東方夢幻魂歌 Memories of blood 完結 作:ラギアz
脳天を押さえ、まだ検査入院中の俺はベッドで呻く。
近くの椅子には未だに頬を膨らませている暁。
永遠亭の中は俺達以外は皆寝ている早朝。茜色に燃ゆる朝日の光を受け、俺は徹夜明けの眼を擦った。
「・・・あの」
「ん」
「何で暁はあんな朝早くからここに来てたの?」
寝ようと思い、俺は座っていた状態から上体を倒し寝っ転がる。
すると暁は思い出した様にポケットから便箋を取り出し、それを俺に手渡した。
「深夜、私の部屋に
「――――嘘だろ!?おい、何時ごろ!?隔はどんな様子だった!?どこ行ったとかは!?」
「あっ、えっと・・・三時くらい、ちょっと苦しそうだった、最後のは分からない・・・かな」
飛び跳ね、捲し立てる俺に暁は丁寧に答える。
でも、と彼女は付け加え、
「その手紙、隔の。真になるべく早く渡してって言われて、それに大きい霊力も感じて、走って来た」
「・・・ありがとう。ちょっとだけ、読まさせて貰うね」
「うん」
不安げな顔で告げた。
暁にはこの状況が良く分かって無いのだろう。寝ぼけている自身の頬を殴り、おぼつかない手つきで焦りつつ便箋を乱暴に開ける。
中に入っていたのは、真っ白い手紙。折りたたんであるそれを手早く開き、俺は目を通し始めた。
『真へ
私です、隔ですよ。突然ごめんね、うん。暁ちゃんだから・・・明け方くらいには届いてるかな。
まず最初に、私を助けようとしてくれてありがとう。
皆を傷つけちゃった私の為に頑張ってくれてありがとう。嬉しかった。
でもね、もう手遅れなんだ。』
手遅れなんだ。
その文字が俺の中で反響する。
先を読もうと出来ない。手が震え、視線がそれ以上下に下がらない。
「真、無理しないで」
「・・・大丈夫。大丈夫だ」
暁の言葉に、俺は自分自身に語り掛ける。
汗を拭い、悪い予感を無視。眼鏡の位置を直し、俺は手紙を再び読み始めた。
『私の中にある・・・えっと、核だよね。
それはもう、私の心臓に埋め込まれちゃっているのです。もうびっくり!!
私を殺さなきゃ、多分私は幻想郷を滅茶苦茶にしちゃうと思う。
私を殺せば。幻想郷は無事で、後は悪夢とかを真が殴って万事解決すると思うんだ。
可笑しいね。簡単な事なのに、ちょっと涙が止まらないよ。
もう一度真と遊びたかったな。皆とも話したかったし、高校の友達とも仲良くなりたかった。
流石にもう一緒にお風呂には入れないかなあ。昔は良く一緒に入ってたのにね。
最近、咲夜さんにビーフシチューの作り方教えて貰ったんだ。真と食べたかった。うん。
後は・・・一緒に寝たかった!真と寝てると安心するんだよねえ。
でも、もう全部出来ないんだよね。
暁ちゃんにごめんって言っておいて。深夜に、しかもこんな手紙を急に渡せって言ってごめんって。
きっと、幻想郷で見る朝日は綺麗なんだと思う。
それを見て、私は最後にやるべき事をやって、それで、
殺されるなら、真に殺されたいな。
・・・ごめんね、最後にこんな事言って。
ボールペンで書いたから、消せないんだ。紙も一枚しか無いから、書き直せないんだよね。
今までありがとう、真。ごめんね。私の幼馴染が真で、本当に良かった!!
最後に隔より』
ダガン!!!!
読み終える。言葉が、脳に染みわたる。
その瞬間。俺は拳を、ベッドに振り下ろしていた。
暁がビクッと肩を跳ねさせる。自分自身でも分かる。今俺が、人生で一番怒っているという事が。
ふざけるな。
ぐしゃり、と左手に持たれた便箋が握りつぶされる。今までの隔との思い出が、全部全部溢れ出す。
何で、何で隔なんだ。
噛みしめ過ぎた唇から血が垂れる。真っ白なベッドにそれは滴り落ちた。
『消せないんだ。紙も一枚しか無いんだ』
あいつは、頭が良い。
だからこそ時に本音を隠し、穏便に全てをこなして来た。
でも、手紙は違う。
手書きだからこそ、感情が籠る。感情が籠れば、本音がでやすくなる。
滲むような文字。隔は涙をぬぐいながら、書き直しの出来ない本音を込めた手紙を書いたのだろう。
俺だって、隔が幼馴染で本当に良かったと思ってる。今までを振り返っても、そしてこれからを見据えても、きっと一生変わらない。
でも違う。最後じゃない。
あいつが望み、俺が出来る事なら何でもしてやる。この手紙に、来るなとは書かれていない。
隔が死んで、それで悪夢が倒せたとしてもそれは万事解決じゃない。
どれだけ俺が、隔の事を大切に感じていると思っているんだッ!!
「・・・真」
暁が、ぽつりと呟く。
「真は、隔と幻想郷・・・どっちを、助けたい?」
分かり切っていると言った表情だった。
深呼吸をし、感情を押さえつける。ベッドから立ち上がり、俺は桜ノ妖を手に取った。
「勿論、馬鹿な幼馴染だよ」
「・・・そっか」
暁は優しくはにかんだ。
それを背に、俺は走り出す。靴底はべろんべろん。隔がどこに居るのかなんて、微塵も分かりはしない。
でも、空はどこまでも続いている。俺達は、同じ世界に居る。
扉の向こうには朝焼けの光り輝く空。強い強い決心を胸に、俺は一歩踏み出した。
最後じゃない。
決して、終わらせはしない。
少年は思いを秘め、踏み出す。
――――その前に、一人、立ちふさがる。
少女として。師として。そして、少女の願いを聞き入れた者として。
二つの銀閃が夜明けの空を薙ぐ。
少女もまた、告げる。
「私は、幻想郷を助けたいです」
次回、九章開始。