八幡はいじめにあっていました。   作:良薬

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対等でいたいんだよ

「雪ノ下雪乃。」

 

先生はその言葉を反芻して深く考え込んでいた。それは該当する生徒の名前を記憶の中から探しているというよりは、その人のことをすでに知っているかのような反応だった。

 

「あいつを知ってるんですか?」

 

「知っているにきまってるだろう。一応この学校の学年主席だぞ。」

 

 ああ、確かにそうか。そもそも俺があいつを知ったのが各クラスごとに貼り出されている学年成績順位だった。

それなら知っていても不思議ではない。そもそも知っていないほうが不思議だ。

 

 先生はまた何やら深刻な顔をして考え込んでいる。唇の左端にさっき俺の涙を拭いてくれた方とは逆の手を当てている。

学年主席の人間が過去にいじめをしていたなどと知ってしまったのだ。何か思うところでもあるのだろう。

 

 そうして少しすると、先生は思い切ったように口を開きこう訪ねてきた。

 

「君が雪ノ下にいじめを受けていたというのはいつ頃のことだ?」

 

「小学校の低学年…大体一年生から三年生の間ですね。いじめ自体は中学を卒業するまで続きました。あいつ…雪ノ下は小学生とは思えないほどの人望と知識で徹底的に俺をいじめていました。あいつが三年生で転校すると聞いたとき、俺はやっとあの地獄から解放されるとよろこびました。しかしそうではなかった。雪ノ下は転校する間際に自分の取り巻きに俺をいじめるように命令したのです。自分がいままで行ってきたいじめのやり方、所謂いじめのコツのようなものを伝えて。それからは先生にさっき言った通りのようないじめをほぼ毎日受けてきました。」

 

 言っている途中に、あの時感されていたことの理不尽さに気づき熱がこもってしまった。そのせいか聞かれてもいないようなことまで答えてしまった。

それを聞いた先生はなにやら悲しそうな顔をして思案したかと思うと恐る恐るといった歩みでこちらに近づき俺の肩に手を置いてこういった。

 

「君に、会わせたい人がいる。」

 

 

 

 

 この学校の校舎は少し歪な形をしている。

 俯瞰で見れば、漢字の口、カタカナのロによく似ている。道路側に教室棟、そこに向かい合う形で特別棟がありそれら二つの棟を結ぶ形で二階に渡り廊下がある。

校舎と渡り廊下で囲まれた中心の空間では、昼休みになるたびにリア充たちが腹ごなしにバトミントンをしてははしゃいでおり、それを教室へと戻る移動中になんとなく映画を見るような気分で眺めるのが俺の日課だ。

 

 平塚先生はかつかつと一定のリズムを刻みながら歩いている。凛々しいなと思いながら歩く姿に目をやるとどことなく、ぎこちないようにも思えた。

 

「いったい誰なんですか?合わせたい人って。」

 

「さっき君に入るように勧めた部活の部長だ。…名前は後々教える。」

 

「…では何をするんでしょうか?」

 

「会って、話をしてもらう。」

 

 ふむ、先生のいう部活というのはお悩み相談室のようなものなのだろうか。そういえばもともとは捻くれた俺をその部活に参加させようとしてたな。

それならカウンセリングとかのほうが近いのかもしれない。

 

「それはカウンセリングのようなものなんですか?」

 

「中らずと雖も遠からずだな。どちらかというと私から君にそれを施すといったほうが近い。そいつに会って話をすること自体がカウンセリング、といえばいいのかな。」

 

 ということは、いまから俺がすることは所謂リハビリのようなことなのだろうか。対人恐怖症の人間に他人とコミュニケーションを取らせる。なるほど理にかなっている。

 

「それって——————。」

 

「ついたぞ、ここだ。」

 

たどり着いたのは何の変哲もない教室だった。

 

「比企谷、中にいる生徒に話しを通してくる。少し待っててくれ。」

  

 俺が黙ってうなずき了承のの意を示すと。先生は教室の前方にある戸をノックもなしにキレよく開け中に踏み込んだ。おいおい、それでいいのかよ若手教師。

 

 などと考えていると、そいつはそういったマナーに厳しいのか、中にいる生徒に注意を受けていた。

 

 なんとなく耳を傾けると、先ほどの注意の時の声を聴いても思ったが、どうやら女子生徒のようだ。

 

 …、女子か。女子にはいい思い出がない。

 俺は小学校の頃からいじめを受け続けてきたが、女子から受けていたそれは男子の比じゃなかった。爪剥がし、爪責め、水責め、棒打ち、縄打ち、投石、リンチ、窃盗etc

雪ノ下の指導は基本的に男子には行わず、女子に対して積極的に行われていたため、女子のいじめのバリエーション、質、事後処理、どれをとっても男子の何倍も上をいっていた。

だからだろうか、俺は女子と会話をすると必ず恐怖を感じてしまう。心臓が縮こまり、横隔膜がせりあがって呼吸が苦しくなる

 

 リハビリにしてはハードすぎる気もするが、俺のこの病気を治すにはこれぐらいの力技が調度いいのかもしれない。

 

「もう大丈夫だ、入ってきたまえ。」

 

 そういいながら先生はドアを開け体を半分ほど出してこちらに手招きをした。俺はそのしぐさに従い、教室にに入ろうと先生が少しだけ開けた戸を自分入れるくらいにまで開けようと手をかけた。

そしてちょうどいいくらいにまで開けて教室の中に入ろうとしたとき、先生が右手で俺の肩に軽く触れ、なぜか静止した。どうやら先に言っておきたいことがあるようだ。

 

「君には今から彼女と一体一で会話してもらうんだが、その際にいくつかルールを作らせてもらう。これは今から行うカウンセリングで必要だと私が勝手に判断したものだ。嫌なら従わなくてもいい。

まず第一に、自分の自己紹介をすること。第二に彼女に名前を聞かないこと。そして最後に、彼女は少しストレートな物言いをする。平たく言えば毒舌だ。全力で応じてやってくれ。」

 

 話を聞く限りでは、まったくカウンセリングに向いていないように思うのだが…。

 自己紹介をすのと彼女に名前を聞かないのはなんとなくわかる。自己紹介をすることで次の会話にスムーズに移ることができるし、名前を知らないことでいらない偏見や先入観を持たなくて済む。しかし毒舌は、なんのメリットもないし…。

 

 まあ考えても仕方ない。俺にはカウンセリングやらの心理学はわからん。

 

 と自分の思考をまとめ終わった。ところでふと疑問に思った。

 

「あれ?どうし先生は俺にそれを強制しなかったんですか?なにも先生が勝手に決めたとか言わなくても、カウンセリングとはこういうものなんだと言えば済んだじゃないですか。」

 

 俺がそういうと、先生は今まで見せたどんな顔よりも魅力的な、素の顔を作って笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きっと君と同じさ。対等でいたいんだよ。私も。」

 

 

 

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