高坂穂乃果は再びスタートする   作:ひまわりヒナ

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にこと穂乃果。2人の思いは交錯する。
情報を共有した事で生じた問題。それが2人に生み出した影響はすれ違いを生んだ。
穂乃果は前向きになる一方で、にこは僅かに後ろ向きになってしまった。
そんな再会から次の日……


更新遅れて申し訳ありません。なんとか1ヶ月経つ前に投稿できました。
しばらくは未来のにこちゃん編が続いていきます。
今回は少し、展開が早いかもしれません。時間経ってしまってお忘れの方も多いと思いますが、前の話を戻ってもらえるとより分かりやすいと自分は感じています。

それでは、どうぞ。


19話 影

 にこと出会ってから、次の日の朝。

 穂乃果はいつも通りの時間に起き、上体を起こして軽く伸びをする。

 一度寝てスッキリとしている頭に、大きく息を吸って酸素をたくさん送り込み、脳の働きを活発にさせ、そして考える。

 

(私が今できること、すべきこと)

 

 もう1人の自分の可能性など、問題は数々存在するが、それをまとめて解決することはできないし、そもそも解決することすらできないのかもしれない。

 何にせよ、時間をかけてしっかり考える。そう決めた穂乃果が今できること、すべきことは……

 

 当時の高坂穂乃果らしくあること、そしてにこについて考えること。である。

 

 前者については、約1ヶ月間過ごしてきた通りにすれば良い。もちろん、油断はせずに。

 急がなければいけないのは後者。彼女と出会うのは後1週間もない、つまり別れてしまうのも後1週間程。時間は限られている。

 まして自分にできること……それは存在するのだろうか?

 

「クヨクヨしてちゃダメだ。笑顔で、元気良く!」

 

 考えていてもすぐに浮かぶわけではない。

 もしあるとするなら、自分は1人でもやっていける、そう示してにこを安心させる。その為にいつも通りの自分でいること、彼女はそう思っていた。

 

 

 

 準備を終えた穂乃果はいつもの練習場所、神田明神へと向かった。

 長い階段を登った先には既に海未とことりの姿があった。そして少し遅れて1年生3人もやって来た。笑顔で挨拶を交わす。

 

 運動前の準備運動の最中、海未からやはり昨日の件について質問された。

 電話したとは言え、唐突に一緒に帰れないという事になったので、何があったのか気になるのも無理はない。

 

 あー、何か先生に呼ばれてて、それを伝えに来てくれたみたいで〜

 

 少し無理があるとは思ったが、考え事ばかりをしていて海未からその質問をされる可能性をすっかり忘れていた為、アドリブで言い訳を作る。

 幸い海未達は不思議そうにしながらも、それで納得してくれたようであった。

 そんな時である。

 

「今日も朝練、頑張ってるやん」

 

 そう言いながらニコニコとした表情で現れたのは、巫女服姿の東條希であった。

 凛達が入ってから1週間、その間に神田明神で練習したことは何度かあり、彼女達もここで希がお手伝いをしている事は知っていた。

 いつもフレンドリーに話しかけてくれる希だが、相手は3年生。その意識がまだ根強い穂乃果以外の5人は、すぐに姿勢を正して挨拶をする。

 

「そんな堅くならなくてもええよ」

 

 笑いながらそう言う希。

 毎回言ってはいるのだが、中々そう言うわけにもいかない。少なくとも今の段階では。

 

「どう?順調?」

「はい、練習の方は上手くいっています。皆、しっかりとついてきてくれていて」

 

 海未はそう言いながら1年生の方へ向けて笑顔を見せると、少し照れたように笑う凛と花陽。真姫も顔をそらしてはいるが、嬉しそうにはしている。照れ隠しといったところなのだろう。

 

「新曲とか、何か考えてるん?」

「まだこれといったものは。もっとも時間が沢山あるわけではないので、そろそろ考えなくては、と話は進んでいます」

「そうやね。START:DASH!!だけ、とはいかんから……」

 

 などと話している最中。

 1人、5人から少し離れた位置にいた穂乃果は希に対して考えている事があった。

 それは昨日話した事、希もタイムスリップした1人ではないか、という可能性。

 証拠があるわけではない、というより、タイムスリップしてない証拠がないため、この疑問が湧いているのである。

 まだ強い繋がりと言えるものは少なく、話した時間などは少ない。μ'sの中で1番、情報がつかめていない存在……

 

「穂乃果ちゃん、ボーッとしてどうしたん?」

「え?あ、な、なんでもないです!」

 

 考え込み過ぎたらしい。笑顔でなんでもないと伝えることで、追求されることはなかった。

 怪しまれないようにしなければならないのに、早速しくじってしまうところであった。

 少し動悸が速くなったが、ふぅと息を吐くと同時に元の速さに収まっていく。

 

「それじゃ、そろそろ失礼するねー」

 

 それとほぼ同時、その場から離れようとする。

 そして穂乃果の真横を通った、その時だった。

 

「もし何か悩んでる事があったら、相談にのるで」

 

 少し離れた位置にいたので、おそらく5人には聞こえなかったであろうくらいの小さな声。

 その小さな声で伝えられた言葉は、一度落ち着きを取り戻した穂乃果の動悸を再び速める。

 

 彼女はどんな意図で私に言葉を?

 

 ゆっくりと振り返る。

 脳内は希に対しての疑問に埋め尽くされ、穂乃果の視界が捉えているのは彼女の後ろ姿のみ。周りの背景がすべて影のようにブラックアウトする。

 

(どうして……)

 

 その場に立ち尽くし考える。

 何故今のタイミングだったのか、いや、それよりも気にするべきなのはその意味。

 

 彼女の言う【悩み事】は何を意味していたのだろうか?

 

「穂乃果ちゃん、どうかしたの?」

 

 ことりに話しかけられ、ハッと我に帰る穂乃果。

 何でもないよと言って、追及されないように朝練を始める。

 

 悩み事、その言葉が意味するものは、アイドルの事、もしくは絵里の事なのだろうか、いや、まさかタイムスリップの……?

 色々と考えられることはある。しかし希がタイムスリップした可能性が否定できないという現状にあるため、穂乃果の頭の中の大半はその事で埋め尽くされていた。

 

 

 

 その一方で、希は穂乃果達から離れた場所で箒で辺りを掃除し始めようとしていた時、ふと顔を上げ、目に太陽の光が入らないように手で影を作りながら、青い空を見つめた。

 

「さて、これからどうなるんやろ」

 

 そう言う希の脳裏には、穂乃果とにこの姿があった。

 

 

 

 穂乃果は希の事で頭がいっぱいになりながらも、朝練を終えて学校へと着いた。

 終始考えていた穂乃果だが、結局これといった良い考えは浮かばない。

 最初に思った通り、あれはアイドル活動の事、絵里の事、それともタイムスリップの事のどれかを意味しているのだろうか。もしくは、もっと他の……

 

「穂乃果、本当に大丈夫ですか?」

 

 気が付けば目の前には心配した表情の海未とことりがいた。

 穂乃果が考え込んだ表情を見せるのは比較的珍しく、いつも笑顔である。それを海未とことりは分かっている、だからそんな表情を見せる。そして本人もその方が自分の自然体だと分かっているから、笑顔でいようと思った。

 しかし今回の件を考えずにはいられない。にこに多くの時間が残されていない今、急ぐ気持ちは強い。

 

「大丈夫、ちょっと考え事があるだけだよ」

「考え事?」

「うん、もっと美味しいお饅頭作れないかな、って」

 

 饅頭をこねる動作をしながら言う穂乃果の言葉に、2人は特に疑問を感じなかった。

 嘘を言う事に抵抗が無い訳では無いが、それ以前に本当の事を言えないのだから仕方がない。

 

 そして1時間目の授業が始まる1分前となった時であった。

 授業中にならないようにと、携帯の電源を消そうとしたとほぼ同時、

 

『放課後、少しでも良いから会える?』

 

 にこからそう送られてきた。

 何の用だろうか、と気になったが自分も彼女と話したい事がある。

 

『大丈夫!』

 

 その為、その一言を返事として送った。

 今日は練習があるが、少しの間離れても問題はないであろう。にこもその事を考慮して、少しでも良いから、とわざわざ書いたのだと思われる。

 

 穂乃果はそっと携帯の電源を落とした。

 

 

 

 

 

 

 いよいよ放課後を迎えた。

 昼休みの間に集合場所はにこから連絡が来ていた。その場所は音ノ木坂にある自然の数々、その中でも特に人気の無い場所であった。

 集まる理由としては今日1日何か変化がなかったか、その情報を共有するというものだった。

 

「えっと、あ、いたいた、にこちゃ「声量、もっと小さく」あ、ごめんごめん」

 

 海未達に少し用事が入ったという事を伝えていたため、少し遅れてやってきた穂乃果。いつも通りの声量で話そうとして、怒られてしまった。にこに会える事は嬉しいので、少し警戒心の薄れなどが生じてしまっているのだろう。

 

「さて、あまり時間をかけないように、早速話を進めていくわよ。何かそっちは変化あった?」

 

 変化、そう問われれば真っ先に浮かぶのは今朝の出来事だ。

 

「希ちゃんに、何か悩み事があるなら相談にのるって言われて」

「それは、穂乃果だけに?」

「うん、私だけに」

 

 小さな声で言われたあの言葉、自分だけに向けて言われた、それに間違いはないだろう。

 にこはその話を聞いて少し考える。

 一方穂乃果は思いの外にこがあまり驚きを見せなかった事を不思議がっていた。この話をすれば、何かしら大きなリアクションがあるかと思っていたからである。

 

 そして大きなリアクションが無かったのには理由があった。

 

「実は私も今日、希に何度か会ったんだけど、今日はやけにあんた達の事を言ってきたのよね……」

 

 呟くように言われたその情報に、穂乃果は当然驚いた。

 

 つまり同じ日に希が接触を、自分とにこ、に行ってきたのである。

 

 単なる接触ならまだ、しかし今回は言葉で表現するなら【過度な】接触である。

 それを偶然の言葉で片付けて良いものではないであろう。

 

「もしかして希ちゃんもタイムスリップを……」

 

 穂乃果は小さな声でそう言った。

 タイムスリップの可能性がある人物として浮上していた、希。その彼女が、にこと穂乃果が接触して日が浅い内にアクションを起こした。

 その事から考えれば、穂乃果の推測が立つのに不自然さはない。

 

 だが何だろう?言葉にはできないが、不思議とその推測は間違っているような、そんな気がにこにはあった。

 

「そう、決めつけるのはまだ早いけど、可能性はあるわね」

 

 だからこそ曖昧な返答をした。

 この何となく引っかかるモヤモヤ、それを無視する事はできない。

 今は観察するべき時である……が、そんなに時間がない、それも事実。故に希の事を考え、その表情は険しいものへとなっていく。

 

 希の問題を考える事に時間を費やそうとするのには、もちろん理由が存在する。

 気になる、という単純な理由も存在はするが、その理由の大半を占めているのは、穂乃果の為、を考えての事であった。

 

 穂乃果に負担をかけてしまった、その事を気にかけているにこは彼女の力になりたいと強く感じている。ならば何ができるかと考えた時、相談できる相手となる、これが1番だろうと思った。

 しかし自分には時間がない。

 ならばと考えた時、1つの案として自分の代わりがいないかどうか、というのがあった。

 つまり現状可能性の高い、東條希、に自分の代わりとして存在してもらいたいと考えているのだ。

 

(でもどうやって聞き出せば良いの?第一、目的も何も分からないというのに)

 

 この件には問題がいくつか存在する。

 

 1つ、接触できても聞き出し方がない。

 証拠がない今、『希ってタイムスリップしてきたの?』などと聞いたとして、違った場合にただ変と思われるか、こちらが怪しまれる事態に発展する可能性がある。

 

 2つ、彼女がタイムスリップしていたとして、何が目的か。

 例えば自分のように1週間後には終えてしまう目的だとしたら……プラスどころかマイナスになる。

 何故なら、新しい相談相手ができた!だがすぐ消えてしまう、こうなってしまったら何も意味はないからであり、寧ろ無意味な希望を一瞬もたらすだけになってしまう。

 

 他にもあるが挙げるとするならこの2つ。

 簡単に言えば彼女との接触はデメリットになる可能性がある、ということ。だからと言って無視はできない。

 時間がない、それなのに良い案は浮かばない……

まるでジワジワと陽の光が影に隠れていくかのように、深みへ深みへとハマっていく。

そんな時、

 

「––こちゃん。にこちゃん!」

 

 ハッと我に返る。

 気が付けばすぐ目の前に穂乃果がいた。

 その距離はかなり近く、そこに接近されるまで気づかなかった辺り、自分はかなり頭を悩ませてしまったらしい、そう自覚すると同時に心配をかけてしまったと後ろめたい気持ちになった。

 そんな彼女に穂乃果がかけた声は、

 

「にこちゃん、アイドルはいつも笑顔でいなきゃ!にっこにっこにーって!」

 

 彼女はいつもの手の形を作り、そう言って微笑む。

 言葉が見つからなかったからか、励ますのが不器用なだけか、いや、これこそが穂乃果らしい励まし方、この笑顔に何度救われたんだろう……最初は彼女の行動に少し驚いたものの、そんな事を自然に笑みを浮かべながら考える。

 

 どんな状況であったも自然とお互いを支えられる、それがμ'sであり、今目の前にいるのはそんなμ'sを支え続けたリーダー、高坂穂乃果。

 

「ちょーっと、手の形が甘いんじゃないの?」

「え?そ、そうかなぁ?」

「仕方ないわねー、よく見てなさい。にっこにっこにー!」

「おぉ!……えっと、今一違いが分からないや」

「はー、仕方ないわねー、ならもう一回!「えぇ!?まだやるのー!?」やるわよ、ちゃんとできるまで!」

 

 そんな事を言い合いながらも、思わず笑みがこぼれる。

 さっきまで色々悩んでいたのに、何故こんなに笑顔になっているのだろう。

 いつも彼女は太陽のように輝いていて、影をはらしてくれる。まるで魔法をかけたかのように、一瞬にしてがらりと。

 そんなことができるのは、多分穂乃果だけ。

 

 今いるはずの自分にも、彼女の姿をしっかりと見せてあげたい、昔自分がそうだったように……その思いが湧き出てくる。

 

「……ま、今日はやめにしておきましょ。皆、待たせてるんでしょ?」

「あ、うん。今度改めて教えて!」

「えぇ、もちろん。とりあえず、今日は希の事をよく見ておくってことで、解散」

「うん、分かった!それじゃまたね」

 

 穂乃果は笑顔でその場を立ち去る。

 そんな彼女が視界から消える直前、

 

「穂乃果!相談があったらいつでもしてきなさいよ!」

 

 にこの言葉に彼女は手を挙げて返事をした。

 そんな彼女の後ろ姿を見送ったにこはある悩みに1つの解を出していた。

 

 やっぱりもう1人の私に1年を託そう。

 

 自分であと1週間でいなくなると言っておきながら、本当は悩んでいた。この時が忘れられなかったから、この時が大好きだったから。

 それにこの時の妹達に会えた事も、彼女の中でブレーキをかけてしまう理由の1つだった。

 

 どれも大事だ、けれどもそれ以上にやはり、この時の私に高坂穂乃果という人物を本当の意味で生で見て、生で彼女という存在を知ってほしいと思った。

 自分が出会えた最高の仲間……

 

「まだ問題は山積みね」

 

 穂乃果の事、希の事、そして自分の事もまだ全ての解決には至っていない。

 けれど前へと進む為の足は、何だか軽くなったように感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして1人の少女がそんな2人の一部始終を影から見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつも通りの朝練。そのはずが、穂乃果に対し希が過度な接触を行ってきた。
放課後集まったにこも積極性に疑問を覚えたよう、希へ強い疑問を抱く。
そして様々な疑問に悩みに悩むにこ。そんな彼女を救うのは、やはり穂乃果だった。
そんな彼女を見たにこは1つの決心をする。

そんな再び前を歩き出した2人を、影ながら見つめる1人の少女がいた。


相変わらず生まれてくる疑問。
今回は特に希ちゃんに注目。そしてにこちゃんを中心に、問題を取り上げていきました。
更新ペースがかなり遅れていますが、生存はしておりますのでどうかご安心を。

@LLH1hina twitterにて活動報告、適当に呟いてます。
何か質問などがあればそちらから、又、感想や評価をよろしければお願いします。

それではまた次回。
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