機動戦士ガンダム MS戦線0079 戯け者の弾痕 作:だ~くぱんぷきん
UC.0079 11月30日
陸戦艇 ギャロップ内部
見慣れた部屋の天井
また嫌な夢を見た
「む…」
人工的な光が目を刺す
眠気が残る目を擦っていると、ドアの方からコンコンと音が聞こえる
「ロガーさん、入っても大丈夫です?」
ノックの後に聞こえてきたのはミラの声だった
「はいよ」
「おぉ、まさかこの時間に起きてるなんて思いませんでした。割と朝方ですよ?今。」
呑気そうに喋っているミラを見ていると、やっと自分の隊が完全な形になったのだと改めて実感する
「…酷い夢を見た」
「またですか~?今度はどんなお告げが来たんです?」
俺が悪夢を見る時。その出来事は確実に起こる
俺らの隊ではこれをお告げと呼んでいた
「…分からない。何もかもが燃えていた」
「?、それはまた不明瞭ですね」
「俺にも分からん。ただ一つ確かなのは、」
「確かなのは?」
「悪魔がいた。いや、悪魔なんて生易しいもんじゃなかった…アレはもっと…気持ち悪いというか…不気味というか…えも知れぬ恐怖があった」
「何ですかそれ?」
ミラがクスクスと笑う
「あの感じは…そうだな、幼い頃にピエロを見たあの感じだ!」
goodな例えが出て、若干興奮気味に口を開く
「ピエロですか…私は見たこと無かったですね…何なら私自身がピエロだったまである!」
そう言いながらミラは眉を八の字にしながら鼻の下を擦ったあと、無理な笑顔を見せながらそう言った
「あんまり自分の過去を卑下するなって何回も言ったろ?虚しくなるし、意味の無い過去なんて存在しない」
「確かにそうですね…あの糞みたいな暮らしをして無ければ、ロガーさんにも会えなかったですもんね」
そのミラの笑顔は一見普通の年頃の女性の笑顔なのだろうか。
しかし、俺には分かる。分かってしまう。その笑顔の内にはとんでもない暗闇が見えてしまうのだ
俺が初めて見かけた彼女は、人間ではなかった
戦争で家族を失い、商人に目をつけられたのだろう
まるで売り出されたペットの様に扱われていた
軍人としては間違っていたのだろう
しかし見捨てる事は出来なかった
結局、家に預けたにも関わらず、ミラは俺の所へ戻ってきた
久々に見たその少女は軍人として俺の前に現れた
「ま、兎にも角にも、ピエロだろうがなんだろうが、ロガーさんに害を成すなら、それは私の憎悪すべき敵です!何があっても、私がロガーさんを守り抜いて見せます!」
ミラのその言葉はきっと心の奥底から出している言葉で、ミラは何が何でも俺を守ろうとするんだろう
だから俺にちょっとでもピンチに陥る事は許されない
「そりゃ、頼もしいな。あのザニーのパイロットからも守ってくれよ?」
「あんなの雑魚ですよ!あの時だって慌てふためいて泣いてたんですから」
「…そうなのか」
そんな状況下でありながら、俺達相手に援軍が来るまで持ち堪えたとでも言うのか
その話が本当だとすれば俺達はとんでもない逸材に敵として出会ってしまったのかもしれない
「ミラ、ザニーのパイロットはどんな奴だった」
「そうですね…お人好しで、少しMSの運用に長けていますね。ご存知の通り、初戦で"前隊長の乗ったゲルググもどき"を撃破してるので。でもあの人、隊長っていっても…」
「形だけの隊長とはいえ、アイツは確かな実力があった。しかも乗っていた機体もなかなかの代物だ。…ザニーのパイロットは否が応でも俺が相手にしなければな。アドはともかく、PJのは狙撃機だ。ミラ、お前もアイツの相手は控えろよ」
「むぅ…まぁ、ロガーさんがそう言うなら…」
「ありがとな…かれこれ、あの小隊にはかなりの犠牲が伴っている。これ以上の犠牲を出す訳には行かない」
そうだ、こちらも相手の1機を破壊してるとは言え、それも相打ち。
以前、ミラが落としたのは捕らえた連邦兵を乗せたザクだったし、彼らは実質、2機だけでこちらと戦っていたのだ。
現在、この戦争はジオンの不利と言える。
実際、恐らくジオンは敗北するだろう
しかし、投降して、連邦の奴らに恥辱と屈辱と言う名の煮え湯を飲まされるのはゴメンだ
それなら最後の最後まで抗ってやろうではないか
例え死ぬとしても、華々しく散ってやろうではないか
それが俺らの…[ロッテン・ローズ隊]のお役目なのだから