暗殺~SWORD X SAMURAI~   作:蒼乃翼

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今回、健たちは活躍少なめです


拘りの時間

烏間先生の飛び膝蹴りが直撃して気絶した毒ガス使いの男をガムテープで拘束してテーブルの影に隠した。その烏間先生はというと・・・、

「くそ…、ダメだな、普通に歩くふりをするだけで精一杯だ………」

磯貝に肩を借りて辛うじて歩行ができる状態だった。

「いや、像すら気絶する毒ガス直撃して歩ける方がおかしいって…」

「時計方麻酔銃もたぶん眠る前に針を銃で撃ち出して痛みで無理矢理覚醒しそうね」

「あの人も大概化け物だよね…」

雪と(どこぞの国民的推理漫画ネタを言っている不破さん)と岬に軽くディスられている烏間先生に、健は訊いた。

「戦闘可能まで回復するのにどれくらいっすか?」

「万全まではいかないまでも…、あと30分もあればだいたい半分の力が出せる所までは…」

つまり、それまではほとんど戦線復帰ができないということだ。

「俺は中盤で前衛と後衛に指示が出せるようにしておく。緋村君には引き続き殿を頼む」

「はいっす」

そして前衛には先ほどの失態を挽回するために寺坂と吉田が立った。

移動を始めた時、健はカルマが何やら毒ガス男の身体を弄っているのに気づいた。

「カルマ?何してんの、行くよ」

「あぁ、あったあった。今行くよ」

カルマは何かをポケットにしまいこんだ。健の位置からはそれが何かは分らなかった。

最上階へ向かい始めたE組だが、その足取りは確実に遅く重くなっていた。殺せんせーは完全防御形態で文字通り手も足も触手も出せない。イリーナは一回ロビーで自分たちを先に行かせるために囮となった。そして烏間先生は毒ガスにより戦線離脱。

自分たちより経験と知識を積み重ねてきた大人(プロ)の凄さを目の当たりにして、さらにこの先にも複数人待ち受けていると考えると、自分たちだけで勝てるのか不安になり完全気後れしていた。

 

 

「いやぁ、これぞ『夏休み』という感じですねぇ」

 

 

顔面に太陽を浮かび上がらせた殺せんせーがその空気をぶち尾壊した。

「何を暢気なことを!」「1人だけ安全だからって!」「ベンキマンに流されなさい!」「渚、ぶん回して酔わせろ!」

「にゅや~~~~!」

E組全員(不破さんが女子にあるまじき単語を口にしていたような・・・)からのブーイングを受け、さらに渚に振り回された。

「殺せんせー、なんでこれが夏休みらしいの?」

ぐったりしながらも殺せんせーは渚の問いに答えた。

「先生と生徒は馴れ合いではありません。そして夏休みとは先生の庇護が及ばない所で自立心を養う場でもあります。大丈夫です、普段の体育で学んだことをしっかりやれば、そうそう怖れる敵はいません」

そこまで言うと殺せんせーはE組全員を見回した。

「大丈夫、君たちならクリアできますよ、この暗殺夏休みを」

 

 

 

 ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎

 

 

 

 

5階展望回廊。

全体が展望スペースになっていて全面ガラス張りのフロアは見通しは良いが廊下は狭く、ほとんど一列状態で一本道の廊下を道なりに進むしかなかった。廊下の照明は薄暗いが、外の星明りやそれ以上に下の歓楽街のネオンの光が差し込んでいるので見通しは良かった。

「!」

先頭を進んでいた寺坂がハンドサインで後続をストップさせた。ゆるやかな曲線を描く廊下は遮蔽物が無く、壁に沿ってゆっくりと覗くと・・・、

 

 

「………」

 

 

ガラスに背を預け静かに佇んでいる長髪の男がいた。服装だけなら先ほどの毒ガス男と同じ観光客でも通りそうだが、それ以上に纏っている“別のもの”にE組全員が気づき始めた。

すなわち、殺気。

「あれ…完全殺る側の人間だよね」

「うん、あたしらでもわかるもん…」

(くそ…、狭くて見通しの良いこの状況では奇襲や突破も緋村君以外には困難だ…、くそ、何故暗殺陽のエアガンしか持っていないんだ…)

そんな雪と岬の言葉を聞きながら、烏間先生は実弾銃が無い現状を嘆いていた。

 

 

ビシィッ!!

 

 

突如、男の背後のガラスに皹が入った。男が手を離すと、ガラスにはくっきりと握った跡が残っていた。

「つまらぬ。足音から察するに手練と呼べる者はせいぜい1人ぬ…、精鋭部隊出身の教師もいるということだが、スモッグのガスにでもやられたかぬ?歩行もおぼつかないようだぬ」

(足音だけで戦力把握できるとか…、純粋な戦闘力だけならロブロさん以上か…)

「………ねぇ、あの人…、」

「うん、なんか…」

男に恐怖しながらも、岬と雪、それに他のE組も抱いた違和感・・・

 

「ぬ、多くね?おじさん」

「さてはところ天の助のファンね」

 

カルマ(と、寺坂の影から不破さん)が指摘した。

「ぬを付けるとサムライっぽい口調になると小耳に挟んだぬ。カッコよさそうだから試してみたぬ。だがまぁ間違いなら、ここにいる全員を殺してぬを取ればいいだけぬ」

(あ~…、典型的な間抜けな勘違い外国人か…)

呆れながらも健は小太刀を握り直すと一番後ろから戸惑い、立ち竦んでいるE組の横を通って前に出た。

「侍は語尾にぬなんてつけないでござるよ。本物の侍をみせてやるでござ…、って痛てててツ!」

普段は絶対にしないござる口調で健は最前列に立・・・、とうとしたらカルマに髪の房を引っ張っられた。

「何するでござるかカルマ!?」

「ああ、いいて無理しなくて。いい?ぬオジサン、サムライってのは語尾に、~っすって付けるんだよ」

「それも違うっすからね!」

即興漫才をしながらも、健はぬ男の手に注意を払っていた。

「…素手、それがあんたの暗殺っすね?」

「ああそうだ。飛行機だろうとどこだろうとボディチェックを素通りできるメリットは大きいぬ。相手に警戒されることなく近付きざま頚椎を一捻り、その気になれば頭蓋骨も握り潰せるぬ」

男の言葉に健は後ろのE組が恐怖で一歩退いたのを気配で感じた。

「だが面白いもので人を殺す術を鍛えるほど暗殺以外でも試したくなるぬ。すなわち、強者との戦闘、殺し合いぬ」

ぬ男が広げた両手を挙げてごきごき関節を鳴らした。健は逆刃の小太刀の鯉口を切・・・、

 

「緋村頭下げて~~」

「ッ!」

 

後ろから暢気な声と驚異を感じた健は(もともと低い)頭を咄嗟に下げた。その頭上を観葉植物が通り過ぎガラスに鉢が激突し、ぬ男より大きな皹が入った。

「どう?ぬオジサン、普通の中学生でも窓ガラスに皹くらいは入れられるよ。しかもあんたより大きなね」

「おいカルマ、ここは俺が…」

「待ちなよ、相楽はいないし烏間先生も戦えない。現段階でのこっちの最大戦力は緋村なんだよ。こんな2面程度で出張ることないって。アイツ如き、俺だけ十分、でゴザルよ」

(………顎が引けている…)

これまでのカルマは余裕をひけらかし相手を見下すように顎を突き出していた。

「危ないと思ったらいつでも助太刀するからな」

「たぶん必用ないと思うけど、ヨロシク~」

口の軽さや悪さは変らないが、今のカルマは何かが違っていた。

「緋村君、彼1人では危険だ。ここは2人掛りで…」

「ちょっと待ってよ、烏間先生」

雪もカルマの変化に気づいたのか、慌てることなく静かに見守っていた。当然、殺せんせーも気づいていた。

「期末試験以来、鳴りを潜めていましたがどうやら敗北からしっかり学んだようですね」

「そだね~、発破かけた甲斐があったよ」

ぬ男はジャケットを脱ぎ、臨戦態勢となった。

「いいだろう、赤髪の少年よ。試してやるぬ」

 

 

 

 

 ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎

 

 

 

 

戦いの火蓋はカルマが切った。

観葉植物を鞭のようにしならせながら振るったが、ぬ男はあっさり受け止めると、そのまま握り潰してしまった。

「柔い。もっと良い物を武器にするぬ」

「…必用ないね~」

ぬ男は右手を突き出してきた。カルマはすぐに観葉植物を手放すと手首を叩いて軌道をそらした。反対側から迫る手には距離を取って躱した。

「ほぅ…」

ぬ男が次々と繰り出す攻撃を、カルマは手のひらに触れないように手首を狙っていなし、あるいはスウェーバックで躱し続けた。防戦一方だが、カルマは確実にぬ男と渡り合っていた。

「すご…、カルマの奴いつの間にあんな動きを…」

岬の疑問には殺せんせーが答えた

「烏間先生の防御テクです。君たちの相手をしている時の動きを見て覚えたのでしょう」

見取り稽古、という言葉の通り実際に動くのではなく動きを見る稽古自体は古流剣術でも珍しくない。ただ、見て覚えるのと見て覚えて動けるかは別問題であり、それをさらに実戦で使えるとなると・・・、

「…やっぱカルマは戦闘センスなら頭一個抜いてるね~…」

「え、緋村や相楽は?」

「健は単純な稽古の積み重ね、タスクは測定不能」

岬と雪がそんな会話をしていると、ぬ男の猛攻が止まった。

「どうした?攻めて来なければ勝てぬし永久にここを抜け出せないぬ」

「どうかな~、俺がアンタを引きつけている間に皆1人ずつ先に行かせる作戦かもよも~。少なくとも、めっちゃ速いサムライと壁走れるくノ一がこっちにはいるから」

「…」

「大丈夫、そんな狡いことは無しだよ。今度は俺から行くよ。あんたに合わせて、正々堂々素手のタイマン張らせてもらうよ」

「ふっ…、良い顔だ少年戦士よ。お前となら、暗殺稼業では味わえぬフェアな戦いができそうぬ」

今度はカルマが攻めた。体格差からのリーチのハンデをカルマは足技を使うことで補った。

足払い、中段蹴り、で牽制しつつ指三本立てた目潰しも容赦無く繰り出した。目潰しは二本よりも三本の方が当たる確立が高いことをカルマは知っていた。

流石に大きく上体を反らして躱したぬ男の脛にカルマのローキックがクリーンヒットした。

「クッ…」

思わずぬ男はしゃがみ背中を向けた。

カルマはチャンスと見て一気に間合いを詰めた。

次の瞬間・・・!

 

バシュッ

 

ぬ男の手にはガスの噴射機が握られていた。それは先ほどの毒ガス男の物だった。

「長引きそうだったので、スモッグのガスを使わせてもらったぬ」

悪びれることなく、ぬ男は立ち上がった。ダメージもほぼ皆無の様子だった。

「ちょ!ずるい!そんなの使って何がフェアさ!」

いざとなれば援護しようと飛クナイを構えていた岬の抗議もぬ男は軽く受け流す。

「俺は一度も素手だけとは言ってないぬ」

ぬ男は片手でカルマの頭を掴むと華奢ではあるが中学生男子を軽々と持上げてた。

「拘る事に拘り過ぎない、これもこの世界で長く生きていく秘訣だぬ。至近距離からのガス噴射、予期していなければ絶対に防げぬ」

 

 

ブシュッ!

 

「な…、んだと…」

気絶したと思われたカルマの口元にはハンカチが、そして手にはガスの噴射機が握られていた。

「奇遇だねぇ、お互い同じ事を考えていた」

カルマは面目躍如な悪魔の笑みを浮かべた。

「何故…、お前がそれを…、そもそも何故ガスを吸っていない!」

ぬ男はナイフを取り出すとカルマ目掛けて突き出した。しかし、カルマは慌てることなく腕を捕らえると床に叩きつけて肩と肘を極めた。

「ぬぅう…」

ぬ男はさらにもう1本のナイフを取り出したが・・・

「ふっ!」

岬の投げ打った飛クナイがナイフを弾き飛ばし、そこに一気に間合いを詰めた健が納刀状態の小太刀を使って関節を極めた。

「ほら、寺坂、さっさと続きな。あんな化け物数で制圧するしかないっしょ」

雪に肩を叩かれた寺坂を始め、E組が一斉にぬ男に圧し掛かった。

「ぬぎゃ!」

 

 

 

 

 ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎

 

 

 

 

ぬ男はガムテープで全身を拘束されたしまった。

「毒ガスのおっさんが持ってた身使用のをくすめたんだよね~」

「………何故だ、俺のガス攻撃をお前は読んで吸わなかった…、俺は素手しか見せていなかったのに…」

「当然っしょ、素手以外の全部を警戒していたから」

カルマはあっけらかんと答えた。

「アンタが素手の勝負をしたかったのはホントだろうけど、この状況で素手に固執し続けるようじゃプロじゃない。俺らをここで止めるためならどんな手段でも使うべきだ。実際ナイフ隠し持ってたしね」

カルマはぬ男の前に座って目線を合わせた。

「あんたのプロ意識を信じた。信じたからこそ、全力で警戒していた」

そんなカルマを見ながら、岬はうんうんと頷いていた。

「そうだよね~、葵屋(ウチ)も和食が売りだけどもてなすためなら洋食でも中華でもお出しするのと同じだよね」

「…それ微妙に違わない?」

呆れる雪に殺せんせーが補足した。

「カルマ君は天才です。勉強でも喧嘩でも大きな敗北をした事が無かった。しかし、期末試験で敗者となり紫村君に挑発された事で気づいたのでしょう。敗者だって自分と同じ人間で色々と考えているのだと。それに気づいた者は必然的に勝負の場で相手を決して見くびらない。自分と同じ様に相手も考えていないか、頑張っていないか、相手の事情や能力をちゃんと見るようになる。敵に対して敬意を持って警戒できる人。戦場ではそういう人を“隙が無い”というのですよ」

その隙の無いカルマはごそごそと何か袋を取り出した。

「な…、何ぬ!?それは…」

「え、わさびとからし」

「ぬな!?」

なにやら空気が変な方向に向いてきた。

「これ鼻の穴にねじこんで~、鼻クリップでふさいで~、口にキャロライナリ―パーぶち込んで猿轡噛ませて出来上がり~」

「ねぇ殺せんせー…、カルマのこの先って…、」

「思いやられますねぇ…」

「あ、そうだ」

カルマはわさびとからしの手を止めた。

「ねぇぬオジサン、あんたらの仲間あと何人いんの?オジサンより強い?」

「………ふん」

「えい」

そっぽを向いたぬ男の鼻にカルマはからしを突っ込んだ。

「ぬぎゃ!?待て、わかった…、全ては言えぬが、俺よりも素手が強い男ならいるぬ…」

そして、とぬ男は続ける。

 

「その男は発症したお前らの仲間の所にボスの命令で向かっている」

 

(((!!!)))

 

E組全員に衝撃が走った。

 

 

 

 

(翼………、頼む)

 

 

 

 

 




次回はオリジナルです

SQ最新号感想
来月号からあの二人参戦!?
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