高坂穂乃果は再びスタートする   作:ひまわりヒナ

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初投稿となります。
至らぬ点が多々あると思いますが、どうぞよろしくお願いします。
月に1、2話の投稿となると思います。



プロローグ

「1!」 「2!」 「3!」 「4!」 「5!」 「6!」 「7!」 「8!」 「9!」

 

『μ's!ミュージック……スタート!!」

 

 

 

 

『ほ……!』

「がんば、ろう、みんな」

『ほ……か!』

「わたしたちなら、でき……『穂乃果ぁ!!』わわっ!?」

 

  バッと、その大きな声に驚きながら目を覚ます、高坂穂乃果。

  すぐ近くには母の姿があった。

 

「ど、どうしたの?そんな大きな声出して?」

「どうしたの?じゃないでしょ!今日も店の仕込みをしなきゃいけないんだから」

「え?もうそんな時間!?」

 

  近くにあった携帯を手に取り、時間を確認する。時刻は朝の5時00分頃であった。

  普通の人からすれば少し早いかもしれないが、彼女の家は和菓子屋で仕込みをしなければいけないため、この時間は寧ろ少し遅いくらいである。

 

「もう!いい加減慣れなさい。お父さん、とっくに始めてるわよ」

「ごめんなさい。すぐ始めるよ!」

 

  仕込みがある分、早く寝ることができるようにシフトは設定されている。しかし昔から寝坊する癖がある彼女は中々その習慣が離れていなかった。

  まして仕込みに参加し始めたのはここ一ヶ月程の話で、ついこの間までは専門学校などで技術等を磨いていた。つまり実践的に使われ始めたのは最近のこと。

 

  まだ慣れない仕事、多忙により未だ確立しない生活習慣。

  色々な要素が確実に彼女に疲労を与えていた。

 

  しかし、別に楽しくないというわけではない。自分の家ということもあって環境には恵まれているし、来るお客は優しい人ばかり。

  忙しいのは事実だが、楽しいのも事実。疲労は感じていれど、順風満帆な生活を送っていると言えた。

 

「ごめん、お父さん!今から頑張るね!」

 

  急いで着替え作業場に来た穂乃果に父は親指を立てる。

  何も言わなくても何をすべきか彼女なら分かる。それは経験による観察眼、そして父としての信頼があったからこそであった。

 

  約3時間、一通り穂乃果がやるべきことは終わり、しばしの休憩時間が設けられた。

  母が用意してくれたお茶を飲んで、ホッと一息。今日も朝から頑張ったなぁ、と満面の笑みを浮かべる。

 

「んー疲れた……」

 

  まだ父や母が手伝ってくれているとは言え、辛いものは辛い。饅頭作りなどは手慣れている方だが、昔とは違い、その量は何倍にもなっている。

  両親には何も言っていないが、本当はほぼ全身筋肉痛ではないかと言うほど痛めていて、その所為か夜寝付きにくくもなっていた。

 

「お疲れ様、お姉ちゃん」

 

  そう言って入って来たのは妹の雪穂。その表情は少し奇妙と言えるほどの満面の笑みであった。

  さすがに違和感を感じたので「どうしたの?」と質問する。すると、

 

「今日は特別ゲストがいるんだ」

「特別ゲスト?」

「うん、そう。特別ゲスト」

 

  そう言って彼女が少し後ろに下がると、「お久しぶりです、穂乃果さん!」雪穂の友人、亜里沙が現れた。

 

「えぇ!亜里沙ちゃん!?こっちに来てたの?」

「はい!実はこちらの大学に留学することになったんです!」

 

  亜里沙はこちらで高校生活を終えた後、ロシアの大学に通っていた。そして優秀な成績を収め、日本の大学に留学することが決定したのだ。因みに雪穂と同じ大学だそうだ。

 

「すごい!すごい!おめでとう、亜里沙ちゃん!」

「えへへ、ありがとうございます!あ、それと穂乃果さん。実はもう1人ゲストがいまして……」

 

  もう1人?誰だろう?そんな疑問が穂乃果の頭の中で飛び交う最中、1人の女性が彼女の前に姿を現す。

  その姿を見た彼女は一瞬今見ている光景が夢なのではないかと思い、固まってしまった。

 

「久しぶり!穂乃果」

「絵里……ちゃん?」

 

  絢瀬絵里、亜里沙の姉であり、穂乃果の掛け替えのない親友の1人である。彼女は大学卒業後、日本にやってきたロシア人へ日本語を教える職。簡単に言えば先生をやっていた。

  そのため中々時間が取れずにいて、実際に穂乃果が彼女と出会うのは1年ぶり。次会えるのはいつだろうかと思っていたため、一瞬現実だとは思えなかったのだ。

 

  しかし彼女がそこにいるのは紛れも無い事実である。

 

「? どうしたの、穂乃「絵里ちゃーん!!」ちょ、ちょっと、穂乃果!」

 

  いきなり泣きながら絵里に抱きつく穂乃果。突然のことでもちろん驚いたが、穂乃果は昔からこんな感じだったなと、昔から変わっていない事に懐かしさを感じながら絵里はそっと彼女の頭を撫でる。

 

「次皆と会えるのはいつかなーってずっと思ってて……」

「私もよ、穂乃果。ずっと会いたかった」

 

  2人を見てクスッと笑い合う雪穂と亜里沙。2人の友情、いや、9人、μ'sの友情に変わりは無いと言う事を改めて感じていた。

 

 

  気を利かせた穂乃果の両親は今日は穂乃果に休んで良いと言った。

  もちろん少し気は引けたが、次いつ会えるか分からないため、今日は言葉に甘え2人だけでどこかに出かける事にした。

  向かったのは近くの喫茶店。他の皆はどうしているかなどの情報交換がしたかったのだ。

 

「あれからもう6年か……」

「そうね、穂乃果は少し顔が大人びた気がするわ」

「えへへ、そうかなー?絵里ちゃんは昔から変わらずとっても綺麗!」

「ちょっと、恥ずかしいからやめてよ」

 

  μ'sの活動を終えてから約6年経っていた。

  メンバーの年齢は20代前半、もうすっかり皆大人である。

 

「絵里ちゃん、最近仕事の方はどうなの?」

「上々よ。全国いろんな所を回ってるから少し疲れるけどね、そういう穂乃果は?」

 

  注文したコーヒーを飲んで質問を返す。

  穂乃果は少し目線を逸らし、僅かに苦笑いをする。

 

「……上手くいってないの?」

「え、えっとー。楽しいよ。それに技術なら大分良いってお父さんには言われてる。ただ……ちょっと生活リズムが崩れていると言うか何と言うか」

 

  あはは、と笑う穂乃果。

  彼女が嘘を言っているとは思えない。つまり楽しいというのは本当なのだろう。そして同時に遠回しに体調不良も訴えているのだろう。

 

「大丈夫なの?無理してない?」

「うーん、どうなんだろう?多分大丈夫だと思う!もうすぐ慣れるとも思うし」

「そう……もし悪くなったらすぐ誰でもいいから言うのよ?無理は禁物よ」

「うん、分かってる!」

 

  元気よく言う穂乃果ではあるが、心配な絵里。とは言え、どうしようも無いのも事実である。

  穂乃果の言葉を信じ、今は話を変える事にした。

 

「そう言えばにこ、まだまだ人気衰えてないわね」

「本当すごいよね!今じゃにっこにっこにーを知らない人はいないぐらいだもんね!」

 

  μ'sメンバーの1人、矢澤にこは今も1人でアイドル活動をしていた。その人気は宇宙No.1アイドルの名に恥じないもので、彼女の『にっこにっこにー』は誰にでも知られている。

 

「この前テレビに映ってたにこちゃんの衣装。あれことりちゃんが作ったやつらしいね」

「ファッション業界じゃ知らない人はいない程の有名人だからね、ことりは」

 

  南ことりは今ファッション業界の大物としてその名が知られている。μ'sの活動時の衣装が高く評価され、念願の夢を叶える事になったのだ。にこのアイドル衣装の多くが彼女の作品でもある。

 

「そして凛はダンスの先生」

「凛ちゃんはダンスすごく上手だったもんねー。前ににこちゃんのダンスも作ってたみたい」

 

  星空凛はその抜群の運動神経を活かしダンスコーチをしている。

  時には学校で特別講師として参加したり、にこはもちろん、多くのアイドルも彼女にダンスを教わっている。

 

「後海未ちゃんも今すごいらしいよ!」

「この前演舞見に行ったわ。すごい綺麗だったわよ」

「え?絵里ちゃんもいたの!?」

「穂乃果もいたの?連絡取っておけば良かったわね」

 

  園田海未、彼女は日舞の家元で、その後継ぎとなった。

  その美しさからファンも多く、彼女のおかげで日本古来の文化が、今再び盛んになり始めている。

 

「真姫ちゃんはまだ勉強中だっけ?」

「えぇ、まぁ医者だしね。時間がかかるわ。でも凄いらしいわよ、成績トップらしいわ」

 

  西木野真姫は無事有名大学の医学部に入り、今も大学院で勉強中。

  その成績はトップで、大学院生の段階で既に期待されている、正に期待の星と言う言葉が似合う人物となっている。

 

「希ちゃんは今どうしてるの?」

「色々な国で支援活動しているわ。にことかも協力してくれているみたい」

 

  東條希は外国で支援団体に参加していた。

  彼女の昔の夢はサンタさんになりたい。それとは少し違うが、多くの人に希望をプレゼントできたら、という気持ちから参加したらしい。それにはにこ等も協力しているという。

 

「花陽ちゃんは絵本とか出してるんだよね」

「子供達から、そして親からの人気。どちらも凄いわ」

 

  小泉花陽は昔からの夢であった絵本作家を叶え、同時に得意としている折り紙の折り方についての本などを出版している。

  その可愛らしく、かつ分かりやすい本は、今では多くの人から愛されている。

 

「皆……夢を叶えて、そして色んな所で活躍してるんだね」

「えぇ、嬉しいけど同時に少し寂しい気持ちもあるわね」

 

  大人になるにつれ、それぞれ忙しくなって交流は少し減ってしまった。今の時代色んな電子媒体、コミュニケーションアプリがあるが、会って話さないと分からないことだってある。

  活躍する姿はもちろん嬉しいが、少し遠ざかってしまったようで寂しい。それはメンバー9人同じ気持ちだった。

 

「今度、皆で会えないか連絡し合いましょう」

「うん!すっごく良いと思う!あ、ならその時のためにいっぱい饅頭作れるようにしなくちゃ!」

 

  満面の笑顔で言う穂乃果。その太陽のような眩しさを持つ笑顔は昔から何一つ変わっていない。

  まだ話が決まったわけではないのにはしゃぐ彼女を見て、思わず絵里は笑った。

  その後他愛もない話をしていると、時間が経つのは早いもので気がつけば昼頃になっていた。

 

「いけない、もうこんな時間だったのね」

「何か用事でもあるの?」

「ごめんなさい、穂乃果。時間空いてたの午前中だけだったのよ。これから仕事があって」

「そっか。絵里ちゃん!ファイトだよ!穂乃果も頑張るから!」

「えぇ、頑張るわ!それじゃあ、また時間が空いた時連絡するわ。今日は楽しかったわ!」

 

  2人はお金を払った後、その場で別れた。

  できればもう少し話していたかったが、仕事がある以上仕方ない。

  穂乃果は家に戻ることにした。

 

 

 

「ただいまー!」

「あら、絵里ちゃんどうしたの?」

「これから仕事があるんだってー、だから帰ってきた。雪穂と亜里沙ちゃんは?」

「2人は出かけたわ。あ、もし時間あるならお店の手伝いして欲しいんだけど……」

「分かった!ちょっと待ってて!」

 

  そう言って穂乃果は2階にある自分の部屋へ向かった。

  その途中、ふとμ'sの活動をしていた高校時代を思い出していた。まるで昨日の事かのように思い出せるあの日々、最高に楽しかったあの日々。

 

(あの時に……戻れたらなぁ)

 

  そんな非現実的なことを思っていた。そう思いたい程に彼女にとってその日々は大切なものであったから。

  もちろん、そんな願いが叶うはずもない。そう思いながら部屋のドアを開ける。

 

「そういえば、もう春か」

 

  そう言えば、帰る最中に桜が咲いていた。

  まだこの時は廃校になるかもしれないって焦ってたっけ。

  高校時代に戻った気分で、そんな事を思い出す。そして何気なく窓を開け、外の景色を眺めた。

  心地よい風が吹く。

  少し身体を前に出して、その風を体感する。今ならどこへでも飛んでいけそう、そんな気分だった。

 

  そんな時、ふと見上げた空から1枚の白い羽根がゆっくりと落ちてきた。

  何だろう?穂乃果は不思議とその羽根に惹かれ、手で取ろうと身を乗り出す。

  あと少し、あと少しで取れる。そして……

 

(とれた!)

 

  見事その羽根をキャッチし、思わず笑みを浮かべる彼女。

  しかし「あっ」少し油断してしまった彼女は手を滑らせてしまい、上半身から下へ落ちる。

 

(嘘っ!?)

 

  ようやく自分が落ちたと認識したのは身体がほぼ全部外へ出てしまった時。どうしようもない、考えなくてもそれは明白であった。

 

(落ちる!)

 

  そう思った彼女はすぐに目をつぶった。

  何とも言えない浮遊感、恐怖。それが彼女に襲いかかった。

 

 

 

  そして……

 

 

 

 

 

 




(あれ?)

  痛みは感じなかった。ただ目を開けることはできず、今自分がどういう状況なのか、全く判断できない。

(柔らかい……?)

  恐怖のあまり縮こまっていたが、少し経っても何も起きないので辺りを手だけで探ってみると、布団のような柔らかさを感じた。
  脳内に幾度となく浮かび上がる『?』しかし答えるものは誰もいない。
  もしかして天国!?などと思いながら、穂乃果はゆっくり目を開けた。

「あれ?」

  思わず声にでる。それもそのはずで、彼女の眼の前には何度も見た光景。自分の部屋の光景が広がっていたのだ。
  再び浮かび上がる『?』けれど答えは分からない。
  自分は確かに外に出てしまい落ちていた。なのにどうして?頭を働かせるが、何も分からない。

  そんな時「穂乃果ー!起きなさーい!」唐突に下の階から聞こえる母の声。訳のわからないまま、反射的に店の手伝いをしなければと思い、下の階へと降りる。

「え、えっと、今すぐ店の準備手伝うね!」
「何、寝ぼけた事言ってるの!学校よ、学校!そろそろ行かないと海未ちゃん達待たせちゃうわよ」
「え?学校?何言ってるの?」
「穂乃果?まだ寝ぼけているの?早く顔洗って目を覚ましてきなさい」

  う、うん。そんな生返事をして、必死に頭を働かせながら洗面所に向かう。一体どうなっているのか?全く分からない。
  しかしその答えは意外にも早く見つかった。

「あれ?」

  洗面所に辿り着き、鏡を見た彼女は自分の違和感に気付く。
  何度も瞬きをする、何度も鏡を見る。しかしそこに映る彼女の姿は変わらない、高校生時代の彼女の姿がくっきりと映っていた。

「え?何で?」

  そう言えばよく見れば、自分が着ているのは高校時代に着ていた寝巻。鏡で確認すれば分かる、僅かに低くなった身長。
  どこからどう見ても姿形が高校時代のものになっていた。
  困惑。ただただ困惑した。自分の置かれている状況が何も分からなかった。そんな時ふと思い出した。

『あの時に……戻れたらなぁ』

  頬をつねる。そしてこれは夢ではないという事を確認した彼女は、一つの結論に至った。

「穂乃果…。タイムスリップしたの?」

  そんな非現実的な事……あり得るはずがない。
  そう思いはしたものの、その結論に至るしか彼女には選択がなかった。


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