アイドル研究部で説得を試みるが、にこからの返事はあの時と同じ通り、NO。
体験した通り順調に進む一方で、にこの心は複雑なものがあった。
予めご報告させてもらいたい事が一点。
2月分の更新ができません。
もしかしたら3月も…ということもあるかもしれませんが、その際は活動報告等を用い改めてご報告します。
それではどうぞ。
部室を追い出されたμ's6人。
流石にこれ以上押しかけるのは迷惑だと感じ、目の前の扉を開ける気は無かった。
「上手く、いきませんでしたね」
「うん、そうだね……」
落ち込んだ表情でそう呟くことりと海未。
1年生メンバーも中々に手強い相手だと分かったのか、なんとも言えない表情を浮かべている。
キャラが私達には足りない、彼女が言った言葉が脳裏をよぎった。
そして思う。本当にそれだけが私達を否定する理由なのだろうか?
そう言った疑問も彼女達の中に生まれ、もやもやがあるというのが現状。そういった表情になってしまうのも無理はない。
その答えを、当時の穂乃果達は何者かから教えてもらう必要があった。
そしてその人物は、その役目を果たすべくして現れる。
「やっぱり追い出されちゃったか」
「希、先輩」
東條希、彼女の口から矢澤にこ、とは一体何者なのか、彼女の過去に何があったのか、それを聞く必要があった。
––––24話 矢澤にこ、という少女
帰りの支度をして外に出ると、空は灰色の雲に覆われていた。
これから雨足は強くなりそうだという事は、予報でも知っていたし、誰が見ても今の空を見れば予想できた。
なので1年生の3人には後に情報を交換するという条件の下先に帰ってもらうことにし、2年生のみが希から話を聞くことにした。
玄関を出た先のすぐ近くで希は既に待機してくれていた。
そして彼女は3人がいる事を確認すると、彼女について話し始める。
「にこっちは昔、スクールアイドルをやってたんよ」
その情報は穂乃果以外にとってはもちろん初耳のことであり、驚くべき情報だった。
彼女はアイドル研究部であり、設立当初は5人はいた。という事は既に知っていた事ではあるが、彼女も自分達と同じアイドル活動をしていた、という事までは知らなかった。
「1年生の頃やったかな、同じ学年の子と結成してたんよ。もう、今は存在しないけれど」
「やめちゃったんですか?」
「にこっち以外の子がね……アイドルとしての意識が高すぎたんやないかな。1人やめて、2人やめて」
––––気がついた時には1人だった
にこは昔からアイドルが大好きで、そして強い憧れを持っていて。
だから高い目標を持った、誰よりも高くて大きな夢を。
でもそれはあまりにも高すぎた。ついていける人物は限られる程に。
故にアイドルが好きで作り上げたアイドル研究部内で、アイドルが好き、という同じはずなのに大きく違う感情が、にことすれ違いを起こしてしまった。
そして失って初めて彼女は気づく、自分の歩いていた道が誰も合流できない一本道であったことに。
それでも彼女は諦めなかった、諦めきれるわけがなかった。自分がずっと憧れてきた、ずっと夢見てきた、アイドルの存在を。
だから続けた、1人でも。続けようと思った、1人でも。
しかしダメだった、1人では限界がある、そんな現実が彼女が通る道を塞ぐ。
その重荷はにこの気持ちをどんどんと押し込んでいき、いつしか彼女はスクールアイドルをやめてしまっていた。
「でもね、だからこそあなた達が羨ましかったんだろうなって思うんよ。だって歌やダンスにケチつけるって事は、それだけ興味があるってことやろ」
希の言う通りである。
そんな大きな気持ちを持っている彼女が、何も見ずにケチをつけたりなどするわけが無い。
何度も何度も私達の様子を、ダンスを見て、歌を聞いて。その上で今の彼女があるのだと思える。
それは穂乃果だけでは無い、まだ彼女のことを良く知らない海未とことりも、それは理解できた。
「私の知っている事はこれくらい、それじゃあ頑張ってな」
そう言うと希はその場から去っていく。
3人はありがとうございました、と礼の言葉と共にお辞儀をした。
そしてにこの話を聞いた3人はそのまま帰路に立った。
幸いにもそこまで強くなっていない雨の中を、傘を差して歩いている最中、もちろん話題として上がってくるのはにこの事。
「中々難しそうだね、にこ先輩」
「そうですね、先輩の理想は高いですから、私達のパフォーマンスじゃ納得してくれそうも無いですし、説得に応じてくれる様子も……」
「んーそうかな」
海未は穂乃果の言葉に驚く。
部活に訪れた時のにこの対応も、彼女の過去も、どちらも合わせて考えればどうやってこの問題を解決できるか、その答えは難しい。
しかし彼女は、既に何か答えを見つけたかのように、海未の言葉に反応を示していた。
「え?どうしてです?」
「だってにこ先輩はアイドルが好きで、アイドルに憧れてて、私達も少し興味を持ってくれているんだよね」
「うん、そうだね」
「だったらほんのちょっと何かあれば、上手くいくと思うんだよね」
「具体性に欠けますね……」
何か解決策があるのか、と期待した海未はため息をつく。
そんな時、3人の視界に少しだけ傘と人影が映った。
こちらが気付いた瞬間、ビクッとしてすぐに隠れてしまったが、一瞬見えた姿は話題の的であるにこであろうというのは、なんとなく分かった。
「あれって、にこ先輩?」
「えぇ、おそらく。どうします?」
「声かけたらまた逃げちゃいそうだし……」
どうするかと問う、2人。そんな中穂乃果は今の彼女を見て、ある昔の光景を思い出していた。
「あっ、ふふ」
「どうしました?」
「これってさ、海未ちゃんと一緒じゃない?ほら、海未ちゃんと知り合った時」
穂乃果が思い出したのは遠い過去の記憶。彼女と海未が出会った時のこと。
恥ずかしがり屋の彼女が、遊んでいた穂乃果達を木陰から見つめていた光景。あの時の記憶が、今の状況と重なっていた。
「そんなことありましたっけ?」
「あったよ、海未ちゃんすっごい恥ずかしがり屋さんだったよね〜」
「っ! そ、それが今の状況と関係あるのですか!?」
「うん!ね、ことりちゃん」
「んー、あ、あの時の!確かにそうだね!」
海未もきっと少しはその記憶があるのだろう、恥ずかしいのか顔を赤くする彼女。そんな彼女を見て、ちょっと意地悪にその話で盛り上がる2人。
3人の姿は誰がどう見ても、羨ましいぐらいに楽しそうであった。
「相変わらずね」
そんな様子を見たにこは安心した表情で静かにその場から去る。
階段をゆっくり降りながら、ふと思っていた。あれなら大丈夫だろうと。
これからのμ'sも、そして彼女も。
自分がここにいる目的は過去の自分がやり残した1つのこと。
しかし気がかりだった、だから見守ってきた。いくらでも大丈夫だろうと思える事はあった、それでも心配だった。
けれど今日、等々この日がやってきて彼女達と“矢澤にこ”として接触した事で、その心配は不思議と消えていった。
多分自分でもなんとなく分かっていたのだろう、いや、間違いなく分かっていた、知っていた。彼女だったら、どんな状況だって大丈夫だという事は。
だって彼女の周りには皆がいるから。
それでも私は1週間前、接触した。
接触せずにただ目的を終えることもできた。
自分の行動が正しいのかどうか、分からなかったけど、実行に移した。
だって、だって私は
––––あぁ、そうか。私、
今、やっと気付いたのかもしれない。
そうだよね、にこ。
1人でも頑張れた、それでも繋がりを求めてた。
私はこの時間に、お礼を言いにやってきた。アイドル研究部を一緒に作ってくれたあの時の4人に。
でももしかしたらもう1つあるのかもしれない、アイドルになって思ってた引っかかり、夢を叶えて嬉しかったのに感じる寂しさ。
μ'sに会うまでの私と、未来の私は、少し似ていた。
彼女は空を見上げた。
灰色の空に、僅かに見える薄い雲。それが彼女の視界にはあった。
––▽––▽––▽––
穂乃果達3人はそれぞれ家に戻るのではなく、穂乃果の家に立ち寄って1年生の3人とも携帯で連絡をとりながら、にこの事をふまえ、今後どうするか話し合う事にしていた。
「希先輩から聞いた話は以上です」
まず行った事は、にこについて知らない1年生への情報提供。
にこがどういう人物なのか。それを知った上で彼女たちはこれからの話をする必要があった。
とは言え、穂乃果の中ではもう決まっていた。
彼女はアイドルが好きで、憧れていて、だからこそ私達にケチをつけたけれど、本当は興味を持ってくれていて。
何より、多分あの時海未がそうであったように、彼女も本当は……
「あのね、提案があるんだ」
穂乃果がそう言うと、全員が彼女の話に耳を傾ける。
「私、にこ先輩をμ'sに誘ってみようと思うの」
彼女をμ'sに?
全員が頭に疑問を浮かべた。
確かに彼女のアイドルへの思いはあの部室や先程の話を聞けば、大きいものだと理解できる。
でもだからこそ私達のようなアイドルに入ってくれる可能性は低い、それは十分に考えられることであった。
「にこ先輩なら絶対に入ってくれる、私はそう思ってるよ」
「どうして、ですか?」
海未がそう質問すると、穂乃果は少し微笑んで、
「だって、希先輩にも言われたけど、にこ先輩は私達のことをちゃんと見てくれて、そして興味も持ってくれてる。私は、本当は入りたいんじゃないかって思うの」
「そう捉えられないわけではありませんが……違う可能性の方が大きいのでは」
「うんそうだね、これは私が都合よく考えているだけかも。でもね、私、μ'sにはにこ先輩が必要だと思うの。アイドルの中のアイドルである、彼女が」
穂乃果の口からその言葉は自然と出ていた。
その言葉は彼女の事をよく知っている彼女だからこそ、口に出来た言葉だった。
落ち込んでも諦めずに前を見ようとして、曲げない強い心を持っていて、それをはっきりと言葉にできて、仲間が迷っていたら自分も一緒になって走ってくれる、そんな優しい心も持っていて、
––––そして皆を最高の笑顔にしてくれる。
そんな彼女を知っているから。
「私は穂乃果先輩の意見に賛成です」
「凛も、かよちんと一緒です!」
「まぁいいんじゃない、あんな先輩がいても」
1年生からの声は賛成のものだった。
今までのにこからの対応を考えれば、望みは薄いかもしれない。
けれど穂乃果の言葉も間違っていない、そう感じた故の気持ちだろう。
そしてもちろん2人も。
「私も、穂乃果ちゃんに賛成だな」
「そうですね、穂乃果の言う通りかもしれません」
全員が彼女の言葉に賛成した。信じたと言った方が正しいのかもしれない。
皆は穂乃果がにこの事をよく知っていることを知らない、けれど彼女の言葉に嘘はない。矢澤にことは彼女が言うように、μ'sにとって必要な人物なんじゃないか、そう不思議と思えた。
そしてそんな彼女達の反応に、自分の言葉を信じてくれた事に、穂乃果は今感謝の気持ちしかなかった。
「それでは具体的にどうするかを……」
「大丈夫だよ、海未ちゃん」
「え?」
「実はもう決めてるんだ、どうするかって。それはね ––––」
動き出すμ's。
ついに、彼女の最後の日がやってくる。
希の口から明かされたにこの過去。
それに頭を悩ますμ's達、しかし穂乃果の脳裏には1つの策が浮かんでいた。
にこと一緒にアイドル活動をしよう。
その案は、あまりにも都合が良く、けれど穂乃果らしい答えであった。
いよいよ終盤。
次回はその前に少し挟みます。
それではまた次回。