しかし、真姫は首を縦にふることはなかった。
穂乃果は絵里との話し合いを通じ、改めて自分のやる事の壮大さを感じながらも、諦めずに取り組んでいくのであった。
今回で本編2話終了です。
「屋上でいつも練習してるんだって」
「うちの学校でスクールアイドルやる人がいるなんて、思わなかった」
小泉花陽はそんな会話を耳にした。
スクールアイドルの事について気になっていた彼女にとって、その情報は重要なものであり、興味深いものでもあった。
「かよちん、帰るにゃー」
そう言って現れたのは凛。
うん、と返事して一緒に帰ろうとした、その時だった。
(あれは……)
偶然後ろを通り過ぎたのは、どこかで見覚えのある姿。
そして脳裏によぎる、ライブ告知のポスター。
あの絵の中の1人、つまりスクールアイドルの1人、確か名前はほのかさん。
彼女は1年生教室のドアを開けた。
何の用だろう、と思い、凛とともに彼女の近くに行った。
「うわぁ、やっぱり誰もいないか」
「にゃ?」
「あ、り……ゴホン、ねぇ、あの子知らない?」
一瞬、凛と名前を言ってしまいそうになったが、何とかギリギリセーフ。すぐに真姫がいないか問いかける。
「あの子?」と、凛はキョトンとした顔をしたが、
「に、西木野さん、ですよね?歌の上手い」
花陽はあの子が誰なのか直ぐに理解した。
前回教室を訪れた時のことから、予想したのだろう。
「西木野さん、って言うんだ」
「は、はい。西木野、真姫さん」
一応、ここでは名前は知らなかった。という事にしておいた方が良いだろうと思い、知らなかったという前提で話をすすめた。
もちろん、彼女の居場所についても。
「用があったんだけど、この感じじゃ、帰っちゃったよね」
「音楽室じゃないですか?」
「音楽室?」
「あの子、あんまり皆と話さないんです。休み時間は図書室だし、放課後は音楽室だし」
「そうなんだ。2人ともありがとう!」
居場所を聞いた穂乃果は、駆け足で音楽室へと向かおうとする。その時、「あの!」花陽が彼女を呼び止める。
そして、振り返った穂乃果に
「が、頑張ってください!……アイドル!」
声援をもらった彼女は、にっこりと笑って「うん!頑張る!」と元気な声で言った後、音楽室へと改めて向かった。
美しい音色が聞こえてきた。
間違いなく、これは真姫の奏でている音。その音が大きくなるにつれ、音楽室に近づいていることを示していた。
そして音楽室に着いた時には、その演奏は終わっていた。ドア越しで拍手する。真姫は驚いた表情をしていた。
「何の用ですか?」
真姫は足を組んで彼女に問いかける。
「やっぱり、もう一回お願いしようと思って」
「しつこいですね」
「そうなんだよね、いつも海未ちゃんにそう怒られるんだ」
自分で言っておきながら、そう言えばそうだったなぁ、と懐かしく感じる穂乃果。
しかし、今は過去の思い出に浸っているわけにはいかない。
真姫を説得する、それが彼女の今の目的だ。
「私、ああいう曲、一切聞かないから。聞くのはクラシックとか、ジャズとか」
「へぇ、どうして?」
「軽いからよ。何か薄っぺらくて、ただ遊んでるみたいで」
その言葉に穂乃果は「そうだよね」と肯定した。
真姫は「え?」と疑問符を浮かべた。
アイドルの作曲をしてほしいと頼んだ人物が、否定的見方をした自分の意見に肯定すれば驚くのも当然である。
「私もそうだったんだ。お祭りみたいにパーっと盛り上がって歌っていればいいんじゃないかって。
でもね、結構大変なの」
そう言った後、穂乃果は唐突に彼女に近づき「ねぇ、腕立て伏せできる?」と言った。
一体何のことだと思いながらも、できないと思われたら嫌なので、直ぐにその場で腕立て伏せをやって見せた。
「1.2.3……これでいいんでしょ?」
「うん!すごい、すごい!」
「あ、当たり前でしょ。私はこれでも」「それじゃ、そのまま笑ってやってみて」
穂乃果に言われ笑顔を作り、腕立て伏せを再開する真姫。
そのぐらい……と思っていたが、思った以上にうまくいかず。明らかに難易度が上がった事を身を以て感じた。
「ね、アイドルって難しいでしょ?」
「な、何のことよ。全く」
そう言って立ち上がった彼女に、「はい」と言って穂乃果は歌詞が書かれた紙を渡した。
「一度読んでみてよ」
「だから、私は……」
「読むだけならいいでしょ?今度聞きにくるから、その時ダメだったら、私は諦める」
真姫は「答えが変わることはないと思いますけど」と言いながら、穂乃果から紙を受け取る。
そして、穂乃果が返した言葉は、
「だったらそれでもいい。そしたらまた歌を聴かせてよ」
思わぬ返答だった。
断られてもいいという所よりも、歌を聴かせて欲しい、その言葉の方が真姫にとって驚きが強かった。
「私、真姫ちゃんの歌声が大好きなんだ。あの歌声とピアノを聴いて感動したから、貴方に作曲をお願いしたいなって思ったんだ!」
昔、ピアノコンクールなどに出た経験があるから、自分のピアノ技術は何度も褒められた事はあった。
もちろん、歌声も何度も何度も多くの人が褒めてくれた。
しかし、今目の前にいる彼女からの言葉は何かが違った。
大好きだって、感動したって、在り来たりな言葉ではあるけれど、不思議とその言葉の嬉しさは今までと違った。
その時、確かに真姫の心に動きがあった。作曲してもいいかな、と。
「毎日朝と夕方に神田明神の階段で練習してるから、良かったら遊びに来てよ」
そう言って穂乃果は音楽室を出た。
真姫は静かにピアノの前の椅子に座り、じっと織り込まれた紙を見つめる。その時、「言い忘れてた!」と、穂乃果が再び音楽室に戻ってきた。
ビクッとしながらも、穂乃果の方を見る。
「あのね、アイドルの歌ってすごい元気が出るんだ!
それにね、何より皆でやったら、すっごい楽しいんだよ!」
「だ、だから何ですか」
「それだけ、伝えておきたかったの。
確かに、音楽の中では軽いものなのかもしれない。
でもあの曲達は誰かが一生懸命作って、誰かが一生懸命歌って踊る。そんな、皆が頑張って作る、素晴らしいものなんだって。
いつか、真姫ちゃんにも分かってくれたらなって思って」
穂乃果はそう言うと「またね!」と言って音楽室を去る。
真姫は再び静けさを取り戻した音楽室の中で、先程までの穂乃果とのやりとりを思い出す。
自分はアイドルの曲に良い印象は持たない。
いつも弾くのはクラシックなど。
もちろん、だからと言って作曲できなくはない。
気持ちは何とも言えないモヤモヤした状態だった。
しかし、作曲してもいいかなと思う気持ちがあることに間違いはなかった。
そんな気持ちのまま、紙を開いて歌詞を見る。
そこに書かれている文字をしっかり読み込み、同時にどんな曲にしようかと、本格的に作曲する気で取り組む。
気が付けば夢中になっており、大体の構成が浮かび上がっていた。
「……作曲、しようかな」
思った以上に楽しい。
心の中に浮かび上がるちゃんと作曲したいという気持ち。
しかし、問題が1つ。
何だか恥ずかしい。
作れる、その自信はあったが、人前に出すということは多くの人に聞かれるということ。
自分の音楽が聞かれる。それは嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちが同時に混ざり合う感覚。
その気持ちが作曲する気持ちを僅かに抑えていた。
真姫はとりあえず音楽室を去り、ある所へと向かった。
それは神田明神の階段、穂乃果達が練習する場所である。
「はぁはぁ、あぁ、疲れたー」
「まだ2周、残ってますよ!」「は、はーい……」
聞こえてくるのは穂乃果達の声、練習してる最中なのだろう。
その光景を物陰から確認した。
そんな彼女に忍び寄る1つの影。
真姫はそれに気付くことはなく、完全に油断していた。
「きゃー!」
「な、なに、今の?」「さぁ?」
穂乃果達の視線に映らないところで、真姫は何者かに後ろから胸を触られていた。直ぐに振りほどき、後ろを振り向く。
どこかで見たような顔、確か副会長の人だ、と真姫は思い出した。
「な、何すんのよ!」
「まだまだ発展途上ってところやな」
「何の話!?」
「恥ずかしいなら、こっそりっていう手もあると思うんや」
「だから何……」「分かるやろ?」
そう言って希はその場から去る。
唐突に変な事をされたが、その言葉の意味は分かる。
そのままの意味、恥ずかしいならこっそりと、だ。
それが何故言われたのかも分かる。もっとも何故彼女がその事を知っているのか、という疑問は残るが……
兎にも角にも真姫はある事を決断し、直ぐに家に帰った。
次の日の朝
「行ってきまーす!」
すっかり今の生活に慣れた穂乃果は、当たり前のように学校へと向かう。今日は学校で2人と今後の予定について話し合うため、朝の練習は無しにしているのだ。
そんな彼女を「お姉ちゃーん!」上の階から、雪歩が呼び止めた。
「どうしたのー?」
問いかける穂乃果に雪歩は1枚の封筒のような物を見せた。
「お姉ちゃんあてに!宛名がないんだけど、μ'sって書いてあるよ」
μ'sって書いてある……まさか。
穂乃果は急いで雪歩の元へ行き、それを受け取った後、学校へ向かいながらそれを確認する。
そして入っていたのはやはり、CD。
真姫が作ってくれた曲が入ったCD。
「真姫ちゃん……ありがとう!!」
穂乃果は大事にしまって、学校へと急いだ。
早く、2人に聞かせてあげたい。その一心で。
そして学校に着き、屋上へ向かう。
話し合いなども基本、教室ではなく屋上で行っていた。
「おはよう!2人とも!」
「おはよう、穂乃果ちゃん」「おはようございます、穂乃果」
「2人とも!これ見て、これ!」
そう言って見せる1枚のCD。
もちろん、この中身を2人は知らない。
「穂乃果、それは?」
「ちょっと待っててね」
穂乃果はそう言って、部活専用のPCに電源を入れる。
2人は穂乃果の元へ集まり、PCの画面に注目した。
「いくよ、2人とも」
PCにCDをセットし、再生ボタンを押す。
瞬間、まるで電流が走ったかのような感覚が3人に襲いかかった。
「こ、これが……」
「私達の……歌」
あまりの驚きと感動に唖然とする、海未、ことり、そして穂乃果。
そんな時、PCの画面上に映る。
【音ノ木坂学院 アイドルμ's(ミューズ)】
RANKーーー
『It is under search……』
そこに書かれていた文字は変わり、
【音ノ木坂学院 アイドルμ's(ミューズ)】
UP↑ RANK999
『Congratulations!ヾ( ´ ∀ ` )ノ"』
「票が入った!」
圏外から999位に。
もちろん、その順位ではまだまだである。
しかし、その順位に入ったことは3人に強い力を与えた。
「2人とも、頑張ろう……そして絶対成功させよう!」
「はい!」
「うん!」
強い意気込み。
そして曲が決定したことにより、後はこれを練習あるのみという段階までになった。
全てが決まった、全てが整った。後は練習あるのみ。
「私達の曲、私達3人のスタートの曲、『START:DASH!!』
よぉし、やるぞー!!」
本当の意味でのスタートをきった瞬間だった。
ついにSTART:DASH!!完成。
ラブライブの曲は良いものばかりですが、特にこの歌大好きです。
3話のSTART:DASH!!を見た後に、最終回のSTART:DASH!!を見ると涙腺壊滅です。
イントロのキター!って感じが凄いです。
そしてツンデレ真姫ちゃん可愛いですね。
さて、これにて本編2話終了、次回からついに3話突入。
つまりファーストライブへと場面は移っていきます。お楽しみに。
それではまた次回。