ブラックブレッド~半感染者~『一時更新停止』   作:抹茶屋

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久しぶりの投稿。生きてるから安心して!
だが、また旅立ちます


第十話 血臭に結集

 学校の終わりを告げるチャイムが学校全体に鳴り響く。生徒たちは退屈な授業が終わったことを知ると、各々友達と授業の愚痴を言いながら帰りの支度をして教室を出ていく。その群れに紛れて音波も一緒に教室を出た。

 

 学校を出ると校門の前がやけに騒がしかった。音波は取り敢えずポケットからケータイを取り出すと、社長に一通のメールを送る。

 

 そのあと人の間を縫いながら校門の前にたどり着いた瞬間、ポケットのケータイが震えた。ポケットからケータイを取りだし、中身を見た音波はその文面を目にした瞬間、ケータイを地面に落とした。

 その文面にはこう書いてあった…。

 

『あなたの学校の前で今待ってるわ。早く来なさい』

 

 音波は校門のすぐ目の前に止まっている、黒光りするリムジンがあることに気が付いた。その車の窓からこちらに手を振る社長の姿があった。

 

「何してるの音波ちゃん? 早く乗りなさい」

 

 言われるがままに音波はリムジンに近づくと、ドアが自動的に開かれた。

 

「あっケータイ……」

 

 呆気にとられてケータイを落としていたのを忘れ、すぐにひろに戻ってからそそくさとリムジンに乗り込む。

 

 

 音波が向かったのは一つ大きなビル軍が建ち並ぶ中の、これまた綺麗にされたビルに向かった。

 リムジンの中で音波は仕事服に着替えるとあらかた社長から話は聞いている。

 どうやら何社から指折りの人材を集めた大きな依頼らしい。内容までは聞いていない。普通なら鉄社長は依頼内容とそれに担った報酬じゃなければ受けることはないのだが、その依頼主があの偉大な方からとなると話は変わる。

 走行しているうちに目的のビルの入り口に着いた。その時何故か社長はこっちに振り返ると人差し指を立てこちらに向ける。

 

「音波ちゃん。喧嘩はご法度よ?」

 

「しないから安心しろ、ただし吹っ掛けられたら買うけどな」

 

「その時は私が許可するわ」

 

「いいのかよ...」

 

 ビルの自動ドアが開く中にはいると、そこは広く光沢するオフィスだった。

 

「「ッ!?」」

 

「社長...」

 

「えぇ...」

 

『血の匂いだ...』

 

 入り口から入った瞬間、微かに舌に鉄のような味が広がる、そんな臭いを二人は感じ取った。

 なにか起こる、そう察した時に、二人の死角がないように警戒をする。

 前から来る案内人をも警戒しながら話を進めていくと、ある一室まで招かれる、その先には数十人とほどの気配が感じ取れた。

 

「他の皆様もここでお持ちしております」

 

 そういって案内人は一人でそそくさとその場を立ち退いだ。

 

「ねえ音波ちゃん? あれどっちの意味だと思う?」

 

「気配を感じるところ、中のやつは生きてるからそのままの意味かもな、入って大丈夫だろ」

 

 音波はそう言いつつ、狐のお面をかぶり懐から二、三個の円手裏剣を掴む。

 その仕草を見落とさない社長も袖に仕込んでいる拳銃を握る。

 

「さて、鬼とでるか...」

 

「邪とでるか...」

 

 前の扉を社長が開け放つとすぐに対応できるように音波は姿勢を少し下げる。しかし、なにも起こらない。いくつもの椅子があり、そこには社長と思しき人物たちが腰かけている。一人見知っている社長がいるのは知らない振りをしておこう。

 警戒は怠らないまま、中に入り自分達のプレートが置かれた椅子まで歩く。しかし、音波の前に大きな人影が立ちはだかった。

 

「おいガキ、ここは仮装パーティ会場じゃねえぜ? 遊びに来てるなら回れ右しろ」

 

「伊熊将監、三ヶ島ロイヤルガーダーに所属するプロモーターか。序列千五百八十四位でかなり腕がたつそうだな」

 

 将監は少し呆気に取られたがそのマスク越しの口元がつり上がったのがわかった。

 

「よく勉強してるじゃねぇかテメェ。さっきのガキよりは民警ごっこに力入れてんじゃねえか」

 

「その口を閉じろよ三下ァ。テメェは人を知らなすぎだ、誰に喧嘩を売ってんのかわかってねえようだな。ここはテメェの火葬会場にしてやろうか?」

 

「あぁ? テメェ...気に入らねえな。お望み通り斬り殺してやるよッ!」

 

「何度言えば貴様は分かるんだ将監!」

 

 一人の男の喝によって将監は大剣に手を伸ばす動きが止まった。

 

「三ヶ島さん、喧嘩を吹っ掛けてきたのはそっちだぜ?」

 

「将監、死にたくなければすぐに止めろ。相手があの『フォックス兄妹』だ、お前など赤子の腕を捻るよりも簡単に殺されるぞ」

 

 将監の社長が放った言葉に、さっきまで失笑していた人物たちが顔を真っ青にする。

 それもそうだ、さっきまで序列はこの男が一番高かった。千番台でもかなり腕がたち、そこまで上がるのにもそれほどの貢献が必要となる。しかし、そんな目立つ存在がいまきた少年一人によって掠められてしまった。

 

「悪かったな俺のせいでお前の存在を薄くしちまって、恨むなら俺じゃなくって聖天子か序列を恨むんだな」

 

 目を大きく見開いて汗を吹き流しながら大人しくなった将監の肩を、軽く叩いてその横を通りすぎる。叩いた時、将監は体を大きくビクつかせていたのは音波の中では笑い物だ。

 

「昨日ぶりね音波くん」

 

「天童さんか、あんたもこの依頼に参加するんだな」

 

「もちろん、でもあなたが来るほどの依頼なら私は手を引きたいわ」

 

「それは自由だ。それに昨日も言ったが、蓮太郎は弱くない、あの伊熊に匹敵するくらいはあるだろうよ」

 

「嫌みかしら?」

 

「本気だ」

 

 それだけを答えると、音波は鉄社長の後ろに立つ、隣に天童民間警備会社がある。配置に若干違和感があるがまあほっといていいだろう。隣に天道民間けいび会社があるなら当然音波の隣には蓮太郎が配備されていることになる。

 

「昨日ぶりだな蓮太郎、別にかしこまらなくてもいいよ、どうせそっちの社長からオレのこと聞いてるんだろ?」

 

「ああ、少しだけだが、お前()の序列を木更さんから聞いた」

 

「そうか、それにしてもお前等か...。蓮太郎は九魅...イニシエーターを一人の人として見ているんだな」

 

「...当たり前だろ。少し人以上の力を持っているだけで、その力以外は普通の女の子だ。俺たちとなにも変わらねぇ」

 

 音波は仮面の奥で口許が綻んでいた。

 

「いやー蓮太郎みたいなお人好しさんもいたもんだな。でも、その考えはいいと思うよ...人間は本当に下らないから」

 

「最後なんか言ったか?」

 

「ん? そろそろ始まるよって言ったんだよ」

 

 音波たちが入ってきたドアがおもむろに開かれると一人の男が入ってくる。男は社長たち全員を睨めつけた。

 

「ふむ、空席一、か」

 

 見れば確かに空席がひとつある。『大瀬フューチャーコーポレーション様』と、まあ大層なお名前が書かれた三角プレートの後ろには誰もいなかった。

 まあ顔を合わせていないため、音波にはどうでもいいことなのだが、何故かその席につくはずの社長の状況が気になってしまった。

 

「本件の依頼内容を説明する前に、依頼を辞退する者はすみやかに席を立ち退席をしてもらいたい。依頼を聞いた場合、もう断ることができないことを先に言っておく」

 男の言葉に、席を立つものは案の定いなかった。それにしても周りを見渡すとまあ個性的な人たちが居るものだ。目に当てるところ全てが真っ赤に染まった女、顔に包帯を巻いたノッポの男と、どいつもこいつも政府の建物に行くには不釣り合いの格好である。まあ、人のことは言えた義理ではないのだが。

 ふと何となく蓮太郎の方を向くと、蓮太郎の表情は何故か苦笑いになっていた。

 そんな表情になっている理由は、蓮太郎が見ている方向にあった。

 伊熊将監、その男が一人壁に寄り添っている姿。そのすぐ横で、寄り添うように一人の少女が立っている。落ち着いた色の長袖ワンピースにスパッツとパッチりとした目元、だがどこか冷めた雰囲気を纏っていた。

 そんな少女は、蓮太郎に向いたままお腹を擦って何かを訴えているようだった。

 

『お腹すきました』

 

「ぷっ」

 

「いきなり吹いてどうしたの?」

 

「いや、何でもない、気にするな」

 

 思わず吹いてしまった音波に、鉄社長は訝しげに睨む。それはそうと、将監のイニシエーターは随分と正反対な奴だな。見てて飽きなそうだ。

 音波は仮面の裏で口元をつり上げていた。

 

「よろしい、では辞退はなしということでよろしいですか? ……説明はこの方に行ってもらう」

 

 そう言って男は身を引いた。それと同時に突然背後の奥に設置されていた特大パネルに、一人の少女が大写しになる。

 

『ごきげんよう、みなさん』




またいつになるかはわからない。
申し訳ない

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