高坂穂乃果は再びスタートする   作:ひまわりヒナ

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にこと穂乃果が出会い1日が経った。
お互いに悩みを抱える中、東條希の動きに疑問の眼差しをむける2人。
悩みが増える一方で、2人の後に現れる影。
その存在に気づくことはなかった。


今回はこの作品での穂乃果ちゃんとは何か、というのを知っていただけるかもしれません。
また、後書きにて今後の動きを報告いたしますので、よろしければ見ていただけると嬉しいです。

それでは、どうぞ。


20話 明日へ向けて

 にこと穂乃果達6人のμ'sが接触する日は刻々と近づいていた。

 

 同じ状況ではないかと思われている東條希、彼女に特に目立った動きはない。

 また他に変わった事があったわけでもなく、2人の連絡事項は日々の動きをお互いに伝える程度であった。

 

「1年生の皆は……」「こっちが見た感じ生徒会の2人は……」

 

 そう、お互いにメンバーの動きをなどを伝えるだけ。

 タイムトラベルに関して、多くを話しはしなかった。いや、正確には話せなかった。

 

 お互いに心配で、不安で、怖かったのだ。

 

 相手に余計に不安を与えてしまうのではないか、と。

 そして自分自身もどうなるか分からなくて不安だったから。

 どんなに前向きに考えようともやはり不安なのだ、不安で不安で仕方ないのだ。時間が過ぎていく程に。

 

 

 

 

 穂乃果は現μ'sメンバーと共に基礎練習に励み毎日を過ごしていた。

 凛、花陽、真姫、彼女達が入ってから日は浅い為、運動能力の差がまだ顕著に表れている。

 まずはそれをどうにかしなければ、新曲へ向けてのダンス練習も上手くはいかないだろう、その考えの下のダンスの基本的な動きも含めた基礎練習である。

 穂乃果にとってはにこがそろそろ加わるという事を知っているので、新曲作りを後に回してもらえるのは都合が良い事でもあった。

 

 そんなまだまだこれから、という時期。穂乃果はにこに安心して戻ってもらうにはどうすれば良いか、それを念頭に行動していた。

 その為にはどうしよう?

 そう考えて思ったことは1つ『μ'sのさらなる強化』である。

 

 もちろん今後の為に必要な事ということもあるが、彼女の中ではそれに加え成長した姿を見せることで、にこに安心感を持たせたい為でもある。

 もっとも残された時間は少なく目に見える成長……とまでは難しいのは分かっている。しかし脳内で理解していても、彼女の為にどうかできないか、そのことを強く思う彼女の意志は動き続ける。

 そしてそれは穂乃果の動きに、意識に、影響を及ぼしていた。

 

「花陽ちゃん!ファイトだよっ!」

「は、はい〜!」

 

 いつも通りを過ごしていた。

 

「真姫ちゃん、そこのステップ!」

「は、はい」

 

 いつもの自分自身でいていた。

 

「凛ちゃん、そこもっとビシッと!」

「はいにゃ!」

 

 いつも通り元気よく、明るく、声を出して、笑顔で、高坂穂乃果らしく。

 

 

 ––––そう、いつも通り。彼女は彼女を演じていた。

 

 

「穂乃果」

 

 彼女はふと振り返った。

 少し涼しい風が入る教室の、にこと接触する前日のことだった。

 そこにいたのは少し寂しそうな笑顔を見せる海未とことり。疑問だった、何故彼女達がそんな表情なのか。

 

「穂乃果ちゃん、無理して……ない?」

 

 ことりから発せられたその一言は穂乃果にとって少し衝撃的な言葉であった。

 何故ならそれは心配されていた事実を証明する言葉であったからだ。

 私はμ'sのリーダーとして、あの時の高坂穂乃果として––––

 

「穂乃果、1人ではないんですよ」

 

 その一言は彼女に多くのものを気付かせた。

 最近の自分はにこの事ばかりで頭がいっぱいになりμ'sの皆を見ているようで見ていなかったのだ。

 だってμ'sは『1人で作るものではないから』

 皆が協力して、皆で頑張って活動していくそれがμ'sなのに、自分ばかりが頑張ろうとして、自分だけ無意識に力が入ってしまっていて、本当の高坂穂乃果、いや自分ではなくなっていて、でもどうにかしなくちゃって……

 

 あぁ、私、怖いんだ、心配なんだ未来が。

 

「焦る気持ちも分かりますよ、穂乃果。私も、上手くいくか分からなくて」

「だからこそ、一緒に頑張る、そうでしょ?」

 

 そう言って笑ってくれる2人。

 

「いつでも何でも相談してきていいんですよ」

「私達は何でも受け止めるから」

 

 そう言ってくれる2人。

 

 いつも一緒に、どんな時も一緒にいてくれる2人。そうやって声をかけてくれる2人。

 

 でも、ごめんね、私には言えない事がある。

 

 ––––それでもね、2人はいつも私を安心させてくれるんだ。

 

「うん、私ちょっと急ぎすぎてたのかもしれない」

 

 だから少しだけこぼさせて、

 

「私、μ'sの皆と一緒に笑って一緒に頑張ったねって言いたい。でもね、上手くいくか心配なんだ」

 

 私が高坂穂乃果でいるには、

 

「きっと上手くいく、そう思っているはずなのになんでだろうね」

 

 皆の力が必要なんです。

 

 

 

「私もです、私もこれからが不安でしょうがいないです」

「私もだよ、だってスクールアイドルなんてもちろんやった事なんてなかったし、ましてや成功できるかどうか、無謀な賭けだろうなって何度も思った事あるよ」

 

 あぁ、そっか。2人だって不安なんだ。

 

 

「でも、私は穂乃果とだったらたとえ無謀な賭けだったとしても、上手くいく」

「穂乃果ちゃんとならどんな壁だって乗り越えられる」

 

「「そう、信じてる」」

 

 でも私達だったらできる、そう思ってる。

 

「うん、うん!そうだね、私達ならできる!」

 

 –––––私はそうだと知っているから

 

 

 

 

 穂乃果はその日もμ'sと共に精一杯練習をした。

 不思議と体が軽くなったような気持ちで満足に動き、そして皆でお互いがお互いに指摘し合いお互いを高める事が出来たと感じられた。

 そんな彼女は今日1日が終わろうとした時、携帯の電源をつけた。

 電話の着信履歴から1人の人物を選び、そして電話をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 矢澤にこもいつも通りの毎日を過ごしていた。

 少し穂乃果達の練習風景を隠れて確認した後、いつもの時間に登校し、授業に出て、ノートをとって、休み時間は希や絵里のことを気にしたりしながら過ごす。そして家に戻って妹達と共に過ごすのだ。

 彼女も穂乃果と同じように、矢澤にこを演じ続けていた。

 しかし脳内で考えていることは当時のにことは全く違うもの。

 

 μ's、そして穂乃果。

 

 穂乃果に重荷を背を背負わせないように、穂乃果に今の日々を楽しんでもらえるように、そして穂乃果と共にμ'sが上手くやっていけるように、その事で頭がいっぱいだった。

 しかし彼女にはよく考える時間は全くと言っていいほどなかった。

 時間が進みを止めない、動く時計の針が彼女を急かしていく。

 

 このままじゃ……

 

「お姉様、どうしたんですか?」

 

 それは食事が終わった夜の事、リビングにある椅子に座っていた時のこと。後短針が1週もしないうちにμ'sと出会わなければいけない日のことであった。

 声をかけてきてくれたのは、こころであった。

 

 ––––え?

 

「お姉ちゃん、学校大変なのー?」

 

 ––––ここあまで?

 

「元気出してー」

 

 ––––虎太郎までどうして

 

「私達はいつでもお姉様の味方です!」

「そうだよ!お姉ちゃん!なんでも言って!」

「みかたー」

 

 3人は心配したように、でも、それでも精一杯の笑顔で声をかけてくれたのだ。

 そして彼女達の言葉。

 そんな時彼女の目の前に昔3人と遊んでいた自分の姿が映った。笑顔の自分が。

 

 ––––あぁ、そっか、いつも私はこんな表情で過ごしていたんだ。

 

 アイドルだったら笑顔で、そう言われたばかりじゃない。

 いつも通りの私、それとは程遠いものだった。

 

「大丈夫!なんともないわよ!」

 

 そう言って3人の頭を笑顔で撫でた。

 それは間違いなく、宇宙No.1アイドル矢澤にこの笑顔に違いなかった。

 

 

 

 

 3人が寝静り落ち着いた頃、にこは静かに携帯の画面をつけた。

 開いた理由はなんとなく、しかし何故か開く必要があると直感したのだ。

 そしてその直感は的中していた。

 

「穂乃果……」

 

 携帯の着信音がなった。

 画面に映っていたのは高坂穂乃果の名前。

 彼女はすぐに通話を始めた

 

『もしもし、にこちゃん。今大丈夫?』

「大丈夫よ、用は何?」

 

 数秒沈黙が訪れた。

 にこは察した、言うのを躊躇う内容を言おうとしているのだと。

 穂乃果は悩んでいた、本当に言ってしまっていいのだろうかと。

 

『あ、あのね、にこちゃん。私にこちゃんに言いたいことがあって』

 

 僅かに震えた声。彼女の伝えたい言葉はすぐそこまで来ているのに出てくることができなかった。

 

『でも、わ、私……』

 

「穂乃果、全て言っていいの」

 

 にこは優しく微笑みながら呟いた。

 ––––だって私達μ'sでしょ。

 

【μ's】その言葉は友達、親友という言葉よりもとても強い繋がりを示す彼女達の大切なキーワード。

 たとえどんなに離れていても、別の時間にいたとしても、絶対に切れることのない繋がり。

 

『私、本当はすっごくこれから心配なの。にこちゃんが帰っちゃったらまた一人になるって!』

「うん」

『残って欲しいって思ったよ。でもね、でもにこちゃんには安心して帰ってもらいたい』

「うん」

『だからね、私ね。いっぱい頑張る、皆と一緒に!だから、だから……!』

「穂乃果」

 

 ––––ありがとう

 

 心にずっと溜まっていた。

 自分の思いを告げてしまったら、余計な感情を与えてしまうのではないかと。

 でも気付いた、私の周りには、私のいたμ'sという場所は自分の気持ちに素直になってもいい場所なんだ、自分の気持ちを伝えてもいい場所なんだと。

 

「私も、穂乃果のことが心配でね。どうにかできないかって必死に考えてた。でも分からないことばかりで手掛かりなんて掴めやしない。そもそも私達が予想しているように上手くいくかどうかも分からない、だから穂乃果の言葉が聞けてすごい安心できた」

 

 素直な気持ちを伝え合うのは簡単そうに見えてとても難しい、だからこそそれができる2人の関係、いや9人の関係は必要で、そのありがたさを改めて感じることが出来た。

 

––––時間なんて関係なく、確かにそこにμ'sはあるんだって。

 

『……あ、ありがとう、にこちゃん!』

「ふふ、何泣いてんのよ」

『だって、だって!あぁ、分かんないよー!でもなんか嬉しくて』

「何よそれ、変なの」

 

 笑って話すことができた。

 穂乃果は言うことが出来て気持ちが楽になったから、にこは穂乃果の本心を知ることが出来たから。

 お互いが不安で、それでも前に進まなくちゃいけないと思って頑張っていたことを知ったから。

 そして自分達のこの繋がりがまだ消えていない事を知ったから。

 

『いよいよ、明日だね』

「えぇ穂乃果、悟られるんじゃないわよ」

『わ、分かってるよ!そっちだって!』

「こっちはアイドルとして長年鍛えた演技力ってものがあるのよ」

『ほ、穂乃果だって負けないよ。とにかくお互いにファイトッ!だね』

「そうね。よし、なら今日はもう寝ましょ」

『夜更かしは体に悪いしね!よーし、明日は頑張るぞ!お休み、にこちゃん!』

「えぇ、お休み、穂乃果」

 

 通話を切るとともに訪れる静寂。

 視線を窓へと移し、夜の空を見上げる。

 

「もう、明日か」

 

 どうなるかは自分にも、誰にも分からない。でもやるしかない。

 にこはそう強く思いながら、今日という日を終えることにした。

 

 

 

 

 

 

 




穂乃果は穂乃果らしく。にこはにこらしく。
そのはずだったが、その気持ちが逆にいつもの彼女達を崩してしまっていた。
それを気付かせたのは、やはりμ'sの存在だった。
彼女達は気持ちを伝え合い、ついにその日を迎える……

この作品での穂乃果ちゃんはイメージ的にはことりちゃんと喧嘩してしまった後の穂乃果ちゃんに近いかもしれません。
いつもまっすぐな彼女、しかしそれは仲間がいたからこそ、そんな彼女でいられた。という弱い部分(自分の解釈ではありますが)が強く現れた彼女を書きたいと思っております。
もっとも他にも理由はあるのですが(多くは語らないことにします)

さて、前書きに書いた今後についての報告なのですが。
この作品は毎月20日に投稿していこうと思います。時間は21時00分を想定(変更あり)
もし多く投稿できる、となった時はまた考えますが、少なくとも20日に必ず1話分投稿されます。
細かくは活動報告かtwitterの方で書こうと思っているので、良ければ確認していただけると嬉しいです。

それではまた次回。

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