高坂穂乃果は再びスタートする   作:ひまわりヒナ

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絵里はなんとしても廃校を阻止しようとするが、その気持ちばかりで自分自身の心を押しつぶしている事には気づかない。
それは真姫、凛、そして花陽も彼女に似ていた。
廃校を阻止しようというところは違えど、それぞれの思いが彼女たちの本当の気持ちを抑えてしまっていたのであった。

前からアニメ4話まきりんぱな回な訳ですが、本当にこの回大好きです。
それではどうぞ。


14話 戸惑う心

 花陽は帰り道、真姫の事を考えていた。

 家の事情で音楽が終わってしまった、なんて事を聞いたのは初めてである。

 

「色々あるんだなぁ、皆」

 

 そう思いながら、ふと視線に映る【和菓子屋穂むら】の看板。

 中々行かないので、母にお土産でも買っていこうかなと思い、店へと入る。

 そして彼女の目に飛び込んできたのは、意外な人物だった。

 

「あ、いらっしゃいませーって、花陽ちゃん?」

 

 そこにいたのは高坂穂乃果だった。

 

「あ、えっと、こ、こんばんは」

「こんばんは。その顔は私がどうしてここにいるのかって驚いてる顔だね」

「は、はい」

「ここね、私の家なの」

「え、そうだったんですか?」

「うん。とりあえず、上がって行きなよ」

 

 花陽は言われるがまま穂乃果の後について行く。

 そしてまだ店番があるから先に行ってて、と上の階に行くよう指示された。

 そこまでは良かったのだが、

 

「えっと、どの部屋かな」

 

 上の階には計3つの扉。

 階段を上がってすぐの扉はなんとなく違う気がしたので、花陽の中では選択肢は2つ。

 とは言え開けてみるしかないので、まずは手前の方の引き戸を静かに開いた……

 

「ん、ん〜!」

 

 真っ白な顔面パック、さらには必死に胸を強調させている女の子が1人。

 いったい誰だろうという疑問よりも、早く閉めないといけないという危険信号のようなものが働き、すぐに閉めた。

 その行動は自分でも驚きの速さであった。

 

(ど、どうしよう)

 

 見てはいけないものを目撃してしまった。

 そんな感覚にいる花陽の耳に、聞き覚えのある音楽が聞こえてきた。

 恐る恐る、聞こえてきた隣の引き戸を静かに開く。

 

「らーら、らーららん!らららら〜……じゃーん!ありがと〜」

 

 謎の決めポーズ、そして1人手を振る先輩の姿。

 感想が浮かぶよりも先に花陽はその扉をそっと閉じた。

 

 そして思う、どうしよう!

 

 そんな彼女に考える時間を与える事はなかった。

 素早い足音と共に勢いよく開かれる引き戸。

 驚いて距離をとる花陽の後方の扉も勢いよく開かれ、ついに挟み込まれる花陽。

 後ろには顔面パックをつけた女の子、前には下を向き長い髪で顔が隠れた女の子、しかも黒いオーラが見える。

 こんな状況、恐怖を感じないわけがなかった。

 

「は、花陽ちゃん!部屋は……って、遅かった」

 

 そんな時、階段を駆け上がって穂乃果がやってきた。

 昔にこうなる事を体験していたのを思い出し、急いでやってきたのだ。だが、時すでに遅し、というやつだった。

 

 

 

「ご、ごめんなさい」

「ううん、いいの。こっちこそごめんね」

 

 雪穂を部屋に戻した後、穂乃果と海未と花陽は部屋に入って座り、事情を聞いた。もちろん、知った上ではある。

 

「いやぁ、それにしても海未ちゃんがポーズの練習してたなんて」

「ほ、穂乃果が店番でいなくなるからです!」

 

 取って付けたような理由を言う海未。

 そんな時、「お邪魔しまーす」とことりが部屋にやってきた。

 彼女の視界に映ったのは、花陽の姿。

 ここに集まるのは、μ's皆で動画を確認するというものだったので、μ'sの集まりに花陽がいる、この事から彼女が本当にμ'sに入ってくれるのではないかと考えられた。

 

「お、おじゃましてます」

「え!もしかして、本当にアイドルに?」

「ううん、たまたま店に来てくれたから、ご馳走しようかと思って。

 はい!穂むら名物穂むら饅頭。略して穂むまん!おいしいよー」

「あ、ありがとうございます」

 

 花陽は穂乃果から差し出された饅頭を受け取った。

 確かに美味しそうで、ボリュームもある。思わずお腹がなってしまいそうなほど魅力的だった。

 そんな一方で、ことりがパソコンを持ってきたよ、と言いながらパソコンを取り出した。

 邪魔にならないように、急いで花陽は置かれていたお菓子の皿や饅頭をどけた。

 

「あ、ごめん」

「いえ」

「それで、動画はありましたか?」

「まだ確かめてないけど、多分ここに……」

 

 そう言いながらことりは恐らく動画が載っているであろうところを開いた。

 するとズバリ的中。START:DASH!!の題名で載せられた動画が見つかった。

 

「あった!」「本当ですか!」

 

 穂乃果と海未も覗き込む。

 そこには確かに【START:DASH!!】とあり、実際に再生ボタンを押してみると何度も聞いたイントロが流れ始めた。

 

「うわー、いったい誰が撮ってくれたんだろう?

 ヒデコちゃん達は違うって言ってたし」

「そうですね……あ、それよりも凄い再生数ですよ!」

「本当だね〜これだけの人が見てくれたんだ!」

 

 ラブライブ優勝、それを手にした事のある穂乃果。

 今彼女の目に映る再生数は、その時に比べればまだまだである。

 けれど彼女はその再生数を純粋に受け止め、そして見てくれたという感動を素直に受け止める。

 それが高坂穂乃果という人間だった。

 

「ここのところ上手くいったよね!」

「何度も練習したところだから、できた時思わずガッツポーズしちゃいそうになっちゃった!」

 

 そう言いながら笑い合う。

 今の穂乃果は、タイムトラベルなど問題は忘れて、1stライブの達成感などをただただ喜んでいた。

 

 そんな時、ふと視界に入った花陽の姿。

 動画を見ようと視線をこちらに向けている様子を見て、

 

「あ、ごめん、花陽ちゃん。そこ見辛くない?」

 

 声をかけるが反応は返ってこない。

 見れば分かるが相当動画に集中しているようだ。そんな姿を見れば彼女がアイドルが好きなのだろうと予想はつく。

 3人はお互いを見合って、思っている事は一緒だと確認した上で彼女に改めて話しかけた。

 

「小泉さん」

「あ、は、はい!」

「スクールアイドル、本気でやってみない?」

 

 穂乃果の言葉に驚く花陽。

 やりたいです、と彼女は言い出せなかった。気持ちはあるのに、自然と口から出てきたのは、

 

「でも私、向いてませんから」

 

 卑屈な言葉だった。

 だがそれを聞いてはい、そうですか、と諦める3人ではない。

 何より、彼女の気持ちに共感できる部分も多かった。

 

「私だって人前に出るのは苦手です。向いてるとは思えません」

「私も歌忘れちゃったりするし、運動も苦手なんだ」

「私だっておっちょこちょいだよ!」

 

 アイドルが好き。だからこそアイドルをしている人達が努力をしている事を、花陽は見る事しかできないが知ってはいる。

 でも人前に出る事が苦手などと、スクールアイドルとは言えやっている人達本人から聞いたのは初めてであり、思う事もたくさんあった。

 しかし、彼女は「でも……」と言ってしまう。

 

「プロのアイドルなら私達はすぐ失格。

 でもスクールアイドルならやりたいって気持ちを持って、自分達の目標を持って、やってみる事はできる!」

「それがスクールアイドルだと思います」

「だからやりたいって思ったらやってみようよ!」

「もっとも、練習は厳しいですが……「海未ちゃん」あ、失礼」

 

 再び笑合う3人。

 その温かな雰囲気は花陽にとって、とても過ごしやすい場所であった。

 

「ゆっくり考えて、答えを聞かせて」

「私達は何時でも待ってるから」

 

 花陽は3人に「はい」と返事をした。

 たったその一言ではあったが、その一言は今までの彼女とはちょっと違う、一歩を踏み出せたような返事だった。

 

 

 

 花陽は帰り道を穂乃果と共に歩いていた。

 途中までだが送って行く事になったのだ。

 

「花陽ちゃん、海未ちゃんもことりちゃんも良い人だったでしょ」

「はい。凄くそう思いました。ただちょっと意外でした」

「人前に出るのが苦手、だとか?」

「はい。踊っている姿を見た時は全然そうとは思わなかったから……あ、別に先輩達を軽視してるわけではなくて、その、安心したというか」

「ふふ、分かってるよ。花陽ちゃんはそういう子じゃないって」

 

 穂乃果はそう言って笑うと、少し空を見上げた。そして気がつけば足は止まり、自然と口が開いていた。

 

「私ね。8人の子とよく遊んでたの」

「8人の?」

「うん。その1人にね凄い花陽ちゃんに似てる子がいたんだ。

 アイドルが好きな子で、アイドルの事となると目の色が変わっちゃうの!」

「ふふ、自分で言うのもなんですけど本当に私みたい」

「でしょでしょ!

 でね、その子、消極的な子ではあったんだけど、すっごい頑張り屋さんで諦めない子で本当は芯のしっかりとした心の強い子だったの」

 

 穂乃果はそう言うと花陽の方を向いて、

 

「きっと花陽ちゃんもその子と同じ頑張り屋さんで諦めない強い子だって、私は思ってる。

 だから、やりたい、って気持ちを捨てないで。挑戦する気持ちを大事にして。

 私達は花陽ちゃんと一緒に進んでいきたいんだ」

 

 その彼女の言葉は花陽の心に確かな動きを与えた。

 会って間も無く、それに会った事も数回しかない。けれど高坂穂乃果という人物は自分を知ってくれているようで、何より本気で自分と向き合ってくれて。

 彼女のおかげで、いや、μ'sのおかげで自分も自分自身と向き合えて。

 改めて考える。

 

 やりたい気持ちを捨てない……私のやりたい事。

 

「あ、ごめんね、立ち止まっちゃって。今の話は「先輩」ん?どうしたの?」

「私、まだ決められなくて。でも、でも!やりたい、やりたいって思う気持ちは……!」

「分かってるよ。大丈夫、さっきもことりちゃんが言ってたでしょ。私達は何時でも待ってる。

 ゆっくりでいいんだよ」

「ご、ごめんなさい」

「花陽ちゃんが謝る必要なんてないよ。それより、もうそこでお別れだったね」

 

 立ち止まったところから、別れ道はそこまで遠くはなかった。

 少し歩いてそこに辿り着き、穂乃果は改めて花陽の方を見る。

 

「花陽ちゃん。ファイトだよ!」

 

 そう言って穂乃果は太陽のような眩しい笑顔を花陽に見せた。

 その一言には、たくさんの思いが詰められていて、そしてそれは花陽の元にしっかりと届いていた。

 だから彼女は「はい!」と一言だけだが、満面の笑みで返した。

 

 

 

 彼女を見送った穂乃果は、何故彼女にあの話をしてしまったのかと不思議に思っていた。

 あの話とは、もちろん自分と同じ時間を過ごした花陽の話だった。

 あれだけでは到底ばれる事はないだろう、とは言え話を持ち出さないように気を配っていたため、言ってしまった事が気にかかっていた。

 

「……皆」

 

 海未もことりもいる。

 まだμ'sに参加してくれてはいないが、皆いる。

 だが不思議と感じる寂しさ。寂しくないはずなのにと思う気持ちと混ざり生む矛盾。

 

 そしてそんな彼女の脳裏に映る、μ's9人の姿。

 

 よく分からない感情のまま帰路を歩く穂乃果。

 1人歩く彼女の帰路に、静かな風が吹いていた。

 

 

 

 

 




花陽の気持ちはまだ戸惑っているまま。
そんな彼女を支える2年生μ's達。
いよいよ、決心をつける時が近づいてきました……

花陽ちゃんの気持ちを穂乃果ちゃんは知っています。
だからこそ、ここで止まって欲しくない。その気持ちが、帰り道の話を自然と持ち出させたのでしょう。
もしくは、他の理由もあるかもしれません。

それではまた次回。
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