暗殺~SWORD X SAMURAI~   作:蒼乃翼

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ホテル潜入部隊
緋村健、紫村雪(withモバイル律)、巻町岬
潮田渚、赤羽カルマ、茅野カエデ
千葉龍之介、速水凛香
寺坂竜馬、吉田大成
磯貝悠馬、木村正義、菅谷創介
片岡メグ、岡野ひなた、矢田桃花
殺せんせー(完全防御形態)、烏間先生、イリーナ

発症組
相楽タスク、岡島大河、三村航輝、前原陽斗、杉野友人、村松拓哉
倉橋陽菜乃、神崎有希子、中村莉桜、原寿美鈴、狭間綺々羅

看病組
明神翼、高荷萌、奥田愛美、竹林孝太郎



潜入の時間

 

 

E組潜入部隊はホテルから漏れ出る十分過ぎる明かりで崖をするすると登っていった。特に、元体操部の岡野ひなたは木の枝まで使ってまるで猿・・・、もとい軽業師のように登っていった。

「やっぱ身軽だな、岡野は…」

「あぁ、でも…」

木村と磯貝はその岡野のさらに上を見上げた。そこには岬が4本の手足をまるで別々の生き物のように動かして素早く登っていた。岩肌のわずかなくぼみに指をかけただとは思えない勢いで登り、頂上に辿り着いた。

「いっちゃ~…く!?」

果たして、岬の目の前には一番最後に登り始めた健が立ってドアの電子ロックの前にモバイル律を翳していた。

『完了です、いつでもロック解除できます』

「オーケー。あ、岬遅いよ」

「…あんたが異常に速いのよ…」

『緋村さんはほとんど垂直の所も駆け上がってました』

イリーナを背負った状態で登ってきた烏間先生を最後に全員が到着した。

『この電子ロックは私の命令で開錠可能です。また各種カメラに私たちを移さないように細工もできます。しかし、ホテルの警備システムは多系統に分かれており、私1人で全て掌握するのは不可能です』

「…流石に厳重だな。律、潜入ルートの最終確認だ」

『はい』

全員の携帯に内部の見取り図が表示されてルートが示された。

「うげ…、何これ!?」

岬がうめいたのも頷けるほどに、ルートは複雑かつ長距離だった。

『各階ごとに専用のICカードが必要となるためエレベーターは使えません。必然的に非常階段での移動となりますが、その階段もバラバラに配置されているんです』

その説明に雪が頷いた。

「テレビ局なんかと一緒だね~…、あそこもめっちゃ入り組んでんだよすぐ上のスタジオに行くにもわざわざ反対側の階段使わないといけない構造になってんの~…」

「そうなの?」

「テロリストとかに占拠されにくいようにねぇ~…」

「てか、ゆっきーってテレビ局に詳しくない?」

「………昔社会化見学でそういう説明を聞いただけだよ…」

雪が何か誤魔化すように答えたのが気になったが、烏間先生がドアに手をかけて全員に緊張が走った。

「時間が無い、行くぞ。状況に応じて指示を出すから見逃すな。そして、緋村君には殿(しんがり)を勤めて欲しい」

「了解す…」

健は頷くと最後尾に着いた。前衛はもちろんだが、最後尾も相当危険が多い。背後からの急襲に備え、現時点での最高戦力№2である健を置いたのだ。

ドアから続く廊下は無人でそこな難なく通れたが、その先に最大の難所が待ち受けていた。

そこはロビーで、カタギからかけ離れたような屈強な男性従業員が多く巡回していた。そして最初の非常階段は出て右側すぐの位置だがこの中を大人数で移動すれば必ず見咎められてしまう。

(どうする…戦力を俺と緋村君、巻町さんだけにすればおそらく潜入自体は簡単に行くが、相手の手の内や手駒が分からない以上3人では限界がある…、何より作戦の幅が限られてしまう…)

烏間先生が悩んでいると、イリーナは廊下に置いてあったワインの乗ったカートから空のグラスを手にするとそのままロビーへと足を踏み入れた。次の瞬間、歩き方はふらふらと千鳥足になり、一口も呑んでいないのに顔は酔ったように赤くなって、未成年が背後から見ても酔っ払いにしか見えない状態でふらふらとボーイの1人にぶつかった。

「あ…、ごめんなさい」

艶っぽい声と上目使いに谷間が強調されたドレス、ボーイは鼻の下を伸ばしてあっという間に色香に惑わされてしまった。

「来週あそこでピアノを弾かせてもらう者よ、早めに来て観光していたの…」

ロビーの端には車一台くらい楽に買えそうなピアノが置かれていた。経験上、このようなホテルでは演奏者が頻繁に来ると予想したイリーナの嘘は、果たして的中しボーイ達は何の不信感も抱いていなかった。それをボーイ達のアイコンタクトや頷きで確信したイリーナは一瞬ニヤっと笑うと形の良いお尻を見せつけるように椅子に腰掛けた。

「酔い覚ましにピアノの調律をチェックしておきたいの。ちょっと弾いてもいいかしら?」

「あ…、じゃあフロントに確認を…」

イリーナはすっかりデレデレなボーイの腕を引いて止めた。

「いいじゃない。あたな達にも聴いて欲しいの、そして審査して」

「し…審査?」

イリーナの周りに徐々にボーイ達が集まってきた。

「そう、私をよく審査してダメなところがあったら叱って下さい」

わざと男心を擽るような言葉遣いで自分に注目させたイリーナはおもむろに鍵盤に白魚のようにたおやかな指をそっと置いた。

♪~~~

たった一音、響かせただけでボーイ達の視線と意識はイリーナに釘付けになった。

手入れの行き届いた光沢ある長い爪があるのに引っ掛けることなく鍵盤の上を流れるように指を滑らせ音を奏でているだけではなかった。全身を使い自らの美貌を余すことなく艶やかに活かして“惹きつけさせる音色”は思わず健たちすら見蕩れてしまうほどだった。

「ねぇ、そんな離れた所にいないで、もっと近くで確かめて」

イリーナは非常階段の近くのボーイも呼んで、ついにロビーから人の目を無くしてしまった。

(………)

それを確認したイリーナはそっと左手を烏間先生たちに見えるようにハンドサインを送った。

(20分稼いであげる、行きなさい)

それを確認すると、烏間先生を先等にE組は廊下から非常階段へと移動を始めた。

 

 

 

 

 ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎

 

 

 

 

一方、海岸レストランでは萌が陣頭指揮を取って発症組を看病していた。

「とにかく発熱がひどいわ。脳にダメージがいかないように頭だけは冷やしておいて」

「了解。奥田さん、手伝って」

「は、はい」

合流した翼も奥田と一緒に必死に氷の入ったバケツを運んでは氷をビニールに入れて氷嚢を作っていた。

「あ、あのこれだけ強力なウィルスだと島中に感染しちゃうんじゃ…?」

奥田の不安を、竹林は否定した。

「いや、たぶんそれはない。犯人は『感染力は弱い』と言っていたそうだし、おそらくは…

「経口感染ね。飲食物に混入されたと考えるべきね。だから他人に感染する心配はないってケン君たちには伝えておいたけど…」

萌はそこで言葉を切ると、ふと疑問に思った。

(でもだとしたら…、あのレストランで?いや、調理していたシェフは複数人いたし味見で感染しているかもしれない。けど、烏間先生の部下が調べたけどあそこのスタッフは発症もしていない。給仕(サーブ)は片岡さん達が担当していたからそのタイミングでの混入も無理…、それに夕食を食べずに映像編集をしていた三村君に岡島も発症しているということは…)

萌は推理を一時中断して、今は看病に専念することにした。

「にしてもよぉ…、ビッチセンコーは大丈夫なのかよ…、戦闘力なんてせいぜい色仕掛けで初見殺しの不意討ち程度で防御力なんて紙も同然じゃねぇか…」

タスクがホテルの方を見上げながら訊いてきた。

「大丈夫よ。そりゃ普段の姐さんは殺せんせーを筆頭に皆からおちょくられてイジられてるけど、実際は凄い女(ヒト)なのよ。優れた殺し屋は万に通じる。特にハニートラップを得意とする姐さんは潜入に必要な技能(スキル)は何でも何でも身につけているわ。少なくとも、顔面蒼白で汗まみれでろくに動けないあんたに心配される謂れは無いわよ」

大人しく寝てなさい、と萌はタスクの顔面に濡らしたタオルをぶつけた。

「萌ちゃん、氷と水こっちに分けて」

「こっちも無くなったから今持ってくるわね」

そう言って立ち上がった萌だったが・・・、

 

「あ…!」

 

バランスを崩してタスクの上に転んでしまった。

「大丈夫?!」

「大丈夫大丈夫、ちょっと急に立ったから立ち眩みしただけよ」

「いや、萌ちゃんより下敷きになってるタスク君…」

「あらヤダ」

萌がその豊満な胸を浮かせるとタスクは気を失っていた。

「ふう、これで少しは静かにあったわね」

萌は胸で男の顔面を押し潰してしまったなとなど気にするでもなく、空のバケツを持って行った。

 

 

 

 

「………~~はぁ…、はぁ…………はぁ~…」

 

 

そして暗い廊下で1人になると大きく息を吐いて壁によりかかった。その背中は汗でびっしょりと濡れていた。

 

「姐さん…、みんな…、早く………解毒剤を…」

 

萌はハンカチで顔の汗を拭くと、イリーナに教わった血流による顔色操作術で平静を装って、また看病に戻った。

 

 

 




北海道編でも、恵参戦しますね
てゆーか左之助の言い方(笑)

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