暗殺~SWORD X SAMURAI~   作:蒼乃翼

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夏休み編のsxsオリジナル回です


二重の時間

健たちがホテルに潜入している頃、ビーチに面したテラス席では状況が悪化する一方だった。

発熱、それによる多量の発汗。腹痛に嘔吐。

感染の恐れのある処置や処理は萌と竹林が行い、冷やす氷の補充や交換は翼、ボトルで水分補給して回るのは奥田が担当し、気休め程度の対処療法で時間を稼いでいた。

「ふぅ…」

翼はマスクを外すと汗を手の甲で拭った。

「ごめんね…つーちゃん迷惑かけて…」

「ううん、陽菜乃ちゃん迷惑だなんて」

翼は汗で額に張り付いていたゆるふわ天然パーマの陽菜乃の髪をずらすと濡らしたタオルとビニール袋に氷を入れた即席氷嚢を乗せた。

「大丈夫、すぐに健が薬持って帰ってくるよ」

「あはは~…、ひーちゃんならホテルから跳んで帰ってきそうだよね~…」

「流石にそこまで跳べないよ、健は」

翼はおもむろに陽菜乃の手を握った。

「…つーちゃん?」

「あ、なんでもない」

翼は立ち上がると看病している奥田や竹林の方を振り返った。

「ごめん、ちょっと抜けるね」

翼はそう言うとテラスから浜辺の方に走って行った。

 

 

 

 

 ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎

 

 

 

 

「はぁ…」

翼は迷彩柄のベストを脱ぎ捨て、ワンピースの腰紐を一度解くと裾をたくし上げて膝上丈にして余った部分をまとめて腰紐で結び、いつもは右側の房にだけ巻いているリボンを解いて髪をうなじのあたりで結び、履いていたスニーカーと靴下も脱いで素足になった。

(暗殺の訓練始めてからだいぶ勘は戻ったけど…、今の私でどこまでやれるかな………)

自分の両の手のひらを見つめていた翼は背後に気配を感じて右の手刀を振り向きざま振るった。

 

「うわっ!」

 

「…萌ちゃん?!」

「びっくりしたぁ~」

翼の手刀は萌(の胸)に当たる寸での所で止められた。

「どうしたの?」

「それはこっちの台詞よ、急に出てっちゃうんだもん。私には翼ちゃんやケン君みたいに敵の気配を察知することはできないけど、身近な人が異変を感じた事くらいは気づくわよ」

「………はぁ、何か武器ある?」

訊かれた萌は胸の谷間から掌に収まりそうな小型の銃を取り出した。

「姐さんから護身用にって渡されたデリンジャー…、型のスタンガンよ」

「わかった…、それじゃあ私が撹乱するから隙を見てそれで…」

「まさか私たちが最後の砦になるなんてね」

「来たよ」

ホテルへ続く薄暗い道から一人の男が現れた。

烏間先生よりも背丈も横幅も大きな男は寺の僧侶が着るような法衣を身に纏っていた。

「…っ、」

「どちらさま?今ここのレストランは私たちの貸切なんだけど…」

「………お前たちを…、楽にしにきた………」

静かに言った言葉に翼と萌は一気に戦闘モードになった。

「っはぁ!」

翼は素足で砂浜を蹴り出すと大男に肉迫して、右の掌底による昇打を放った。

 

 

バシン!

 

 

果たして、翼の掌底は前腕部に阻まれた。

 

 

“硬く筋肉質で華奢な腕に”

 

 

「え…?」

「ちょ…、アンタ…」

翼と萌と大男の間に割って入って翼の攻撃を防いだのは、タスクだった。タスクは翼を担ぐと一足飛びで萌えの所まで下がった。

「…はぁ…、はぁ…、はあ…」

翼を下ろしたタスクは上半身裸で汗まみれで肩で息をしていた。それでも眼だけは野生動物のようにギラつかせて大男を睨みつけていた。

「どうして…」

「バサの字…、萌を頼む」

「え…?」

「ちょっとアンタ自分の状態わかってんの!?体温だって40℃超えてるし、今一番の重症者は…」

「お前だろ」

「っ!」

激昂する萌をタスクは一言で黙らせた

「さっきおめぇのおっぱいで顔面塞がれた時、すげぇ汗かいて体温も熱かったぞ…」

「………」

「それ本当!?でも萌ちゃん顔色…」

「ビッチセンコーに顔色コントロールする方法教わってたろ」

「っ、なんで…知ってんのよ…」

「もぉいいだろ、後は俺に任せろ」

タスクは手汗びっしょりの手を萌の頭を乗せた。

「あ~ぁ…、保健委員なのに…、」

「大丈夫、大丈夫だよ、萌ちゃん」

翼は萌の首に腕を回すと優しく包み込んだ。

「…そうね…、あとは…お願い」

萌の顔色が一気に青白くなると全身から汗が噴出し、その場に崩れ落ちた。

「さぁて…、と」

タスクは両拳をぶつけ合わせた。

「こっから先には行かせねぇぞ」

 

 

 

 

 ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎ ● ○ ◎

 

 

 

 

「オラッ!」

タスクは大きく振りかぶると拳を振るった。常であれば大人相手でも一発で倒せる拳だが・・・、

「………」

大男の分厚い筋肉に跳ね返されてしまった。タスクはE組の中でも一番タッパがあり体重もあるが、大男は頭二つ分高く、法衣の上からでも分かる程盛り上がった筋肉から鑑みるに、明らかに体重もタスクより20~30kgは重そうだ。

そんな差がある中での一発の拳はほとんど効いていなかった。

「どらぁぁぁっ!!」

タスクは劣る威力を手数で補おうと何度も何度も拳を振るった。しかし、今のタスクは発熱で身体能力も数段落ちていた。いつものキレはなく、打つたびに威力もスピードも落ちていった。

「っだらぁ!」

タスクは渾身の力を込めたハイキックを大男の顔面に叩き込んだ。それでも大男の太い首はその衝撃を容易く吸収してしまった。

「………」

大男はタスクを突き飛ばした、といっても、軽く押しただけだった。

「くっそ…、がぁ…、はぁ…はぁ…」

砂浜に尻餅をついた。

「………もういい、今楽になる薬を…」

「んなこと、絶ッ対ェさせねぇぞ!!」

吠えたタスクは獰猛な獣のように大男に襲い掛かった。

手足もろくに動かない身体を無理矢理動かして前方へ跳び、上体を弓なりに反らせた。今のタスクにできるのは、相打ち覚悟で人体で最も重い部位、頭部をぶつける頭突き(パチキ)だけだった。

「ガァァァァ!!」

上半身が元に戻る勢いを乗せた渾身の頭突きは大男の手ぬぐいを巻いた頭にクリーンヒットした。

 

ゴグドゥン

 

鈍器同士がぶつかる鈍い音が夜の浜辺に響いた。次の瞬間、反動で後ろに吹っ飛んだタスクが砂浜に背中から受身も取れず落ちた。柔らかい砂地とはいえ、背中からそのまま落ちれば肺が衝撃で吸うことも吐くこともできず堪え難いほど苦しいはずだ。

「ッ…!……はぁ…、ゲホッ…、はぁ…はぁ…」

サイヤ人みたいな髪も今や汗でべったりと額にはりつき、そこから血が流れた。目の焦点も合っておらず今の一撃で脳震盪を起こしたようだ。

そしてそれだけの攻撃を喰らってもなお・・・、

「………」

大男は直立体勢でその場に佇んでいた。

(そんな…、ウィルスに感染しているのを差し引いても…、あのタスク君の攻撃が…、しかも…)

翼はタスクと大男の足元を見比べた。タスクの方は足跡が何箇所も踏み重なって荒れていた。しかし、大男の方は一歩たりともその場から動いていなかった。

「ぜひゅ…、ひゅっ…」

もはや呼吸すらままならないタスクは、それでも大男に向かって足を引きずりながら向かっていった。

「タスク君!もう止めて!それ以上は身体がもたないよ!」

しかし、翼の悲痛な叫びはタスクの耳には届いていなかった。

 

 

~~、~~、~~~~!

 

(あ~…バサの字がなんか言ってんなぁ…聞こえねぇけど)

タスクは前進した。感覚は無いが。

 

(ったくよぉ…、最近オレ良いとこ無しだな…)

タスクはそのまま前進し続けた。

 

(鷹岡にしこたまボこられて…)

また一歩、

 

(イトナん時はどっちも何もできなかった。やべぇって身体が叫んで動けなかった…)

また一歩、

 

(今度はワケわかんねぇウィルスにこの様だ…、情けねっぇたらねぇぜ…)

タスクの視界は徐々にぼやけてきた。

 

(オレの残ったもん全部くれてやる…、命を乗せた一発だ…!)

タスクは腕を腰の高さまで挙げた。

 

(今ここで死んでも…、オレは…、E組を…、仲間を…、)

タスクは右腕を振りかぶった。ごく自然に、力まず。

 

(守る!)

しかし、握りの甘い拳は第二関節部が大男の腹部に当たっただけだった。

 

 

 

 

帰ってきて

 

 

 

 

(!?)

突如、タスクの耳に、否、頭の中に神崎の声が響いた。それは、テラスを抜ける時隣に寝ていた神崎がタスクのシャツの裾を掴んで言った言葉だった。

 

 

 

 

大男の接近には実はタスクも気付いていた。床に寝ていた性で地面から伝わる音から強者の気配を察知して意識を取り戻したのだ。

(…バサの字…、萌も後追ってったな、熱我慢してるくせに…)

タスクはおもむろに起き上がった。竹林と奥田はちょうど反対側で看病に追われていたので気付いていなかった。周りも熱にうなされてそれどころではなかった。

 

 

「…待って」

 

 

外に出ようとするタスクのシャツの裾を、神崎が掴んでいた。

「相楽君…、行っちゃダメ…」

自身も発熱で苦しいはずの神崎が必死に訴えてきた。

「悪ぃな…けど、オレがやるしかねぇんだよ…」

「…うん、わかってる、相楽君がこういう時真っ先に行っちゃうって…」

だからね、と神崎は裾をさらに強く掴んだ。

「必ず帰ってきて」

タスクは神崎の眼を真っ直ぐ見て、そして・・・

「おう」

ただ一言、そう応えた。

それだけ聞いて安心したのか、神埼は糸が切れたように眠った。

「…」

タスクは神崎が裾を掴んだままなのに気付いて、どうしたものかと少し考え、脱いでそのまま神崎にかけてやった。

 

 

 

 

(死ねるかぁっ!)

 

タスクの意識が完全に覚醒した。

(命乗せた一撃なんざたかが知れてる!けどそれよりもっと重いもんを…、E組(オレラ)は知ってる!)

 

タスクは握りの甘かった拳の握り締め、さらに一歩前に踏み出した。最初の一撃が入ってからこの間、その刹那。

 

 

「おるあぁっ!!」

 

 

「ぐ…!」

大男の鳩尾にタスクの一発二撃の拳が入った。

「…見事…」

それだけ呟くと、大男は口から血を吐いて仰向けに倒れた。

 

「ぜは…、ぜ…、はぁ…」

タスクは今の一撃を放った拳を見つめた。

「生きようとする意志、それが一番強ぇってことだろ、殺センコー」

 

 

タスクは右手をホテルに向けて握った。




今月のるろ剣
既存の猛者半分と新キャラでもう半分のチームかな
不二もいるし、たぶん剣道師範って永倉新八だろうし
あとゴールデンカムイの影響か、土方歳三も絶対生きてるだろと、思い込んでいる

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