東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第七章第七話「鬼の本気」

刹那。

 

ボッ!! と空気の破裂するような音が耳元で炸裂すると同時に、俺の前には拳が迫っていた。

神速。瞬きすらも許されない次元の戦闘に、一拍遅れる事は敗北を意味する。

だからこそ俺は、それに額を自らぶつけた。

 

灼熱の痛みが走る。視界に赤い液体が舞い散り、それと同時に体が激しく揺らされるがそれを我慢し、俺は炎を纏った蹴りを放つ。

 

しかし。勇儀はそれを、真正面から受け止め、弾き飛ばして見せた。

 

炎が燃え移る事も、熱さを伝える事すら出来ない速度。大きく弾き飛ばされ、無防備になった俺の体へと拳が叩き込まれる。

 

「ガッ・・・!」

 

背中を強く地面に打ち付ける。肺から空気が全て抜け、俺はいつしか天井を見ていた。

 

慌てて起き上がれば、勇儀は遠くで強く此方を睨みつけている。

震える膝を叩く。俺はしっかりと視線を合わせ、長く息を吐いた。

 

「・・・まだ、やるかい?」

「やらせて下さい」

 

勇儀の問いかけ。俺はそれに喰い気味に答えると、全力で地面を蹴り砕いた。

霊力の波紋が宙を駆け抜ける。青白い軌跡がまるで稲妻の様に描かれ、俺は大きく体を捻った。

 

ワンパターンじゃ駄目なんだ。

もっと、柔軟に頭を回せ。

 

身構える勇儀。俺は高く跳躍し、勇儀へと炎の踵落としを放つ――――!!!

 

 

寸前。

 

 

結界を生成した俺は、踵落としを中断しそれを足場にし高く飛びあがる。

そして、圧縮した霊力弾を掌からまるで雨の様に降らせた。

ダンっ!! という跳躍音が聞こえるが速く、勇儀は霊力弾の雨から抜け出す。

宙で無防備になっている俺の体。それを狙うが如く、勇儀は遠くで右拳を腰ダメに構える。

 

――――――――不味い

 

慌てて結界を何重にも生成し、俺は両腕を胸の前で交差させる。

 

 

次の瞬間。

 

静かな観衆。世界。その中で唯一、凛とした勇儀の声だけが響き渡った。

 

 

「四天王奥義[三歩必殺]」

 

 

その声が聞こえるよりも速く。

俺は強く強く壁に叩きつけられ、それを認識するよりも速く意識を闇に落とした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

真の体が、壁に叩きつけられる。

ずるずると引きずられるように彼の体は地に落ちる。一応、拳は当たっていない。

 

拳によって起きる風圧。それが一人の人間を吹き飛ばしたと言う現象。観衆は生唾を飲み込み、ぐっと体に力を込めた。

 

・・・少年は、起き上がらない。

 

 

勇儀が緊張を解く。それは雰囲気を緩ませるのと同義であり、一気に観衆は飛びあがり、叫んだ。

それは自分たちのリーダーの勝利を祝う声。

ある者は無様な少年を罵倒する。ある者は無駄な努力をした少年を嗤う。

ある者は馬鹿な事を言った少年を蹴り飛ばす。ある者は倒れて動かない少年に酒を掛け、瓶の破片が少年の肌を傷つけてしまうくらいに近くで空の酒瓶を叩き割る。

 

 

「――――――――止めな」

 

 

 

しかし勇儀は、それをたった一言で止めた。

他の鬼は皆、一人残らず動きを止める。何故なんだ―――という思いを、瞳に抱きながら。

 

倒れた少年に歩み寄った勇儀は、それを片手で持ち上げた。

 

そして周囲を見渡し、きっぱりと言い放つ。

 

「あんた等は、ここまで真っ向から戦えるか?あたしと、最後まで降参せずに戦えるか?怖気づかずに、殴りかかってこれるか?もし近くに凶器があったとして、あんたらはそれを最後まで使わないか?」

 

幾つも疑問を並べ、先ほどまで騒いでいた鬼たちを鋭く一瞥する。

 

少年を担いだまま、勇儀は彼らの間を抜けて行く。

 

 

 

 

「・・・こいつは強い。少なくとも、たった一人の戦いぶりを嗤う事しか出来ないお前たちよりはね」

 

 

 

 

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