だからどうということはありませんか。
「不快だ」
絶世の美少女———雪ノ下雪乃———を眼前に捉え俺はそう呟いた
話は30分ほど前に飛ぶ。クラスの担任である平塚静先生に呼び出された俺は、先日提出した『高校生活を振り返って』という作文の内容の不備について説教を受けていた。
「なあ、比企谷。一つだけ聞いてもいいか?」
「はい…なんでしょう?」
「どうしてこうなった…」
先生は半ば諦めに近い溜息をつきながらそう言った。
確かに、先生の言わんとすることはわかる。普通、こういったものを提出するときは当たり障りのない高校生らしい文章を書くのが当たり前だ。
それに対して俺が書いたものは、作文とは名ばかりの不満と偏見の書きなぐりであった。
先生がこのような状態になるのも当然だ。
「いや、最近の高校生ってこんなものでしょう?」
「普通こういうのは自分の生活を振り返るものだろう。いつからお前は高校生評論家になったんだ。」
そう言われるとぐうの音も出ない。だが、まだだ。まだ反撃の余地はあるはずだ。
「それならそうといってくださいよ。これはもう出題者側の不備でしょう。」
「口を慎め、小僧」
俺が言い終わるが早いか、鷹や梟などの猛禽類を彷彿とさせる鋭い眼光で此方を睨みそう言った。
なんだよこれ、ぐうの音もでないどころかグーパンチが飛んできそうだよ。
「確かに先生の年齢からみたらk———ッ!!」
今度はすべてを言い終わらぬうちに、何かが頬の横をかすめた後、緩やかな風が顔を薙いだ。
「次は当てるぞ…」
ほんとに飛んできちゃった。
いやいやいやいや、え?あなた教師ですよね。
このご時世ふつう教師が生徒に体罰なんてしませんよね。一昔前ならいざ知ら——————。
なるほど、得心がいった。
「何かまた失礼なことを考えていないか…?主に年齢のことについて。」
…よし、この人の前では年齢のことは考えないでおこう。だって心読まれるんだもん。
読心術じゃなくて独身z————。
「比企谷…?」
「先生、結局のところ僕はどうしたらいいんですか?」
拳を堅め、ふりかっぶっている先生の話を遮り、会話を促す。
危機一髪だった。
遮られて威を削がれたのか、拍子抜けしたように座る。
え、なに?殴りたかったの?
「…まず、レポートは書き直せ。」
「はい、わかりました。…え?まずって、それ以外に何かしないといけないんですか?」
それではまるでレポートの書き直し以外にもなにかしなければいけないみたいじゃないか。
平塚先生はいたづらっこのように笑っている。
ああ、これはめんどくさいことに巻き込まれるパターンだ。
「比企谷、君には友達はいるかね。」
「いりません。」
「ここ最近、私以外の異性としゃべったりは?」
「しゃべりません。というかしゃべりたくありません。」
なにこの質問。俺のトラウマを掘り返してどうしたいの。
「なるほど、私の。思った通りだ。」
そういうと、平塚先生は、快活に、それでいて豪快に笑った。
「君、部活に入れ。」
ああ、なるほど。そういうことか。
やっとわかった。
つまるところ先生は、俺を団体のなかに放り込んで更生させたいのだ。
だからこうやって、わざわざ職員室にまで呼びだして話をしている。
先生から見て俺は、斜に構えて、捻くれて、達観して、傍観して、悲観して、————
そしてなにより、放棄しているように見えるのだろう。
「無理です。」
「それはなぜかね?」
何かを問いただすような、それでいてどことなく心配しているような、そんな表情で此方を見る。
ちょうどいい機会だ。先生に俺のトラウマを知っておいてもらおう。
大丈夫、大丈夫。この人なら信用できるし信頼できる。
そのことは、俺がこの高校に入学をしてからの一年間で十分に知っている。
だから、
「それを言うには、まず先に僕の昔話を聞いてもらう必要があるんですが。」
「言いだろう。話してみたまえ。」
少なくともこの話をする間は、対等であるために、平等であるために、
先生と生徒いう肩書を捨て、
「話す前に一つ言っておきます。平塚さん、この話は嘘でもありませんし、誇張もしていませ。」
「!?…わかった…。」
『僕』という皮をぬぎ、
「これは俺が、———————————————。」
「……!?」
腹を割って、正直に話そう。