白き闇は正義になれない?   作:ソウクイ

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始動

 

200X年、夏の日。

 

今日の東京全体の天気は雲が少なく青い空が広がっている。普段なら良い天気と言えるが暑さが厳しい夏となると最悪な天気だ。気温は30℃を記録。ほぼ雲に遮られる事なく眩しい陽光がモロに降り注ぐ。所狭しと密集したビルの窓に太陽光が反射してギラギラと光る日差しは肌を焼いた。

 

其処は銀座。

 

土曜日だからか人が多い。銀座を歩く人、人、人。服を透けさせるほど汗を掻きながら休日を楽しむ人や、今日も仕事らしい制服姿の人が行き交っている。気温は殺人的だがほのぼのとした平和な日本の1コマ。戦後復興から何十年と続いた何時もの平和な光景。騒乱や危険とは無縁な空気。日本は今日も平和であった……が、これから先も平和であると言うのが絶対という事もない。

 

平和というのは崩れることもあるのが必然。

 

平和がこれから崩れると想像するとしたら、それはどんな事態によるものだろうか?海外ならテロか大規模な犯罪等を想像し。日本なら突発的に起こる地震などの天災を想像するだろうか。

 

もし今地震が起きればどうなるか…日本人は良くも悪くも日本に住んでいると天災との付き合いが深い。言い方が悪いが天災に慣れている。慣れているからこそ日本人なら地震に際してある程度は適切に行動もできるだろう。付き合い深い天災だからこそだが、もしそれが自然の猛威でなく海外である人による大規模な人災ならどうなるか…テロや戦争、人の悪意により命の危険も有る状態となった場合……日本人は秩序を保ち他人と協力できるだろうか。それは難しいだろう。

 

命を奪いに来るなにかが要るなら、誰もが混乱するのが自然。誰もが自分の事を優先するのは当然。だがもしそんな中でも命を救う為に命を懸けて動く事が出来る人が居れば、ただ勇気のある人とも言えるが、大袈裟に別の言葉でいえば、それは……

 

英雄とも言える。

 

 

しかし、そう言う命の危険がある場所で勇気も命を掛ける気すらもなく人を助ける時は…なんというだろう。

 

 

 

 

 

 

 

昼前の頃から銀座では宴が行われている。銀座の誰も行われる事を知らなかった宴であり、銀座に居れば誰もが強制的に参加させられる宴でもあった。

 

その宴は所謂…

 

血と恐怖に彩られる宴。

 

銀座の町に響く宴の声は数えきれない悲鳴、四方から聞こえてくる怨嗟や怒声、聞こえてくる音は全て負の感情に満ちていた。

 

「た、助けてくれ…」

 

地面に倒れ伏す老人が傍を走り抜けようとした男性の足を掴んでいる。日常なら老人を助けおこすだろうが……

 

「は、離せええええぇーーー!!!!!?」

 

「が!?」

 

男性は老人の頭を蹴飛ばす。頭を蹴飛ばされた老人の首から枯れ木が折れた様な音がし、老人の頭は本来向かない方向に向いている。老人の掴んだ手から力が抜ける。男性は老人を見ずに走り去った。公の場所で行われた凶行にも、動かなくなった老人にも誰も見向きもしない。

 

それ所ではないと言うように我先に逃げ回る人達、そこら中で聞こえる助けを求める声、自分が逃げるのが必死で他人を助ける人は殆んどいない。救助に動いてる人も居るが焼け石に水…他者を押し倒して逃げている人の方が多すぎた。

 

多くの人が他人に対して気を使う余裕を無くし必死に逃げている。車道や歩道も関係なしに逃げる人で溢れ、空から見ればまるで蟻の巣に水を入れた後の様な光景が見えるだろう。

 

「きゃあ!!」

 

一人の少女が倒れた。

 

十才位に見える年頃の少女、幸いと言っても良いのか、人の流れから少しだけ外れていて後続に踏み潰される事はなかったが…

 

「い、いたい…あ、あし…」

 

少女は直ぐに立とうとするが呻き座り込んでしまう。足を抑えている。どうやら転んだ時に足を痛めたようだ。立つことは辛うじて出来るかもしれないが走ることは不能。満足に動けない。数分も有れば回復する程度だが、今は満足に動けない。それが意味するのは…

 

「誰か!!誰か!助けて!おねがいじます!」 

 

少女は助けを求めた。喧騒の中に紛れる少女の必死の助けを求める声。誰にも反応されない可能性の方が大きい。それでもただ一人、スーツ姿の男性の耳に少女の声が辛うじて届いた。

 

男性は助けを求める声に反射的に振り向く。男は振り返り倒れる少女を見て咄嗟に引き返そうとして……少女の後ろも見てしまい凍りついたように動きを止めた。 

 

「す、すまない…!!」

 

「え」

 

振り返った男を見て助けてくれると顔を明るくする少女を見た…が…男性は謝って顔を背け逃てしまう。彼は余裕がない中でも少女の助けを求める声に反応する性根が善良な人だった。

しかし”どう見ても助けらない”少女を助けようとする勇気のある人でもなかった。

 

「ま、まって!なんで、あしが!た、たすけて!ねぇ!置いてかないで!た、たすけて!誰かたすけ……て……」

 

男性に向かって少女は助けを求めた。

必死に助けを求め叫んだ。後ろから聞こえる音に気づくと声を出すのを止めた。

 

後ろから足音が聞こえた。喧騒の中でもハッキリと聞こえる重々しい足音。足音に続いて漂ってくる野生の獣の様な臭い。ドンドン、ドンドンと足音は近づいてくる。……少女は強く願う。どうかこのまま通りすぎてくれと、それが叶うと思えなくても必死に願った。

 

「……ぁ……」

 

足音が止まった。

 

少女は自分の後ろに何かがいる気配を嫌でも感じてしまう。大きな影が少女を覆っている。自分の後ろにいる相手の確認なんて出来ない。怖くて振り返る事が出来ない。いや、そもそも振り返らなくても、少女は相手が何なのかわかってしまっていた。少女を含めた皆が必死に逃げている相手だ。

 

「にげなきゃ…にげなきゃ」

 

少女はただ其れだけを言いながら、震える手で体を動かして這うように影から離れようとする。お気に入りの服が汚れるのに構わず少しでも逃げようとしている。そんな少女の頭を何かの手が掴んで持ち上げた。

 

「いや!いやぁぁああ!!!!」

 

持ち上げられる少女は暴れたが大きな掴む手は微動だにしない。少女の頭は持ち上げた相手の顔の近くまで上がった。

 

「ひ!!」

 

自分を掴んだ血管の浮き出た丸太の様な腕の本体を少女は見る。体重は少女の10倍は軽く越えそうな動物の頭をした怪物。オークといわれる魔物に似ていた。掴んだオークの後方にも沢山のオークも見えた。

 

銀座に突如として現れた化け物達。

銀座で殺戮を繰り広げている化け物たち。

 

少女はオークの持った棍棒から血の雫が垂れているのを見てしまう。そして更にオークの口からも血の雫が垂れているのも…。歯に服の切れ端が見える、人が着ていた服の切れ端が口にある。つまりは………少女はわかった。

 

服を着ていた誰かの末路が今度は自分の番だと。

 

「ーーーー!!!??」

 

少女は叫んで暴れる。少女はなりふり構わず暴れるが掴まれた手はビクともしない。逆に少女の頭を掴む手に圧力は増す。ミシリと頭蓋骨の軋む音、少女の叫びが途絶える。か細いうめき声しか出ない。頭の骨が軋み少女の口の端に漏れる泡。次の瞬間、頭はまるでプロレスラーに掴まれたリンゴの様に…

 

グシャア

 

と破裂した。

 

スイカを割ったような音を鳴らし"オーク"の頭がザクロの様に破裂していた。

 

「うぁ!」ドサッ

 

頭を無くしたオークの手から少女の体は落ちる。血の噴水、頭を無くしたオークの首から噴出する血が少女に掛かり、首を無くしたオークがドサリと倒れる。後ろにいたオーク達が後ずさっていく。視線は少女の後ろを見て怯えている。これは、つまり、少女の後ろには……オークが怯えるような……

 

(なに…なにか、いるの…)

 

ガシャガシャと近づく足音。聞こえる足音の大きさはオークより小さい。しかし目の前のオークたちが逃げ腰になるような相手。いったいなんなのか。状況のせいなのか、それとも後ろの何かのせいなのか、少女は呼吸が困難な程の圧迫感を感じていた。

 

「ヅギパビリダヂグゲロボザ」

 

言語のようだが少女が聞いたことのない言語。

 

謎の言語が聞こえてから一秒だろうか、一分だろうか。時間の感覚も曖昧になるほど緊張。目の前のオーク達も怯えた様子のまま動かない。怯えているのは…おそらく後ろにいる謎の言語を出した相手がオークの頭を破壊した。

 

オークの敵なのは確実だろう。だが、タイミングを言えば少女は助けられたとも感じるが……少女の敵なのか味方なのか。

 

少女を助けたのかもしれない。銀座に現れたオークとは別の化け物の可能性も頭に浮かんでしまう。横取りする獲物として少女を奪おうとしてるのかもしれない。

 

少女は期待と不安の狭間の中で恐る恐る振り返る。振り返りそこに居たのは…

 

(…人?)

 

何の光なのかは解らないが強い光が少女の方向に向いていた。強い光のせいで少女に見えたのは鎧を着たように見える人型の影。

 

人影は少女から見て大きいがオークより小さい。なのに…その存在感はオークとは比較に成らないほど巨大な何かと感じるのは少女の錯覚か。

 

少女にはわからない。それが緊張による錯覚なのか、本能に感じる何かのせいだったのか。

 

影は手を上げた。

手には何も持っていない。

 

 

何なんだろうと不審に思う少女。

何をするつもりなのか……

何かは少女の後ろで起きた。

 

『!!!!?』

 

「え!?」

 

突然後ろで聞こえた野太い悲鳴と熱さ、少女が慌てて振り替えると…

 

「……もえ…てる?」

 

まるでトーチのように”オーク”が燃えている。逃げるのに必死だった少女は気付いてなかったが、それは…銀座のアチコチで発生している突然の発火と同じ現象だ。

 

そのまま短時間で多数居たオークが全て燃え灰と化す。燃えたカスの臭いが少女にまた吐き気を誘発させる。瞬きする様な時間で自分を殺そうとしたオークが死んだ。そうオークは死んだ。

 

「………」

 

オークが簡単に死んだ。どうやったか判らないが、タイミング的にどう考えても正体不明の影に殺された。オークの脅威は無くなった。しかしオークを一瞬で燃やし殺した力が少女に降りかからないなんて保証はない。

 

頭が破裂したオークの死体が目にはいる。此方も少女の未来だという可能性もある。

 

影が少女に向かい歩いている。

 

影は近づいてくる。少女は再び通りすぎてくれと願った。今度も強く願う。震えながら必死に願う。現実に幼い少女の願いを必ず叶えてくれる優しさなんてない。しかし、優しさが無くても願いが叶うことはある。

 

影は少女の横を通りすぎた。

 

「え」

 

思わず少女がそう漏らすほどに影はアッサリと少女の隣を通り過ぎ、少女を放置して進んでいく。少女の困惑した声が聞こえたのか影は少しだけ振り向く。すでに光の逆光は無く少女に影でない姿が見えた。

 

みえた姿は…人のモノと違った

 

兜の様な頭には王を現すような黄金の角。

金の装飾で飾られた白い鎧を着た様な体。

顔は仮面の様だ。

 

 

それは怪人

 

人とは違う白い怪人。化け物達の仲間に見えたのか少女の顔に恐怖が浮かんだ。

 

 

怪人は興味がないのか少女を一別しただけで再び前を向き歩きだす。進む先を見て少女は気絶しそうになる光景、先程より多くのオークやその他多数の化け物たちがいた。

 

「…」

 

白い怪人は腕を前に向ける。すると無数の炎の柱が立ち上り化け物たちが燃えた。銀座の人々を襲っていた逃げ惑うしかなかった化け物達が一方的に燃やされていた。

 

 

その光景を見た少女は…白い怪人が天罰を下す神さまにも殺戮を楽しむ悪魔にも見えた。

 

 

 

 

宴が始まる数時間前…

 

 

ガタン、ガタン、ガタン。

 

電車の中は涼しいが外は暑い。こんな暑い日にどうかと思う白い服を着た彼は椅子に座り外を見ている。大学生ぐらいの年齢だろうか。見掛けは覇気が抜けた様にボンヤリした顔の青年。

 

「……あ、ここって」

 

高校生時代の通学時に毎日見てた風景と似てる。"一度目の"高校の通学の時に嫌になるほど見てきた風景に似てるな。ホント似てる。まぁ違うんだけどね。地名も路線も同じだけど似てるだけで違うんだよね。

 

移動時間は同じか。高校時代の通学が電車で片道で二時間、つまり往復で四時間。待ち時間とか除いて一日で四時間。それを高校の三年間、1095日、休みを削って、通学回数にして、まぁ800として、800×四時間=……考えんじゃなかった。

 

”前の”高校時代で電車は懲り懲りだと思ってずっと乗って無かったし、電車移動は何十年ぶり。こんなのは久し振りだけど、今のこの気持ちを一言で言えば…

 

飽きた。

心底飽きる。

 

ダメだ。だいぶ久し振りでも電車移動なんて懐かしいと思えない。懐かしさとか有っても五分も有れば消失するね。せめて電車が満員で暑苦しくて汗臭くなかったらもう少し長く感傷に浸れたのかな。

 

時間を無駄にしてると思えるのもマイナス点かな。ホント長い。ケチらないで特急にすれば良かった。それかいっそのこと…力を使って移動か。今さら考えても遅いか。

 

 

目的地の東京はもうすぐ

 

東京に行く理由はネットでの其なりに付き合いのある友人に誘われたって理由。オタク御用達らしい即売会への参加。あんまり即売会自体には興味ないんだけどネットだけの友人と直接会うのには興味があったから、たまたま暇だったし行ってみることにした。

 

『ーーーー、降りの方は右手ドアが開きます。ご注意ください』

 

と、降りる駅だ。

 

人が多いけど出れるかな。登山用並みに大型のリュックを背負って電車の外に出た。

 

帰りたくなった。 

 

外が暑い。それに人がスゴい。東京だからって予想より人が多い……シャレにならない人がいる。満員電車の中と変わらない人の群れ。見てるだけで吐きそう。人混み揉みくちゃにされながら勝手に移動してく。どうしようかこれ。嫌になるほど人が多い。どうにかこうにか人の流れから抜けた。人混みから抜けれた。抜けた場所でも人が多い。

 

(見なさい。人がゴミのよう…ゲフン、ゲフン)

 

さっきの発言は、発言してないけど無し。人がゴミなんて思ってない。ゴミは掃除したいなんて事を思った訳じゃない。言ってないしネタだし言い訳とかする必要とかない。それでも、不謹慎と言うか、今の自分だと危ういと言うのか…

 

まぁ今はそんな事より、目的地につくことに全力を傾けないと……待ち合わせ場所の改札口に行かないと…いけないんだけど……目的の改札口は……………うん

 

そもそもの話だけど……此処は何処なのかな?

 

 

「…ここかな」

 

よかった。ようやく目的の改札についた。改札に辿り着くだけで大冒険をした気分、今更だけどもっと大変そうな即売会行くのが怖い。時間は、待ち合わせ時間にギリギリ。

 

幸い待ち合わせしてる相手は来てるかな。時間的にはもう居ても良い頃あいだけど…。

 

 

約束を破る人とは思えないし居るかな。まさか向こうも迷子になんて訳はないだろうし。誰か此方を見てる。キョロキョロしてるから…あの人がそうなのかな。

 

あの人が?

 

本人を直接見たこと無いけどなんとなく本人だと思えるような気もする。此方に来た。比較的若者向けの服を着た30代に見える男性。着てくると聞いてた服装と一致、あの人がネットでは自称自衛官の……どうなのかな。

 

確認するのに事前に決めといた待ち合わせの合言葉はある。あるけど、あの合言葉…人が居ない所でしか言えないよね。ここ人混み

 

「……イエスロリータ」

 

 

真剣な顔付きで決められてた合言葉を言い出した。わりと人に聞こえる大きさで、もう間違いないけど合言葉の続きを言わないとダメかな。

 

「……」

 

言わないと駄目?

言えって目をしてる。

しかたない。決めた事だし…

 

「ノータッチ」

 

「「二次元ならゴータッチ」」

 

お互いに真顔で言った。

 

いや、うん、何してるんだろうね。この馬鹿な合言葉を提案したのは向こう。周りの視線になんて提案をしてくれたんだと思う。少しは楽しかったけどね。

 

「白野くんで合ってたか。良かった。本当に良かった。間違ってたらどうしようと思った…」

 

冷や汗流してる。確かにいきなりイエスロリータとか知らない人に言ったらどうなるか。うん想像したらゾッとする。なんでこんな合言葉にしたのかな。ネット経由で合言葉を決めた時は問題だと全く思わなかった。ネットのノリって怖いね。

 

「はじめまして伊丹さん」

 

顔を見たのも初めて…伊丹さんとの直接の顔合わせは今日が初。だけど、まぁ初対面な気が全くしない。ネットでの付き合いは四年ぐらいだし。合言葉みたいなノリはネットでは何時もしてたし。

 

「はじめまして?…あー一応は初めましてになるのか白野くんとは」

 

「ええ一応はそうですよ」

 

御互いに苦笑い。どうやら向こうも初めてって感じはしないみたいだね。 

 

「それにしても白野くん思ったより若いね」

 

「そう言う伊丹さんは……思ったよりフケてますね」

 

「おぉい、そこは思ったより若いだろぅ。ジックリ見てからフケてるとか言うなよ」

 

いやだって30代って年齢聞いてたけど、ネットでのハッチャケぶり的に若い感じが。数日前にもブルマやスク水について熱く語ってたりしたしね。

 

「まぁ良いや、さて!ホワイトくん!」

 

「ハンドルネーム呼びは止めましょうか。さっき白野くんて言ってましたよね」

 

ホワイトって安直なハンドルネームをリアルで言われると恥ずかしい。

 

「そう?では改めて白野くん!今日は遠い所から良く来てくれた。今日は同人即売会を一緒に楽しもうか!」

 

伊丹さんがいきなりグッと拳を振り上げた。

そのままの体勢で止まった。

 

「…楽しもうか!!」

 

一度手を下ろしてまた振り上げた。何を?こんな人が一杯の所で何してるんで?

あぁそういえばネットだと毎回(^o^)/オー!とかやってたかな。うん現実にやるのはダメだね。合言葉と違って約束はしてないし今度はやらない。なので静かに見まもる。

 

「…………」

 

拳を上げたままの伊丹さんがチラチラ見てくる。やれと?ネットの乗りをまたやれと?ネットなら乗るけど、悪いけどリアルは二回も自爆するほどテンション高いタイプでないのでスルー。裏切り者みたいな目線もスルー。『こっち見んな』と返…まぁそれは酷いから……

 

「なにこの人」

 

他人ですとアピールする。

 

「うおい!?それは酷いだろ!」

 

伊丹さん不審人物的な視線で見られてるし。彼処から通報しようか相談してる鉄道警備員ぽい人が見てるし仕方ない。

 

「……くっ!!…楽しもうか!!」

 

え、またやる!?ツッコミしたタイミングで止めないの。本気で反応に困る。意地になってる。なんで意地になるのか。

 

「楽しもうか!!」

 

自傷をする姿は痛々しい

 

そんな事をされたら『ハシャグ、自称自衛官のオタク中年ww』と題名つけて動画投稿したくなるよ。それか『鋼メンタル自ーー』

 

「……行こうか」

 

「そうですね」

 

意地をみせて一分ぐらい痛い空気に晒されて伊丹さんはようやく諦めた。心臓に毛でも生えてるのかな?さて、こっそりスマホで撮影した動画は後で……。

 

「撮ったの消してくれよ」 

 

「了解」

 

目敏い。さすが自称自衛官と褒めるべきか。仕方ない消そうか。まぁ他の人にも撮られてたし意味はないと思う。親切にも撮影されてたの教えた。自称自衛官はわざとらしくサメザメ泣くように顔を覆って遠い地平の彼方に沈みたいと言いましたとさ。めでたしめでたし。

 

「めでたくない」 

 

気にするなら伊丹さんは中学生みたいな事しないでほしい。伊丹さんは今年でもう33でしかも…既婚者。(自称)奥さん持ちとか言ってたね。

 

奥さん持ちで即売会に来る。伊丹さん年齢考えろ…って年齢のことを考えたらブーメランか。ある意味で30半ばの伊丹さんよりも年上だから、意識があった年数で言えば50代は越えてる。

 

ボクは前世の記憶もち。中二な病気的なモノでなく本気でボクは転生したヒューマン…たぶんヒューマン。因みに転生については輪廻転生みたいなモノでなく、転生は神さまのお陰?

 

神様なのかな…恐らく神様だと思う、転生させてもらって、あと転生した時に力を貰った。つまり神様転生。神様転生と言えば物語の世界への転生。この世界、転生先はゲートとか言う作品に酷似した物語の世界と教えられてた。

 

教えられて意味が有ったかと言えば……うん、前世の世界にあった物語としても…肝心の作品を見たことがない。物語は知らないけど転生前は危ない物語世界だと思っていた。転生する時に力を貰えたの危険だから渡されたんだと思ってた。

 

思ったのに……全く平和な世界。

 

前と同じ地球で日本で平和に見えても何かが有るんだと思っていたんだけど、2度めの小学校入学から始まり、魔法少女とかには出会わず小学校を平穏に卒業。そのまま中学も平穏無事に無事、そして一番なにかありそうな高校までも平穏無事に卒業。ファンタジーに巻き込まれそうな王道な学生時代は何の波乱もなく過ぎ、もう成人するぐらい時間が経ったのに何にもなし。酷い肩透かしを喰らった。

 

本当に物語のある世界なのか疑うのも仕方ない。日常系の物語だったなら気付かなかった可能性もあるかな?聞いてた物語の名前のゲートって名前的に日常系は無いと思うけど、日常系だったのかな。

 

ゲートってどんな物語だったのか。映画でゲートって作品があった記憶がある。別の世界か遠くに繋がるゲートって門がある作品。

 

舞台が地球でないとか?物語の主人公が別世界に繋がるゲートで別世界に行ってたりするとか……物語には関わらないのかな。

 

何にしても本当に何事も起きないし。平穏な2度目の人生を送れそう。ホッとすべきなんだろうけど…ひどく残念と思えるのは危ういかな。

 

「考えてみたらさゲームの二週目とか強くてニューゲームって、チート転生系の始まり?」

 

時刻は10時過ぎ、目的地に行く前に銀座を観光をしてると、伊丹さんがナゼか唐突に出した話題、伊丹さんがゲームの二週目とか言い出してビクッてきた。話題がちょっとね。自分がリアルに体験中な事に気付いてないよね?

 

「どうなんでしょうね。始まりとか言うなら、死後に復活して凄くなるって事で、チート転生の始まりはもっと昔の死後に復活するキリ…」

 

「よしその話題やめよう!怒られそうな感じがするからな!」

 

そう言うものなのかな。

 

「じゃあ話を戻して強くてニューゲームと言えばスパ○ボですよね」 

 

「スパロ○なの。俺としてはクロノトリ○ーかな。周回の回数で言えばスパロボだけど」

 

スパロボ、前世でも今世でもやってる作品。因みに伊丹さんにスパロボをオススメしたのボク……

 

「スパロボで周回は何回ぐらいしてます?」

 

「大体二周くらい?主人公機でスーパーかリアルで一回ずつ、4周やる場合もあったな。主人公が4人の時は…」

 

「主人公全員分やりますよね」

 

第三次は面白かったけど…キツかった。

 

「周回やり過ぎると迷走しますよね」

 

「例えば?」

 

「使わないユニットやら最弱ユニットの育成とか、二軍だけの部隊で出撃、ほかには嫌いな敵を弱い攻撃でチマチマ削って、手加減で10まで削って、それで最後は必用無いのに無傷の全員で囲って脱力、必中、魂掛け最強技のオーバーキルとかやりました」

 

一桁まで削ったこともあったなぁ。面白いとは思ったけどあまり楽しくはなかった。やっぱり楽しいのは一周目の対等な戦闘の時だよね、一回で十分かな。周回も人生も

 

「やだ光景想像したら完全に敵側より悪党側だわ」

 

敵側より悪党、ちょっと刺さる言葉。

 

わりと楽しいけど、銀座を歩きながらお互い何でネットで話してる事と同じ事を話してるのか。オサレな町に場違いな感じがスゴい。人混みで殆んど銀座がどうなんて見えない?田舎者にとっては銀座ってだけでオサレなんだ。

 

「そう言う伊丹さんは何かしませんでした」

 

「オレか?オレは…あーー俺もボスキャラはしこたま改造した三軍キャラに倒させたりするな。雑魚とか言ってた機体にボコボコにされて倒されたボスとか想像したら面白いし。リガズィどころかジェガンでササビーを倒すみたいな。情けないMS以下に負けたシャ○乙」

 

「「((この人、歪んでるわ))」」

 

何処からか同類だろうと言う声が?気のせいか。そんな感じで伊丹さんと銀座を見学しながら雑談。楽しいんだけど、20代と30代の男が休日に男二人。片方既婚者、休日でカップル多い。カップルを見ると謎の敗北感が。

 

「白野くん、背負ってるの登山行きみたいなリュックだけど、買い込む気か。体力大丈夫?」

 

「えぇまぁ大丈夫ですよ」

 

信用してない顔だ。見掛けはそんなに体力無さそうだし信用できないかな。本当に大丈夫なんだけどね。

 

特にこれといった運動はしてないけど、力の影響が素の肉体の方にも影響が出てるからね。人を逸脱したレベルで、あと誤解されてるけど別に訂正は良いか。リュックは買い物と言うより持ち運び用。…なんで今回に限って無理矢理着いてきたのかな。

 

ん?

 

「どうした白野くんいきなり向こうを見…て…向こうから何か聞こえるな?」

 

「聞こえますよね」

 

騒がしい沢山の声。騒がしいのはずっとだけど今までとは声の種類が違う。怒号やら悲鳴が混じってる。事故か通り魔でも出た?

 

「なんだろな。何か起きてるのは確実なんだけど」

 

「まさかテロとか」

 

「それは…ないよな?」 

 

冗談で言ったのにもしかしたら有るかもって反応をされると困る。ほんと何かな。おさまるどころか騒ぎがさらに大きくなってる感じがする。

 

「うーん此処で考えてもわからんし確認してみるか……」

 

気にはなる。けど漫画で有りがちな野次馬モブにはなりたくない。だから野次馬みたい邪魔にならずに見れそうな場所は…

 

「彼処のデパートなんてどうです」

 

上の階がガラス張りで外が見えるタイプ、彼処からなら野次馬になっても邪魔には成らない。

 

「彼処なら良いかもな。よし!あそこに行こうか」

 

「ではお先に」

 

「はや!」

 

何が起こってるか気になってたから伊丹さんを置いてかない位の急ぎ足で向かった。

 

さて着いた。

 

「はぁはぁ…は…早すぎ…息切れしてないし。し、白野くんお、オリンピック出れるんじゃないか。で、…なにが起きて…ん??」

 

伊丹さんとデパートの中に入って上から騒ぎのある場所を見た。

 

「?」

 

ちょっと理解できない光景がみえた。

 

「………なんだあれ??」

 

数秒沈黙した後に伊丹さんから出た言葉が其れだった。伊丹さんの言葉に全面的に同意するしかない。デパートの窓から見える光景は…なんだあれ。

 

先ず見えたのが道の真ん中にある可笑しな建造物。少し前に通ったんだけどあそこに門なんてなかった。話しながら歩いてたけど流石にあんなの見過ごすとかない。突然現れたとしか考えられない?上から落ちてきたのか、下から生えてきたのか、ワープみたいな事なのか。門の近くの地面に大きな損傷とか見えないしワープ……?

 

「伊丹さん」

 

「な…なんだい白野くん」

 

「東京ってスゴいですね。あんな建物がいきなり建つなんて地元では有りませんでしたよ」

 

「イヤイヤイヤ!東京でもあんなの普通は無いから!」

 

勿論伊丹さんに言ったのは半分は冗談だよ?天然ボケではない。念のための確認でやっぱり常識的な物件では無いと。あんな門ぽい建造物が多分東京の往来に突然現れるなんて"現実的"には有り得ないと…なるほど

 

現実ならあり得ない。

転生の時に聞いた『ゲート』 

ゲート=門。

 

うん、どう考えても聞いてた『物語』が道路の真ん中に建ったあの門ぽい建物関係ある。なかった場合の方が意味不明。まさか二十年も経ってから、しかも偶然来た東京で、この世界の物語要素に出会う事に成るとはね。偶然にしては出来すぎでないかな?東京に誘ったの伊丹さん、伊丹さんは神様の手先とか?……ないか。

 

なんにしても物語の始まりって感じがする。改めてゲートって一体どんな物語だったのか気になる。ワクワクする。知らない方がよかったかな?どんな物語か知らないからこそ一体何が起こるか楽しめてる感じもする。この世界でどんな物語が繰り広げられるか楽しみだ。

 

不謹慎か。

 

物語にあるのは夢と希望だけじゃない。むしろ盛り上げる為に理不尽な不幸がわりかし多い。見てる分には楽しくても現実にはあってほしくない物語の方が多い。どうやら門から”出てきたモノ”を見ると多くの人にとって現実にはあってほしくない部類…

 

ようやく自分の目の前に現れた楽しみにしてた物語の始まりは…

 

 

随分と…

 

血生臭いね。

 

 

 

 

 

 

 


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