉ…」

「お前悔しくないのかよ…」

「相楽(ツレ)をあんだけボコられて…んだ…ぞ!?」

後ろを振り返った寺坂は健の表情を見るとぎょっとした。

髪を赤黒くし、うっすら左頬の十字傷を赤く滲ませ、瞳孔が開いた健は今にも鷹岡に斬りかかろうとするのを歯を食い縛り耐えながらスクワットをしていた。

これ以上鷹岡に逆らえば自分はともかく他の生徒(主に女子…、というか陽菜乃)にどんな危害が及ぶか分からなかった。この状況を打破できるとしたら・・・、それは一人しかいなかった。

 

 

そんな体育の授業を烏間先生と殺せんせーはただ見ていることしかできなかった。

「………あれでは生徒達が潰れてしまう」

「超生物として彼を消すのは容易い。しかし、それでは生徒達への筋が通らない。私や烏間先生、生徒から見れば間違っているかもしれないが、彼には彼なりの教育論がある」

ですから、と殺せんせーは烏間先生に言った。

「あなたが同じ体育教師として彼を否定して欲しいのです。体育に関してはあなた方が譲らないので一任していますが、E組の体育教師は烏間先生しかいないんです」

 

 

「じょ…、冗談じゃねぇ…」

「初回からスクワット300回とか、死ぬ…」

男子でさえ耐えられない訓練内容についに・・・・

 

 

「からすませんせぇ~…」

 

 

陽菜乃が泣きながら烏間先生の名前を呟いた。

「おい、烏間は俺達家族の一員じゃないぞ」

それを聞き逃さなかった鷹岡は拳を鳴らしながら陽菜乃の前に立った。陽菜乃は目に涙を浮かべ、完全に恐怖で身動きが取れなくなっていた。

「おしおきだなぁ…、父ちゃんだけを頼らない子は」

鷹岡の鉄拳制裁が陽菜乃に迫った。

 

その時・・・・、

 

 

「~ッ!!!」

髪をどす赤黒くした健が小太刀の鯉口を切って一足跳びで鷹岡に迫った。

(((さっき止めたの誰だよ!?)))

寺坂組は心の中で突っ込んだ。

 

 

果たして、健と鷹岡が激突することはなかった。

 

 

 

「これ以上生徒に手荒なことはするな」

烏間先生が抜きかけの小太刀の柄頭を抑え、反対の手では鷹岡の手首をがっちり握っていた。

「緋村君も、刀を納めるんだ」

「…っす」

健は納刀しつつ、さりげなく陽菜乃と鷹岡の間に立った。

「言ったろ烏間先生、これは暴力じゃない。教育だ」

鷹岡が烏間先生の手を振り解くと対先生ナイフを取り出した。

「こうしよう、烏間。この中からお前の一押しの生徒を一人選べ。そしてそいつが俺に一度でもナイフを当てられたらお前の教育は俺より優れていると認めよう。その時はお前に訓練を全て任せて出ていこう。男に二言はない」

鷹岡の提案にE組の生徒達はわずかな希望を見い出した。何故ならそれが可能な生徒が一人・・・、

「ただし、使うのは対先生ナイフ(これ)じゃない」

鷹岡は対先生ナイフを投げ捨てるとバッグから本物のナイフを取り出した。

「相手が人間なんだ、使う刃物も本物じゃないとな」

「よせ!彼らは人を殺す訓練も用意もしていない!!本物を持っても竦んで刺せやしないぞ」

「安心しろ、寸止めでも当たったことにしてやるよ。俺は素手だし、これ以上ないハンデだろ。さぁ烏間、一人選べよ!選ばないなら無条件で服従だ!生徒を見捨てるか生贄として差し出すか、どっちにしろ酷い教師だな!!」

鷹岡の条件に怯えたE組の生徒達の視線は自然と一人の生徒に集まった。

「………生贄になるつもりはさらさら無いっすよ………」

健は自ら挙手した。

「…駄目だ」

「はっ?」

烏間先生は健の隣の生徒に視線を移した。

「渚君、やる気はあるか?」

「ちょ…、なんで渚なんっすか?どう考えても…」

「緋村君、君の実力を過小評価している訳ではない。むしろこの上なく評価しているからこそ、鷹岡が相手だと本気の“戦闘”になってしまう。そうなれば、君も無傷とはいかない。相楽君以上の重傷を負う危険性がある」

「まぁ…、理屈は分かるっすけど…それなら尚更渚なんて“戦い”向きじゃないっすよね?」

健の不満を背中で聞きつつ、烏間先生は渚に自分の考えを言った。

「………地球を救う暗殺任務を依頼した側として、俺は君達とはプロ同士だと思っている。プロとして君達に払う最低限の報酬は、当たり前の中学生活を保障することだと思っている」

だから、と烏間先生は続ける。

「無理に殺る必要は無い。その時は俺が鷹岡に頼んで報酬を維持してもらうよう努力する」

そんな烏間先生を鷹岡は鼻で笑った。

「くくく烏間先生、土下座でもすりゃ考えてやるがね」

「…チッ」

健は舌打ちをすると鷹岡の方を睨んだ。

「要は、使うのが対先生ナイフじゃなくて本物ならいいんすよね?だったら…」

健は逆刃の小太刀を抜き、くるりと回し切先を自分に向け、反対側の柄頭を渚に向けて差し出した。

「渚、今この時だけ俺の小太刀(信念)をお前に預ける。殺れ、そして勝て」

渚は一瞬戸惑ったが、柄を握った。

「殺るよ…、絶対。前原君と相楽君のこと、一発返さなきゃ気がすまないもの」

渚は某三振りの刀を腹巻に差した剣士の様に小太刀を口に咥えると腕のストレッチをして臨戦態勢に入った。

「お前の目も曇ったな烏間先生。よりによってそんなガキを選ぶなんて」

鷹岡の挑発を無視して、烏間先生は渚にアドバイスをしていた。

「鷹岡は素手対刃物の戦い方を熟知している。本気で振らないとかすりもしないぞ」

「はい…」

「いいか、当てるか寸止めすれば君の勝ち、素手で君を制圧すれば鷹岡の勝ち、それが奴の決めたルールだ。だがこの勝負、君と奴の最大の差は武器の有無じゃない」

「…?」

そんな状況をE組も不安そうに見ていた。

「おい…、渚の攻撃当たると思うか?」

「無理だろ、烏間先生と訓練してりゃ嫌でもわかる」

「それに、使うのは本物の日本刀だろ?」

「なんで緋村じゃないんだ…」

茅野も心配そうに渚を見守っていた。

そして、渚は鷹岡と対峙した。

「さぁ、来いよ」

そんな渚と鷹岡を見ながら烏間先生は健に渚を選んだ理由を説明した。

「いいか、鷹岡にとってこの勝負は“戦闘”だ。その目的は見せしめ。攻防ともに自分の強さを見せつけ、二度と自分に逆らえないようにする必要があるからだ」

「悪趣味だけど…、軍人相手なら合理的っすね………」

「対して渚君は“暗殺”だ。強さを示す必要もなく、ただ一回当てればいい。そこに勝機がある。奴はしばらく渚君の好きに攻撃をさせるだろう。それらを見切り戦闘技術を誇示してから、じわりじわりと嬲りにくるはずだ」

「………つまり、反撃をしてこない最初の数撃が最大のチャンス、ってことっすか?」

「ああ。渚君ならその隙を突けると俺は思っている」

その渚はと言うと・・・・、

(重い…)

握り締めるほどに小太刀の重さがじわりじわりと手から全身に圧し掛かるようだった。

(緋村…、こんなの振り回して京都で“戦って”いたのか………)

常寸刀でも1kg強の重量がある。持っているのは半分程度の小太刀とは言え、いつものナイフとは比べ物にならないくらいの重さが渚の動きを強張らせていた。

ふと、渚は烏間先生のアドバイスを思い出した。

(………そうか…、緋村みたく“戦わなくていいんだ”)

 

 

(   殺   せ   ば   勝   ち   な   ん   だ   )

 

 

渚は笑い、自然な足運びで鷹岡に近付き、そのまま鷹岡の腕に持たれかかった。

 

次の瞬間・・・、

 

小太刀を躊躇い無く首元目がけ切り上げた。

「…っ!!」

鷹岡はぎょっとして仰け反った。

渚はその隙を見逃さず、服を引っ張りバランスを崩し、そのまま小柄な体を背後に回りこませ、首元に“小太刀の峰”を当てた。

「…捕まえた」

「あ…、が…」

鷹岡は訳がわからないまま暗殺されてしまった。

その状況を、渚がたった今見せた“才能”を目撃したE組、烏間先生、健は唖然としていた。

殺気を隠して接近する才能、殺気で相手を怯ませる才能、“本番”に物怖じしない才能・・・、

総じて、“暗殺の才能”を。

「…あれ?」

渚は烏間先生の反応を見て途惑った。

「ちょっとして峰打ちはダメでした?」

「いや、“それ”の峰打ちなら大・正・解」

健は小太刀を指差した。

「あ…!これって」

渚が健から託されたのは、通常の刃部と峰が逆になった不殺の刀、“逆刃の小太刀”だった。

「そこまで!」

渚が得物の特性に気付いた瞬間、殺せんせーが渚の手から小太刀を回収した。

「勝負ありですよね、烏間先生?」

誰の目にも渚の勝利は疑いの余地が無かった。

「まったく、本物の日本刀を持たせるなんて何を考えてるんですか緋村君?怪我でもしたらどうするんですか」

「そうなりそうだったらマッハで止めに入ったっすよね?」

健は殺せんせーから受け取った小太刀を納刀した。

「よく小太刀(これ)をあそこまで振れたな」

「いや、烏間先生に言われた通りにやっただけだよ…」

今になって冷汗が流れ出した渚は一見すると強そうには見えない。が、それこそが今回の勝因に繋がった。

 

 

(…自然に近付く体運びのセンス…相手の力量を見て急所へ攻撃できる思い切りの良さ…、そして何より弱そうと思わせ相手を油断させる才能…、………暗殺でしか使えない才能…)

烏間先生は渚の非凡な暗殺センスに途惑っていた。

(だが、喜ぶべきことなのか?E組ではともかく、このご時世に暗殺者としての才能を伸ばして彼の将来にプラスになるのか?)

「おや、烏間先生今回は随分と悩んでいますね?」

そんな烏間先生に殺せんせーがぶにゅぶにゅと頬ずりしてきた。

「悪いか」

「いえ、でもね烏間先生…」

殺せんせーは渚たち・・・の背後を指差した。そこには・・・、

 

 

「このクソガキ…、父親も同然の俺に刃物なんて向けやがって…、マグレ勝ちがそんなに嬉しいか!?もう一回だ!今度は油断しない!今度は俺もナイフ有りだ!身も心もナマス切りにしてやるよ!」

怒りに我を失いかけナイフを握り今にも襲い掛かりそうな鷹岡がいた。

 

 

「…っ!」

止めに入ろうとする烏間先生を、しかし殺せんせーは制止した。

 

 

「鷹岡先生」

その前に、渚が毅然と立った。

「次やったら絶対に僕の負けです。でもはっきしました。僕らの『担任』は殺せんせーで、『教官』は烏間先生です。これは絶対に譲れません。父親を押し付ける鷹岡先生より、プロに徹する烏間先生の方が、僕らはあったかく感じます」

そこまで言うと渚は頭をきっちり90°の角度で下げた。

「僕らを本気で強くしようとしてくれたことは感謝します。でもごめんなさい、出て行って下さい」

今度こそ、完膚なきまでの、拒絶だった。

「黙って聞いてりゃガキの分際で大人になんて口を…」

怒りの形相となった鷹岡はナイフを手に渚に襲い掛かった。

 

「ッ!」

「オラァッ!」

 

が、その鷹岡に飛び掛る2人の影が、髪を一瞬緋色にした健が逆手で抜刀し空中で回転しながら三連斬撃を、そして復活したタスクが顎に昇拳を喰らノックダウンさせた。

「こ、の、や、ろ…」

鷹岡の右頬には龍の爪痕の如き三本の傷が付いていた。逆刃の小太刀とは言え、切先は本物と遜色無い殺傷力があるので血が滲んでいた。

「今のは峰打ちだったんでその程度っすけど…、これ以上無茶な訓練を続けるんなら……この小太刀を反して…………オレガアイテニナルッスヨ………」

「それでもやり足りねぇならオレも相手だコラ」

 

 

「先生をしていて1番嬉しいのはね、迷いながらも自分が教えたことに対して生徒がちゃんと答えを出してくれた時なんです」

そう言うと殺せんせーは烏間先生を止めてした触手を離した。

 

 

烏間先生は鷹岡と健たちの間に立つとまず謝った。

「俺の身内が迷惑をかけた…。後のことは心配するな、君たちの教官を俺一人で務められるよう、上と掛け合う。いざとなれば銃で威してでもな」

「ふ…、ふざげるな、ぞんあごど…、おれがざぎにがげあ…、「その必要はありません」 

タスクの一撃で顎の骨を砕かれ発声もままなら無い鷹岡の背後に突如理事長が現われた。

「理事長…、ご用は?」

その教育理念から鷹岡の続投を警戒している殺せんせー達の前を理事長は悠然を歩いて鷹岡に近付いた。

「新しい先生の教育に興味があったので先ほどから様子を見ていました。が、鷹岡先生、あなたの授業はつまらない。暴力でしか恐怖を与えられない教師は三流以下、この学校には相応しく無い。まぁそれ以前に自分より強い暴力に負けた時点で説得力は皆無ですがね。」

巧みに恐怖を使いこなす一流以上の教育者でもある理事長はメモ帳に手早く何かを書くと判子を押してそのページを千切り、砕かれた顎を無理矢理こじ開け口の中にねじ込んだ。

「解雇通知です。以後あなたはここで学校で教えることはできない。椚ヶ丘中(ここ)での教員の任命権は防衛省(あなた方)には無い。全て私の支配下であるということをお忘れなく。

「~~~~~~~~~~~~~~っっっっっっっ!!!!!」

鷹岡は解雇通知を砕けた顎で噛み締めるとそのまま走り去ってしまった。

「相変らずあの人の教育には迷いがありませんね」

「…例えばお前は、渚君が殺し屋になりたいと言ったら、それでも迷わず育てるのか?」

烏間先生は殺せんせーに同僚として疑問を投げかけた。

「彼自身は“まだ”気付いていないが、その才能がある。お前の暗殺に役に立つかは疑問だが、対人暗殺なら有能な殺し屋になれるだろう」

「………答えに迷うでしょうねぇ」

ですが、と殺せんせーは続ける。

「いい教師とは迷うものです。本当に自分はベストの答えを出しているのか、内心は散々迷いながら、それでも生徒の前では毅然しなくてはならない。迷いを悟らせないよう堂々とね。だからカッコいいんですよ、先生という職業は」

烏間先生は迷いながらも教える先生という仕事に熱中し(ハマッ)ているのかもしれない自分に

ふっと笑いつつ、渚を労うように肩を叩き、反対の手で健の肩を“掴んだ”。

「ん?」

「さて緋村君、明日までに逆刃の小太刀(それ)を使った反省文を書いてくるように」

「は?!」

「当然だ。ヤツ相手ならいくらでも振るっていいが、さっき鷹岡相手に振るったのは明らかに過剰攻撃だ」

「ちょ…、え…」

「原稿用紙3枚だ」

 

 

「この…、鬼教官~~~!!!」

 

 

 

 

 

 




●―○―◎―●―○―◎―●―○―◎―●―○―◎―●―○―◎―●―○―◎―●―○
今回の技
龍爪閃
sxsオリジナル
逆手に持った小太刀による三連続の斬撃(イメージとしては原作の回転剣舞)

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