タイムスリップしてしまった穂乃果。
そんな彼女に課される難題、彼女はいったいどう立ち向かっていくのか?
「廃校……かぁ」
何年ぶりに聞いた言葉だろう。穂乃果はそう思いながら、机に突っ伏し、ため息をついていた。
『音ノ木坂学院は、生徒募集をやめ廃校するという話が、今上がっています』
それは始業式、理事長からの言葉であった。
すっかり忘れていた廃校問題。そして同時に気づくμ'sがまだできていないということ。
こうなってしまった以上、高校時代を皆とまた過ごすかー!なんて気楽な事は言ってられない。そもそも、彼女達と面識すら今の自分には無いのだ。
(また……μ'sを作る)
μ'sがいたあの頃に戻りたい、そうは思ったが、いざ作るとなると少し抵抗を覚えた。
『大会が終わったら、μ'sはお終いにします!』
皆で決めた事、それを裏切ってしまうのではないか?
その事で頭がいっぱいだった。
「穂乃果ちゃん」
「……どうしたの、ことりちゃん?」
「穂乃果ちゃん、元気、無さそうだったから」
「あ、ごめん、心配かけて。穂乃果は大丈夫だよ!」
そう言って元気よくガッツポーズ……したはずだったが、ことりの心配した表情が晴れる事はない。それは近くにいた海未も同じ。
きっと無理して元気よくしていることなど、2人には見え見えなのだ。
「穂乃果……学校の事で悩んでいるんですよね?」
「う、うん。まぁ」
また嘘をついた。
いや、正確に言えば海未の言っている事は間違っていないから、嘘とは言い難い。けれど、それよりも悩んでいる事を言い出す事ができない。
今は……罪悪感があっても、嘘をつかざるをえなかった。
「で、でも、穂乃果ちゃん!私達がいる間は大丈夫だよ!」
「ことりの言う通りです!だから編入試験とかは気にしなくても……「分かってるよ」え?」
「廃校になるのは早くても3年後。だから私達がいる間は大丈夫で、どこかの高校に移動するための試験はいらないんだよね」
「は、はい、そうです」
2人は少しばかり驚いていた。
正直言って穂乃果は頭が良いとは言い難いし、落ち着いて物事を考えるタイプではない。そのためきっと彼女のことだから、廃校になったら編入試験などをどうしよー!と考えている。とばかり思っていた。
もちろん、それは彼女を馬鹿にしているわけではなく。それが、高坂穂乃果という人間なのである。その事を2人はよく知っていた、だから驚いたのだ。
「……廃校になっちゃうってことは、今の1年生には後輩ができないって事だよね」
「あ、はい。そうなりますね」
穂乃果は昔を思い出し、海未が言っていた言葉を何となく復唱していた。
「何か、それはかわいそう」
「そうですね……」
今いる1年生には後輩ができない。
同じ学校を通う者としては見過ごすわけにはいかないし。先程のことりの一言、かわいそうという一言が彼女達の気持ちだった。
そして今の穂乃果にとって、この学校はμ'sの皆と出会わせてくれた学校で、思い出の詰まった学校であった。
(よし)
穂乃果は思った、やはりここを廃校にさせてはいけない。廃校になんてさせない。そのために、この学校を救うために……
「ねぇ、ことりちゃん、海未ちゃん」
2人は穂乃果の方に視線を移した。言おう、スクールアイドルをやろう、そして廃校を阻止しよう。と。
言って、また再結成してラブライブに……
いや、本当に良いのだろうか?
穂乃果は言う事を拒んだ。
今言ってしまって良いのか疑問を感じ始めたからだ。
タイムスリップなんて事が起こった今、何が起こるかなんて彼女には分からない。……落ち着こう、彼女はそう思った。
「? どうしたのですか、穂乃果」
「あ、あのさ。入学希望者が定員を下回ったら、廃校になっちゃうんだよね?」
「うん、そうみたいだよ」
「ならさ、お昼休みと放課後、一緒に音ノ木坂学院でアピールできる事がないか探そうよ!」
「そうですね、まだ正式に決まったわけではないですから、今ならまだ間に合うかもしれません」
とりあえず今アイドルになろうという案を出すのはやめておこう。
思い出せる限りの手順をふむ、それが今の最善策だと思ったのだ。
昔の穂乃果ならすぐに言いだしていたかもしれないが、数年経って大人になったため、少し慎重になっていた。
「先にご飯を食べてからにしましょうか」
昼休みが訪れると、まず海未がそう言った。
腹が減っては戦はできぬ、その言葉があるように、やはり最初は腹ごしらえだ。と思い、海未の言った通り3人は教室を離れ、ご飯を食べるスポットの一つである木陰へと向かった。
それまでの授業中、穂乃果はとても授業に集中できる状況ではなく。とりあえず1番の問題、タイムスリップについて考えていた。
問題視していた、昔した行動と違った行動をした場合にどうなるかという件。
間違いなく、昔と違った言動かつ行動をしているが、特に何も起きていない。おそらく、大きな変化がないからだろう。
もしμ'sを結成しない……なんて事をすればとんでもない事になるかもしれない。勿論、そんな事怖くてしないし、するはずがない。
要は目立った変化を起こさなければ大丈夫かもしれない、と予想した。
「穂乃果?」
「あ、ごめん。それじゃあお昼ご飯食べに行こう!」
悩んでも、誰かに相談する勇気は出ないし、解決策など浮かばない。
とりあえず今は廃校を阻止するために動こう。あの頃とほぼ同じ事をしよう。穂乃果はそう決めた。
「今日もパンが美味い!」
「太りますよ?」
いつの時代でも変わらない美味しさを保つパンに、穂乃果は思わず笑みを浮かべた。
いつもの変わらない表情を見せた穂乃果に、2人は少し安堵しながら、これからどうするかの話題をあげる。
「とりあえず図書室に行って昔の資料見てみましょう」
「海未ちゃんの言う通りだね。後は、最近の部活の成果とかも確認してみると良いかも」
昔通り、2人はぽんぽんと出来る事を考えていく。
改めて2人は優秀だなぁ、と穂乃果が思っていると。
「ねぇ」
聞き覚えのある声が耳に入った。
反射的にその声の聞こえた方へと視線を動かす。そこには見間違えるのはずのない、あの人物がいた。
(え、絵里ちゃ……!)
思わず声が出そうになったので、無理やり手でふさいだ。
もちろんいきなりそんな事をすれば、奇妙に思われる。彼女の目の前にいた高校時代の絢瀬絵里は首を傾げながら、
「どうしたの?」
「え、い、いや、何でもない……です」
明らかに不審だった。しかし不審になる程の動揺を見せるのも当たり前の事であった。
「きっと、えりちがいきなり話しかけるから、びっくりしちゃったんよ」
そう言いながら絵里の後ろから、ひょこっと現れたのは東條希。懐かしい2人のその姿に少し涙が出そうになるが、今はそんな場合ではない。
「驚かせてしまったのね、ごめんなさい」
「あ、いえ、大丈夫です。えっと、私達に何か?」
「南さんに用があるの」
穂乃果はもちろんその質問の内容を知っていた。
「あなた、確か理事長の娘よね」
「あ、はい」
「理事長、何か言ってなかった?」
「いえ、私も今日知ったので……」
ことりが何も知らない事を知ると、そう、ありがとう。とだけ言ってその場を離れようとする。
絵里がどういう人物か知っている。だからこそ今の彼女からは少し他の人よりも怖さに似た何かを強く穂乃果は感じていた。
けれど無視などできなかった。
「あの!」
気が付けば声を掛けていた。話す内容など浮かんでいない、けれど話し掛けずにはいられなかった。
「何?」
おそらくいつもなら、『どうしたの、穂乃果?』と笑顔でお姉さんみたいに聞いてくれる。
その事を知っているから、今の絵里から感じる威圧に僅かに縮こまりそうになる。
でも、ここで縮こまってはいけない。そう思った。
「学校、本当になくなっちゃうんですか?」
「……あなた達が気にする事じゃないわ」
そう言って彼女は振り返って、再び歩き出す。
冷たく返された。そして改めて理解する。今の彼女とは友達ですらないという事を。
辛い、悲しい、複雑な思いが彼女に一気に襲いかかり、改めて孤独さを感じさせる。
けれど、彼女は負けなかった。
「私!この学校が大好きなんです!」
その場を去ろうとする2人に穂乃果は自然とこの言葉を発していた。
音ノ木坂が好き、皆と会えたこの学校が好き、その気持ちをのせた言葉を何故か声に出していた。
訪れる静寂、少し経って何でこんな事を言ったんだろうと慌て始める穂乃果。
そんな時、絵里は振り返って一言だけ言った。
「私もよ」
一瞬見せた笑顔、それは紛れもなく穂乃果の知る絵里のものであった。
穂乃果はただただ嬉しくなった。
絵里ちゃんは絵里ちゃんだ、という事が分かったから。
希が、ほなー、と言うと2人はその場から去る。
そんな2人の後ろ姿を3人は黙って見つめていた。
あらすじにも書いた通り、大元は原作沿いですが、度々展開に違いが出てきます。
穂乃果ちゃんは心は大人になっているので、昔よりかは少し慎重に物事を考えるようになっています。しかし穂乃果ちゃんは穂乃果ちゃんなので、彼女らしい一面も描けていけたらと思っています。
それではまた次回。