高坂穂乃果は再びスタートする   作:ひまわりヒナ

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バーガーショップでの一波乱の後、部活申請をするため生徒会を訪ねるμ's達。
部活申請が受け取られる事はなかったが、代わりに希から1つの情報が与えられる。

それは、アイドル研究部の存在だった。


さて、いよいよアイドル研究部とμ'sの出会いです。

それではどうぞ。


23話 たった1人のアイドル研究部

「は、初めまして、にこ先輩」

 

 静寂に流れる穂乃果の言葉。妙な静けさがその場を包み込む。

 まさかアイドル研究部の人がこの人だったとは!その驚きを現在感じているのは、穂乃果以外の5人。彼女達はとりあえずどうしたら良いか分からないという状況であり、固まったまま。

 では2人はどうかと言うと、

 

((あれ、どうするの!?))

 

 互いにどっちかが何かしらアクションを起こしてくれるかと思っていたので、静かな今の状況にどうすれば良いか考えていた。

 

 このまま黙っているわけにもいかない。とっさに動き出したのは、にこだった。

 

「んぎゃー!」

「っ!?」

 

 雄叫びを上げながら、扉の前にいる穂乃果に当たらない程度の距離で連続猫パンチ。急な事にビックリした穂乃果は思わず後ずさる。

 その隙に、にこは急いで扉を開けて室内に入ると扉に鍵をかける。辺りにあった荷物を必死に積み立てあげ、開けられないようにした。

 

「ま、待ってください、私達は話に来ただけで!」

「あ、開かないよ、穂乃果ちゃ〜ん」

 

 海未が説得している中、何とか開けれないかと試すことり。けれど鍵のかかった扉はビクともしない。

 そう言えばこの時にこは逃げようとしたんだ、と思い出した穂乃果。どうやって彼女を捕まえたのか……そう考えた瞬間、穂乃果は閃いた。

 

「外からだ、凛ちゃん!」

「なるほど、了解ですにゃ!」

 

 元気よく敬礼すると同時にその場から猛ダッシュする凛。

 一方にこは、

 

(どうしよう、何か捕まりたくない!)

 

 捕まらないと話が進まないと言うのも分かっているのだが、不思議と捕まる事を身体が拒否する。

 とにかく逃げなければ、という考えに思考は集まり、すぐさま扉とは反対側の窓から外へ逃げようとするが……

 

「待つにゃー!」

「はっや!!」

 

 恐ろしいスピードで凛がこちらへと迫ってきていた。

 

 その瞬間、待てよ待てよと謎の余裕がにこの中で生まれる。

 凛は確かに運動が得意、足も大会に出れると思われるぐらいに速い。

 

 け れ ど

 

 私だってスクールアイドル目指して運動はしていたし、トップアイドルとして育てた確かな根性がある。

 そうつまり!私だったら凛から逃げられる!

 

(行け!にこ!)

 

 心の中の叫びと同時に、颯爽と走り出すにこ。

 スタートは完璧、地面は濡れてはいるが、ちゃんと意識して走れば大丈夫なはず。

 これなら行ける!行ける。行ける……行け

「捕まえたにゃ!」

 

 ……ダメじゃん!

 

 心の中で自分自身に突っ込みを入れた彼女だが、そこで諦めるような人間ではないのが彼女である。

 ぎゅっと凛に抱き締められた自分の身体をストンと下へ下げる。すると、皮肉な事にも小さな身体であったことが功を奏し、凛から離れる事に成功した。

 

「あ、ちょっとー!」

「ふん、捕まるもんですか!」

 

 もはやこの追いかけっこを楽しんでいるにこ。

 絶対捕まってやるものか、そう思ってとにかく走るが、ふとここで思い出す。

 あれ、確かこっちの方には……

 

「あ、」

 

 気づいた時にはもう遅かった。

「んわあああ!」

「めえぇ!」

 この先は、アルパカを飼育している所だった。

 

 

「あれ?いない。どこ行っちゃったんだろう」

 

 確かにこっちの方に走っていたはず。唐突に姿が消失したにこを探す凛。

 しかし見えるのは、木々やアルパカの……ん?

 

「あぁ!」

 

 凛が見たのは、アルパカの飼育小屋に倒れるにこの姿であった。

 

––▽––▽––▽––

 

『わぁー』

 

 にこ以外の声が室内に響きわたる。

 彼女を捕まえてようやく話をするという状況になり、入る事を許可されたアイドル研究部部室内。

 そこにあったのはアイドル関係のものばかりで、まるでこの空間だけは夢のよう、そんな感覚に陥る程その光景は不思議なもの、というより学校にあるとは思えない部屋だった。

 

「あ、A–RISEにゃ!」

「あっちは福岡のスクールアイドルね」

「学校にこんな空間があったとは……」

 

 まだ入学したての1年生はもちろんの事、2年生の海未とことり、当時の穂乃果もこの場所は知らなかった。

 学校にこんな場所が、その感想はまさしく今の全員の気持ちを表したものであろう。

 

「わー懐か……」

「あーでしょうね、見たことないでしょうね」

 

 穂乃果にとってはこの部室はかけがえのない思い出の場所である。そこに久々に入れたのだから感情が高ぶるのに無理はない。

 故に何かしら言ってしまいそうという事は何となく予想できたので、穂乃果の言葉に無理矢理にこは言葉を被せた。

 ついつい出てきてしまいそうになった所を止めてもらったので、皆に隠れてありがとうとジェスチャーで伝える。

 

 そんな一方であるものを見つけ、目を輝かせている者が1人。

 

「こ、ここ、これは!で、伝説のアイドル伝説DVD全巻BOX!!持ってる人に初めて会いました!」

「ふふん〜そうでしょ〜あ、ゴホン」

 

 ついつい花陽に対しいつも通りの反応をしてしまったので、軽く咳払いをして誤魔化すにこ。

 

「伝伝伝か〜懐かしい」

「知ってるんですか!穂乃果先輩!!」

「 え、あ、ほ、ほんの少し!き、聞いたことあるなーって」

 

 何やってるのよ!と言わんばかりの視線を穂乃果に送るにこ。仕方ないと言えば仕方ないのだが、お互いにボロが出てしまいそうになり冷や冷やものである。

 

「穂乃果、伝伝伝とは?」

「え、あーそれは……」

「知らないんですか!?」

 

 穂乃果への海未の質問にすぐに食いついた花陽。

 部室にあったパソコンで伝伝伝を語りながら、それについての情報を探す。

 

「伝説のアイドル伝説とは、各プロダクションや事務所、学校などが限定生産を条件に歩み寄り、古今東西の素晴らしいと思われるアイドルを集めたDVDBOXで、その希少性から伝説の伝説の伝説……略して、 伝 伝 伝 と呼ばれるアイドル好きなら誰もが知っているDVDBOXです!」

「キャ、キャラ変わってませんか?」

 

 言いたい、これが小泉花陽という人物なんだと。

 

「これを2セットも…… そん、けい……!」

「家にもう1セットあるわよ」

「本当ですか!?」

「ただしそれは保存用だけどね」

「くわぁん!」

 

 でん、でん、でん……と呟きながら、机に突っ伏して嬉しそうに涙を流している花陽。ここまで落ち込んでいるような様子を見るのは、凛とて稀である。

 一方懐かしい光景だなーと後ろから見ていた穂乃果、何となくことりのいる方に視線を向けると、彼女が何かを見つめている事に気が付いた。

 ことり以外は全員花陽の方に視線が向いていたので、ことりちゃんどうしたんだろ?と、伝えるようにことりを指差してにこに知らせる。そしてことりが何かに視線を向けている事に気付いたにこ、その視線の先に何があるのかを確認すると、

 

(げっ)

 

 思わず苦い表情を浮かべる。

 何故ならその視線の先にあったのは、アキバで有名なカリスマメイド、ミナリンスキーのサイン色紙。いや正確に言ってしまえば、南ことりの色紙だったからである。もちろんそこに書かれているのはミナリンスキーのサインだが、その正体は今目の前にいることり、と言う事を彼女は知っているのだ。

 そう言うものに目が行ってしまうにこにとって、その色紙の価値はとても高い。だからおそらく意識しない内に買ってしまっていたのだろう。いや、正確に言えば本来の自分が買ってしまったと言った方が正しいだろうか。

 

 何にせよ、そこに堂々と置かれてしまっている事実に変わりはない。

 どうしよう、と少し考えた。が、直ぐに気付く。別にそんな焦る程のことではないという事に。

 もちろん、ボロが出る可能性が高まる事は懸念すべきことではあるが、自分は知らない前提で動けば良いだけの話である。

 

「気付いた?アキバのカリスマメイド、ミナリンスキーさんのサインよ」

「え、あ、へぇ」

「ことり?知っているのですか?」

「え、う、ううん!」

「ま、ネットで手に入れたものだから姿は知らないけどね」

 

 ほっと息をつくことり。

 にこも上手く演技できたであろう、と満足した様……

 

「ミナリンスキー、いったい誰なんだろう」

「ズコー!!」

 

 だったが、一瞬にして崩れた。

 穂乃果がどう見ても本気でミナリンスキーの正体が分からず、悩んでいたからである。

 

「ど、どうしたの?」

「い、いや、何でもないわよ、何でもね!」

 

 明らかに気付いていない様子だ。まさかあれから何年も経っているのに気付いていなかったとは、この上ない驚きである。

 穂乃果らしいは穂乃果らしいが……思わずその場でズッコケてもしょうがない程のインパクトはあった。

 

 とりあえずこのままでは進まないので、にこは体勢を立て直した後、

「それで、なんの用?」

 と本題をぶつけた。

 全員はその言葉を聞いて目的を思い出し、素早く椅子に座って、しっかりと話す体勢を作る。

 その際にこは穂乃果に目配せして、名前などを注意するように促す。穂乃果はその指示が分かったのか、うんうん、と頷いて口を開く。

 

「にこちゃ……」

「あぁー!そう言えば宿題あったかしら、あ、唐突に思い出しちゃって、声あげて悪かったわね。はい、改めて用は?」

 

 慌てて口を押さえているあたり、どうやら分かっていなかったようである。

 おおよそ、穂乃果の事だからボロを出さないようにという指示は通じたものの、名前の呼び方についてすっかり忘れていたのだろう。幸いにも大きな声を上げたのでそちらの方に意識が向き、他の子達から穂乃果の言葉への反応は見られなかった。

 とりあえず安心しながら、改めて耳を傾けた。

 

「えーっと、にこ先輩!実は私達スクールアイドルをやってまして」

「知ってる。どうせ希が話をつけてこいとか言ったんでしょ」

「それなら話は早い!」

「何となくこうなるだろうとも思ってたし」

  「なら」

「 お断りよ」

 

 にこの言葉で一気に空気が変わった。

 彼女の期待通りといったところか、今の張り詰めた空気はあの時のものを十分に再現できているだろうとは思う。しかし、全員が悲しそうな、困った顔をするのは心苦しい。

 しかも穂乃果まで……やりにくいったらありゃしない。

 

「わ、私達はμ'sとして活動できる場が欲しいだけで、決してここを廃部になんて」

 

 えぇ、知ってる。でも、“お断り”

 

「言ったでしょ、あなた達はアイドルを汚している」

「ち、違います!歌もダンスも、私達は必死に頑張っ……!あ、あれ?あ、ご、ごめんなさい」

 

 ついつい、感情的になって大きな声を出してしまった穂乃果。自分でも何故こんなに感情的に口が動いてしまったのか分からず、戸惑いながらも謝罪する。

 やってしまった、彼女は強くこの事を後悔した。

 しかしその時にこは彼女が何故あんなにも感情を露わにしたのか分からなかったが、心の中で思っていた、言ってくれてありがとう、と。

 

 当時も思っていた。汚しているなどと言いながら、密かに思っていた。

 彼女達の頑張りは凄いものだと。彼女達の努力は認められるべきものだと。そしてそれはμ'sに入って改めて感じることになった。

 もちろん、色々不足な点がなかったわけではない。それでも彼女達は、私達はそれを互いに補って必死に必死に前へ進んでいた。

 それを私達はよく知っている、だから感情的にそんな言葉が出てしまうのもよく分かる。きっと私だってそう言われれば、つい言ってしまう、そんな状況が想像できるから。

 

 ふと思った。

 ––––今いるはずの私は、今の彼女の言葉をどう受け止めたのだろうか

 

「そう言うことじゃない……そう言うことじゃないのよ」

 

 そう言うことじゃない?ならどう言うこと?

 とでも言いたそうにキョトンとするμ's達。張り詰めた空気は僅かにその場から消え去った。

 

「あんた達、ちゃんとキャラ作りしているの?」

 

 ……キャラ?

 

 穂乃果を除けば満場一致の疑問であった。

 

「お客さんがアイドルに求めるものは夢のような楽しい時間。だからこそ、それに相応しいキャラってものがあるの。ったく、仕方ないわね」

 

 この気持ちは夢のトップアイドルとして活動する今も変わらない。

 これから進むためにμ'sに必要なキャラ。それをしっかりと見せつけるため、にこは立ち上がり、後ろを向いた。

 

 そして––––

 

「にっこにっこにー!あなたのハートに、にこにこにー!笑顔を届ける、矢澤にこにこー!にこにーって覚えてラブにこっ!」

 

 決まった。

 幾年もの月日を得てキレがさらに増した彼女の真骨頂【にっこにっこにー】

 それを目の前にした者達の反応は……

 

「こ、これは……」

「キャラというか……」

「私無理」

「ちょっと寒くないかにゃー」

「ふむふむ」

 

 あの時と変わらない、何とも言えない反応である。

 穂乃果にとっては見てて嬉しいことではあるのだが、最初見た反応がこうなってしまうのも何となく理解ができるので、苦笑いしかできない。

 

「そこのあんた、寒いって?」

「にゃ!?い、いや、可愛かったです!最高です!」

「と、とっても良いと思います、ね?海未ちゃん」

「は、はい!お客さんを喜ばせる努力は大事です!」

「素晴らしい!さすがにこ先輩です!」

 

 皆の反応は焦って、花陽を除いてさらにめちゃくちゃになっていく。

 これは、もう一旦止めるべきかな?そう思った穂乃果は、にこに困ったような笑みを見せた。

 何となくそろそろ幕引き時であろう、という事は彼女も思っていたので、早速動いた。

 

「はぁ、もう出てていって、話はもう終わりよ」

 

 そう言いながら、立った立った、と全員に立ち上がるように促すと、強引に穂乃果達を部屋の外へと追い出す。

「ま、まだ話が」

「もうちょっとだけ!」

 という声が聞こえてきたが、その声も無視して無理矢理押し出していく。

 そして全員が出て行ったのを確認すると、素早くドアを閉じた。

 

 

 鍵を締める。

 外から声が聞こえるが、それに応答する気は無い。

 罪悪感はある。まだ違うけれど、にこにとって彼女達は唯一無二の存在であるから。

 でも今はこの気持ちは抑えなければならない、私は矢澤にこでありながら“矢澤にこ”ではないから。

 少しの辛抱だ、……

 

「あの子達と話せて、楽しかったな」

 

 にこは何となく呟いていた。

 誰もいない、ただ彼女だけが存在する、彼女1人では広すぎる室内で。

 

 

 

 

 

 気が付けば、外からの彼女達の声は聞こえなくなっていた。

 

 

 

 

 いつもの、たった1人のアイドル研究部。

 

 

 

 

 




ついに出会う、アイドル研究部とμ's。
その内の2人、にこと穂乃果は時折ヒヤヒヤしながらも何とかあの時と同じ様に再現する。
それはμ'sを突き放す事、いつも通りの1人のアイドル研究部、を保つ事。
にこには室内が、やけに広く見えていた。


μ'sと真正面に立って出会った日。
それはかつてのにこちゃんにとって、自己の確定。未来のにこちゃんにとっては自己の否定。
かつてと同じ様に時間は進みます……

それではまた次回。
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