彼女は驚くことに穂乃果と同じ、タイムスリップをしていた。
そして情報を共有する中で発覚する、さまざまな考え。
確証はないが、可能性として考えられる課題を前に悩む穂乃果。
一先ず、2人は一度離れて、それぞれで考えることにした。
今回は前回の振り返りを含めた回です。
穂乃果ちゃんとにこちゃん、2人の視点を分けどう考えているのか。その点に注目してください。
それではどうぞ。
「ただいま……」
「おかえりなさい、あら?元気ないわね」
「そ、そんな事ないよ」
家に帰ってきた穂乃果。
店番をしていた母に気づかれ、少し動揺しながらも何でもないと笑顔で言って、部屋へと駆け足で向かう。
そして部屋に入ると静かに扉を閉め、荷物を置いてベッドへと倒れこんだ。
「にこちゃん……」
矢澤にこが自分と同じ状況である。
その情報は穂乃果にとって衝撃的、かつこの上なく嬉しいものであった。
何故なら、こちらに来てからずっと悩み続けていた事を話せる人物が現れたからである。それに何よりも、にこが一緒にいてくれるなら、何があっても大丈夫と思えるぐらいの気持ちになれたからだ。
しかし、そんな彼女にさらに衝撃的な情報が入った。
にこがもう直ぐいなくなってしまうかもしれない、ということである。
もちろん、確証はない。
しかしそう考えられる理由は幾つかあるわけで、否定することもできない。むしろそうなる可能性の方が高い、そんな気がしている。
『にこちゃんに安心して戻ってもらえるように』
そうは思ったが、そう考える度に脳裏にちらつく。
再び1人になってしまう恐怖。
皆がいる。しかしその皆に話すことはできない。
皆確かに存在するのに、その孤独感を拭い去ることはできない。
「どうすればいいのかな……」
居て欲しい、その気持ちはあるから彼女を説得してみるのも良いのかもしれない。
そんな考えさえもよぎる。
本当に自分の出した答えは正しいのか、疑問もわいてくる。
そんな時ふと視界に入り込む、大きく【ほ】の字が書かれた練習着。
そして思う。
もし私じゃなくて、皆だったらどうするだろう、と。
凛ちゃんなら多分–––
花陽ちゃんならきっと–––
真姫ちゃんならおそらく–––
海未ちゃんならこうやって–––
ことりちゃんならこんな感じで–––
絵里ちゃんならこうして–––
希ちゃんならそうやって–––
私以外の7人が同じ立場なら、どうするかな?どんな決断をするんだろう?
……そう1人1人考えた時、答えは皆同じだった。
多分皆色々悩み方、考える過程は違うとは思う、けど最終的には私と同じ。
やっぱり安心して戻らせてあげたいって。
そう考えたら、少し笑うことができた。
そのためにどうすれば良いか、それはまだ浮かんでいない、けれど決心はついた。
もしかしたらそれは間違っているのかもしれない。でもこれで良かったんだって思える判断は、安心して戻らせる、多分これしかない。
「よし、ファイトだよ、私!」
両手でガッツポーズをして、そう自分に言い聞かせる穂乃果。
その時、もう1つの問題を思い出した。
「も、もう1人の私がいるかもしれない……」
自分に言い聞かせるという行動も色々とややこしい、この問題。
もう1人、存在するはずの『穂乃果』に彼女は焦点を当てた。
にこ自身も良く分かっていない、ということではあったが、彼女の言っている事は何となく理解できた。
というのも、彼女自身がそれに似た体験をしているからである。
そして仮にそれが正しかったとして、重要なのは『自分がどうするべきか』という点。
にこは過去の自分に経験してもらいたいから、その理由のために目的を終えるのをあのタイミングにした。
ならば私は?私はこのままで良いのだろうか?
自分が体験したことが、過去の自分も体験している事になる。だから生活に支障をきたしていない。とは考えられるが、本当にそうとは限らない。
不確実な点が多く、推論でしかない語れないこの状況では、
本当にそうなのか?それで正しいのか?
その疑問に解はない。
「でも、私は……」
自分は何のためにこの時代に来たのか、その意味をにこから問われたことを思い出した。
穂乃果がこの時代に来た理由、それはこの時間に戻って皆と再び【μ's】として過ごしたい、そう思ったから。
難しいことを考えず、ただ自分のやりたいと思ったことを貫き通す。
それは単純、だからこそ難しい。
「また、『答え』、見つからなくなっちゃったな」
ふとμ'sの皆でニューヨークに行った時、偶然出会った女性のシンガーの姿が脳裏にちらついた。
そう言えばあの時もどうすれば良いのか、必死に、とにかく必死に時間をかけてしっかり考えた。
そして見つけた『答え』は、正しかったと思う。いや、正しかったって断言できる。
「焦らず、しっかりと考えないと」
『答え』を早く出そうとしていた。
もちろん、早い方が良いのだろうけど、じっくりと考えなければいけない問題であることも確かである。
悩むことは沢山あり、色々なことで頭はいっぱいなのも確かだが、それでも穂乃果はその問題にしっかり向き合わなければいけない。
今の彼女にはまだ時間が必要であった。
「ただいまー、こころ!ここあ!虎太郎!」
「お帰りー!お姉ちゃん!」
「お帰りなさい!お姉様」
「おかえり〜」
にこが玄関を開け、ただいま、と言うと同時にここあが彼女の元へとお帰りの言葉と共に駆け寄った。
こころは少し後ろで、ニコニコといつも通りの明るい笑顔で言葉を伝え、虎太郎もしっかりとその眼差しを彼女に向けながら言葉を伝えた。
いつも通り、だがそのいつも通りがにこにとって嬉しいものであり、原動力ともなっていた。
何より、今はまだ小さい頃の3人と生活できて嬉しいのだ。
「今日はママもパパも帰りが遅いの。だからお姉ちゃんがとっても美味しい料理作ってあげる!」
「やったー!お姉ちゃんの料理大好き!」
そう言って抱きつくここあ。こころも虎太郎もとても嬉しそうな顔で喜んでいた。
そんな顔を見れば不思議と笑顔になるのも無理はない。
「これから準備するから、遊んで待っててね」
にこの言葉に3人は元気よく、はーい!、と返事をして、遊び道具などがある部屋へと走って行った。
そんな3人の後ろ姿を見た後、時間を確認する。
携帯に表示されていた時刻は17:10。今日作るのは人気の高いチャーハン、家着に着替えたりなどを含めて1時間程かかると考えても時間はちょうどよいだろう。
とりあえずまずは自分の部屋に向かった。
「ふぅ……」
荷物を下ろすと同時に緊張が解けたような感覚に襲われ、少し大きく息をついた。
その理由は不確定的な証拠のため内心ドキドキしながら、穂乃果に出会ったからで、家という安心できる場所についたことで本当の意味で緊張から解放されることができたのだ。
「良かった、本当に」
タイムスリップした仲間がいる、その情報に安心感を得たのは穂乃果だけではない。にこもその1人であった。
まだμ'sに参加していなかったからこそ、日常生活の合間をぬってメンバーの観察、そして現状に対して考える時間があった。
そのため穂乃果と出会った時、話をリードするだけの情報、考えをスラスラと出す事ができたが、彼女も例外ではなく現状に不安、悩みを抱えた1人なのである。
だからこそ同じ立場のメンバー、高坂穂乃果がいてくれた、その事実はとても嬉しいことであった。
にこは家着に着替え始めた。その途中も休む事なく頭を回す。
穂乃果と情報を共有した事で、メリットもあればデメリットもあった。
メリットとしては、文字通り情報を共有できた事。そしてその為に精神的に楽になったところ。当たり前の事だがどちらもその影響はかなり大きい。
そしてデメリットは、
(穂乃果に余計背負わせてしまったかもね……)
情報を共有したからこそ、
にこはそのような情報は無かったが、あの時の反応を見る限り穂乃果には多くあっただろう。
そしておそらくさらに課題を背負わせてしまった、と思っている。
もちろん情報共有は大事であり、お互い利益になる事は多かった。しかしただでさえ、異常な状況であるというのにさらに負担をかけさせてしまった。そう思うと、心が締め付けられるようであった。
「……ご飯作りましょう」
にこは少し力強くなっていた拳を緩め、洗面所で手洗いうがいを終えた後キッチンへと向かった。
「えっと、ご飯は冷凍したものがあって、卵は……あ、賞味期限危なかったわね」
ブツブツと呟きながら料理の支度を進め、材料を切り始める
しかしその頭の中は穂乃果のことばかり。
「痛っ!」
ネギを切っていると、集中力が散漫していたのか包丁で少し指を切ってしまった。
幸い浅い傷ではあり、軽く水で洗い流して、少しキッチンを離れて絆創膏で傷を塞ぐ。
「穂乃果……」
先程から彼女の事が頭から離れない。彼女と別れる寸前の悩んだ顔が脳裏にちらつく。
あの時会わずにいたら彼女が悩みを増やす事は無かったのでは?
そもそも情報共有とは言ったが、それは自分が情報を、悩みを話せる人が欲しかっただけで、穂乃果も利益になるだろうと勝手に思ってただけなのでは?
穂乃果に何も言わず、μ'sに入るまで演技を通し、密かに自分の目的を終える。その手段でも良かったのでは?
そうすれば穂乃果は少なくとも新しい悩みを抱えることなく、自分の目的を達成するためを考えられたかもしれない。
穂乃果を1人にさせない、穂乃果を支えてあげるための策を考えないといけないのに、逆に私は……
思わず頭を横に振る。
投げ出してはいけない問題ではあるが、今は今だけは、妹と弟たちを優先してあげたい。
だからキッチンに戻って再び調理を再開する。
穂乃果のことが頭から離れる事はないが、今度は先程のような失敗がないよう、十分に注意して淡々と進めていく。
そして想定した通り18:00を過ぎて少し経ったぐらいで、チャーハンができた。味も見た目もいつも通り、何ら変わらない。
「3人とも、ご飯できたよ」
「「「はーい!」」」
再び駆け足する音が聞こえる。
待ちわびたと言わんばかりの、嬉しそうな足音。
穂乃果の事も大事だが、こころ、ここあ、虎太郎の事も大事である。せめて3人の前では、笑顔のいつもの
「にこにーの特製チャーハン!召し上がれ!」
「「「いただきまーす!」」」
笑い声が包み込む空間。
美味しい、この料理大好き、作ってくれてありがとう、3人からの暖かい言葉はいつもにこに元気と笑顔を与えてくれる。
だからこそ3人の前ではスーパーアイドル
一緒に食べる食事の時も、一緒に入るお風呂の時も、一緒に遊ぶ時も。どんなときもずっと、3人の目に映るのは3人の理想とする
「お姉様、お休みなさい」
「お姉ちゃん、お休み!」
「おやすみ〜」
「うん、お休み。3人とも」
3人の目が優しい瞳に見守られながら閉じた時、その優しい瞳は静かに悲しい瞳へと移り変わった。
穂乃果は課題を素直に受け止め、今後どうしていくかじっくり考える方針になった一方。
にこは穂乃果に負担をかけてしまったのではないかと悩み、そして彼女だからこその悩みも大きく現れました。
前に進もうとする穂乃果。自分の行動に疑問を覚え、気持ちが後ろへと傾くにこ。
2人のすれ違いの行方は……
前回、解説役のように会話の主体となっていたにこちゃんですが、彼女も彼女なりの悩みをもっている。その点を強調したいと思い、この回が完成しました。
少し雲行きの怪しい状況、2人はどうしていくのか。
@LLH1hina twitterにて活動報告、適当に呟いてます。
何か質問などがあればそちらから、又、感想や評価をよろしければお願いします。
それではまた次回。