東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第七章第十話「殺すと言う事」

施設の中は、まるで地獄だった。

灼熱の炎が。熱が、荒れ狂い全てを焼き払う。

下に見える赤熱したエネルギーの塊。身に纏った氷がどんどん解けて行く。

 

その中を、俺は奥へ奥へと進んでいった。

強まる妖力。暑さとは違う原因の、冷たい汗が背筋を伝い落ちる。

 

「・・・八咫烏より、桜ノ妖の方が良いか・・・」

 

ぽつりと呟き、桜ノ妖を鞘から抜き放つ。

この場所でも冷たい殺気を放ち続ける紫紺の刃。そこから羽ばたいた無数の蝶は、俺の背に止まり黒みがかった紫の翅を生成していく。

俺は八咫烏を解除し、媒体にしていた銀のナイフを懐にしまった。

下に落ちれば、そのまま死ぬ。

空中戦闘が強いられるこの空間では、八咫烏よりこっちの方が良いだろう。

 

再び、俺は桜ノ妖を鞘に戻した。

 

 

―――――――刹那。

 

 

全身が震える様な気配が急に背後に現れたかと思うと、次の瞬間、俺は何故か真下へと蹴り落とされていた。

体全体に衝撃が走る。目の前に迫る灼熱のエネルギー。

 

死ぬ・・・!!

 

その考えが頭を過る。しかし次の瞬間、俺は本能的に体を捻っていた。

下へ向かっていた力が回転によって分散される。その隙を縫う様に、俺は何とか翅を羽ばたかせた。

急いで距離を取り、俺は前を見据える。

 

そこにいたのは、漆黒の翼をはためかせ、宇宙の様な空間が広がっているマントをなびかせ。

ぼろぼろの白いワイシャツに、緑のスカート。

 

そして、特徴的な大きい木筒を右腕に付けた少女が浮遊していた。

 

いや―――特筆すべきは、その胸の中心。

禍々しい黒き霊力が、そこから彼女の体を蝕んでいる。此方を見るその少女の眼は、濁り理性を失っていた。

 

「ア・・・さ・・・とり・・・様・・・」

 

左手で顔を押さえ、彼女は体を震わせる。

恐らくは、暴走妖としての核が完全に体内に無いからこそ生まれている拒絶反応。

濁った瞳の奥。彼女は今、必死に理性を保とうと戦っているのだ。

 

『真!早くあの胸に着いている核を破壊して!』

「分かった!」

 

叫ぶ陽炎。俺はそれに答え、桜ノ妖を引き抜く。

 

・・・そして、そこで硬直する。

 

視界が狭まる。

刃を持つ手が、その切っ先を目の前の少女に向ける事を拒否する。激しく痙攣しだす俺の手。

 

まるでノイズが掛かるかのように、俺は一つの記憶を今と照らし合わせていた。

 

それは、あの夜の事。

西行妖の暴走、そして俺が――――

 

――――始めて、(天久)を殺した日の事を。

 

命を奪うと言う行為は、まず何よりも恐怖を植え付ける。

あの日は激情状態にあった。しかし今は、理性を保てている。

 

それ故の震え。甦る恐怖。

 

刀を振りぬけば、ただ暴走しているだけの、理性を必死に保とうとしてる妖怪を殺してしまう。

 

たった一度の殺害。そしてそれは、自分に近しい人間だった者を殺せば強いトラウマを植え付ける。

体温とは裏腹に、心は冷たくなっていく。

震えが止まらない、奥歯ががちがちと恐怖で小刻みに音を鳴らす。

 

「ア・・・・あ・・・怖、イ、よ・・・」

 

目の前の少女は翼を揺らし、小さく声を絞り出す。

苦し気に心臓の部分を左手で強く掴む。ぽろり、と一筋の涙が彼女の頬を伝い、そして灼熱のエネルギーに落ちて行く。

 

「ア…アアあ…アアアアアアアアアアア!!!!」

 

彼女は、天に向かって大きく咆哮した。

閉じ込められた地底と言う狭い世界の中で、遂に彼女は理性を、破壊される。

 

俺が動けなかったから。

俺が動かなかったから。

 

『真!動け!!』

 

陽炎の叫びさえも空しい。

脳内で響く声を遠くで聞きながら、俺は目の前に迫る蹴りが腹部にのめり込むのを感じる。

濁りきった黒い眼。漆黒の霊力とオレンジ色の妖力を撒き散らし、少女は吹き飛ばされた俺へと追撃を撃つように、右手の木筒を構える。

キイン…と高まる力。フィルムの映画を見ているかのように、世界はゆっくりと進む。

コマ送りの様な映像。その中でさえも高速で打ちだされたエネルギー砲は、俺を更に強く吹き飛ばす。

 

ダガアアンン!! 

 

銀色の壁に強く叩きつけられる。骨の髄まで衝撃が走り、脳を揺らし骨を砕く。

勇儀との戦闘も相まったそのダメージは大きい。朦朧とする意識の中、肋骨の辺りからパキン、と何かが砕け散る音を俺は聞いた。

紫紺の翅がその形を揺らす。不安定になり始めた俺へと、少女は更に木筒を向けた。

 

口の端から、熱く鉄の匂いのする液体が零れ落ちる。

左手はさっきの衝撃で折れたらしい。肘が外側へと曲がったまま、痛みさえも残さずただ動かない。

 

 

限界まで溜められていくエネルギー。霊力と妖力の混ざり合った、暴走している力は溢れ出し黒とオレンジの渦を描く。

 

やがて―――――――

 

動けない俺へと、彼女は極限までエネルギーを装填した木筒を向けた。

 

 

「・・・・焔星[十凶星]」

 

放たれるは、紅蓮に輝く十字の閃光。

全てを焼き尽くさんと唸る、星の様な力を持つ砲撃。

 

 

 

・・・俺はそれを前に、静かに目を閉じた。

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