八幡はいじめにあっていました。   作:良薬

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刀に自我はない。

 

 頭の中で二度三度反復し、先生が言ったルールを反確認して、うっかり破ってしまわないようにしながら教室に入った。

 

 二、三歩ほど中に入ったあたりで、気持ち顔を上げるとそこには美女がいた。その少女は斜陽が窓から射す位置に椅子を置き、じっとこちらを見つめていた。その姿はどこか絵画じみていて、その瞳には俺のすべてを吸い込んでしまうような光が宿っており、肌は白く絹の豆腐のような肌理細やかさとつやを持っていた。そうでありながらそれらの讃辞の言葉を投げかけても歯牙にもかけないであろう頑なさがあった。つまるところ彼女は美少女だった。

 

 しかしながら俺から見た彼女は何と言いうか、不気味だった。見かけだけが完成されて、中身はまるで空っぽ。

 

「初めまして、先生からある程度話を聞いているわ。まずは自己紹介をお願いしてもいいかしら。」

 

 刀のように凛とした口ぶりでこう言った。刀に自我はない。

 

「初めまして、比企谷八幡といいます。地名の比企谷に八幡宮の八幡と書いて比企谷八幡です。」

 

「そう、比企谷君というのね。初めまして。私の名前は、先生から聞いていると思うけど教えてはいけないことになっているの。」

 

「はい、聞いています。」

 

 俺が人づきあいが苦手であるのと、彼女とは初対面であるのが相まってか、距離感を測りあぐねて敬語で口から言葉が出た。すると彼女は馬鹿にしているのか言わんとばかりにこちらにその断ち切るような鋭い眼光むけた。彼女の眼光が刃であるとするならば、俺の心はさながら時代劇に出てくるような斬首の罰を待つ罪人だろう。いや、俺は何の罪も犯してねえよ。

 

 何か気に障ることでもあるのだろう。眼か、眼なのか。

 

「その敬語やめてくれないかしら。あなたのその眼も相まって、私に媚びへつらっているように見えるわ。」

 

「それならお前もその威圧的な口調やめてくれない?虚勢を張っているようで弱く見える。」

 

「虚勢じゃないわ。実際に強いのよ。」

 

「知ってるか、本当の強さっていうのは鉄のような固さじゃなくて、竹のしなりとかゴムの伸縮みたいに、一度こちらに引き込んでから跳ね返すことのできる伸縮性なんだぜ。」

 

 女への恐怖心やトラウマなどが嘘のように、次々と言葉が生まれた。それはきっと、先ほどの先生との一件と、無意識のうちに俺が向けてしまっている彼女への敵対心からだろう。

 

 なぜかここについて彼女を一目見た時から、少しの嫌悪感を感じていた。それは、仕草であったり、言動であったり、容姿であったりではない。何というか喋るマネキンと共にいるような、壁面に書いてある文字と意思疎通しているような、確かな違和感があった。

 

 彼女は先ほどから発していた眼光を一瞬だけ曇らせて、少し思案した後もう一度、次は先ほどより一層鋭くなった刃をこちらに飛ばした。

 

「あら、知ったような口を利くのね。」

 

 そう言った彼女はやはり張りぼてで、その裏側では明らかに動揺していた。

 

 そのことに少しだけ優越感を感じた俺は、彼女の正面に置いてあったパイプ椅子に腰かけた。

 

「促される前に座るなんて失礼じゃない?」

 

「相手が自発的に座るまで、自分だけが座ったままで会話を続けるのも十分に横柄で失礼だと思うんだが。」

 

 彼女はその絵画のような顔を虫を這わせたようなばつの悪そうな顔に変え押し黙ってしまった。

 

 その後体感時間で一時間、実際はおよそ10分ほど無言の時間が続いた。

 

 一人でいるときの静寂には慣れているものの、人との交流、しかも美女との一対一での会話になど慣れていない俺は、この無言に少しばかり辟易してしまう。これが俗にいう「言い過ぎた」という状態なのだろう。

 

 俺はたまらず閉口していた口を開いて彼女に質問をした。

 

「なあ、黙り込んでいていいのか?平塚先生に何か言われてるんだろ」

 

 彼女はもう一度、その不快そうな顔を攻撃的な顔に作り直た。

 

 「私が平塚先生に頼まれたのは、あなたと会話をすることだけよ。まあ、不快だからそれはしないつもりだけど。」

 

 「よくわからんがお前は先生に頼まれてそれを了承したんだろう?それならしっかりと役割を果たせよ。」

 

 再び黙りこくってしまった彼女を後目に少し考える。

 

 平塚先生は俺のいじめのことを彼女に教えていない。それはつまり彼女の素の言動に俺の更生———あえてこういおう————を促すべきものがあるということだろうか。今のところはその片鱗すら見せていないが。

 

「はあ、悪かったよ。お前からしたら、教師の頼みごとを受けたら、急に来た部外者に意味の解らない屁理屈で乏して来たって状況だしな。」

 

「あ、え、ええ、わかればいいのよ。許しあげるわ。」

 

 そういうと彼女は少しばかり気を持ちなおしたようだった。その姿はどこか高校生に見合わないような幼さを持っていた。

 

「そうか、ならよかった。許してもらったところで会話をしようぜ。もともとそれが目的で来たんだし。」

 

「そうね、じゃあ一つクイズを出しましょう。ここがなに部か当ててみて?平塚先生のことだから何も言ってないのでしょうし。」

 

 そもそもここは部活だったのか。

 

「じゃあ俺からも一つ問題を出させてくれ。交互に質問をして、先に当てられた方の勝ちだ。こっちの方が面白いだろう?」

 

 こういうと彼女は眼の奥を少しだけ燃やした。やはり好戦的なタイプのようだ。これでうまく会話ができるだろう。

 

「ええ、いいわよ。どうせ勝負を決めるのだから何か買った勝った方に何か特典を付けましょう。そうね、勝ったほうが負けたほうに一つだけ質問できるというのはどうかしら?もちろん拒否権はないは。私からのクイズはさっき言ったものでいいわ。そっちは?」

 

 ふむ、なかなかどうして面白いことをいうな。それなら俺も少しばかり問題をかんがえなければいけない。なんせ彼女には聞きたい事がある。

 

 そうすると問題は、どのような問題を出すかだな…。

 

 ああ、いいことを思いついた。少しばかり平塚先生にいたずらを仕掛けてやろう。俺だって何も聞かされずにここに連れてこられて混乱したんだ。少しくらいならお相子というものだろう。 

 

「俺がここに来た理由、ひいてはお前と会話をしなければならない理由を当ててみろ。」

 

 




彼女とは誰なんでしょうね
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