青い空、青い海、吹き抜ける潮風。白いワンピースに迷彩柄のベストを合わせた翼は風で飛ばないように白いつば広の帽子を押さえた。
「う~ん、つっちゃんってば絵になるねぇ」
そう言いながらスマホのシャッターを切る岬は、細い足がほとんど剥き出しのデニムのホットパンツに白いTシャツの上から迷彩柄のタンクトップを重ね、キャップを被っていた。隙間から出した長い三つ編みが潮風に靡いていた。
「岬ちゃんもその格好似合ってるよ」
「あんがと、萌っちにむらしまで選んでもらったからね。その帽子、大人っぽいね~」
「これ、健のお母さんのなんだ。昔夏場によくこれを被っていてね、まだちょっと大きいけど無理言って借りてきちゃった」
「ほぅほぅ、“お義母さん”のね」
岬は顎に手をやってにやにやしていた。
ここは、大型客船のデッキ。ほぼ貸しきり状態の船内には、椚ヶ丘中学3年E組の生徒たちが各々船旅を楽しんでいた。
「心が滾るぜ!」
「そう簡単には負けないよ。これでも秀才ゲーマーKなんだから」
迷彩柄のカーゴパンツに晒しと白いシャツのボタンを留めずに前を開いてサンダル履きのタスクは船内のゲームコーナーで神崎と一緒にノックアウトファイターで遊んでいた。
「………よし」
『素晴らしいです、雪さん。その連鎖は誰もした事がありません。動画サイトにアップしますね』
黒のスラックスに迷彩柄のポロシャツ。スニーカーという夏らしさも海らしさもない雪がパーフェクトパズル超絶連鎖をしているところを胸ポケットに入れたスマホの律が撮影していた。
「あ~あつい~、ねぇどうせE組(あんたら)しかいないんだし、全部脱いじゃってもいいわよね?」
「ダメだって姐さん、それやったら烏間先生から海に放り投げられるよ」
暑さでぐったりなイリーナに団扇で風を送る萌は、ベージュのハーフパンツにニーハイ、胸元が開いたVネックの黒シャツにボタンシャツ、スニーカーという珍しくアクティブな装いだった。
そして・・・
陽菜乃は甲板の端っこに立って大海原を眺めていた。
「あ、海鳥の群れ!」
白いワンピースにお洒落なネックレス、麦わら帽子を被った陽菜乃は無邪気な笑顔で指を指した。
「そうだね…」
その隣には、白の七分丈パンツに赤いシャツと迷彩柄のノースリーブパーカー、サンダル履きの健が日焼けとは別の意味で顔を赤くしていた。
「にゅるふふぅ…、おそらくあの下には鰯の群れがいるのでしょう…、うっぷ……」
突如、2人の後ろに具合の悪そうな殺せんせーが現れた。
殺せんせーの弱点⑧【乗り物で酔う】
「そっか~、海外の動物番組だとそこにさらに鯨が出たりするけど…、あ、イルカ!」
「おぉ!」
健もおもわず海面を飛び跳ねる数頭のイルカに見とれた。
「にゅやぁ~…、珍しいですねぇ、ここの海域にイルカはいないと思っていましたが…」
ヒュン
「あ、見てみて殺せんせー!見えてきたよ」
陽菜乃が気を反らせるかのように振るったナイフを、しかし殺せんせーは躱してしまった。
「にゅや…、やっと降りれる…、下船の準備をしましょう…、お2人もそろそろイチャつ…、」
シュンッ!
髪色をピンクにしたまま健は逆刃の小太刀を抜き打ちざま反して斬りつけた。が、これも殺せんせーに躱されてしまった。
「にゅふふふぃ…、暗殺は今夜でしょう。それまでは島を堪能しましょう…、ふにゅ…」
帽子とサングラスをかけて一足先に殺せんせーは飛んで島に上陸した。と・・・
「…ッ!?」
アロハシャツ・・・ちょうど胸の辺りの・・・ボタンが落ちた。安物を買ったせいかと思ったが、そうではなかった。
「…先ほどの一刀、完全に躱したと思ったのですが、どうやら私の見切りよりも鋭い斬撃だったようですね…」
落ちたボタンを縫い付けていた糸は恐ろしいほどすっぱりと斬れていた。
● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎
「ようこそ、ウェルカムドリンクをどうぞ」
船から下りるとそこは宿泊ホテルのプライベートビーチで、ボーイがトロピカルドリンクを差し出してきた。
「どもっす」
「サンキュー」
「どうも…」
「いただきます」
「ありがと」
「んじゃ、乾杯しよーよ」
健たちは各々グラスを掲げた。
「乾…ッ、杯ッ!」
タスクがどこかの加速する赤い警視みたいな音頭を取った。
「あ~こういうの苦手だから、飲んでいいよ」
雪からグラスを押し付けられたタスクは一気に2杯飲み干した。
「ちょっと、一気のみはお腹冷やすわよ」
「だ~いじょぶだって」
心配する萌をよそに、タスクはケラケラ笑って飾りの造花まで食べようとしたので全員で止めた。
そしてE組と殺せんせーはまずは遊ぶ事にした。よく遊び、そして殺す。これがE組暗殺教室だからだ。
「わ~い!」
陽菜乃が乗ったグライダーが空中で縦方向にUターンした。
「おい、なんか一機だけ動きおかしくないか?」
「インマンメルターンなんて絶対にできないはずなのに」
地上でスタッフが首を傾げていた。それもそもはず、陽菜乃のグライダーには丸いサングラスに口髭に豚鼻を付けた殺せんせーが引っ付いているからだ。
「ずりーよ殺せんせー!」
「機動性が違いすぎ!」
木村のグライダーがなんとか喰らいついて後ろに乗った矢田がなんとか撃ち落そうとしているが、殺せんせーのグライダーはあっさりかわしてしまう。
「ヌルフフフ、戦闘機の性能は結局のところエンジンの差です」
「てかなんだよそのブタ人間のコスプレ!」
「ポル・殺ッソです。飛べない先生は、ただの先生です」
「マッハ20の超生物が何を抜かす!」
前原や磯貝たちからの射撃も、アドリア海のエースお得意のひねり込みで後ろを取られてしまった。
殺せんせーの気を遊びで反らせている間に、他のE組の面々は計画の準備を進めていた。千葉と速水は狙撃ポイントの確保。渚たちは海中に仕込みを。
雪とタスクは烏間先生と共に客船とは別の資材搬入用の船着場に来ていた。
『おまたせしました、自律思考固定砲台防水モードです』
自衛隊の輸送船に乗せられて海中仕様となった律が到着した。
「OK律、今渚たちが海の中に仕込みをしている。殺せんせーが20分後に寺坂達と洞窟探検に行くから、その時に」
『了解です』
そしてタスクの目の前には巨大な貨物が・・・、
「明治時代の骨董品を改造したものだ。命中精度は望めないが、連射と速射性は撃ち手の力量にかかっている。できるな?」
「当然ッ!」
タスクは被せられた布を取った。そこには、鈍い鉄の細いボディが幾つもまとまり、車輪の付いた台座に固定され、その横にハンドルが付いていた。
「試験じゃ何にもできなかった分、こいつで殺ってやんぜ!!殺センコー!!!!」
次回、いよいよ暗殺開始です
逆刃の小太刀が潮風や海水にさらされまくりですが、まぁすぐには錆びませんので