「現在イタリカは数百の野盗に襲われていて陥落の危機であり…そして貴女は帝国の皇女であられるピニャ殿下であると…」
「そうだ」
いや気絶から覚めたらね。
イタリカの町の領主の館に居たんだよ。
誰かに運ばれたんだと思う。
運んだのたぶん部下の誰かだよな。
此処まではわかる。
で、起きたら町の現状とかを何故か居た帝国のお姫様のピニャ殿下に教えられた。帝国って銀座を襲った国だよな。
敵国のお姫様が何で居んのかと思えば、救援の先発隊らしい。先発隊…お姫様合わせても四人しか居ない。このお姫様猪突猛進過ぎないか?因みに気絶されたの猪、お姫様らしくて謝られた。
まぁ額はまだ痛いけど気絶したのは不幸な事故って事で特に怒りとかない。これで謝られてなきゃ腹もたつけど謝られたしな。ぶつけた事をお姫さまが謝るのにちょっと驚いた。単に助けが欲しいから低姿勢で居るだけか。
敵国の兵士と遭遇したお姫様、
外には野盗、エロゲーみたいな状況かも。
…グロゲーかな
盗賊が数百か。何故か装備がちゃんとしてるらしい。町の方は兵士と言えるのはお姫様入れても四人だそうだ。あとは素人の武装もない町の人。そりゃ少しでも助けが欲しいよな
お姫様がそんな状態の町を見捨てて逃げないのは好感は持てる。単に逃げれないのか。このお姫様は運が良さそうに無い。俺達が来る辺り悪運はあるのか?
此処まではわかった。
まったくわからんのが。
気の毒そうな視線、目線を逸らす、ひきつったような視線、興味深そうな視線、嫉妬した視線……全部俺に向けられてる視線。
オレが気絶した間に何かあった!?
特に嫉妬の視線はいったい?
嫉妬される様な事がマジで想像つかない。
だ、誰かに聞いた方が…。
先ず目についたのは……仮称ダグバさん。一番聞きにくい相手に一番に視線が向いてしまう。存在感がデカイんだよ。相変わらず何を考えてるかわからなくて怖い。何か今は何時もにまして話し掛けにくい感じが、なので視線をズラす。
次に目についてたのはロゥリィ。ふと思ったけど黒いゴスロリって色合い的にダグバさんの対ぽくも見えるな。グロンギでは無くて亜神らしいけど…亜神って変身しないよな?
ロゥリィは面白そうにこっちを見てる。此方は相変わら……ロゥリィがなんでカメラを持ってんの?撮影したのか?撮影してたなら見れば何が起きたか見ればわか……なぜかカメラの中身を見てはいけない気がした。二番目に話し掛けづらいな。
てか俺、何で一番と二番目に聞きづらい相手で考えたのか。此処はコイツに聞くべきだろう。
「倉田、ちょっと説明頼む」
「俺っすか!?説明もなにもさっきお姫様が話した事以外は知らないっすよ」
なら目ぇー逸らすな。
絶対に俺が聞きたいことわかって誤魔化してるだろ。
「……聞きたいのこの町について気絶した後の事だよ。俺に何かあったんだよな」
「………隊長…気絶してからは…此処まで運ばれて来ただけっす…何も起きてないっす…おれウソつかないっす」
へーーそうなのか。ゆっくりボイスの棒読みみたいな感じで言われて信じられるかバカ!!!嘘はないけど言ってないことあるだろ!!
「本当に…知りたいッスか?」
え、なにその真剣な顔。か、考えてみると視線の種類的に知ったら絶対ロクな事があったと思えない。知らない方が良いかな。そうだな。追求はしないようにしよう。そうしよう。なんだよ。お姫様と白い怪人見るのなんだよ。
「…助力を頼めるのだろうか?」
あ、お姫様放置してた。
そうだ襲われてることの方が重要だよな。
俺達だけなら…盗賊の待ち伏せがあっても車で強行突破すれば良いだろう。
町は見捨てることになるな。
助けを求められた事についてはオッケイと返答。ケモミミのメイドさんに案内されて防衛する事を頼まれた北門に行く。そして俺は案内が済んでメイドさんが去ってから言った。
「館にケモミミ、獣人のメイドさんばかりだったな」
「先ず第一声がソコですか」
呆れた視線を向けられた。
イヤだって誰でも其所が気になると思うんだ。
「この町の領主が獣人の保護をしてた人だかららしいすよ」
やはり倉田(獣人スキー)は気にして聞いてたか。
確か獣人はこの周りでほぼ奴隷みたいな扱いだったか?服装とか顔色的に普通より良い扱いされてたと思える。この町の領主さまは人権擁護をしてる立派な人だったんかな。メイドにしてるけど、メイドだから仕方ないけど女性ばかりだけど……倉田(特殊性癖)と同類じゃないよな?
そういえば町の領主としてって紹介されたの小学生ぐらいの少女……っと、親が亡くなってやるしか無いって状態だったか。幼い少女が領主なのに町を滅ぼせる規模の盗賊が攻めてきてるか。
うん?待てよ亡くなった領主…亡くなった時期が最近みたいな事を言ってたな?病気とかでないなら…領主が戦闘に出て戦死とかじゃね?最近となると…まさか銀座か丘に襲撃してきた軍隊の中に居たとか……町の戦力もその時の襲撃に参加してて、前の領主と一緒に戦力も無くなったから盗賊が攻めてきた。そんな領主の町を助けるのは領主に襲われた俺達……うわ、これ、考えたらダメなやつだ。
まぁ事実は不明…ふめい。
仮に正解だとしても申し訳ないとかそんな思いは持てない!!事実だとしたら向こうが襲撃した加害者側だしな!…なんて簡単に割り切れないよな。
確実なのは襲われてるのは敵国の町って事だ。
相手がテンプレ的な傲慢な貴族とかなら助けるの超嫌々になるけど、気弱そうな幼い系の領主に、本来なら奴隷なそうな獣人のメイドさんたち、低姿勢なお姫様……男は少ししか見てない。助けを求めてるの殆んど女子供ばかり、心情的に助けないって選択肢がとりにくいわーー!!!
まぁ、流石に救援を承諾したのは心情的にって理由じゃ無い。俺だけならともかく心情だけで部下の命を掛けるなんてあかんし。お姫様が居たからだ。敵国のお姫様、交渉する時の取っ掛かりとしては大きいよな。
で、問題は勝てるかどうか!俺たちだけじゃ絶対に無理!!数百人居るなら相手が武装をろくにしてなくても町の防衛はキツイ。手が足りない。数百てただの盗賊なのか?賊に偽装した軍隊じゃないか?
「で、隊長どうするんです」
「そら俺たちだけじゃ戦力足りないし救援を頼むしかないだろ」
「襲撃が予想されるのはそれほど先では無いですよ。時間的に救援を頼んでも間に合わないのでは」
「第4戦闘団なら間に合うだろ」
出すの渋られてもお姫様の事とかあれば出してくれるだろ。
「…戦闘ヘリですか。数が多そうですが盗賊相手に過剰戦力ですね」
今回の場合は過剰戦力で良いんだよ。お姫様に力を見せ付けないといけないし。力を見せたら仲良くしたいと思うだろ。力がある相手には配慮する。これはどの世界でも変わらない。ダグバさん相手の俺達みたいにな!
後でこんな助ける理由をロゥリィに説明したら、ロゥリィから変な誤解をされた。恐怖を魂に刻み付けるとかねぇよ。
「よくわからないけど助けを呼ぶの?ダグバさまだけで盗賊ぐらい軽く蹴散らせるんじゃ」
おう面倒な事をいうなテュカさんや。
テュカもそうだけど、避難民の人らダグバについて良い方にしか考えてないよな。テュカ達からすれば見返りもなく無償で助けてくれた相手。災害のドラゴンもブッ飛ばせるほど強力な力もある。で、そんなに強いのに普段は穏やかに見える。そら崇めるよな。俺達は無理だ…祟り神も鬼も神様と崇める日本人的な感性なら崇められるか?
で、盗賊についてはダグバさんは興味無いってかんじで、見物客みたいな感じだ。今の状況でも観光の一種か。まぁこの町を助ける理由無いもんな。むしろ帝国って枠組みで敵って認識されないだけでも有りがたいだろうな。
だから俺はなにも言わなかった。
なのにテュカが俺に聞いたから。
ダグバさんが俺をみた。
「手伝オウカ?」
俺は全力で首を横に振った。
ロゥリィが面白そうに笑ってるのが見えた。
いや、おれ断ったやん。
彼はエムロイを信仰している兵士。
強さも頭の良さも並み。
特に珍しくもない大多数居る兵士の1人。
食べるために兵士となり若手を卒業できた頃、部隊の仲間を家族と認識できるほど馴染んだ頃、彼の居た部隊は連合軍の一員として丸ごと召集された。連合軍なんてカッコよく言っても実際には帝国に対して言いなりになる弱い国の兵士の集まりだ。悪く言えば負け組の寄り合い軍、帝国に侵略者を迎え撃てと要求、いや命令をされて集まった軍が連合軍だ。
侵略者とは帝国に聞いただけの情報、帝国が何処ぞに侵攻したという話しもあり本当なのか怪しい。相手が本当に侵略者か怪しんだとしても帝国には逆らえない。帝国に逆らえばどうなるか。見せしめに逆らった国の町の1つか2つ、女子供を含めて皆殺しにされかねない。それが悪質な憶測と成らないのが帝国の歴史だ。
証拠とも言えないが侵略者への対処として帝国では焦土作戦が検討された。民から食料を奪い井戸に毒を落とす。自国の民の村や町に対してだ。実行はされなかったが、理由は税収が減ることと領主から文句が有るからと言った自国民の被害は欠片も考慮されていない理由の却下。自国民でさえそれで他国の人間ならどうなるか。
そんな帝国からの要求だからこそ、短期間で集められたのに何万もの軍勢が集まる。覇権国家たる帝国に対抗できると思えるほどの程の軍勢だ。
集められた国はあくまでも帝国の軍事力に屈していただけで、所属はバラバラだが共通して帝国に好意的な国は無い。ただ全体が帝国に敵対するとは限らない。失敗すれば滅亡と考えれば賭けにも出れない。もしもこの時に帝国の軍事力が減っていた事に気づけば結論は違ったかもしれないが、知らなければ意味がない。
帝国は敵の情報を何も伝えなかった。
情報が無ければ連合は不利になるが、帝国にとって勝利でなく連合の戦力を減らす事が狙いだったから問題はなかった
連合軍は帝国の策に嵌まり帝国の思惑どうりに動くしかない。
連合軍はアルヌスの丘まで進軍し帝国の言う侵略者に戦いを挑む。彼の部隊は先陣を任せられた。帝国の命令で戦うのは気に食わないが、彼は信仰するエムロイに恥じないように誰よりも先頭を走った。後ろから彼の所属する部隊も続いた。
先陣の彼等でもまだアルヌスの丘が辛うじて視界に入るぐらいの距離。まだ彼等の認識ではとても遠距離武器でもお互いに攻撃が届くような距離ではなかった。
兵器と言うのは射程と言うモノが重要。正確には射程と言うよりも如何に自分が有利に安全に効率よく攻撃出来るかが重要。
日本で言えば長さを伸ばした槍。戦国時代に戦場に革新をもたらした火縄銃。時代が進めば戦車、戦艦、そして戦闘機と時代が進ごとに新たに有利に攻撃できる兵器の開発が進められる。
アルヌスの丘に居る侵略者、いや自衛隊は兵器の開発が制限されてるとはいえ世界大戦の後の兵器群がある。翻って攻めてきた彼等は魔法等があり一概には言えないが、火縄銃すら無い事から技術で言えば戦国時代未満。
陣形、戦法、兵器のレベルというのは10年ほど世代が違うだけで大きな差が生まれる。10年で蹂躙される程の差が生まれる事もある。なら世代が数百年ぶんの差が有ればどうなるか。
戦争でなく虐殺となる。
数万の軍勢に攻められる自衛隊が相手が憐れに思うほど、しかし遠慮すれば殺されるのは自分達になる。容赦なく砲弾がまだ戦闘が先と油断した連合軍に打ち込まれた。
轟音が鳴り響き地が破裂、火山から吹き飛ばされた火の岩が連続して着弾した様に次々と破裂する大地。天変地異が起こったと錯覚するほど。錯覚でなく実際に彼等にとって天変地異か。
先陣を行っていた彼の後ろに球が着弾。彼は後ろから来た未知の衝撃に馬から放り出され意識を失った。次に気付いた時には数万の軍勢が見る影もなく壊滅している光景。彼は意識を長く喪失した訳でもない。意識が戻る頃には最強である帝国と渡り合えると思えた軍勢が消えてなくなっていた。
彼は自分の後ろに居た部隊を探そうとして有るものを見付ける。それは彼が気を失う前に走っていた所に出来た沢山の穴、そしてその穴の周りには……家族とも思えてた仲間達のモノと思わしき”残骸”が飛び散っていた。
相手が見える前に敗戦の様相であり仲間も居なくなった…選べる選択肢は一人でも戦うか逃走か。彼は後者を選んだ。彼は天涯孤独の身でただ1人だけ生き残りたいとも思わない。此処で戦死して仲間の元に生きたいとも思ったが……逃げることにした。
仲間を殺した相手が何なのか知らない。軍隊は壊滅し仲間は殺されたのに相手が何なのかすら解らない。解ってるのは天変地異を起こせること、そんな事が可能な相手が人である訳がない。炎龍みたいに挑んではいけない存在だろう。なら単身で挑むのは戦いでなく自殺だと思えた。自殺ではダメだ。自分は兵士だ。何もできずに散った仲間の分まで戦う責任があると思った。彼は自分の心が壊れた事にも気付かずに逃げた。
彼は逃げ逃げていく敗残兵の集団に彼は入った。集団の中では丘に居た何かへの恐怖と帝国への憎しみや怒りが噴出していた。
自分達が集められた理由がわかった。
帝国が丘に居た何かに手を出して負けた。幾ら帝国でも天変地異を引き起こせる存在に勝てるわけがないと、恐らく帝国が手を出して返り討ちにあって軍事力が相当に減った。軍事力が減った事を俺達が知ればどうなるか。当然帝国を打倒しようと動く。だから帝国はそれが発覚する前に急いで不穏分子の国から兵士を集めてアイツらにぶつけた。最初から俺たちは帝国のクソヤロウに殺される為に集められた!!と風評と憶測と推測だったが間違いは無かった。彼も帝国ならやりそうだと納得した。仲間は帝国のせいで無意味に殺されたと。
敗残兵の彼等は二通りに別れる。
帰る場所があるか。
帰る場所がないか。
国があり帰る場所があるなら帰還を目指せばいい。しかし一部には帰れないものもいる。帰る場所が無いなら野垂れ死にするか、生きる気があるなら生きていく為に糧がいる。相当に運が良ければ何処かの村や集落等に紛れ込み真っ当に生きる事も出来るが、受け入れてくれる所なんて先ずないだろう。
生きるために残されるのは物乞いか犯罪者への道……
彼等は武器を持った集団。此処は帝国の領地、帝国には怨みある。言い訳に武力もあり自然と犯罪者、野盗に成る道を選ぶ。
敗残兵が野盗の一団を結成。
彼も野盗の一味に成ることにした。
その数はおおよそ600。
彼は生きていく為と言うより戦って死にたかった。壊れた彼は胸を張って仲間の元に逝くためにただ戦場を求めた。
彼等は先ずイタリカという大きな町を攻めると聞いて喜んだ。大きな町なら相当な抵抗もあり率先して戦えば堂々と死ねると考える。600を越える数の野盗の集団、イタリカ程の大きさの町相手には数は足りるかどうかというぐらい。帝国からの援軍が来れば負け、激戦が予想された。
しかしイタリカの抵抗は想定よりも低い。兵士は殆んど居らず住民が反抗してくるぐらい。一回の襲撃で町の陥落は出来なかったが、彼が率先して戦っても怪我をする事もなかった。あと一回の襲撃で陥落させられる。帝国からの増援なんて来る暇もない。大多数の強奪目的の人間からすれば喜ばしいが、少数の彼の様な終わりの場所を求めた元兵士は落胆した。
彼は落胆する必要はまるでなかった。
再度の襲撃で異変がおきた。
彼の信仰するエムロイに仕える神官であり亜神、死神と字される程の黒い亜神が乱入してきたのだ。
見掛けは小娘だが中身は彼が産まれる遥か前から戦い続けている古強者の戦士。幾つもの伝説に語られる存在。その戦いぶりは一見すれば理不尽な死そのものだが、死ぬ覚悟がある戦士にとっては惚れ惚れする様な輝く死の舞い。亜神の怪力任せに暴れてるように見せて、積み重ねられた経験に裏付けされた珠玉のような卓越した戦闘技術。戦士にとっての到達点というのを見せ付けられる。死神と一緒に来た緑の服の魔術師も凄かった。
しかしそんな緑服や死神よりも気になる白い何かが居た。
暗い中でも目立つ白い存在。
豪華な白い鎧を着ている?
鎧には金色の装飾も見える。
粗忽な鎧と真逆に目立ち過ぎている鎧。彼等の持つ認識で一番近いモノは伝説に存在する古代の王だろうか。絵物語の英雄にも見えた。
始め白い存在は死神を此処まで運んできた。お姫様を抱えるような体勢でだ。死神はそのまま此方に向かって戦いを挑み白いのは何もせずに佇んだ。彼はその姿にむしろ警戒をしたが、無防備なバカだと見る人間もいた。そして略奪を目的とした野盗とすれば高価な戦利品は早い者勝ち。
人が空を飛んだ。
彼の頭上を越えて飛んでいきだいぶ先で堕ちた。腹部の部分には穴が空いている。生きてる訳がない。炎龍に撥ね飛ばされればあれだけ飛ぶだろうか?炎龍(災害や天変地異)の化身の様な何かがいるということか。
飛んだ方向を見ると居たのは白い何か。
殴った姿勢から元に戻るところをみた。
まさか殴り飛ばした?
彼はゴクリと息を呑んだ。
白い存在の近くには怯えた様な人がいた。装備を見ると元兵士でなく純粋な野盗。まだ若く経験も無かったのか危機感を感じず白い何かの鎧が高く売れるとでも思って狙ったんだろう。飛んだのもあの中の1人か。
打撃の威力はどう甘く見ても死神と同じ亜神。飛んだ人間と飛んだ先の白い存在を見た誰もがそう考える。亜神とは総じて強いだけでなく不老不死の存在、黒い死神の暴れぶりを見れば戦えるような相手じゃないと判る。死ぬ覚悟もなくただ略奪狙いだと相手が悪すぎる。白い亜神を取り囲んでた彼等は血相を変えて逃げた。
白い亜神は何かを拾う。
野盗の誰かが落としたのだろう槍
ろくに手入れもしてないのかボロボロな槍。
拾った槍が不自然に伸びる。そして廃棄品にしか見えない槍だったのにその外観は死神の持つハルバート並みに立派なモノと成っていた。
白い亜神は槍を持って駆け出し逃げた盗賊の元に向かう。まるで戦いを挑んで逃げ出すのは許されないと言うように!
背後から槍を振り抜く。槍の見掛けだけが変わった訳では無い事を示すように、スパンと擬音が聞こえてくるような見事な切れ味を発揮する。肉も骨も鎧も盾も剣も関係ない。まるで元からそうであったかの様に何人もの肉体が二つに別れた。
白い亜神は二つに別れた体から血が噴出してる内に逃げた他の野盗にも同じ運命を与える。白い亜神は逃げた野盗を1人残らず裂く。どう判別してるのか他の野盗の中に紛れても逃れることも出来ない。戦いを挑まなかった相手には手出しはしない。しかし、ただそれだけで戦場の空気を支配した。
まさに戦神。
白い亜神を見て黒い死神は艶のある恍惚とした顔で嗤う。自分も負けてないと言わんばかりに更に攻撃的に命を刈り取っていく。白い亜神は自分からは向かわない。しかし自分に向かってくるモノの命は必ず奪った。
戦神と死神、2人の亜神相手に勝ち目はない。
古くから語られる黒い死神と未知の白の死神が暴れる戦場。彼は自分が幸運なのかもしれないと思う。冥土の土産話にはこれ以上のモノは思い付かないと、亜神を相手に戦うのは丘に行くのと同じで自殺の様なモノだが、まだ戦いの形になるなら良いかとも思う。
彼は剣を持って駆け出した。
他の元兵士も駆け出した。
白い新たな亜神に向かう
この場で…いや世界で最強だと思える相手に向かう
彼は殆んど同時に駆け出した彼等に奇妙な仲間意識を感じる。同じ死に損ない何だろうと思う。そんな仲間意識の他に感じるのが絵物語の中に居るような不思議な感覚。黒い死神に見たこともない武器を使う緑の兵士、それに加えて此まで知られてない白い亜神が現れた戦場なら語られる伝説になる筈だ。
伝説での役所は主役に蹂躙される賊の1人という端役の中の端役だが…一瞬でも語られる一部にはなれる。
彼は雑兵の一人として剣を振りかぶる。
白い亜神(主役)が彼を見た。
雷に打たれた様な震えが走った。
気付くと彼は自分の身体を見詰めていた。
頭が胴体から切り離された無残な有り様を晒してたのに、苦痛すら感じない即死だったのか死顔は眠ったよう。彼と一緒に走っていた奴等も同じだ。何処か満足げか。そんな満足気な彼等と違い。まだ生きたいと怯えて最後を迎えた賊もいる。泣いてる賊もいた。善悪関係なく戦って死んだ彼等は皆等しく、黒い死神の身体を通してそのまま戦いの神エムロイの元に旅立っていった。
この世界では死んだ魂は神の元に向かう。彼の魂を回収した神にどうして死んだのかも伝わるだろう。こうして白い怪人は異世界の神にも注目される第一歩…赤龍の事も含め二歩めを踏み込んだ。