翼 作:お手柔らかに
その事態に慌てた魔女が焦って霊体を身体に戻してくれたけどちょっと遅かったみたいで正面からまともにそいつを見てしまった…マジキモい
なので腹立ち紛れに思いっきり魔力を高めた掌でそいつを突き飛ばすと軽々と吹っ飛びそれにより距離を置けた僕は安心してえずけた
人形のように動かない僕の思わぬ反撃に警戒して攻撃の手が緩んでくれて助かった
そのお陰で気を取り直せた僕の意思に応え胸当てとバックラーに剣と弓が現れたから装備したんだ
もう二度と奴には近寄って欲しくない僕は矢継ぎ早に矢を放ち攻撃を仕掛けるけど木の矢が通じるような相手じゃやい
(どうすれば良いの?)
―火に弱いんだよ、見りゃ解るだろう?―
(それは解るけど僕の火力じゃ力不足でしょ?)
―その為の魔力の弓なんだろう?―
(ど、どうゆー事?)
―それ位自分で考えなっ!―
(ケチっ!)
仕方無いので弓に魔力を込め矢を放つ
矢は敵の足に突き刺さり燃えたが直ぐに矢が燃え尽きると奴の身体を燃やす火も消えた
ならばと二本続けて放ち更に続けて二本と言ってもその早さは知れている
一本目が燃え尽きる寸前に二本目をようやく放ったのだけど…
(え?奴の身体を燃やす火が消える前に新しい火が…)
ならばと更に魔力を込めた矢を出来るだけの早さで放ち続けた
荒い息を吐きながら矢を放ち続ける僕に
―もう必要ないよ―
誰かの声がした
「ま…未だ邪悪な気配は全然弱まってない…逃げようとこちらの隙を伺ってるんだから…」
―諦めな…お前さんの底無しの魔力は尽きてないけどその魔力を操る精神力がそろそろ限界だ…―
(で…でも災いの芽はしっかり摘んでおかないと…)
―もう立ってるのもやっとなんだろ?―
(くっ…ぼ…僕は弱い…こんなんじゃなにも守れやしない…)
僕の矢が止まりその一瞬の隙をついて焼け焦げた塊から何かが逃げ出した
でもそれに気付いたのは僕と魔女だけ
(仕方無い…のかな?後一歩のところで取り逃がしちゃったけど…
さて…これからどうしようか?何か約束もあったような気もするけど…)
気が付くと僕は女の子逹に取り囲まれていた)
ヤバい逃げなきゃっ!と、思ってたんだけど身体はもう限界で逃げるどころか立っているどころか身体を支える事すらできやしない
(あー、地面とお友達になりそうだな)
等と近付いてきた地面をぼんやり見ながらそんなアホ事を考えてたんだけど地面とキスする事にはならなかった
何故ならば、歴戦の戦士らしき女性がボクの身体を受け止めて屈辱のお姫様だっこしてくれたからだ
『下ろせっ!』
そう叫んで暴れて抵抗したつもりだったけど口パクで声は出ず辛うじて右手が少し動いただけでそのまま意識を失った
昏睡状態のまま一週間が過ぎ早朝目を覚ました僕は寝すぎのせいか頭がぼーっとしているけどちょっと意識がとんだとしか思ってないボクは状況がわからない
目を開けると嫌でも見慣れた天井だったと言うかなかなか体調がよくならない僕はベッドの住人だからそこから見える景色しか知らないんだけどね
ボクが目を覚ましたことに気付いた世話係りの女性が
「お目覚めですかお嬢様?」
そう聞かれたけど勿論僕の耳には届いていない
「……」
返事の無いボクを心配そうに顔を覗き込んでいるけど表情の無いままのボクは
「あいつはどうなったの?追撃は?」
と、言ったけど当然意味は通じないからボクが目を覚ましたと知らせを受けた司令官がボクの元を訪れたから
「気付いてる?アイツを伐ち漏らしたって事を…未だ警戒を解くのは早いんだから今のうちに食事でも摂っておきなよ?」
そう言ったけど
「職業柄鍛えてあるから数日くらい食わなくても平気だから心配無用だ」
そうそう言われて無駄に張り合おうと
「ふ、ふんっ鍛えてないボクだって数日位なら平気だもんねっ!まぁたまにいきすぎて死にかけたことも有るけど誠に残念なことに未だ生きてる」
そう笑って言ってやったらこめかみこがピクピクしてるのを見てざまあみろと思った
素数でも数えてるんだかブツブツ言ってた指令がボクを見ながら
「ひとつ聞くが何故お前を助けに来る者が居ないのだ?」
そう言われて
「はぁっ?そんな事ボクが知るわけ無いし誰に頼めってゆーわけ?
自慢じゃないけど生まれてこのかたそんな事頼める人なんか居ないし頭を下げるつもりなんか無いんですけどぉ~っ?」
そう言ってケタケタ笑いながら
「もっとも貴女がボクの事を子供扱いしないでくれるなら…」
「しないのならばら?」
恋人の助けを待つの悪くないのかも?」
そう言うと
「お前の母親とそれほど変わらない歳の私がか?」
「やっぱり子供扱いっ!」
僕がむくれ顔を背けて言うと喉で笑った女戦士は
「お前、可愛いな…」
そう言うと僕の顔を自分の方に向き直させて顔が近付いてきた
(えっ、え~っ!こういう時は…どうしたら…
そ、そうだ取り敢えず目を閉じて相手に身を任せれば…)
ピシッ
鼻の頭を弾かれて
「お前…真っ赤…それに緊張して身体強張ってるぞ…
そんな…歯を食いしばって…お前ホントにお子様だな…」
笑われた僕はもう返事もしなかった
僕達の会話が途切れたのを見て一人の少女が近付いてきた
「司令、お食事の支度調いました」
そう言って退出する後ろ姿を見送り僕に
「食事の用意が出来たそうだ、行くぞ」
そう言って僕の返事を聞こうともせず立ちあがった
「降ろせっ!僕はお腹減ってないから食事は必要ないし何よりあんたと一緒に食べる気はない」
「降りたかったら自力で降りろ」
勿論僕の身体が動かないのを知った上での発言でムカつく
(くそっ!何処までも子供扱いしやがって…)
―魔力を高めな…そうすりゃ一泡吹かせるくらいには身体を動かせる―
との助言を受けじっとその機会を伺っているとその時はあっさり来た
一瞬の隙をつき司令官様の酒盃を奪うと呆気にとられた人々を尻目に一気に飲み干し後の事は全く覚えて無い
何故ならば…酒を呑んだ僕は酒に呑まれてしまったからだ
最初のうちは司令にくどくどと絡んでいたらしいがそのうちワーッと泣き出して…
誰彼構わずにあんた等の司令官はと司令の愚痴を言い出し…
やがて暑い暑いと騒ぎだし服を脱ぎ始めたのだ
流石に慌てた司令に寝台に連れて行かれたら途中でコテンと寝たそうだ
その噂が広まって以来貴族逹(エロおやじたち)は常に僕に酒を飲まそうと躍起になるが記憶の無い僕にはその意味がさっぱり解らなかった
知ってそうな人に何度聞いても皆苦笑いするだけで誰も教えてくれなかったし…
一体自分が何をやらかしたのか知りたいような知るのが怖い僕だった
翌朝には仮補修を終えた座敷牢で目を覚ました
勿論この時点ではまだ夕べ酒に呑まれて醜態を晒したことは記憶に無く…
僕の世話係りの女の子のビミョーな笑いが物凄く気になったけどどうもに嫌な予感しかしない僕は敢えて気にしないことにした…気にしないことにして
「昨日の人…名前知らないんだけど司令閣下と話したいのだけど構わない?
まぁ僕と違って忙しい方だろうから手の空いてる時で良いってね」
「承知しましたがお嬢様にお聞きしますが宜しいでしょうか?」
「そのお嬢様って呼ぶのを止めてくれるのなら答えるけど?」
言われた相手はちょっと困った顔をしたが構わず
「僕はお嬢様なんかじゃないし名前だってちゃんとあるんだよ?」
「お嬢ちゃんはお目覚めかな?」
その言われ方にカチンと来た僕は
「誰がお嬢ちゃんだよ?僕はこー見えても…」
鏡に映る自分の姿を見て呆然となり涙が滲んできた
(僕は…この先一体どうなってくんだ?)
「こう見えても?」
僕の変化に気付かない司令の言葉は嘲笑の響きが滲んでたけどもうどうでも良かった…
「もう良い…」
おや?っと言う表情で僕を見て
「もう良いとはどう言う事だ?」
「貴女に言ったって仕方の無いこと…それに貴女に聞かなきゃならない事は他に有る」
その僕の言葉に顔色ひとつ変える事無く
「私に聞きたい事とは何だ?」
気色ばむ部下を押さえ司令は聞き返した
「昨日のアレは何?アレがもしかして僕を必要とした理由?
まさか貴女逹の国の色ボケた貴族の慰み物にするなんて言わないよね?」
その挑発的な言葉にも顔色を変えず
「その様な物言いは余り感心しない」
「?」
(何がいけないと言うのだろうか?)
僕のその思いはそのまま顔に現れていて司令は頭を振って溜め息を吐くと
「まぁ良い…戦士で有るお前にその様な真似はさせぬから安心せよ」
(僕が戦士?)
ズキッ!
頭が痛み胸が疼いた
(何だろう?今確かに何か…夢の狭間に置いてきた何かに手が届きそうだったなにかに…)
「どうした黙り込んで?」
振り返った僕の涙は未だ止まっていない
「わからない…でも…大したことじゃないと思う」
不信感を隠さず
「何故大したことじゃないと言えるのだ?」
と聞いてきたが僕はあっさりと
「思い出せないから…大事な事なら思い出すって思うのだけど?」
「だが一瞬妙な顔をしたのは何故た?」
「それもわからないけどこの辺が疼いたんだ…どうしてだろ?」
左の胸の上を指差す僕の顔をじっと見て
「戦士と言う言葉に反応した…恋人の事でも思い出そうとしたんじゃないのか?」
(恋人…ねぇ~っ)
僕は嫌な顔をして
「僕にはそんな者が居たと言う記憶はないけどでも…うん、そんな事より昨日のアレは何なの?
そして貴女逹は僕に何の用が有ると言うのさ?」
再びドアが開き
「それについては私からご説明致しましょう」
その声に僕も声の方を見た
「貴方は誰?」
「王子…何故王子がこのような辺境に?」
その王子と呼ばれる男が僕に近寄ると僕の右手を取るとそっと口付けして
「貴女が翼の媛巫女ですね?
私の名はショスタコービチ…ショーとお呼びください
噂は予々伺っておりますよ…噂に違わぬ美しき人よ…翼の媛巫女」
(噂…僕が美しいって?翼の媛巫女?なに言ってんだこいつ…きっもっ!訳解らんし…最悪ぅ)
そう頭の中でまとまらない思考でぐちゃぐちゃ考えていた
「巫女はもう朝食を済ませたのか?」
振り返り僕の世話係りに聞くが僕が
「僕が目を覚ましたのはホンの少し前で食欲が無いからと断ってた所に司令閣下が現れ先程の話しになっておりました」
だけど王子は僕の言葉を無視して
「顔色が悪い、せめてスープだけでも飲んだ方が良い」
「勿論私もそのつもりですから王子…今から着替えをしていただますから外でお待ちください」
そう言われた王子が追い出されるのを待って
「あ…あの…一層食欲無くなっちゃったんだけど…」
「着替えの支度を」
僕の言葉に耳を貸さず二人は僕を着替えさせると
「さぁ参りますよ」
とだけ言って僕を抱えると僕の寝室(座敷牢)から運び出した…うん、歩けないから仕方無い
案内されたダイニングのテーブルに並ぶ料理を見て料理人には申し訳ない事だけど正味の話僕はげんなしてしまった
いや、別に美味しそうだし食べれば美味しいんだろうけど…僕には無理だ
元々起き抜けに食べられる方じゃない
でもこの頃僕の食欲は減る一方で戦士達が力を出すための料理はヘビー過ぎる
「朝っぱらからこのメニューは勘弁してください…」だ
ましてや僕の正面に座るあの気障男のショー
王子か何か知らないけど益々僕の食欲を削いでいく
その料理に一向に手を出そうとしない僕に苛立ち
「食べねばいつまでも起きることは出来んぞ?」
と言われたが僕はにっこり微笑むと
「心配は要らないよ、魔力が満ちれば直ぐにでも動けるんだからさ」
と言ったがそれは有る意味嘘
既に魔力は満たして有るけど言わばスイッチを切ってある状態だから僕の身体は動かないのだ
「ならば早速私に同行して本国に向かって貰う
私の用向きは貴女の出迎えなのだからね」
何でそうなるの?
「え~っと…王子様はご存知無いだろうけど夕べ気味の悪い化け物の襲撃を受けたんだけど?」
私は言ったが基地司令は
「あの者逹は貴女が我々に力をお貸し頂くのを邪魔したいだけ
貴女が本国に向かえば貴女を追い本国に向かうから」
(それって厄介払い?)
その思いを呑み込み
「なら良いか…」
とだけ言った
「出発は?」
「任期の終えた兵の帰国準備が整い次第直ぐにでも」
と言われた司令は
「そう言えば…もうそんな時期なんでしたね…
解りました…明日の朝の出発にしましょう」
(逃げようか…でも何処に?仕方無い…取り敢えず様子を見よう…)
「媛巫女様のお世話貴女が続けてしなさい
確か貴女も帰国組のはずだから
早速その支度をしなさい…自分のと媛巫女のを」
「えっ?僕の荷物なんか無いでしょ?」
驚いて聞く僕に
「肌着や小物類だけでも結構御座いますよ?
作り掛の服等も御座いますし…」
(作りかけ?)
「僕の服を…作って…る…?」
お洒落な姉さん達と違い安い量産品以外着た事無い僕には新鮮な響きだった
「それ見せてよ?」
「未だ完成してませんよ?
それより意識が戻ったら着ていただこうと用意してある物が有りますから着替えますか?」
(着替える…しまった…)
困惑の顔をする僕に
「大丈夫ですよ、私がお手伝いしますからね」
と言って貰ってホッとしてる僕に
「お嬢ちゃん未だお着替えは一人で出来ませんかぁ~っ?」そう言われて色々言い返したいけど言ったところで言い訳にしかならないし理解されない可能性のが高いから黙っていたら
「媛巫女様は翼に慣れておいでになりませんから仕方無いと思いますよ」
って庇ってくれたけどそれだけじゃないし慣れたくなかったんだよね…女装にって誠に遺憾ながら慣れてるけどね
そんな一人脳内問答をしているうちに着替えは終わり抵抗の甲斐なくダイニングに連行されました…マジ勘弁して
「食欲無いので飲み物だけで良いです」
そう言ったら嫌みなくらいの具沢山スープ…いや、もうスープと言えないレベルじゃね?これ
食事が終わり
「我が国と言うか王家は女系国家のため王子に継承権はありませんしそもそも私の母上は現在の女王陛下の末妹に当たりますからあってもかなり順位は低いはずですよ
まぁそれでも大貴族であるのは間違いありませんし私にもそれなりの役職もありますけどね…」
そんな話を聞いて頭にわいた素朴な疑問
「ふーん…まぁ僕にはよく解らない世界だけど因みに王子様の歳聞いて良い?」
「私の歳か?今年14になるがそれがどうしたのです?」
(ふ~ん以外とアッサリ教えてくれたな…え…僕より6コも下…?)
「どうしたのですか?媛巫女様は…」
「解らない、私の歳を教えたらあの通り固まってしまったのだ」
膝を抱え踞るように宙を漂う僕を引寄せ
「媛巫女よ…元気がないみたいだが一体どうしたと言うのだ?」
「僕の方が王子様より6歳も年上なのに僕の方がずっと年下に見える…」
僕のその独り言に目を丸める二人
「一部を除いたらとてもそうは見えない…」
その言い草にムッとしたけど言い返す気力もない僕は放っといてと力なく呟くのが精一杯だった
「可愛い媛巫女に似合ってるから良いではないのか?」
無責任に言われ
「年下の君に可愛いって言われたってちょっとも嬉しくないっ…」
僕は小さな声で力なく言うしかなかった
そんな僕の前に戻って来たレイは僕の様子が可笑しい事に気付いたけど…僕自身の問題だからどうしようもない事だと思う
そんな諦めの気持ちに支配された僕を力付けてくれたのはやっぱりレイだった
落ち込んでるボクを少しでも大人っぽく見えるようメイクやらヘアスタイルやら頑張ってくれた…
所詮素材がボクなのに名一杯頑張ってくれたレイの優しさが嬉しかったので気分は晴れた
そして出発の朝になり王子からのお言葉に続いて基地指令が労いの言葉があり、そして…
「媛巫女様からも何かお言葉を…」
そんな事言ってきたけど
(はぁ?なんで囚人のボクがんなことしなきゃなんないわけ?)
その意味不明の無茶振りに反応出来ずそう思っていたら
「透かしやがって…」
そんな声がしたから
「失敬な、透かしたって臭いでばれるでしょ?言いたい事があんならボクの前に来て言えっ!たかが捕虜相手にこそこそ隠れてゆってるんだよ?
だっせーな…つかそもそもなんで捕虜か奴隷…もしかして咎人のボクが挨拶せにゃならんわけ?
あー、わかった辞世の句って奴を言や良いんだぁーっ?」
そうヘラヘラ笑いながら言ってやったら
「決して貴女に罪咎が有るなどとは思って…!、だからか…あのような事を口走ったのは…」
そう言って唖然とする指令に構わず
「ボクは捕虜か何かで捕虜に待つ未来何て奴隷以外無いんでしょ?そんな事くらいいくらボクがバカだって嫌でも知ってるさっ!」
(涙…僕、泣いてる…何で?)
頬を濡らす涙に気付いてそう考えていた僕をもっと驚かせたのは泣いている僕を見て人々が狼狽えている事に気付いたことだ
(何で?…そうか…不味い事を言っちゃったんだ…と…取り敢えず謝らなきゃ…)
そう思った僕は記憶の中に有る知識で王子に向かい膝まづくと
「すいませんご主人様…奴隷の身分を弁えず失礼な事を申しまして…愚かな私をどうかお許し下さい」
(え~っとそれから…そうだ…)
僕は額を床に擦り付け後はただ譫言の様に謝り続けちょっと痛かったけど我慢した…
誰かの悲鳴が遠くで聞こえ何処かで大騒ぎしている声が聞こえる
(誰だろう…あんな悲しそうに泣いているのは…誰が泣かしたのだろう…その人を)
誰かに抱き上げられている僕
(王子…泣いている…何で?ところで何でお姫様抱っこされてるの?)
頭の中がぐちゃぐちゃになった僕は(無駄な)思考を転らせたけど解らない…
王子が涙を流しながら何かを言っている…
(聞こえない…何も…まるで無声映画で見ているみたいに声が…音が聞こえない)
「大丈夫…これは病気じゃないから…強すぎる魔力に僕の身体が未だ馴染めないだけ…」
尚も心配顔で何かを言ってるが僕は「大丈夫、平気だから」
と笑顔で答えた…
つもりだったが掠れた声は耳障りで聞き辛かったんだって
僕のせいで馬車で移動せざるを得なくなり少し遅れた出発
僕はレイの膝を借りて熟睡しながらの旅が始まった
僕が目を覚ましたのは夕暮れ近い頃で既に今夜の夜営と夕食の支度も終わり食事を始めたところだった
僕がぼんやり目を開けているのに気付いたレイが何か言ってるけど僕の耳にはさっぱり聞こえなかった
(冷たい…)
口に流し込まれた冷たい水が心地良い…痛い程に…
繕い物をしながら側に居てくれるレイの横顔を僕はぼんやり眺めていた
時折僕の様子を伺う辛そうな視線が嫌で心配無いよと笑って見せた
つもりでしかなく実際には口許がピ。クピクっと動いただけだった
そんな僕を一気にシャキッとさせる事態
敵意と言うか害意とでも言うのか…それを感じたのだ
「気を付ける様に言って…何者かが襲ってくるんだからっ!?」
徐に立ち上がって叫び武装化した僕の装備は増えていて前だれと言うのだろうか?
それを腰に巻いていた
馬車の上に立ち今度はもっと大きな声を張上げ
「敵襲っ!」
と叫んだ
現れた者達は…キラーエイプ?僕の知識の中で目の前に現れた者達に該当するのはそれだ
僕がゆーのも何だけど余り賢そうには見えない面構えだ
「非戦闘員は馬車に隠れてっ!早くっ!」
指揮官の指示が飛ぶ
暫く様子を見守っていた僕は敵のリーダーを発見した
ソイツも僕の存在に気付いたようで背筋に悪寒を走らせる目でね目回した
「僕が群れの頭を叩くっ!」
そう叫んで宙を滑り敵に肉薄した
敵の棍棒が僕の鼻先を掠め降り下ろされた
もしこれがかすりでもしたら…
余り考えたくない事になりそうだから当たってやるつもりは更々無い
それにパワーは劣っているけどスピードはね…
それにいくら僕がお馬鹿だってこいつよりは知恵はあるつもりだ
傷付けた枝に上手く誘い込み枝が折れバランスを崩した一瞬の隙を突き魔力を込めた掌の突きを土手っ腹に打ち込んだ
僕の突きをまともに受けた敵は為す術もなく吹っ飛ばされ大木の幹に背中を強打
無様な姿を晒し樹の根本に落ちて倒れ込んだ
そのリーダーの姿を見てナンバー2らしきキラーエイプが群れに指示を出し撤退した
倒れている元リーダーをそのまま放置して
そしてまた僕も…
敵からのダメージは受けてないけど熱の下がりきってない僕の身体は再び高熱を発し意識を失った
バランスを崩し樹の枝から落ちる身体が地面に叩きつけられる前に王子が受け止めてくれなかったら…
頭から地面に落ちた僕は無事には済まなかっただろう
「レイ、媛巫女を頼むっ!」
汗でベッタリ濡れた服を脱がされ乾いた服を着せてもらった僕は再び馬車で寝かされ朝を迎える
翌日も僕は夢と現をさ迷いながら馬車に揺られての旅路となった
そして1日掛けやっと湖の畔に着き今夜は畔にある補給の中継となる城で一夜を過ごすことになった
でも…この夜進化の時を迎える事になった
深夜を迎える頃僕の身体は遂に限界を…臨界点突破の時が迫っていた
「あ…熱い…身体が…燃える…熱いっっっ!」
僕の咆哮に気付いた王子が馬車に来た時僕の身体は紅蓮の炎に包まれていた
正確には僕の身体から吹き出る炎を纏っているのだが…
「シュー王子様…翼様が炎に…」
「遂に始まっちまったね…」
突然背後から聞こえた声に驚き振り返った王子とレイ
「あ、貴女は…漆黒の森の魔女…その貴女が何故ここに?」
怯えた声で聞くレイに
「そいつは大人の事情って奴で私も好き好んで自分の縄張りから出張ってるんじゃないんだよ」
不機嫌を隠すことなく嫌みたっぷりに言ったが
「そんな事よりこれからお嬢ちゃんの身に起こることを確り目に焼き付けときな
お嬢ちゃんの事を守りたいと思うんだったらね」
人々を睨み付け
「その覚悟の無い者はこの場から立ち去りな…誰も止めやしない」
立ち去るものはないがみこに導かれアーチャーとその姉が現れた
「ソイツは!?」
とアーチャーの顔に見覚えの有る者が気色ばんだが
「良いからだまってお嬢ちゃんを見守ってやんなっ!」
そう婆さんに一喝された
いつのまにか馬車から転げ落ちるように外に出た僕の身体は紅蓮の焔のようで僕の身体は…
そう、燃え尽きたかの如く徐々に見えなくなっていった
でもやっぱりそんなことはなくって暫くすると僕を包んでいた焔は収まっていき再び見守っていた人達の前に姿を表し皆の前にゆっくり降り立つと
「皆様、お騒がせして申し訳御座いませんが私はこの通りすっかり落ち着きを取り戻しました」
私は見知らぬ二人に気付き
「貴殿方は?」
と聞くと男は左手の甲を見せ
「貴女に誓いを立てた者
何なりとお申し付け下さい
隣に控えるのは我が姉で私同様に貴女に使えたいと願う者
どうぞ宜しくお願いします」
と言って二人揃って頭を下げた
「そうですかお二人とも私のお知り合いなのに忘れてしまってるんですね…申し訳ありません」
そう言った途端に立ち眩みしアーチャーの姉と言う人とレイの二人が支えてくれて馬車まで肩を貸してくれた…
「さぁ…魔女よ今起こった事象を説明してほしい」
王子が説明を求めた
婆さんは薬草酒を一口呑むと
「良いかいよくお聞き
私はお前達よりは長生きしていて長年の研鑽により多くの事を知る事が出来たがそんな私ですら初めて見た事象だ
勿論集めた文献の中にある事象に似た記述があるから説明はできるがあくまで仮説に過ぎないと言うことを忘れるんじゃない、良いね?」
そう婆さんは念を押した
王子が頷き先を促す
「先ずあの焔は私達には幻術だがお嬢ちゃんとっちゃ現実なんだよ…それがどう言う事か解るかい?」
皆首を横に振った
「あれはお嬢ちゃんの身体から溢れ出た濃密な魔力でそれ故魔力を持たぬお前逹にも焔という姿で見る事が出来たが…
それはお嬢ちゃんが現在得意としているのが炎系の補助呪文だからだ
それ故その魔力は炎の属性を帯びているため常にお嬢ちゃんの身体発熱しているように体温が高い」
「それが病気じゃないから大丈夫と言う事の意味か…」
王子の言葉に頷く婆さん
「そうだが体温が常に高いと言う事実に代わりはない
身体への負担は決して小さくなく限界は近かった
それをお嬢ちゃんは魔力…特に炎属性の魔力を分割アイテム化する事によって身体から過剰魔力を閉め出したのさ」
人々の沈黙を見て
「信じよう信じまいとそれが真実だ私から話す事はもうないからもう帰るよ
お嬢ちゃんの事確り守ってやんな…あの娘の精神(こころ)は今とても不安定なのだからね」
そう言うと婆さんはスッと姿を消した
次いでアーチャーも人々の前から去ろうとし振り返り
「修道尼の姉さんには夜営はさせられないからな…勿論こんな事を頼める義理はないのは承知の頼みだが姉さんを頼む」
そう言い残し城を後にした
この先僕を挟んで二人の女の意地の張り合いと二人の男の恋の鍔迫り合いに悩まされることをボクは未だ知らなかった
何とかまとまった第一章、次から新章突入です