白き闇は正義になれない?   作:ソウクイ

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飛龍

 

物語は極々単純な王道物語が好きだ。

 

子供向けに良くある正義が勝って悪がまける勧善懲悪の物語。具体的に言えば日曜にあるヒーロー番組みたいな悪を倒せばハッピーエンドな単純明快な物語。見ていてスッキリする。正義のヒーローと敵対する相手は悪、それか倒すしかない何か、人を助けるために敵を倒すヒーローは人に感謝される。"現実とは違う"優しさが溢れる物語りが好きだ。

 

ヒーローの活躍を見るのは楽しい。けど物語のヒーローを見るのが好きな事と自分がヒーローに成りたいは致命的なまでに違う。ヒーローの様な損な生き様はしたくない。だから転生の時に神のような何かに白と黒どちらかの力を選ぶように言われ望んだのは最後に黒くなる仮面のヒーローでなく。とても悪い白い怪人の方…。

 

正義の味方には成りたくなかった…けど、別に悪役に成りたかった訳でもなかったんだよ。

 

 

 

銀座に突如訪れた幻想。人の夢見る空想がそのまま現れた様な幻想だったが、それは夢は夢でも悪い夢と書く悪夢の部類、悪夢の幻想。

 

幻想は人を襲う暴虐な者。

幻想は人を殺す殺戮者。

幻想は無法の限りを尽くす無法者。 

 

幻想でも悪夢でもなく紛れもない現実だ。

 

門を通りこの世界の外から訪れた兵士は銀座を赤い悪夢色に塗り潰す。戦争などもう二世代は昔、大半の日本人は人死にを葬式かテレビの中でしかみた事がない。理不尽な人の死とは遠く無縁な日本人に無法の武力の残酷さを知らしめた。

 

理不尽な無法な暴力はより強い暴力には勝つことは出来ない。時が来れば自衛隊が来る。魔物等の不確定要素はあるが、流石に剣や槍がメインの武器では兵器の差で自衛隊の方が暴力として上。理不尽な暴力もより強い暴力には勝つことは出来ない。門から現れた幻想は時間が立てば排除される事に成るだろう。

 

 

銀座にて究極に近い暴力の化身が活動を開始した。

 

 

地平に沈み掛ける夕焼けよりも赤い炎が燃えて命と共に燃え尽きる。咎人の罪人を灰となるまで焼き付くす炎。無数の松明の様に燃え銀座の気温を上げている。兵士の装いの人や異形の形をした生き物が炎の柱となって燃え盛る銀座の町。地獄が現世に現れたようだ。

 

空に飛び交う竜、地を掛ける鎧を着た兵士、トロル、オーク等の魔物の様な生物達、彼等の中から突如として炎が吹き出している。銀座で殺戮を繰り広げていた者達が焼かれていた。

 

狂気と正体不明の炎の隣接し混沌の渦巻く銀座の町、ある区域では多くの人が集まっている。其処にあるは嘘の様な不自然な静寂の空間。いや、ざわめきはあるが周りと比べれば無音と思えるぐらい静かだ。

 

誰も誰かに誘導された訳じゃない。ただ個人個人で安全な場所、安全な場所へと逃げてきた結果。此処には敵が居ない安全だと止まった。空から見れば判るが人が集まる場所を中心に炎が燃えている。空から見た炎は円形に広がっている。円と言う事は謎の炎の元凶が円の中心にあると考えられるないだろうか。円の中心の其処には一際大きなビルがある。

 

「…あれって」

 

一人の青年が何かを見付け今は殆どの人が空を見上げている。空でなくビルか。ビルの屋上か。それは円の中心にある一際大きなビルだ。無数の人がビルの屋上をみている姿は不気味であった。人の注目を集めるビルの屋上。ビルの屋上に佇む白い正体不明の人型の何かがいる。

 

いや、正体不明と言えるだろうか?一部の人間は良く似た存在を知っていた。

 

「あれって…あれ…だよな」

 

「そ、そんなわけ!!…そんなわけ…あ、あの、燃えるのそう言う事なのか」

 

こうした会話が其処らで聞こえた。

 

何人かの人が白い何かと似た存在を知っていたが知らない人の方も多い。この場所の安全に関わってるとしか思えない何かを知らないままで居られない。知らない人は知っていそうな相手に訊ねていた。

 

「あのー……良いですか」

 

「な!なんですかね!」 

 

知らない側の若い女性はビルの屋上の白い何かをスマホで撮影し矢鱈興奮している中年に声をかけた。中年はオタクの様に見え普段は絶対に女性の話し掛けない人種のようでどもった返事をしている。ちょっと生理的な嫌悪を持つが聞くためだと女性はその点は我慢した。

 

「あの…人?ってなんなんですか。ご存じの様ですが…此処が安全なのに関係してる様な話も聞こえるんですが…」

 

女性の問い掛けに中年は興奮した様子で彼としては饒舌に答えた。

 

「き、君は知らないのか!!あ、あれは、あの白い怪人はね!平成仮面ライダー第1弾の仮面ライダークウガのグロンギ最後の敵。第0号や白い闇と呼ばれる最強のグロンギのダグバ、ン・ダグバ・ゼハなんだよ!!その強さは殆んど出てないのに圧巻で何万もの人を…あ、ゴホン!」

 

唐突に言い淀む中年男性。興奮していたが現状を思いだしその先は流石に言っては駄目だと気づいたようだ。そして自分が安全なのか不安になっている。そんな中年の変化に気付かない。聞かされた情報に女性は困惑していた。

 

「仮面ライダーって…たしか…日曜の朝にやってる特撮のですよね?まさか彼処の白い人が特撮の登場キャラだと言うんですか?」

 

「そ、そうだね…そうだと思うんだよ」

 

「…特撮のキャラ…その、あの上に居るのは、仮面ライダーのダグバの着ぐるみを着てるって事ですか」

 

女性の意見は可笑しくない。男性は首を降る。そして興奮した様子が無くなり静かに話した。内容的に興奮して話せるようなモノでは無かったからだ。

 

「いや…着ぐるみかは……周りで起きてる発火現象がね。仮面ライダークウガの劇中のダグバの代表的な能力でね。…偶然に別の原因で発火してるとも思えないし…本物だとしか…」

 

「は」

 

「や、やっぱりそうですね。本物ですよね!」 

 

興奮した様子の若い男性がシャシャり出てきた。

 

「(…仮面ライダーの本物の怪人?)」

 

女性は何だコイツと思いながらも考える。

 

つまりは、ファンタジーな住人が攻めてきたと思えば今度は、創作の世界の存在が現れた?上の白いのが特撮のダグバとやらで、着ぐるみでない、本物という証拠は発火能力。女性も散々に謎の発火は見てきた。いや今も周囲で発火は続いている。建物で直接には見え無いが炎の色ぐらいは見える。そしてその発火をあのダグバがやっているのは腕が向いた方向に発火が起きている。確かに聞いた男性のいう通り偶然なんてないだろう。

 

仮面ライダーの怪人。

…最後の敵

 

「…ここにいて大丈夫なの」

 

今まで燃えてるのを見たのは門から出てきた相手だけ、自分達の様な民間人は燃やされたのは見てない。しかし此れからも発火が自分達を燃やさないのかどうか。最後の敵…ラスボスだ、不安を感じるのも仕方ない事だ。

 

「あ……あのそのダグバというのだとして…此所が安全と思って大丈夫でしょうか?敵と言ってましたが…特撮だとどうだったんですか?」

 

特撮は見ないが漫画を其なりには見る女性は、敵と言っても一般人には安全な敵役も居るパターンも知っている。心優しいか、誇り高く弱者を攻撃しない敵役とかだ。残念ながら…ダグバにはどちらも当てはまらない。むしろ真逆な存在だ。

 

「それは…うん………」

 

「な、なんで顔を逸らすんですか!?」

 

「いや…大丈夫かと言われたら…大丈夫とは全く言えない」

 

男性は答えずにシャシャリでてきた若者にイヤな保証をされた。

 

「だ、大丈夫じゃないんですか!?」

 

「…いや!わからないよ!……大丈夫であってほしいなぁ…」

 

安全の保証はできない相手だとはわかった。安全か怪しい。だがだからといって、結局はこの安全地帯から離れるのも嫌だ。殆ど誰も離れようとしない事も合わせて考え、女性はこれ以上聞かない事にした。後々、調べて気絶する事になるかもしれないが。

 

女性は周囲の雑談も気にはなったが今は離れて建物の陰に隠れることにする。他にも同じ行動をする人間がチラホラ、安全かどうか分からない危険な相手に姿を見せないようにするのは当然だろう。特に気にもせずに見続ける人も多数いた。

 

「俺達、無視されてるの…かな」

 

「無視されてるの今だけかもよ」

 

「あのゲームをやってて、ターゲットが向こうの怪物やら兵士だけって事ならいいんだけどな」

 

「げ、ゲームか。ターゲットが決められてるゲームなら今だけはありがたいな」

 

彼等全員の顔と声に共通してあるのは不安と不信感。

 

人がひしめくビルの屋上の白い怪人。

白い怪人のビルから見える範疇からは侵略者はほぼ灰となり一区切りがついた。

 

「こ、こっちを見てる!」

 

白い怪人ダグバ(仮)はビルの下に集まった野次馬を見る。人とは違う顔からはダグバが何を考えているか一切判らない。

 

ハッキリと意識を向けられ見られた人は震えたが逃げずにいる。恐怖で固まったという訳でもない。次は自分達だという可能性があると思った人間は既に隠れるか逃げるかしていた。

 

侵略者でも人に見える相手を燃やしてきた存在に見られている。逃げない人は何で逃げないのか。白い怪人が見掛けだけなら正義側とも言えなくもない姿のせいか。特撮の登場キャラに似た姿に現実感が薄れたか。平和ボケがこんな時にも治ってないせいだろうか。何にしても彼らが逃げないのは…今は間違いでもなかった。

 

集まる視線に白い怪人は1度首を振る。そして何かに気付いたように顔を上げた。

 

鳥だろうか。

いや大きい。

侵略者の乗ったワイバーンの部隊だ。

 

『コイツがあの炎の元凶…なのか』

 

『コイツの手が向いてる方向に炎が起きていた。間違いない!』

 

ワイバーンに乗った侵略者、騎士たちは機動力を生かして発火の正体を探っていた。

 

『どうする』

 

『どうするもなにも攻撃あるのみだ!』

 

『あの外見、相手はもしかしたら………念のためにもっと数を集めてからだ』

 

強硬な意見と慎重派が居る。慎重派が勝ち白い怪人を警戒し睨みあう形となる。他のワイバーンの部隊もやってくる。続々と集まり戦力は過剰な程に集まった。

 

下から見ている民間人から見てももうすぐ攻撃を仕掛ける寸前、普通なら相手は怯えるだろう。

 

しかし

 

「ビダバ」

 

白い怪人が声と共に視線を向けた下の方に兵士の一団が見えた。視線に釣られて騎士たちもみた。白い怪人は手を下に向ける。その瞬間、兵士が燃えた。

 

言葉はわからないが態度からわかった。

 

挑発だ。

 

怯えるどころか挑発をした。

いや仮に挑発だと解っていなくても…

 

『やはりあの炎はお前が犯人かぁ!!!!』

 

全員の目に見える形で発火の犯人だと知らしめた。

 

発火の犯人だと伝えた騎士に信用が無かったのか犯人なのか半信半疑だった。しかし白い怪人の手を向ける動作と燃える現象が連動してる事を見て、間違えようもなく犯人だと確信できた。確信はできた。激怒もした。しかし攻めない。発火の犯人だと確信できたからこそ更に警戒して攻めあぐねた。相手は何者なのか。

 

『貴様は何者だ!あれだけの発火を起こすとはただモノではあるまい!……まさかこの世界の…亜神、神の使徒なのか』

 

声に白い怪人は反応しない。それは白い怪人には彼等の言葉が判らないから仕方ない。仮に伝わっていたら神の使徒云々で誤解が発生していただろう。

 

「……」

 

返答はない。返答がなくとも現時点で彼等にとって亜神に匹敵する脅威と認識されている事にかわりなかった。それだけ強い相手だと思っているからこそ発火の犯人だと判ったのに攻撃を躊躇していた。

 

「ブスバサボギ……ギビダブバギバサガセ」

 

白い怪人は人差しを相手に向けグロンギの言葉で言い放つ。侵略者には言葉がわからないだろう。それは白い怪人もわかっている。本命として身振りも加えた。

 

次に燃え盛る兵士や魔物を指差す。そして去れとばかりに手を降る。動作で意味は伝わる。あの兵士や魔物の様に成りたくなければ去れ。とてもわかりやすく伝えている。伝わったからこそ騎士たちは躊躇を無くすほど殺意を漲らせた。

 

『な、なめているのか!』

 

『亜神だとしても無敵ではない!やるぞ!』

 

『おう!騎士として舐められたままでいられるか!』

 

『いや少し待て』

 

制止する騎士の視線の先、また複数のワイバーンがきた。後ろに誰か乗せていた。

 

『魔法使いを運んでる部隊だ!誰か呼んでいたのか!』

 

『丁度良いところにきてくれたな』

 

『歓迎されてるようだが、発火の犯人が見付かったのか』

 

『よく来てくれた!!ああほうだ!見つけた!アイツが発火の犯人だ!』

 

『なんだと!?本当なのか!』

 

『此処にいる全員が発火をする瞬間を見ている。恐らくこの世界の亜神だ』

 

『なんと!あの白いのが…では何故まだ攻撃していない!まさか亜神だからと恐れてか!』

 

『発火の犯人とわかって攻撃しようとしたタイミングでお前達が来たんだよ』

 

『そうか、誤解したのかスマナイ』

 

『謝罪の代わりと言うわけでもないが、せっかく来たのだ。奴に発火の御返しをしてもらいたい』

 

『そう言うことか。発火の犯人ならただ殺すだけでは足りないと、よし!帝国が誇る魔法使い達よ奴に炎の返礼をしてやれ!』

 

ワイバーン部隊に運ばれた魔法使い達は炎を放った。仲間を散々に燃やされたお礼だと言わんばかりの炎の弾の雨。人サイズの生き物を焼死させるに過剰すぎる火力だ。

 

「……」

 

白い怪人、ダクバは目の部分を少し細め放たれた炎を見る。なのに防ごうとも避けようともせずそのまま微動だに動かない。火の弾の一つがダグバの胸部に当たる。間髪もいれず次々に火の弾はダグバの身体に当たりダグバは当たる。当たる度に僅かに揺れるダグバの体。一際大きい火の弾の直撃にダクバの身体が燃え上がる。報復を成功させ炎に包まれるダグバの姿に侵略者は喝采を上げる…が直ぐに喝采は驚愕の声に代わった。

 

『バカな!!!?』

 

数秒してダグバを包んだ火は鎮火。さらに火が消え燃える前とまるで変わらないダグバが現れる。ダクバの身体は焦げあと一つ残さずにまるで無傷。燃えた痕跡すらない。

 

『効いてないのか…』

 

『違う。亜神なのだ。回復しているだけだ。怯むな攻撃を続けろ。疲弊されるのだ!』

 

『そうだ!亜神でも精神的な限界はある!怯まず燃やし続けろ!』

 

不死身の亜神と言う前例から動揺は少なく直ぐに立ち直れた。再び発たれる炎の弾。先程より数が多い。火に隠れ射たれる鉄のボーガンも混ぜられている。それに対してダグバは手を上に上げた。

 

発火が来る!と身構えた。

 

しかし発火は起きない。代わりに起きたのは台風の様な突風、クウガのダグバは天候を操る事が出来る。天候の操作が可能なら突風を作り出す事ぐらいは簡単な事だろう。ダグバは風を発生させた。数百メートルは離れるワイバーンにまで届く突風。突風に突っ込む形となった火の弾はマッチの火の様に掻き消され矢も弾きとばされた。

 

『か、風が!!?』

 

『う、腕がこっちにむいて……あぁあ!!!』

 

ダグバの手の動きに事前に気付いたが…手遅れ、ワイバーンや魔法使い達が報復の様に燃やされる。遠距離の攻撃は防がれ、ただ腕を向けられ見ただけで燃えた。発火には準備か呼び動作が必要だと相手を見つければ避ける隙も有ると思ったのに其がない。簡単に自分達を殺せる事を見せつけられた。

 

『か、勝てるわけない』

 

『冷静になれ!恐らくあの炎は使いすぎて消耗している!そう何度も使えない!そうでもなければ俺達は既に殺されている!』

 

『しかし…そうだとしてどうする。遠距離の攻撃は……』

 

『あの風も軽い矢や火は散らせても、ワイバーンなら吹き飛ばせてはいない…筈だ!近づいて仕留めるぞ!』

 

『……わかった』

 

『て、手を抜いてるだけかもしれんない!?何時でも発火で殺せるかもしれないぞ!』

 

『そうでない事を祈れ!消耗が回復して発火が再開する危険の方が大きいのだ!犠牲を覚悟で行くしかないだろう!』

 

『や、やるしかないか』

 

覚悟を決めた様子の騎士たちが槍を構えている、ダクバに向かい突撃を敢行しようとしている。その様子はダグバに相手が逃げるつもりが無いことを伝えてしまった。

 

「…………」

 

ガン!と徐にダクバは屋上のコンクリートを軽く蹴って砕いた。

 

『…なにをしてるんだ』

 

『威嚇?』

 

ダグバは砕いた幾つかのコンクリートの破片を拾い上げると破片を掌に包んだ。ただコンクリートを砕いて掌で掴んだ様にしか見えない。

 

『投げるつもりか?』

 

コンクリートの破片を投げる。それ以外に思い付かない。鎧を着た兵士に拳銃の弾丸を弾く皮膚を持つワイバーン、距離も離れていて数もいる。投擲が危険だとは思えない。

 

『おい、アイツ刃物を持ってるぞ!』

 

『何時のまに…』

 

指の隙間から何本もの刃が出ていた。

それはクナイの様に見える。

 

何処から現れたのだろうか。掌の中にあったコンクリートは何処に消えたのか。いつ入れ換えたのか。…まさかクナイがコンクリートが変化したモノだとは彼等も気付ける訳もない。

 

刃物として小さなモノだ。このまま突撃しても間近で投げられても多少の怪我はしそうと思えるぐらいの小ささ。運悪く急所に当たりでもしないと利くとは思えない、クナイは一度投げれば終わる。脅威とは思えない。

 

しかし何か嫌な予感がした。

 

彼等は攻撃を躊躇い距離を空けて近づこうとしない。危険を察知すると言う意味では正解、危険の大きさの認識と言う意味では大きな不正解だ。

 

先ずもって発火への認識、別に消耗して使わないわけでもない。風についてもワイバーンを飛行不能にする威力を持たせる事も出来た。その上で考えるとなぜ風や発火で始末せず、クナイなんて物も態々作ったのか。

 

騎士たちは話すために密集していた。この距離なら発火はともかくクナイなら射程外だと油断していたが……射程内だった。

 

クナイ擬きを投擲。

空気を切り裂いて飛んでいく。

 

ワイバーン達に向けて放たれた刃。

その数は数十はある。

明らかに分裂したように刃の数が増えていた。

 

空気を切り裂き飛翔したクナイは瞬く間にワイバーンの元へ、クナイが散弾の様にワイバーンを襲う。到底回避は不可能。さらに言えば距離で威力が減退しても一つの一つの貫通力はライフルよりも高い。

 

『!!!!?』

 

ザシュ、ザシュと響く肉や金属を穿つ音、高速で飛んできた刃にワイバーン部隊の先陣は身体に無数の穴を開けられる。クナイは小口径の銃弾なら弾くワイバーンの鱗も、金属で出来た兵士の武装も、まるで紙切れの様に貫き後ろの兵士も貫いた。

 

『な、なんで投擲でこの様な被害が!?距離はあっただろう!?どんな力で投げたと言うのだ!?』

 

予想外の大損害を出し混乱するワイバーン部隊を尻目にダグバがまたコンクリートを砕く。それに侵略者は慌てる。コンクリートを握った後に刃物が出現した。変化してるのは知らないが、また刃物を何処からか取り出すと考えた。そしてまた異常な投擲が来ると

 

『ま、またくるぞ!!!』

 

『だれか止めろ!』

 

『間に合うわけないだろうが!!!』

 

『いや!此処は全員で突撃をすべきた!』

 

『馬鹿か!こ、後退だ!!一度下がるぞ!』

 

『前進だ!』

 

『このノロマ!早く後ろに下がれよ!』

 

騎士が口々に真逆の事を叫ぶ。纏まらない。どうやら指揮官の様な上位の兵士が居なかったか先程の投擲で居なくなったようだ。

 

混乱する中で無慈悲に投擲されるクナイ、避けれず防ぐ事も不可能、侵略者の命がまた散っていく。砕かれるコンクリート。ダグバはコンクリートの破片を掴みクナイ擬きを作る。そしてクナイの投擲。

 

数はともかく発火現象の様に理解不能な攻撃でない。刃物を投げつける原始的な攻撃。だが相手にとってはどちらも理不尽なモノには違いない。避けるのに困難な空中で高速の無数のクナイの飛来。もし運良く防御しても腕も盾も鎧ごと貫き後ろの相手まで穿つクナイ。まるでカトンボの様に落ちていくワイバーン。高所から落ちた衝撃で酷い姿で死体の仲間に加わっていく。

 

『ーーー!!』

 

ようやく意見が一致したのか、それか単に逃げたのか、分散し遮蔽物の影に隠れた。そのまま逃げていくワイバーンも見えたが、逆に建物に隠れ接近していたワイバーンもいた。ビルの壁ギリギリに上昇する。打合せしたかのように連携は良くワイバーンがほぼ同時に三方から同時に襲った。

 

タイミングも良い。

連携も良かった。

しかし…

 

「……」

 

飛び出した瞬間に逆に飛び付かれ一頭のワイバーンの首が掴まれる。体格差で言えばワイバーンの方が大きい。体重で言えば何倍差だ。直ぐに掴んだ手を振り払える。しかし現実には…首を動かす事すらできない。首を掴まれたワイバーンは自分が小鳥となる様な巨人に掴まれた気持ちを味わっていた。

 

『!!!!?』

 

そのまま首を掴んだまま片手の一本で振り回し他の二頭とぶつける。二頭は野球のボールの様に弾かれ其々別のビルの外壁とぶつかり。飛ぶことも出来ず騎士を乗せたまま地面に落下。そして首を掴まれたワイバーンも振り回された時に首の折れている。ワイバーンは乗っていた騎士ごと地面に捨てられた。

 

『あああ!!!!』

 

首の折れたままワイバーンに乗った騎士は絶望の顔を見せながら落ちていく。

 

『ば、化け物が…』

 

相手は発火だけの存在でないと嫌というほど解らされる。そして化け物といった騎士がダグバに見られた。

 

『ひっ!』

 

ワイバーンの上の騎士は悲鳴を上げたがダグバはなにもしない。クナイをさらに投げようととしなかった。

 

騎士たちは違和感を感じた。思い出せば此までの戦いでナゼか相手は積極的に発火も使ってない。初めは此まで多く発生していた発火で消耗して使えなくなっていると考えたが……とても消耗してるとは思えない。

 

もし発火が問題なく使えるとして発火を使わないなら、その理由はなんだ。もしかして…発火では殺すのは一瞬……獲物をいたぶって楽しんでいる。そんな疑惑を持った騎士は何人か。

 

油断してるならそれを突いて倒す!!そう考える事もできるが……

 

『お、俺と一騎討ちで戦え!』

 

一番年若そうな騎士が叫んだ。

 

倒せる実力に自信があるのか。それか発火を再開されない為の足止めが目的か……青い顔に外から見ても解るほど震えた様子からいって後者か。

 

「……」

 

ダグバは相手を見据える。傍目にはただ静かに見てるだけに見える。視線を向けられた騎士に襲う言い知れない恐怖、目は一体何の目なのか。赤い色の目だ。息ができない、恐怖で体が呼吸をする事を忘れてしまう。

 

「あ、ああおあ!!!」

 

若い騎士は叫び突撃をする。他の騎士が止める声をあげたが止まらない。ダグバは最初に火玉を浴びた時の様に動かない。騎士を待ち構えている。プライドをこれでもかと刺激した。

 

「らぁあ!!!」

 

騎士もワイバーンもただなにも考えずに槍を構え最高速度で向かう。槍を突き出す形で構えている。ダグバにぶつかれば、反動で槍を持つ腕は幾ら鍛えていても脱臼か最悪骨折する。地面の上なら大丈夫だが、ワイバーンに騎乗した状態で腕がダメになるのは…。

 

『おお!!』

 

勢いを付けた槍がダグバにぶつかる。槍はダグバに当たる。若い騎士は倒せなくてもダメージは確実だと確信する。予想通り反動で騎士の肩の骨が外れる。予想した激痛が騎士を襲う。しかし激痛すら気にする余裕は無いほど驚愕している。本来あるべき光景と違うことが起きていた。

 

『……ふ、ふざけるなよ』

 

白い怪人に槍は当たる直前だった。

当たった衝撃があり腕の骨が外れた。

なら槍が刺さった光景がみえる筈だ。

 

槍は手で掴まれていた。

 

騎士が捨て身の勢いを付けた槍を手だけで止めている。相手の怪力と反射神経は騎士が想像した以上のモノだった。

 

騎士は逃げようと思考するが、思考が肉体に反映する前に騎士は持ち上げられ地面に叩き付けられた。振りかぶる勢いでワイバーンは騎士から離れ、ビルの床を転がるだけで無事ですんだが、騎士は肉を砕く音と共にビルの床にぶつけられた。

 

若い騎士を床と一体化させると次はまだかとばかりに他の騎士やワイバーンを見る。楽しそに見ている様に見えた。それを見て戦意が折れた。

 

『…本体に報告しなければ』

 

『ふ、ふざけるな!一人で逃げる気か!』

 

『後退だ!後退!!』

 

ワイバーンたちは逃げていく。

建物を縫うように逃げていく。

視界から消えて発火の対象外だ。

 

見逃したのか逃がしたのか……腕を下ろし逃げていく先を見詰めている。その姿は何処か遊ぼうとした友達に去られた子供に見えた

 

その時、白野が背負っていたリュックが独りでに浮かび上がった。騎士を叩きつけた時の余波に巻き込まれたのかリュックはボロボロだ。カバンの蓋が開いた。

 

出てきたのは金色の大きな石だ。

 

独りでに動く大きな宝石にも見えるその石は白野が転生した時からあった。

 

石は自意識があるのか白野との距離が離れると勝手に飛んでくる事もあり、飛んでこられたら困ると銀座まで持ってきた。石が離れてもない時に勝手に浮くのははじめての行動、石はどうするつもりなのか。

 

石は何処かに向かう。

ビルの下に向かう。

若い騎士のワイバーンがいた。

 

戦意を喪失してるのか蹲っている。ワイバーンは自分の近くにくる石に怯えた。石はワイバーンの近くで一際強く発光。何かを伝えるように発光した。ワイバーンは暫く止まると……恐る恐るといった様子で頷いた。そしてそんな光景を見ている人たちもいた。

 

「あの石って…もしかして……」

 

見ていたのはダグバの事を興奮していた中年男性、脳裏に浮かんだのは…テレビ越しにみていた昆虫の様な飛行物体。

 

石が発光している。何かを伝えているように見えた。ダグバは下を見ると突如としてビルの屋上の縁から…。

 

「飛び降りた!?」

 

高さが優に数十メートル有るビルからだ。

重力のままに落下するダクバ。

落下地点の近くの人は慌てて逃げた。

 

ドゴン!!

 

ダグバが両足からコンクリートの地面に落ちると爆発した様な粉塵が巻き起こる。

 

「し、しんだ?」

 

多くは人は死んだのかと思った。ダグバを知っていた中年男性などはあれで死ぬわけないと思う。前者は何処かホッとして後者は顔を青ざめさせていた。

 

土煙が晴れると其処にはクレーター。

ダグバが無傷で居た。無傷で生きている。

 

「い、生きてる…」

 

なぜ降りてきたのか。目的として考えられるのは……自分達が次の獲物に成ったのかと悲鳴が上がった。ダグバは悲鳴を上げる野次馬を一瞥しただけで通りすぎ、自分が落とした有るものを取りに向かう。それは落下し絶命したワイバーンや騎士の遺体。騎士の死体の前までいくとダグバは躊躇なく死体から鎧や武器を剥ぎ取っていく。……後ろから見れば死体を破壊してるように見えるだろう。あまりの恐怖に震えて見るしかない。

 

そんなダグバの側に石と…若い騎士が乗っていたワイバーンが。

 

ワイバーンはダグバを見てダグバの倍はある身体を子犬が怯える様に震えさせている。ダグバはワイバーンを放置し剥ぎ取った鎧を一ヵ所に置いた。すると石が発光し鎧等は石に集まっていく。分解され全く別なパーツとなっていく。雷光の様な光が辺りを照らした。

 

それは物質を変える力。物質を変えるのであり元は何でも良いことになるが、鎧を使った理由はイメージがしやすいからだ。

 

機械の昆虫の様な形となる。

石は中央に付いていた。 

 

また光輝き。昆虫は灰色から白と金色となる。色を変えた昆虫から脈動、命の息吹き。機械の昆虫は浮かび上がり怯えるワイバーンに覆い被さる様に乗る。。再び雷のような光が放たれワイバーンの体躯は進化した様に大きくなっている。機械の昆虫はワイバーンと融合した?

 

 

「ーーー」

 

其処には白と金の鎧を纏った…機械と化した様なワイバーンの様な何かがいた。

 

静かに沈黙していた。

 

 

 

 


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