東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結   作:ラギアz

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第八章第十七話「門番」

幾らやってもロストバーストは出来なかった。

結構落ち込みつつ病室に戻り、白いベッドに潜り込む。

夕方、それに疲れもあり俺は直ぐに眠ってしまった。

 

 

それで、起きたのは深夜だった。

 

 

体が揺すられている。目元を擦り、眼鏡を手探りで掛ける。

 

「・・・咲夜さん?」

 

暗闇で良く分からないが、綺麗な銀髪にこの雰囲気は咲夜さんだ。

何故ここに、こんな時間に居るのだろうか。

 

「咲夜さん、どうしたんですか?」

 

ベッドで上体を起こし、話しかける。

俺の体を両手で掴んでいる咲夜さんは何も言わず、そのまま俺へと倒れ込んできた。

 

「っ!?」

 

布団の上からでも、その温もりは伝わって来る。あたふたしつつ、咲夜さんを俺から離す為背中に手を当て。

 

・・・その手が、ぐっちゃりと血まみれなのを俺は暗闇の中で認識する。

薄い月明かりが窓越しに室内を淡く照らす。黒くも見える真っ赤な鮮血は、咲夜さんの全身にべったりと付いていた。

慌てて、俺はベッドわきに備え付けてあるナースコールを潰す様に手の甲で叩く。

大きい音が永遠亭に響く。俺は咲夜さんを抱え、自分と入れ替わりにベッドへと横たわらせた。

手首を取るも、脈は弱い。呼吸も途切れ途切れで、意識は朦朧としている様だ。

 

「咲夜さんっ!大丈夫ですか、咲夜さんっっ!!」

 

呼びかける。しかし、返事は無い。

 

「ど、どうしたんですか!?」

「優曇華、急患!咲夜さんをお願い!」

「え?・・・うわわっ、師匠ーー!!!」

 

駆けこんできた寝間着姿の優曇華に咲夜さんの事を告げ、俺は壁に立てかけてあった桜ノ妖を握りしめる。

窓を強引に開ける。一階の窓から俺は靴も履かずに外へ出て、八咫烏を生成した。

 

(・・・何かあったとするなら、それは紅魔館の出来事だ)

 

桜ノ妖を腰に括り付ける。夜風が頬を撫でる中、月明かりだけを頼りに夜空を飛翔した。

 

(そしてそれは・・・十中八九、隔だ・・・!!)

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

妖力を纏った拳で、黒い刃を何とか受け流す。

縦横無尽に振られる凶器。一度でも凌ぎ損ねれば死は確実。

 

そして彼女――――紅美鈴は、相手の事を傷つけられない。

 

何となく、レミリアの挙動から彼女は危ない事があるんだな、と察していた。

だからこそ眠たいのを我慢し、一人美鈴は紅魔館内を夜間に見回っていたのだ。

 

咲夜は救けを求めに行った。今レミリアは、フランを呼びに行っている。

 

実質ここは彼女のみ。最後の砦、背水の陣。

 

虹色の力が吹き荒れる。どうやら今夜は、少し荒れる様ですね、と美鈴は心の中で呟いた。

 

二刀の黒い刃から繰り出される、演舞の様に美しい斬撃。

一瞬で何十回も斬りつけて来るそれを、美鈴は冷静に跳ね返し、受け止め、受け流す。

無表情の隔の眼に、生気も感情も無い。夜の闇の中でも分かるほどの、虚無感に満ちた黒。

 

恐ろしい。それが美鈴の、率直な感想だった。

 

死に物狂い、いや或いは最早生きる事を諦めた物の眼よりも恐ろしい。

達観している、のだろうか。明らかに正常では無い隔に、久しく感じていなかった雰囲気を感じる。

 

そのまま、無限に攻防が続くかと思われた、次の瞬間。

 

美鈴が全力で、足元の地面を踏み砕く。刹那、網目状にヒビが地面を走り亀裂を生み出す。

バランスを失う隔。斬撃が狂うその隙に向けて、美鈴は宙で掌底を放った。

ドオンッ!! と、まるで大砲の様な音と共に空気が撃ちだされる。弾丸の様な威力をもった空気は隔の腹部にのめり込み、数m吹き飛ばした。

 

すみません、隔さん。

 

美鈴は心の中でそっと謝る。

 

・・・後で、死ぬほど謝ります!!

 

そして、眼を鋭く細めた。

立ち上がろうとしている隔に向けて、美鈴は急激に距離を詰める。

紅美鈴は、接近戦だけならば館の主であるレミリアと同等と言われるほどの実力の持ち主だ。

弾幕が一般的になった幻想郷では遠距離攻撃が主力。よって殆ど美鈴が強いと言われることは無い。が、

 

 

――――それなら、紅魔館の門番は出来ていない。

 

 

低姿勢から放たれる隔の蹴りを、美鈴は軽くジャンプし躱す。

空中に浮かぶ美鈴。チャンスだと思ったのか隔は鋭い斬撃を二発、左右の刀で放つ。

・・・しかし彼女はそれを足場にし、バク転。膝を曲げて着地し、そしてロケットスタートの様に一瞬で隔との距離を零にし、そして走り抜けた。

 

すれ違いざまに撃たれた三発の拳。音が鳴るよりも速く隔の体はくの字に曲がる。

 

申し訳なさと罪悪感が美鈴の胸一杯に広がる。必死に耐えつつ、美鈴は鋭く振り返り、

 

 

ドズンッ!! 

 

黒い刃を投げ捨てた隔の右拳を、諸に喰らった。

 

 

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