ゆりかごの鍵は雪風の使い魔   作:楠木 蓮華

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やっとここまで来た……って、私って進むの遅いですよ


貴女を助けたいから

「んっ……」

 

身体を包み込んでいる、柔らかくて温かい感触を感じ……私は目を覚ました。するとそこには、穏やかな寝顔で寝息をたてている、ヴィヴィオがいた。

 

どうやら私のベットに潜り込んで寝ていたようで、なんで今私が抱きしめられているかはわからなかったけれど、取り敢えず……戻ってきていたらしい。

 

「もう……朝」

 

窓から差し込む光を確認し、今がもう朝だということに気づく。あまり急ぐ必要もないのだが、のんびりしていると、朝食に間に合わなくなってしまうかもしれないので、取り敢えず起きることにした。

 

「ちょっと……ごめんね」

 

一言、起こさない程度にヴィヴィオに向かって呟くと、私を抱きしめているヴィヴィオの手をそっとどけ、ベットから降りる。

 

ベットから降りると、着ているネグレジェを脱ぎ、制服に着替える……別に、この制服に愛着がある訳では無いが、私はもうすぐこの制服を着れなくなると思うと……少し寂しく感じてしまった。

 

というのも、この召喚試験で使い魔ができなかった場合、コルベール先生が言うには、私は退学になってしまうらしい。別に、退学を怖がっている訳では無いけれど、退学をしてしまうのも困る理由はあった……がしかし、そんな私の事情で、十歳くらいの女の子を無理やり使い魔にするというのは、流石に気が引ける。

 

自分で言うのはなんだが……私みたいに発達が遅いというわけでなければ、きっと彼女は見た目と同じくらいの歳だろうから。

 

だから私は……退学をしても仕方ないと思っている。流石に、彼女を巻き込みたくはなかった。

 

だからというわけではないのだが、残り幾つあるかわからない学園生活、特に思い出はなかったが、食事くらいはしっかりと取りたいという、欲望もあり、私は部屋を後にすることにした。

 

ヴィヴィオはぐっすり眠っていたので、起こしてしまうのもはばかられた……なので、もうしばらく寝かせてあげることにした。ご飯は、帰ってくる時に……誰かに頼んでもらってこよう。

 

そう思いながら、私は自分の部屋を出ていった。

 

部屋を出てからしばらく歩いていると、そこには……キュルケと、コルベール先生がいた。なにやら必死に何かを話しているみたい。

 

「あ……タバサ……」

 

「ミス・タバサ……」

 

「どうかした……?」

 

心配そうな顔で二人が私を見ていたので、どうかしたのかと聞いてみることにした。

 

「どうかしたじゃないわよっ……タバサ、貴女このままじゃ退学になっちゃうのよ!?」

 

「知ってる……」

 

「知ってるって……いいの!? このまま退学なんて……」

 

「あの子に無理強いはできない……」

 

私がそう言うと、キュルケらしくもない……と言ったら失礼だが、少し俯いた後、それはそうだけど……と答えた。いつもの彼女なら、そんなことどうだっていいじゃない。と言いそうだけれど、今回は言わなかった……なにかあったのだろうか。

 

「ミス・タバサの決めたことならば、私達がとやかくい言うこともないでしょう……本当にいいのですね? ミス・タバサ」

 

「はい」

 

真剣な表情で私のことを見てくるコルベール先生に、私は一言だけ返した。

 

「わかりました……では、私は今日の夜までには……ヴィヴィオさんにこのことを伝えておきます。 明日には家などを紹介するつもりなので、それまでに、なにかあれば……私に言ってください」

 

「はい……」

 

また一言返すと、私は食堂へと足を向けた。

 

それに続いて、キュルケも後からついてきた。しかし、私になにかいいたげではあったが、なにもしゃべりかけてくることはなく、結局……食堂に着くまで一言もしゃべることは無かった。

 

席につき、食べている途中……なにやら騒がしいと思って、騒がしい原因だと思われる方向を見ると、そこには……ゼロのルイズ……という名で呼ばれているヴァリエールと、黒髪の男がいた。

 

「あらあら……ルイズも酷いことするわね~」

 

どうやら、パンを床において、それを食べさせるみたいだった。ヴァリエールも人間の、平民を召喚したらしい。でもあっちは召喚してすぐに契約をすましていたらしく、犬扱いはされていたが、使い魔はしっかりといるらしい。でも……私には関係ない。

 

「どうでもいい……」

 

なので、そう一言返しておいた。

 

 

**

 

 

朝食を堪能した後、特にやることもないので……私は部屋に戻ることにした。ヴィヴィオはもう起きてるかもしれないし、起きてなかったら起こしてあげよう。それに、読みたい本もあったし。

 

そう思い、部屋に戻ろうとすると……

 

「諸君っ! 決闘だ!」

 

金髪の髪の毛をした男……確か名前は、ギーシュ・ド・グラモン……だったか、その男が……先程のヴァリエールの使い魔に、決闘を申し込んでいた。

 

でも、別に興味はないので帰ろうとすると……

 

「面白そうだから見に行きましょうよっ、タバサっ!」

 

「んぐっ……興味無い」

 

キュルケにマントを引っ張られ、喉が少し締まる……苦しい。部屋には読みかけの本がある……だから別に、決闘なんて。

 

「いいからいいからっ……行くわよっ」

 

「本……」

 

「やっぱり帰って本を読むつもりだったのね? いい? 時には外に出て、刺激を求めないとだめよっ」

 

「……わかった」

 

「ふふっ、それでいいのよっ! さぁ、行きましょうか」

 

「うん……」

 

もうこれ以上話していても、きっと事態は好転しないと踏み、諦めてついていくことにした。別に何も無かったら、すぐ帰ればいいだけ……

 

そう内心思いながら、群れている生徒達の和に、私達も加わったのだった。

 

そして決闘がはじまったのだが……最初は、金髪の男の方が圧倒していた。それはわかりきったことだったが……その時は本当に面白みもなかった。ただ、メイジが平民を蹂躙する。そんな様を見続けているだけだったからだ。

 

しかし……あの男、ヴァリエールが名前を呼んでいたので覚えたが……どうやらあの黒髪の男の名前はサイトと言うらしい。その男が……金髪の男が渡した剣を握った瞬間、いきなり動きが俊敏になり、金髪の男のワルキューレを粉砕したのだ。

 

それは流石に予想外で、キュルケも……周りの生徒達も驚いていた。かくいう私も、内心は驚いていた。あの能力……剣を握ったことで強くなったことから、契約によって手の甲に刻まれたルーンの影響だと考えた。

 

「帰る……」

 

でも、今深く考えたところで……あれがなにかはわかるはずもないので、決闘も終わったことだし……私は今度こそ、部屋に戻ろうとした。

 

「まったく……情けない、情けないぞギーシュ! 平民ごときに遅れをとるとはなんたる貴族の面汚しだっ!」

 

しかし……今度は怒気が含まれた声が響き渡った。

 

どうやら……まだ私は部屋に返してはもらえないみたい。

 

 

**

 

「ん……んぅ……うにゃ……?」

 

ぽかぽかした暖かさと、眩しさで……私は目を覚ましました。

 

「えっ~と……ここは……そういえば私、タバサさんの部屋に戻ってきて……それで、あっ……」

 

思い出しました。タバサさんのベットに潜り込んで……抱きしめて落ち着かせようとしているうちに、そのまま寝ちゃったんだった。

「って……布団に潜り込んで抱きしめるなんて、なんて大胆なことを////!!」

 

私はうぅ~っと唸りながら、タバサさんのベットの上で転がりました。恥ずかしさとなんであんなことをしてしまったんだろうという自分の大胆さへの驚愕で、もう顔は真っ赤になっているだろう。

 

「はっ……!? そういえばまだいつものやってなかったっ!」

 

皆さん、はじめましての人ははじめまして、よろしければ一話から順に見ていただけると幸いです。一話から見てくれている人はありがとうございますっ! タバサさんのベットに潜り込んで自分のした行いに恥ずかしさを覚えて自爆している高町ヴィヴィオです。

 

「ふぅ……あれ? そういえばタバサさんは……」

 

一度息を吐いて、冷静になると……今更ながらタバサさんがいなくなっていることに気がつきました。日が登っているところからして、きっともう朝だと思うので……きっと朝ごはんを食べに行ったのかも知れません。

 

「私のこと……気を使って起こさないでくれたのかな……」

 

やっぱり……タバサさんは優しいな……使い魔の件と言い……この件といい……タバサさんはいい人だ……。

 

「でも……使い魔……か」

 

まだ私は使い魔の件について、どちらにも決心がついていませんでした。タバサさんの使い魔になるという決心も、タバサさんの使い魔にならないで、どこかで平和に暮らすことも……ここまで自分は優柔不断だったかな……と思ってしまうほどに、私はまだ決断できずにいました。

 

「はぁ……取り敢えず、外に出ようかな……気分転換も大事だよね……うん」

 

そう自分で口にすると、ベットから立ち上がり……外に出ることにしました。朝食は……後でどうすればいいか、コルベールさんに聞いてみよう。

 

そして私は昨日も来た広場のようなところに来てみたのですが、なんだか人が集まっていてわいわいがやがやと騒いでいました。

 

「なんだろう……? いつもあんな感じなのかな……」

 

少し気になった私は、その人混みのところに行ってみることにしました。するとすぐに、沢山の人達の歓声やらなにやらが聞こえ始めました。

 

しかし……

 

「まったく……情けない、情けないぞギーシュ! 平民ごときに遅れをとるとはなんたる貴族の面汚しだっ!」

 

男の人の怒声によって、その歓声は打ち消され……静かな空間と、ピリピリとした……嫌な緊張感が生み出されました。

 

「どけっ、ギーシュ! この男の始末はこの私……モブリンガー・モブ・モブディアルがしてやろう」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ! サイトはもう勝ったわ! これ以上戦う理由なんてっ……」

 

「そ、そうだっ、僕はもうこの男に負けたんだ。 もう決着はついているだろうっ!」

 

「理由……? くははっ! なにか勘違いしているようだな……ミス・ヴァリエール、そしてギーシュよ」

 

「ど、どういうことよ」

 

「これから私がするのは決闘ではない、貴族に喧嘩を売り、あまつさえ勝ってしまうような平民に対しての……教育だよ」

 

少し顔立ちが整っているものの、まるで人を見下しているかのような……見ているだけで、なぜか嫌悪感を覚えてしまう男の人が、ボロボロになっている黒髪の男の人と、ピンクブロンドの髪がとっても綺麗な女の人に向かって、見た目が立派な杖のようなものを向けていた。

 

その……モブさんという人に向けて、ピンクブロンドのヴァリエールさんと呼ばれていた人と、金髪の男の人のギーシュさんがモブさんに向かって抗議の声を上げていたが、モブさんはその二人の抗議を聞き入れず、教育と言っていました。

 

「酷い……そんなの、教育じゃないよ」

 

それとも……この世界ではそれが普通なのだろうか、でも……ヴァリエールさんとギーシュさんはそんな感じじゃないみたいだし……タバサさんだって、優しかったのに。

 

「ミスタ・モブリンガー? 流石にそれはやりすぎじゃないかしら?」

 

この空気を壊してくれたのは、昨日会った……キュルケさんでした。そしてその隣にはタバサさんもいました。

 

「ん……? 君は、ミス・ツェルプストーじゃないか。

悪いが先程も言ったように、これは教育だ。出すぎた杭は引っこ抜かねばならないからな」

 

「でも、貴族として……決闘を行ったのですから、例え相手が平民であっても、その結果に意義を唱えることは、むしろ、貴族の恥になると思いません?」

 

「うぐっ……そ、それはそうだがな……確かにギーシュにも女性を傷つけた罪はあるが、それに対してあの平民は、最初、貴族を弄ぶような心意が見て取れた……それを放っておくのは、貴族の恥だと思わないかね?」

 

「それでも、弱った平民に、教育という名目上とはいえ、追い討ちをかけるのは……気高い貴族としてはいただけませんわね」

 

「ぐっ……そんなものは関係ないっ! 元々平民など、気にかける価値などないのだからな!」

 

キュルケさんと、モブさんの言い合いは……私から見ても、圧倒的にキュルケさんの方が上手だと感じていました。もうモブさんは言い返すことが出来ず、もうほとんど駄々をこねているようにも見えてしまいました。

 

「それに……ミス・ツェルプストー、君の発言をいちいち気にかける必要はないと私は考えているのだよ」

 

「あら……なぜかしら?」

 

「ふっ……なぜなら君の隣にいるのは、あの……使い魔を召喚したにも関わらず、使い魔が拒否し、近い内にこの学園をさるミス・タバサではないか。」

 

なぜかいきなりタバサさんの名前が上がりました。私はその言葉に反応し、さらに近づきました。そして、そのモブさんの言葉によって、周りにいた他の人達も騒ぎ始めました。噂は本当だったのか。使い魔に拒否されたんだ……など色々と囁かれていました。

 

「それがどうしたというのかしら……?」

 

「はっ……使い魔になることを拒否されるような低能な者と、ミス・ツェルプストー、君が付き合っているのなら……それは即ち、君も低能なミス・タバサと同じようなものということだ。 そんな者の言う事を聞くことは出来んな」

 

その発言に、私の心と身体は怒りで震えました。低能……タバサさんは決してそんなことはない……と、私はわかっているからだ。だってタバサさんは……出会ったばかりの私を大切に思ってくれた。気を使ってくれた。優しく抱きしめてくれた……それなのに……それなのに……

 

「タバサは関係ないでしょう! それに、低能……だなんて、発言を撤回しなさい!」

 

「断る。使い魔一人、言う事を聞かせられないようでは、低能……無能もいいところだ」

 

私は自然と、拳を握りしめていました。こんなに怒りを感じたのは何時ぶりだろう……いや、もしかしたら、相手にここまで純粋な怒りを感じたのは初めてかもしれない。

 

あの事件の時も、私は流されるがままだった。ただ操られ……大切な人を傷つけて、何も出来なかった。あの時感じていたのは、悲しさと寂しさと情けなさ……それからも、アインハルトさんの一件があったけど、こんな気持ちは……初めてに近いと感じました。

 

私はもう一度拳を握りしめました。

 

もしも……私が使い魔になったら、オットーやディードはどう思うかな……。陛下が使い魔だなんて!って……大騒ぎしちゃうかも。

 

きっと……皆心配してるよね……もし帰れたら……すっごく怒られちゃうかも……。沢山の人から怒られるのは……ちょっと怖いかな。

 

フェイトママはきっと泣きながら抱きついてくるかもしれない……今、フェイトママは泣いてないかな。私が言うのもなんだけど、あまり心配しすぎないで欲しいな。

 

もしも……私がここで使い魔にならなかったら……ママは……なのはママはなんて言うかな。

 

そう思った時、私はママから聞いた……とある言葉を思い出しました。困っている人がいて、助けてあげられる力が自分にあるなら、そのときは迷っちゃいけない……その言葉を、私は心の中でなんども復唱しました。

 

そう……そうだよね。私はいったいなにを悩んでたんだろう。

 

タバサさんは困ってた……そして、私が使い魔になれば、タバサさんを助けてあげられる……それに、タバサさんが寝ている時にうなされていたこと……きっと大変なことなんだろう。

 

もしかしたら、私が使い魔になれば……助けられるかもしれない。

 

「むしろここで助けなかったら……ママに叱られちゃうよね」

 

うん……きっとこれはキュルケさんが言っていたように、運命なんだ。

 

私は和の中に入るために、そっと一歩を踏み出しました。

 

この世界にやって来て、誰かを救うために……タバサさんを救うために。私はここにやってきたんだ。

 

そしてまた一歩を踏みだす。

 

なら……もう迷うことはなにもない。

 

「っ……なにを……」

 

「ヴィヴィオ……!?」

 

私は、ヴァリエールさんと、サイトさん……そしてモブさんの間に入り、ヴァリエールさんと、サイトさんを守るように、私は立ち、両手を横に広げました。

 

その途中、驚いているタバサさんとキュルケさんの声も聞こえました。

 

「ん? 君は誰かな? もしかして、迷子かな」

 

モブさんは私を見ると、そう言いました。

 

「いいえ……違います」

 

「なら誰だい? ここの生徒ではないようだが……メイドか? ならさっさとここを去るんだな……私はこれから、君の後ろにいる男を教育しないといけないんだから」

 

私のしたい事、出来ることは……タバサさんを助けること。でも……私がほかにできること……それは

 

「私は……私は、高町ヴィヴィオ! タバサさんの使い魔ですっ!」

 

周りで困っている人。助けてって言ってる人、心の中で泣いている人を助けること!!


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