白き闇は正義になれない?   作:ソウクイ

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闘争

 

東京銀座

 

戦後からは平和な時が続いていた日本、日本の首都の東京で尤も栄えている地区の一つの銀座にこの日訪れたのは混沌。まるで長く続いた平和だった時の反動が纏めて来たような争乱が、何の前触れもなく突如として起きていた。

 

伊丹と優男と言った風情の大学生ぐらいの青年、白野はデパートの大きな窓から外を見ている。白野の無自覚に浮かべる表情、銀座で起きている光景に薄く笑う口、銀座の騒乱を楽し気に見る目……伊丹は隣にいる年の離れた友人の場違いな表情に気付くことは出来なかった。

 

 

もう淡くしか思い出せない前世に生きていた頃の白野の記憶。まだ正真正銘見かけ通り幼かった頃、親は共働きで幼い頃から家で一人で居ることが多く。白野は家でよく一人でテレビを見ていた。見ていたのは年相応にアニメや特撮系作品等の子供向けのもので、特にヒーローや怪人が出てくる空想の作品を良く見ていた。作品の影響からか白野は子供心に何時も大冒険の様な世界を体験したり、ヒーローと会いたいと思ったりした。子供としては普通だ。子供の多くは白野と同じ思いを抱くが、大人になる頃には現実を知り忘れているだろう。白野も大人になる頃には忘れていた。

 

そんな白野は1度生を終えた。

 

白野の魂は神の様な存在に出会い前世の記憶を持ちながら転生することになった。さらに二度目の生では、力を持つ事になった。死後に自身が幼い頃に出会いたいと思っていた空想の存在へと成り果てた。そして転生したのも物語の世界と教えられた世界。同じ地球としか思えない世界。しかし白野は元の地球の様でも幼い頃に夢見た物語の世界だと信じた。その内に物語と遭遇する。物語の主人公であるヒーローとも出会える。前の現代と変わらない世界も、物語によってどういう風に世界は変わるのかと期待して楽しみにして生きてきた。

 

しかし二度目の生が始まってから20数年にもなると、何時か物語と遭遇すると思いながら白野が生きたのは前世と変わらない平凡な人生。もうすぐ社会人、物語と遭遇するのは学生時代だと思っていて、もう物語と関わる事は無いのではと思っていた。その思いは間違っていた。

 

銀座で物語の始まりとしか思えない出来事と遭遇する。前世の幼い頃に夢にまで見た物語と遭遇したとしか思えない事態に白野は…

 

 

とても喜べない類いのモノだと、今自分が無自覚に浮かべた表情を知らずにそう思った。

 

 

 

 

周囲から漂ってくる濃い血の匂い。人の悲鳴や断末魔のような叫びが辺りから聞こえて、人が襲われ人の体から出た血液で銀座のビルも道も朱に染まっていく。今の銀座に広がる景色は……テレビならモザイク加工で画面の全面が見られない様な悲惨な光景と成っていた。 

 

老人も幼子も女性も亡くなっている。凶悪事件、それも何日も連日放送される様な猟奇的な殺人事件。無差別の通り魔殺人など、犯人の残虐さに死刑を求められる様な事件。悪い意味で日本の歴史にも残る様な事件の犯行を何百倍にも規模を大きくした様な残酷な光景が、少し前まで平和だった銀座の街に広がっている。治安が良いと言われてた日本の姿が見る影もない程に変わり果てている。今の銀座は混沌の坩堝となっていた。

 

銀座に突然現れた門の様な建造物。その門からワープするのか続々と出てきた存在が銀座で暴れている。中世の兵士のような人も居たが他にもトロル、オーク、ゴブリンに見える魔物としか言えない生き物もいる。空を飛ぶ翼竜、ワイバーン、まるで童話の生き物が飛び出してきているようだ。

 

童話の中にだけ存在した生き物達が銀座に居た人達を無差別に殺戮をしている。内から沸き立つ思いを意識しないようにビルの窓から見ながら白野は冷静に考えた。

 

襲ってる理由は…みたままだろうか?

 

国旗の様な旗をもってるので何処かの国か組織に所属してる兵士。国家に所属する兵士が攻めてくる。有り得るのは今行われているのは略奪目的か侵略戦争。想像の翼を広げれば他の答えも出そうだが、侵略者という認識で良いだろう。

 

つまり日本は何処かの国から…侵略戦争をしかけられ日本人が虐殺されている。二度目の人生の祖国が侵略を受けている。そう認識した白野だが怒りは特には感じない。ただ惨劇を他人事の様に見ながら自分はどうするべきか考えていた。

 

教えられた物語の始まりと思える事態にどうすべきか、白野は生まれた頃は物語を見たい。場合によっては関わりたいと思っていた。なら実際に目の前にして何かすべきか…関わるとすればどう関わるか……

 

当然だが銀座事件を見ながら考えている事ではない。倫理観もそうだが自身の命の危機。普通なら他の人達同様に逃げる事しかない。普通なら此処から逃げなければいけない。しかし白野は普通とは言えない。白野には力がある。それこそ殺戮をしている侵略者を見ても極自然と脅威と感じない程の力。

 

白野としては物語と関わりたい。そうするとどう関わるか。思い付くのは……見学を続けてただ物語を外から見てるだけか。それとも積極的に物語に関わるとして…地位も立場もない力が有るだけの一個人で出来ることは………個人で戦いを挑むぐらいか。

 

白野は喧嘩すら前世を含めてただの一度もない。身に付いた力を使ったことすらもない。力が使えるのか。力が使えても素人が戦えるのか。負けて自分が死ぬかもしれない。生き物を傷付け殺すせるのか。こうした本来なら有るべき不安や恐怖は不思議に思うほど感じない。…戦う事に対して不安や不快をまるで感じないどころか、戦うと考えると高揚感まで感じていた。

 

 

ある作品の物語のキャラクターと同じ姿。姿が不味いと試しにでも力を使ていなかった。しかし……参加しないのは勿体ないと思えた。

 

「あーもう!これだと即売会中止だ!」

 

隣から聞こえた場違いな声。

 

(あ………隣に伊丹さんが居る事を忘れてた)

 

 

 

 

うん台詞がスゴい。ボクが思うのも何だけどそこを気にしてる場合かな。伊丹さん図太い。

 

伊丹さんをどうするかな。離れない方が良いよね。なんか離れたらアッサリ死んでそうな気もするし。物語云々より、まずは友人が優先かな。…………まぁ、騒ぎは直ぐに終わるわけでもないだろうし。逃がした後でも十分……十分、伊丹さんを逃がしてからどうするか改めて考えよう。

 

でも出来ればこう言う時は一緒に逃げるのは可愛い女の子が良いかな?贅沢言ってられないか。グズクズしてたら不味いし。空の竜とかもう間近まで近付いてるし早々に逃げよう。今の身体能力なら素でもあれぐらいの竜なら倒せそうな気もするけど、倒したら不味いって意味で不味い。今はまだ我慢しないと……何を我慢するんだろ?

 

「残念ですがまた来年って事で今は逃げましょうか」

 

「あー」

 

伊丹さん何で頭を掻いてるんだろ。逃げるのに迷う要素なんて無いよね?結構急がないと不味いんだけど、空の竜もそうだけど下から来てるのも結構近くなって来てる。

 

「白野くん、悪いけど一人で逃げてくれ」

 

「ん?伊丹さんはどうするんです」

 

伊丹さんが苦笑してる。

 

「俺ってこれでも一応自衛隊員だしこんな現場から逃げるのは不味いんよ。戦う事は出来ないけど避難誘導ぐらいはできるからちょっとやってくる」

 

伊丹さん、自衛隊員って本当だった?ネコミミメイド服について激論を交わしてた伊丹さんが。本当に自衛隊の……じゃなかった。そこは今はどうでもいいんだった。

 

「避難誘導に俺はいくけど……って」

 

ボクを見た。

手伝ってほしい?

 

「白野くんを先に安全な所まで送らないダメか…避難誘導するつもりだしそこに、いや、下手に外に行くより建物の中に隠れてる方が良いのか……いやアイツらが出てくるあの門の近くだし不味いか…」

 

違った。ボクの事で悩んでるのか。

友人としてはありがたいけど…

 

「伊丹さん一人で何とか逃げますからボクの事は気にしなくても大丈夫ですよ」

 

「…い、いやいや、大丈夫って銀座にきたのも初めてだろ」

 

「大丈夫ですよ。逃げ切れるぐらいの足の早さはありますから」

 

さっき伊丹さんに足の早さは見せたから説得力はある。

 

「………………わかった…たしかにあの足の早さなら一人で逃げた方がいいか……白野くんうまく逃げてくれよ!あとそのリュックは絶対に邪魔になるから置いて行きなよ。後でネットの何時ものところで!」

 

結構の間を開けた後に伊丹さんがそう言うと駆け出した。最後まで心配そうだったなぁ。まぁ友人としては嬉しいけどね。

 

それより本当に伊丹さん避難誘導しに行くつもりなのかな。別に本物の自衛隊員だからってこんな状況なら逃げても問題ないと思うんだけど、自衛隊ならそれが普通なのかな。普通なわけ無い。友人として助けたい。けどそうなると……

 

「うーん、なんというか……厄介」

 

全く厄介な友人をもったと思う。厄介だけど、好感度的にはだいぶ上がったんだけどね。…男への好感度なんてホモでもないからあんまり上がって欲しくない。

 

さて伊丹さんが見えなくなった。

伊丹さんには悪いけど逃げる気はない。

 

路地裏方向にある非常階段のドアに向かう。鍵が掛けられてたから蹴破る。路地裏にある外に出たら人目が無いことを確認したら…其処から跳んでデパートの屋上に…シュタと着地は成功。シュタをショタって聞こえたなら病院に行ってね。

 

何メートル跳んだかな。

自分の中身がどうなってるか考えたくないね。

 

デパートの屋上から眼下を見渡す景色は…

 

なんとまぁ……

 

更に見渡せる所から見たら予想より凄まじい事になってる。所々真っ赤。沢山悲鳴が聞こえる。まるで町全体がホラーハウスかな。そんなに時間も経ってない筈なのにあの門から来た侵略者が相当に広まってる。門は1つしか無いみたいだけど、侵略者の数が予想より多い。オマケに増援も来てる。侵略者の出入りはあの門一つだけ…あの門を壊したら増援はこない?

 

壊すのは…不味いかな。

 

あの門は転送装置みたいなモノだろうし。転移に相当なエネルギーが必要のはず。そう考えたら門を壊したらエネルギーが暴走して銀座ごとドカン!!が無いとも言えない。某仮面ライダーの怪人みたいに倒したら大惨事みたいな事が起こるかも。なら門を制御してる装置を探す。制御をする装置が存在しないかもしれない。あっても装置を操作出来ると思えない。門はどうにもできない。

 

まぁ何もしなくても…。

 

警察の人とか頑張ってるけど今は日本側の一方的な敗退。それでも最終的には日本の負けはないとは思う。侵略者は身の程知らずとしか思えない。兵士の武器は槍やら剣やら弓矢やら中世レベル。魔物みたいなのは大型のを除けば拳銃ぐらいでなんとかいけてる。大型のも重火器の軍隊相手に勝てると思えない。あくまで奇襲で民間人を襲ってるから被害が酷いだけ。何もしなくてもその内に撃退されて終わる。相手側にすごい切り札でも無ければ

 

伊丹さんは何処かな。避難誘導するなら、避難される人の流れがある場所に居る筈。あれかな。一定の方角に人が進んでる。人の流れを遡ると…伊丹さんが居た。

 

本当に伊丹さんは避難誘導してる。警察とか他の人達とも協力して避難誘導をしてる。指揮をしてるのは伊丹さんぽい。伊丹さん案外リーダーシップがあるのか。避難に協力してる人や避難誘導されてる人達、伊丹さんが薄い同人を買いに来たと知ったらどんな気持ちになるかな。終わった後に伊丹さんと最初にあった時に録った動画を是非とも見せたいな。そんなことも今はどうでも良いか。

 

避難って何処に行くんだろ。アレだけ避難民を受け入れられる大規模な施設で防衛に適した場所って…何処かある?

 

銀座に詳しくないのも有るけどそんな都合が場所か建物なんて想像つかない。伊丹さん達の避難誘導で向かう先は、方角的に……あの方角にあるのって……皇居?

 

え、あそこに避難しようとしてる?

 

方角的に皇居しかない。スゴい方向に向かわせてる。良いのかなあれ?堀もある城みたいなモノだし…防衛にも避難にも適した場所とは思えるけど、許可とかとれるの?許可でないと行き止まりに誘導してる事になるけど

 

避難先とか伊丹さんの独断?

それか他の人が提案したのかな。

もし伊丹さんなら決断力すごい。

 

あ、竜に伊丹さん空から狙われてる。警察の人の射撃に伊丹さんはギリギリ助けられた。ボクが動く直前なぐらいのピンチ…映画のシーンをみた気分と、友人が無事でホッとした。

 

伊丹さんはまだ避難誘導してる。まだやるんだ。さっきのは本当に運か良いだけで紙一重だったと思うんだけどな。伊丹さんと同じ様に狙われて殺された人は何人も見てる。怖くないのかな。今のボクだと怖いとは感じないけど、仮に力が無い前世のボクが同じ立場だったら……他の人みたいに逃げるかな?逃げてると思う。

 

伊丹さん何でやってるんだろ。

 

自衛隊としての使命感…は無さそう。職業的な事で命をかけるとか伊丹さんはそう言うタイプではないと思う。命知らずでも熱血でも正義感が強いってタイプは絶対ない…ならなんでかな?何となく動かずにいられなかったとか?これが一番シックリくる。 

 

伊丹さんって意外とヒーロー気質だったのかな。伊丹さんがヒーローって言うとスゴい違和感あるけど…とにかく伊丹さんはスゴいって認識は持てる。

 

伊丹さんは避難が終わるまで逃げれるか。このままで生き残れるかな。ヒーローみたいな行動をして生き残れるのはアニメや漫画の世界ぐらい。正義が生き残れるのはフィクションだけ…この世界ってそれに近いのかな?主人公なら多分大丈夫だろうけど…主人公じゃないと……改めて友人として手助けをしたいと思う。

 

どうしようか。

直接助けるか…間接的に助けるか。

 

どちらにしても戦う事になる。友人への手助けとして戦う…元から戦う事に忌避感は無いし。物語に私的に関わる理由も有る。姿で騒がしくなる程度は…大丈夫?だけど、何なんだろうな。踏ん切りがつかない。

 

何となく周りを見回してると視界の端に小さい男の子が見えた。親とはぐれたのかな。…男の子にワイバーンが近づいてきてるのが見えた。

 

口が開いてる。

文字通りの獲物として少年を狙ってる?

 

悲惨な結末は予想できるけど、これまで何度も似た光景をみてなにもしなかった。今回も動こうとは考えなかった。けど友人の伊丹さんが命がけで頑張ってるのを見た後だ。

 

反射的、咄嗟って言うのかな。気付くと手を翳して男の子を助けるのに"力"を使っていた。

 

「!!!??」

 

侵略者はワイバーンごと燃えて燃え尽きて男の子は助かった。正直助かった事はどうでも良いと思った。それより自分が助けた事に困惑した。

 

「…………」

 

自分の腕を見る。

白く硬質な腕。

 

なんで助けたのかな。友人の行動に感化されたのかな?

 

この腕や力は”人を助けるようなモノじゃない。自分は善人とは言えない。友人を助けたいと思った事に嘘はないけど、それ以外の人が襲われているのを見ても自分でも不気味に思うぐらい感情が動かなかった。だから特に助けたりしなかった。

 

ボクは日曜の朝に放送される様な、人を助ける特撮のヒーローが格好いいとは思う。見てる分には好きなだけで、なりたいと思った事は一度もない。だから転生の時に白と黒どちらかの力かを選べて、白を選んだ。黒のヒーローとは真逆の力を望んだ。

 

なのに助けた。

 

やっぱり友人の伊丹さんへの手助けとしてかな……それか前世の感覚の名残か……まぁそんなことよりも重要なのは…一度やったしもう良いかな。

 

それに正直…力を使うのは悪くない気分だった。ボクは戦いに対して興奮する様な性格じゃないと思う。むしろ喧嘩も避けるような質……自分に予想外な一面があったのか、力の影響が精神にも来てるのか。

 

動くと決めた。

戦うと決めた。

 

理由は友人の手助け、物語に関わる。それと東京まで遊びに来たのに台無しにされた怒り。それと何より……思うまま戦うのに力を使ってみたいって欲望が何よりも一番大きい。理由に人を助けるって理由はない。利己的だ。けど結果的に助かるなら他の人にとっても悪くないよね。

 

 

やろうか。

 

 

戦う意思に呼応して腕だけじゃなくて全身が“変身”していく。人とは違うモノになっていく身体……身体は人外にかわって…心は…何時間も並んだ遊園地のアトラクションにようやく乗れる直前の様な感じだ。…これ不味くないかな?

 

 

 

 

 

 

な、何が起きてるんだ。あの魔物はなんだよ…なんて……俺が死ななきゃいけないんだよ。

 

食われた!おれの腕が…こ、こんな死にかたはイヤだぉぁ!!

 

誰か…だれでもいいから…誰かたすけ……!

 

 

街に突如出現した門、門を通りこの世界の外からやってきた侵略者が銀座の町に解き放たれる。侵略者は魔物や飛竜、そしてそれらを従えた馬に乗り鎧兜を着て剣や槍を装備した中世の時代の様な人間の兵士達。侵略者は物語りの中の世界にしか存在しない幻想の様な軍勢。幻想は人の思い描く様な楽しい夢でなく血みドロの悪夢。

 

異界の侵略者、彼等は銀座の街に突如進出すると言語の判らない言葉で宣戦布告。魔物も人も目についた一般人を容赦なく殺し始めた。

 

女子供でも気にせず容赦なく次々に殺す。一般人には逃げる事しか出来ない。一部警察が抵抗するが蟷螂之斧、兵士や魔物によって狩りの獲物の様に命を狩られ増えていく死者の山。戦後何十年、平和だった銀座の街は地獄と化す。

 

殺戮をする侵略者の一人は思った。

 

ハハハハ!!調査から判ってたが、この世界の人間は弱い。弱すぎる。其処らの農夫にも劣る。建物ばかりが立派では意味がないな。これならこの世界なんて他の国の様に帝国の力で簡単に征服出来る。この戦いは異なる世界初の勝利と讃えられるだろう!俺達は伝説の英雄たちとして語られるんじゃないか!それに上手く一番の武勲上げればこの土地を貰える可能性も出てくるか?いや無数にある建物を1つ貰えるだけでも良いな。モット手柄を!俺が一番この弱小蛮族共を駆除してやる!はは、それにしても情けない奴等だ。こんな簡単な狩場は早々ないなぁぁーー!!

 

強者の立場で虐殺を続ける兵士。相手は蛮族、彼等のルールでは弱者は殺しても問題ないと虐殺を行っている。自分達こそが弱者だと欠片も思ってはいない。

 

「ハハハハハハ!!蛮族よ!少しは反撃したらどうだ」

 

彼は逃げるだけの男性を背後から槍で突き殺す。男性は体に穴を開けて倒れ伏す。彼は生温い返り血を浴びる。兵士は自身の強者の証し、そして手柄を立てた証しとして人の血を浴びる事を悦んだ。男女関係なく獣を殺す様になく殺す。その度に沸き上がる自分は英雄だ最強だと感動に身を震わす狂気の全能感。

 

「…お…おかあさん……」 

 

兵士は親とはぐれたらしい少年を見付ける。それはまだ十歳にも満たない幼い少年。

 

兵士が次の標的として狙う。

 

今は無力でも少年が大人になった時、力をつけて復讐をしてくるかもしれない。将来の禍根を消すために殺す……なんて真っ当な理由何てない。兵士は理性がとび殺戮の狂気に犯されている。残虐な事ほど殺人鬼と化した兵士にとっては喜びとなる。

 

肉を食べる為でなくただ獲物をいたぶり殺すために狩りをする狩人。絶好の哀れな獲物(少年)を見て笑う。槍で突き殺そうと思っていたが、騎乗しているワイバーンが腹がすいたと鳴いた。

 

兵士はより深く笑う。食事をして良いと言う意味を込めてワイバーンの首を叩く。歓びワイバーンは口を開き少年の元に向かう。少年は絶望に顔を歪める。それを見て感じる喜び。兵士は、いや殺人鬼は殺戮に酔いしれ興奮し体温を上げていき遂にー―燃えた。 

 

少年を喰らおうとしたワイバーンごと文字通りに燃えた。

 

今まで一方的な殺戮をしていた殺人鬼とワイバーンは突然体内から噴出した炎に包まれ、ワイバーンごとそのまま悲鳴を上げる事すら出来ないで焼死。肉が残るどころか骨も残らずに全てが灰となる。身に着けていた鉄の装備ですら同じだ。まるで神からの罰を受けるかの様に一人の殺戮者は骨すら残さずに消えて無くなった。

 

「…な、何がおきた!?」

 

目撃した馬に乗った騎士は困惑しながら周りを見回した。元凶になるような何かがないかを探した。兵士が燃え尽きた後に残った灰が風に飛ばされる。それが偶然なのか焼死を目撃した騎士の元に向かった。

 

「…ぅ!」

 

灰を被る。同僚の名残が口や鼻にも入り身の毛もよだつ嫌悪感を感じた。騎士は灰を振り払おうとするが、灰はまるで一人で逝くのは嫌だと言いたげに騎士の身体に纒わり付きーー

 

ーーその騎士も燃えた。

 

周りには兵士や騎士が複数居たが騎士が燃えた事を誰も注目していない。周りの彼等も同じ被害にあっていたからだ。

 

無数の炎の柱。

 

空や地上の人が魔物の目や口から突然火を出し、そのまま灰となっていく。彼方此方で火の気も無い地上や空中でも関係なく突如体内から燃え上がっていた。

 

「な、なんなんだ!?この炎は!?」

 

「蛮族どもの反撃!?」

 

「どうなってるんだ!だれか説明しろ!」

 

「ひ、卑怯な!姿を見せろ!」

 

侵略者達に襲い来る見えない未知の恐怖。謎の発火現象は人だけでなく魔物にも起きている。殺戮を行っていたオーガがゴブリンの群れが、例外なく無数の火柱を上げ燃えていた。

 

銀座の一角を明るくする松明、命を燃やす無数の炎の柱、火の柱の数は波紋が拡がる様に拡大している。そして突然襲う炎の恐怖に混乱し軍勢としての秩序を無くしていく。統制をとろうとする有能な兵士も居たが、そう言う兵士はまるで狙われたかの様に他より先に燃やされる。

 

発火は蛮族の攻撃だと人質として現地の人間を盾にする兵士がいた。人質をとった人間だけが燃やされ人質の意味がない。

 

敵が見えない。

指示する人間が燃やされる。

どうすれば良いのか。

 

侵略者はこれまでとは逆に自分達が理不尽な猛威にさらされることになる。殺戮をする余裕もなくなり被害を一方的に受けるしかない。また一人、一人と、兵士が燃えて灰だけを残して消えていく。

 

「あ、ああ、こ、こんな、こんな事が出来るのは…」

 

震え涙を流す兵士がいた。彼はこんな理不尽な現象を起こせそうな存在の名を口に出してしまう。

 

「か、神よお許しください」

 

その謝罪は神ではなく周りに伝わってしまった。

 

か、神だと

 

発火は神の仕業なのか!?

 

この世界の神…か?

 

俺達はこの地の神を敵にしたのか

 

染み渡る様に広まり伝播した。迷信ではなく神が目に見える形で存在している世界の侵略者、神の恐ろしさも知る侵略者達。敵対してはいけない相手を怒らせたのかと、逃げ出す人間やその場で膝まづき赦しを請う人間までいる。  

 

しかし、こうして恐怖に屈したのは全体から言えば極一部だけ、発火の起きてない所では侵略者による殺戮は続いていた。

 

ビル街の一角、人が多数集まっている其所にゴブリンの様な生き物やオークの様な生き物達が突入してくる、集まった人は悲鳴をあげ怯えているが何故かその場所から逃げようとしない。

 

突入してきた生き物たちは燃えた。

 

「燃えた…な」

 

「あ、あぁ、た、助かるんだけど………なんで燃えたんだ」

 

先程から同じ現象が起きている。燃えるのは魔物や兵士だけという銀座の人にとっては安全地帯、だから人が集まっている。人々の顔にあるのは不信感。

 

燃えてる相手を考えると発火は意図的なモノとしか考えられないが、どういった意図なのか集まった人の誰も知らない。誰かの仕業として自分たちの味方なのか。燃やされてないのは偶々で後になって自分達も燃やされるのかもという不安がある。しかし少なくとも今は他よりは安全なのは確か。他は地獄。移動する人間はいない。

 

そんな安全だが安心は出来ない場所で一人の青年が上を見ていた。飛んでいる竜でも見付けたなら視点は動く筈だがその視点は一点に固定されていた。

 

「あれは…」

 

青年の見ている先、ビルの屋上に何かが居る。青年に釣られる様に周りの人も同じところを見た。ソコに居た相手を見た人は警戒した様な顔か困惑した様な表情をみせた。

 

屋上に居るのは白い鎧を着たような怪しい人。

 

「なにあれ……コスプレ?」 

 

「あの人…こんな時になにしてるのよ」

 

「襲ってきてる奴等の仲間じゃないか!?」

 

「何処かで見たことが有るような」

 

反応に連鎖する様に徐々に見る人が増えていく。正体がわからないが一部に鎧を着てる様に見えることから兵士側と疑惑を持たれたようだ。

 

「な、なぁあの手が向いてる方向見ろよ!」

 

白い怪人は手を翳していた。

 

手を翳した方向を見ると竜や魔物の体内から火が噴出し燃えていた。どう見ても発火は白い怪人こそが謎の発火現象の発生元。

 

「…ま、まさか」

 

中年男性が人は震えるほどに驚愕をしている。あの姿に…謎の発火…。特撮好きな中年男性の脳裏には…あるキャラクターが浮かんでしかたない。

 

中年男性の他にも同じ特撮のキャラクターを知っている人はいるようだ。

 

「…超自然発火現象…だよな?つ、つまり…」

 

「…あ、あれが出来るって事は……ほ、ほんもの…本物なら…銀座どころか……終わるぞ……」

 

 

 

彼等が知る特撮のそのキャラクターは……

 

『ン・ダグバ・ゼハ』

 

平成仮面ライダー『仮面ライダークウガ』のラスボスであり、歴代仮面ライダーのラスボスの一角。三万人もの人を殺した白き闇と呼ばれる災厄の様な怪人。

 

 

 


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