東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
隔「ふざけんなヒロインは私だ!何で!?何でこんなに咲夜が優遇されてるの!?」
ラ「ね。今回の話は全部咲夜に持って行かれたね。」
隔「ね。じゃないよ!あんなん誰も勝てないよ!」
ラ「しゃーない。それが実力さ・・・では、どうぞ!」
隔「行くよ、紅月」
ラ「まだそれ出てnあああああああ!!!!!」
カツン、カツンと靴の音が赤い壁に響き、それはまるで焦っているかのように甲高く、早く刻まれている。
銀色の髪を短く切り、両サイドで三つ編みを作っている彼女こと、紅魔館のメイド十六夜咲夜は、とある用事で主の元へ向かっている途中だ。
まだ外は昼間だが、窓の少ない紅魔館にとってそれは大した意味を持たず、館内は薄暗かった。
奥の方へ、上の方へ。
何度も訪れた事のある主人の部屋に辿り着いた咲夜は、ノックもせずにドアを強く開け放った。
「お嬢様!!・・・真が、真が・・・荷造りを始めてるんですが!?」
「おおう!あ、咲夜か・・・吃驚した。」
急に大きく開け放たれたドアに驚き、レミリアはソファの上で少し飛び跳ねる。
侵入者を確認し、ほっと一息ついたところで、レミリア・スカーレットは口を開いた。
「まあ、真は紅魔館から出て行く訳だし。当たり前でしょう?」
「何故ですかッ!!??真は仕事もしっかりこなし、妹様やパチュリー様、美鈴にも何ら問題は与えていません!」
「ああ、そういう事じゃ無くてね。・・・そうね、一つ咲夜に質問しましょうか」
咲夜は勢いよく叫び、レミリアに異議を唱えた。
余りの剣幕にレミリアは一瞬眼を見開いたが、まずは従者を落ち着かせる事が大事だと思い静かに語り始める。
「そうねえ。・・・咲夜、もし何かしらの形で、私が勝てない相手が出て来たとしましょう。ちょっと烏滸がましいけれど、貴方の役目は私を守る事でもある。・・・でも、貴方は私と言う主を助けるための力がどうしても足りていない。そこで貴方は、どうするかしら?」
「強くなります。お嬢様を守り通せるくらいに」
即答、だった。
迷いは無い。咲夜の言葉には確固たる決意が含まれている。
これなら安心だ、とレミリアは思い少し頬を緩め、そして言葉を紡ぐ。
「でしょう?・・・真も、同じよ。今正に、彼は私の話と同じ状況に陥っているの。博麗悪夢。絶対的な強さを前にして、真は何一つ出来なかった。それじゃ駄目だ。もっと強くならなければ、大事な人を護れない。今の真にはきっと、そんな思いが思考を埋め尽くしているでしょう。確かに、私や咲夜でも真を強くしてあげられる。・・・でも、それじゃ解決にはならない。」
レミリアはそこで言葉を止め、ルビーの様に紅く煌めく瞳を咲夜に向けた。
「俺は、この人の元でなら強くなれる。・・・そう思わなければ、ダメなの。そう思わなければ、心から強くなれない。そして、そう思わせるには、真を実際に強くした人にもう一度強くさせて貰った方が良い。それはね、憎たらしい事に魂魄妖夢。あの子だけなのよ」
言い終えたレミリアは、ソファから飛び降り、扉の前に立って居る従者の元へと歩み寄る。
悔しそうに、中々感情を出さない咲夜が唇を噛んでるのを見つめ、だからこそレミリアは小さい体躯ながらも咲夜の頬に手を当てた。
「別に、私達が何も出来ないって訳じゃ無い。私達と真は家族。家族だからこそ出来る事も、家族だからこそ出来ない事もある。・・・隔はここで預かるから、キチンと作法を叩き込んであげてね。」
そう言い、レミリアは自室から出て行った。
咲夜を慰め、そして前に向かせて。
紅い廊下。
まるで血の様に見える暗い廊下に溢れるのは恐怖では無く、満遍なく伝わっている安堵だった。
そこは家族のいる場所であり、皆の家。
咲夜は目元を一回擦り、頬をぺちん! と叩く。
「・・・よし」
小さく呟いた彼女は、もう完全で清酒な十六夜咲夜。
透き通った瞳は、窓の外に広がる景色を望んでいた。
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「うわあ、俺荷物少ないな・・・楽で良いんだけど・・・」
片手に持てるバッグの中にはぎっしりと荷物が詰め込まれ、すっかり綺麗になった自室を俺はもう一度見回した。
「うし、行くか。・・・じゃあな、ありがとう!!」
そして、誰も居ないと分かって居ながらも大きく声を掛け、ドアの外へと俺は歩いていった。
もう妖夢は外で待っており、恐らくレミリア様も俺が出発するのを予測し玄関に居るだろう。
隔もどうやらレミリア様が迎えてくれるらしく、一安心。
「・・・」
少しの静寂で、思い出してしまうのは博麗悪夢。
無理だ、勝てない。・・・そう思ってしまった。
でも、まだだ。
妖夢の所で、俺は強くなって見せる。
咲夜さんも隔も妖夢も暁も護れるように。絶対に。
長い長い廊下を抜け、俺はそう心に決めた。
「あ、来たわね」
玄関に辿り着くと、やはりレミリア様と、咲夜さんが居た。
余談だが、他の人には俺が出発するのを伝えていない。
理由は・・・『フランが全力で止めるからダメ。紅魔館が壊れる」との事。
「今まで、ありがとうございました!」
「良いのよ、最初は私が無理やり引き留めたようなもんだしね。・・・楽しかったわ、此方こそありがとう」
レミリア様に礼をし、数度言葉を交わす。
次に、俺は咲夜さんに向き直った。
「今まで、ありがとうございました。・・・お世話になりました!」
「・・・」
そして、レミリア様と同じように深くお辞儀をする。
本当に、何から何まで咲夜さんに叩き込んでもらった。
その恩はまだ返せていない。でも、いつか必ず。
数秒後、俺はゆっくりと顔を上げた。
返事は無く、やはり少し残念だがこのまま―――――
「・・・真」
「は、はい?」
行こう、とした瞬間俺は咲夜さんに呼ばれ、ちょいちょいと手招きされた。
不思議に思いながら近づき、近くで立ち止まると。
「えい」
「!?」
急に、咲夜さんが抱き着いてきた。
柔らかな温もりが体を包み込み、俺の胸に咲夜さんが頭をこつん、とぶつけ、
「待ってるから、ね」
と。
小さく、呟いた。
そして、咲夜さんは直ぐに俺から離れ、満面の笑みを俺に向ける。
背中を後押しされたような、そんな感覚。
体が軽くなり、全ての悩みが吹きとんだ。
「・・・行ってきます」
これ以上いると、柄にも無く泣いてしまいそうだ。
挨拶も終え、また未来へと進む準備は整った。
・・・さあ、出発だ。
玄関を開け、俺は妖夢との待ち合わせ場所に歩を進めた。
振りかえれば家族が、暖かい場所がある。
だから、安心して前に進んでいこう。
春の日差しの中、俺の歩みに迷いは無かった。